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the 2nd day 対面
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翌日、カイ・ハウザーは宿の会計を済ませ、城に向かう。
決して派手ではなく特別大きくもないルリアーナ城は、控えめながらも美しい石造りだった。ルリアーナ産の石だろうか。乳白色の珍しい色の石でできている。
城よりも歴史のありそうな苔むしたお堀を越えると門があり、身分や要件を尋ねられた。自分の身分と本日の約束を伝えてブリステ公国の身分証を提示すると、すんなりと中に入る事ができる。
(城に入るのは比較的簡単か……治安がいいからだろうが、無用心でもあるな)
カイは門番に会釈をしながら警備の薄さを気にしていた。
案外、護衛として担う役割は大きいのかもしれない。王女の護衛だけではなく、何かあれば部下に仕事が回せるかもしれない。若き騎士団長は仕事の新規開拓に余念がない。
城門をくぐると執事服を着た白髪の男性がやってきた。穏やかな雰囲気が印象的なその男性に案内され、階段を上り最上階に着くと、1番奥から手前の部屋に通される。
「こちらが滞在中に使っていただけるお部屋です。ハウザー様からのご指定で、部屋はトレーニングができるようにいたしました。広さなどいかがでしょうか?」
広い部屋を案内され、カイは言葉に詰まる。
「こんなに広いのか?私1人では持て余しそうだ」
大きなクイーンサイズのベッドに、トレーニングスペースは昨日泊まった宿の部屋2つ分はあるだろう。
部屋には個室で風呂もついている。こんな待遇は初めてだ。
カイが部屋に荷物を置くと、部屋の隅にある奥の扉を開けた執事服の男性が、
「レナ様、ハウザー様がお着きになりました」
と、扉の向こうに声をかける。
「ありがとう、ハオル。今行くわ」
明るい声がして、扉の開く音がする。
「さ、ハウザー様、こちらへ」
ハオルと呼ばれた白髪の男性は、部屋の奥にある扉の中にカイを招き入れると、自分は中に入ることなく扉を閉めた。
(何?! 王女と2人きりか?)
明らかに動揺したカイは、王女の顔も見ずに焦る。すると、
「はじめまして、カイ・ハウザー様。少し2人きりで混み入った話をさせていただきたいの。よろしいですか?」
と、にっこり笑ったレナがこちらを見ていた。
レナはシンプルなシルクのドレスでカイを出迎えた。着飾ることは特に好きではなかったが、どうせなら綺麗な第一印象にしたいと、この日は自分の顔が映える白い生地のドレスを選んだ。デコルテが美しく見える少し開いた襟と、袖と裾に繊細なレースがあしらわれた上品なドレスは華やかな彼女によく似合う。
すぐ側にいる自分の護衛となる青年こそ、ずっと憧れてきた小説の主人公だ。
なんとか振り絞り、一言声を掛けてカイをハッキリ視界に入れた。
(予想はしていたけれど、やっぱり格別に素敵な方なんだわ……)
思わず、見惚れる。
ここ何ヶ月かで毎日毎日見合いをしてきて、男性なら沢山見てきたはずなのだが。
(何だろう、彼のまとう雰囲気が別格なのは……)
これから2人きりで今後の護衛について話をするつもりだったのが、彼を視界に入れた途端、頭の中が白くなってしまった。
2人で少し話をしたいという申し出に了承して頷いたカイは、レナの前に跪いて、
「王女殿下、この度は私を護衛に指名いただき、身に余る光栄に存じます」
と頭を低くしながら挨拶した。
目線の下にカイの睫毛が見え、上から見た姿の美しさにレナは動揺する。
「どうか頭をお上げになって。こちらの席に着いていただきたいの」
カイを立たせると小さな丸テーブルに案内しようとした。
「騎士が護るべき王女と同じ席に座るなど、恐れ多くてとても受けられません」
カイは、自分は席に座らず、立ったまま話を聞くと言い出した。
それが本来の騎士なのだが。
「では、これは私の命令よ。カイ・ハウザー、そちらの席に座りなさい」
堪らなく、最初の命令を下してしまった。まさかの、席に着きなさい、である。
(ああ、こんな事で早速命令なんて、ダメな雇い主ね……)
ときめく心とは裏腹に、尊大な対応をしてしまった自分自身に幻滅している。
命令を受けたカイは、一瞬固まった。冷静を装っていたのかハラワタが煮えくり返っていたのか、
「いや、そこまでして席に着かなくとも話は聞けるのでは」
と反論しながら渋々席に着く。
(ああ、やってしまった。第一印象は最悪)
なんだか少し泣きたくなっていたが、レナも席に着いた。
「違うのよ、ごめんなさい。本来の目的を話すには、対等な目線がいいの」
(これから話すことは、ちゃんとしないと――)
レナは気を取り直し、話を始める。
決して派手ではなく特別大きくもないルリアーナ城は、控えめながらも美しい石造りだった。ルリアーナ産の石だろうか。乳白色の珍しい色の石でできている。
城よりも歴史のありそうな苔むしたお堀を越えると門があり、身分や要件を尋ねられた。自分の身分と本日の約束を伝えてブリステ公国の身分証を提示すると、すんなりと中に入る事ができる。
(城に入るのは比較的簡単か……治安がいいからだろうが、無用心でもあるな)
カイは門番に会釈をしながら警備の薄さを気にしていた。
案外、護衛として担う役割は大きいのかもしれない。王女の護衛だけではなく、何かあれば部下に仕事が回せるかもしれない。若き騎士団長は仕事の新規開拓に余念がない。
城門をくぐると執事服を着た白髪の男性がやってきた。穏やかな雰囲気が印象的なその男性に案内され、階段を上り最上階に着くと、1番奥から手前の部屋に通される。
「こちらが滞在中に使っていただけるお部屋です。ハウザー様からのご指定で、部屋はトレーニングができるようにいたしました。広さなどいかがでしょうか?」
広い部屋を案内され、カイは言葉に詰まる。
「こんなに広いのか?私1人では持て余しそうだ」
大きなクイーンサイズのベッドに、トレーニングスペースは昨日泊まった宿の部屋2つ分はあるだろう。
部屋には個室で風呂もついている。こんな待遇は初めてだ。
カイが部屋に荷物を置くと、部屋の隅にある奥の扉を開けた執事服の男性が、
「レナ様、ハウザー様がお着きになりました」
と、扉の向こうに声をかける。
「ありがとう、ハオル。今行くわ」
明るい声がして、扉の開く音がする。
「さ、ハウザー様、こちらへ」
ハオルと呼ばれた白髪の男性は、部屋の奥にある扉の中にカイを招き入れると、自分は中に入ることなく扉を閉めた。
(何?! 王女と2人きりか?)
明らかに動揺したカイは、王女の顔も見ずに焦る。すると、
「はじめまして、カイ・ハウザー様。少し2人きりで混み入った話をさせていただきたいの。よろしいですか?」
と、にっこり笑ったレナがこちらを見ていた。
レナはシンプルなシルクのドレスでカイを出迎えた。着飾ることは特に好きではなかったが、どうせなら綺麗な第一印象にしたいと、この日は自分の顔が映える白い生地のドレスを選んだ。デコルテが美しく見える少し開いた襟と、袖と裾に繊細なレースがあしらわれた上品なドレスは華やかな彼女によく似合う。
すぐ側にいる自分の護衛となる青年こそ、ずっと憧れてきた小説の主人公だ。
なんとか振り絞り、一言声を掛けてカイをハッキリ視界に入れた。
(予想はしていたけれど、やっぱり格別に素敵な方なんだわ……)
思わず、見惚れる。
ここ何ヶ月かで毎日毎日見合いをしてきて、男性なら沢山見てきたはずなのだが。
(何だろう、彼のまとう雰囲気が別格なのは……)
これから2人きりで今後の護衛について話をするつもりだったのが、彼を視界に入れた途端、頭の中が白くなってしまった。
2人で少し話をしたいという申し出に了承して頷いたカイは、レナの前に跪いて、
「王女殿下、この度は私を護衛に指名いただき、身に余る光栄に存じます」
と頭を低くしながら挨拶した。
目線の下にカイの睫毛が見え、上から見た姿の美しさにレナは動揺する。
「どうか頭をお上げになって。こちらの席に着いていただきたいの」
カイを立たせると小さな丸テーブルに案内しようとした。
「騎士が護るべき王女と同じ席に座るなど、恐れ多くてとても受けられません」
カイは、自分は席に座らず、立ったまま話を聞くと言い出した。
それが本来の騎士なのだが。
「では、これは私の命令よ。カイ・ハウザー、そちらの席に座りなさい」
堪らなく、最初の命令を下してしまった。まさかの、席に着きなさい、である。
(ああ、こんな事で早速命令なんて、ダメな雇い主ね……)
ときめく心とは裏腹に、尊大な対応をしてしまった自分自身に幻滅している。
命令を受けたカイは、一瞬固まった。冷静を装っていたのかハラワタが煮えくり返っていたのか、
「いや、そこまでして席に着かなくとも話は聞けるのでは」
と反論しながら渋々席に着く。
(ああ、やってしまった。第一印象は最悪)
なんだか少し泣きたくなっていたが、レナも席に着いた。
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