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the 4th day 高慢な見合い相手
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「お待たせいたしました、本日はわざわざ足をお運びいただき……」
レナが応接の扉を開けて挨拶をすると、遮るように、
「これはこれは、ルリアーナの王女殿下! なんとお美しい!」
と大きな声が上がった。声を上げたリブニケの侯爵が立ち上がってレナに駆け寄る。
侯爵は跪いて手の甲に口付けをすると、
「お会いできるのを、楽しみにしておりました」
と下から見上げてレナに言った。その射る様な強い目つきに、レナは言葉を失いかける。
「遠くの地から、本日のためにわざわざありがとうございます。私も、お会いできて光栄です」
なんとか挨拶をすると2人は席に着いた。リブニケ王国から来た侯爵の護衛はカイを視界に入れると、鬱陶しそうな顔をする。どうやら、カイのことを察した様だ。
「さて、王女殿下…普段のお見合いでは、どの様な話をされておいでですか?」
リブニケから来た侯爵は、早速自分から話を振る。
「折角なので、貴女の知りたいことはなんでも答えて差し上げたい。有意義な時間にしましょう」
昨日のお見合い相手とは随分様子が違い、迫力のある男性だった。年齢は20代半ばくらいだろうか、ウェーブのかかった茶色い髪が、まるで獅子の立髪のようだ。
「では、不躾におうかがいしても?なぜ、わざわざリブニケからルリアーナまでお見合いにいらしたの?」
レナが聞くと、
「わざわざ来るからには、何かあると思ったのですか?可愛い方だ。
私も侯爵家に生まれて縁談の話は腐るほど来ている身です。この身分を捨ててまで一緒にいたくなるような方との出会いを求めていると言ったら、ご理解いただけますか?」
と、鋭い目つきで尋ねる。
「身分を捨ててまで…そうね、その部分には共感できます」
レナはそう言うと、
「でも、そんなことが出来るのですか?ルリアーナに来たら、あなたが現在お持ちの後ろ盾はなくなりますが」
と加えた。応接室に緊張感が漂う。
「面白い。美しいだけでなく、あなたは強い」
リブニケの侯爵が舐める様な目つきでレナを見据えている。レナはその目をそのままじっと見つめ返した。
「自分の人生を生きる上で、パートナーというのは非常に重要だ。私の場合、自分にただ服従するだけのパートナーなど無意味だと思っている。そうだな、血統の良いじゃじゃ馬を乗りこなしたいと言ったらどうか……」
侯爵が言い終わらないうちに、
「それ以上は謹んで貰おう。言葉の暴力も一切ここでは認めない」
と、声が上がる。侯爵は声を上げた護衛を睨んだ。
「王女の犬が、よく吠える。貴様、東洋人か?」
カイは真っ直ぐに侯爵を見て
「いいえ、ブリステ人です」
と答えた。侯爵は隣国ブリステの騎士で黒髪を持つ黄人の有名な男を思い出す。
「ほう?ブリステには金で動かすことのできる下級貴族の騎士団があったな。飼い主のために、私に噛み付くか?」
侯爵の護衛も剣を抜きかけている。
「私が噛み付いたらただでは済まないことくらい、おわかりではないですか?殿下に対しての発言に不適切な内容があった、それだけです」
侯爵は護衛に剣をしまうように合図をすると、
「それはそれは、リブニケもルリアーナと争う気など毛頭ない。ただ、身の程を弁えない護衛と、興味をそそる美しい王女には誠意を見せていただきたいものだ。……ああ王女殿下、遠くから来た見合い相手に祝福をいただこうか。それで護衛がした無礼は許そう」
と笑った。カイは貴様……と言いそうになるのを抑え、侯爵を睨む。
「部下の無礼は、全て私の指示と責任の元にあります。お望みでしたら、あなたに、祝福を……」
レナは席を立って侯爵の前で頭を下げると、その頬に口付けした。得意そうな顔で祝福を受ける侯爵は、カイを見て不敵な笑みを浮かべ、そのままレナの腰を抱いた。
(国を越えて見合いに来ている割に、なんという態度だ……)
カイは怒りを通り越して呆れている。リブニケ人は野蛮な国民性なことは知っていたが、ここまで生き恥を晒すものか、と隣国の貴族に信じられない気持ちでいた。
腰を抱かれる被害に遭ったレナはカイの方を見て笑顔を浮かべた。この位気にしないで、とでも言っているのだろう。
その後も、度々カイが侯爵を制する場面があり、何度か一触即発な場となってしまったものの、なんとか無事にお見合いの場は終了した。
「今日は、よく怒っていたわね」
いつもの部屋で、レナはソファに座り、カイにそう言って笑った。
「リブニケは侯爵ともあろう人間が、国外であんな素行の悪いことを……」
カイは忌々しいとでも言いたげに、珍しく苛立っていた。隣国の恥に対してそこまで敏感なのは、東洋人の特徴を持っていても生まれ育ったブリステで培った国民性によるところからなのだろう。
「私は、嬉しかったわよ?」
レナはそう言って笑う。
「まさか、言葉の暴力と言って不適切な発言からも守ってくれるなんて」
護衛の役目は身の危険から守ってもらうことしか期待していなかったのに、と嬉しそうだ。
「主人を傷つける方法は、なにも直接的な暴力だけではない。イチ護衛の俺を庇ってあんな男に祝福を与えて無礼を許すなど」
カイは、自分のせいで嫌な男に口付けをして腰を抱かれる羽目になった王女にも苛立っていた。今回は、騎士としての役目が果たせなかったと悔いが残る。
「大丈夫、私は無傷よ。あなたのおかげで」
レナは心から穏やかな声でそう言った。
「もし、自分の誇りが傷つけられたり、あなたの前で侮辱されていたら気持ちが折れていたところだけど、私を守って発言してくれたカイのために、あの男に口付けするくらい何でもないの。あのね、カイ。主人として、私にもあなたを守らせて?」
そのレナの言葉に、
「殿下、あなたはすごいな」
と、カイは感心した。
「あら、今更ね」
レナは悪戯っぽく言い返した。
レナが応接の扉を開けて挨拶をすると、遮るように、
「これはこれは、ルリアーナの王女殿下! なんとお美しい!」
と大きな声が上がった。声を上げたリブニケの侯爵が立ち上がってレナに駆け寄る。
侯爵は跪いて手の甲に口付けをすると、
「お会いできるのを、楽しみにしておりました」
と下から見上げてレナに言った。その射る様な強い目つきに、レナは言葉を失いかける。
「遠くの地から、本日のためにわざわざありがとうございます。私も、お会いできて光栄です」
なんとか挨拶をすると2人は席に着いた。リブニケ王国から来た侯爵の護衛はカイを視界に入れると、鬱陶しそうな顔をする。どうやら、カイのことを察した様だ。
「さて、王女殿下…普段のお見合いでは、どの様な話をされておいでですか?」
リブニケから来た侯爵は、早速自分から話を振る。
「折角なので、貴女の知りたいことはなんでも答えて差し上げたい。有意義な時間にしましょう」
昨日のお見合い相手とは随分様子が違い、迫力のある男性だった。年齢は20代半ばくらいだろうか、ウェーブのかかった茶色い髪が、まるで獅子の立髪のようだ。
「では、不躾におうかがいしても?なぜ、わざわざリブニケからルリアーナまでお見合いにいらしたの?」
レナが聞くと、
「わざわざ来るからには、何かあると思ったのですか?可愛い方だ。
私も侯爵家に生まれて縁談の話は腐るほど来ている身です。この身分を捨ててまで一緒にいたくなるような方との出会いを求めていると言ったら、ご理解いただけますか?」
と、鋭い目つきで尋ねる。
「身分を捨ててまで…そうね、その部分には共感できます」
レナはそう言うと、
「でも、そんなことが出来るのですか?ルリアーナに来たら、あなたが現在お持ちの後ろ盾はなくなりますが」
と加えた。応接室に緊張感が漂う。
「面白い。美しいだけでなく、あなたは強い」
リブニケの侯爵が舐める様な目つきでレナを見据えている。レナはその目をそのままじっと見つめ返した。
「自分の人生を生きる上で、パートナーというのは非常に重要だ。私の場合、自分にただ服従するだけのパートナーなど無意味だと思っている。そうだな、血統の良いじゃじゃ馬を乗りこなしたいと言ったらどうか……」
侯爵が言い終わらないうちに、
「それ以上は謹んで貰おう。言葉の暴力も一切ここでは認めない」
と、声が上がる。侯爵は声を上げた護衛を睨んだ。
「王女の犬が、よく吠える。貴様、東洋人か?」
カイは真っ直ぐに侯爵を見て
「いいえ、ブリステ人です」
と答えた。侯爵は隣国ブリステの騎士で黒髪を持つ黄人の有名な男を思い出す。
「ほう?ブリステには金で動かすことのできる下級貴族の騎士団があったな。飼い主のために、私に噛み付くか?」
侯爵の護衛も剣を抜きかけている。
「私が噛み付いたらただでは済まないことくらい、おわかりではないですか?殿下に対しての発言に不適切な内容があった、それだけです」
侯爵は護衛に剣をしまうように合図をすると、
「それはそれは、リブニケもルリアーナと争う気など毛頭ない。ただ、身の程を弁えない護衛と、興味をそそる美しい王女には誠意を見せていただきたいものだ。……ああ王女殿下、遠くから来た見合い相手に祝福をいただこうか。それで護衛がした無礼は許そう」
と笑った。カイは貴様……と言いそうになるのを抑え、侯爵を睨む。
「部下の無礼は、全て私の指示と責任の元にあります。お望みでしたら、あなたに、祝福を……」
レナは席を立って侯爵の前で頭を下げると、その頬に口付けした。得意そうな顔で祝福を受ける侯爵は、カイを見て不敵な笑みを浮かべ、そのままレナの腰を抱いた。
(国を越えて見合いに来ている割に、なんという態度だ……)
カイは怒りを通り越して呆れている。リブニケ人は野蛮な国民性なことは知っていたが、ここまで生き恥を晒すものか、と隣国の貴族に信じられない気持ちでいた。
腰を抱かれる被害に遭ったレナはカイの方を見て笑顔を浮かべた。この位気にしないで、とでも言っているのだろう。
その後も、度々カイが侯爵を制する場面があり、何度か一触即発な場となってしまったものの、なんとか無事にお見合いの場は終了した。
「今日は、よく怒っていたわね」
いつもの部屋で、レナはソファに座り、カイにそう言って笑った。
「リブニケは侯爵ともあろう人間が、国外であんな素行の悪いことを……」
カイは忌々しいとでも言いたげに、珍しく苛立っていた。隣国の恥に対してそこまで敏感なのは、東洋人の特徴を持っていても生まれ育ったブリステで培った国民性によるところからなのだろう。
「私は、嬉しかったわよ?」
レナはそう言って笑う。
「まさか、言葉の暴力と言って不適切な発言からも守ってくれるなんて」
護衛の役目は身の危険から守ってもらうことしか期待していなかったのに、と嬉しそうだ。
「主人を傷つける方法は、なにも直接的な暴力だけではない。イチ護衛の俺を庇ってあんな男に祝福を与えて無礼を許すなど」
カイは、自分のせいで嫌な男に口付けをして腰を抱かれる羽目になった王女にも苛立っていた。今回は、騎士としての役目が果たせなかったと悔いが残る。
「大丈夫、私は無傷よ。あなたのおかげで」
レナは心から穏やかな声でそう言った。
「もし、自分の誇りが傷つけられたり、あなたの前で侮辱されていたら気持ちが折れていたところだけど、私を守って発言してくれたカイのために、あの男に口付けするくらい何でもないの。あのね、カイ。主人として、私にもあなたを守らせて?」
そのレナの言葉に、
「殿下、あなたはすごいな」
と、カイは感心した。
「あら、今更ね」
レナは悪戯っぽく言い返した。
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