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the 14th day 必要な犠牲
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カイとレナはパースの伯爵が帰った後、いつもの部屋に戻り2人で少しの間唸っていた。
カイはテーブルの席に、レナはソファに腰を掛けている。
「パースとポテンシアって関係良好じゃないのね……」
伯爵の言葉を思い出す。ルイスとの見合いが新聞に載るなど国内で話題になっているのは、パースにとっては好ましくないのかもしれない。
「いや、それにしても、さっきの話は実りが多かったんじゃないのか?見合いの場にわざわざ出向いてまで、パースの連中は親切に自国の状況を提供してくれるな」
カイは先日パースの状況を伝えに来た貿易商を営むクリストファーを思い出し、パースの貴族は積極的にクレームを言いにくるなと感心した。が、状況が良くなったわけではないか、と思い直す。
「パースは王族の権力があまり貴族連中に及んでいないからな……。パースの王族との婚姻はあまり得策とは言えないが、それでもここまで何も頼らずにパースの見合いも進んでいないとなると、表向き好ましくはないだろうな」
カイの冷静な分析に、レナは、
「パースの護衛が頼れなかったからカイを雇っている時点で、パースとの同盟が破綻しているのは確かなのよね」
と頬杖をつきながらため息をついた。
「でも、パースとの同盟があったから他国からの侵略を防げていたのなら、同盟による抑止力の効果は高いんじゃないか?」
カイに言われてレナはうーんと唸る。
「確かに、抑止力っていうのはあるのかもしれないけれど、そもそもルリアーナの地系はポテンシア側以外は山に囲まれているし、農業以外にあまり産業もないから他の国に比べて食糧目当て以外で攻める理由が少ないのもあるわよ。勿論、どの国も領土が大きい方が都合は良いでしょうし、ポテンシアのように食糧難で苦しむ国のことを考えたら、いつ攻め込まれていてもおかしくなかったのだけれど……」
そう言って、いつも座っているソファの背もたれにもたれかかった。
「一部ではね、侵略を防ぐために呪術を使っていたって記述も残っているの。それが本当なら、呪術の影響も効果も、すごいと思うわ」
レナがそう言ってカイを見ると、カイは離れたテーブルから、
「そんなものが普及したら、うちは破産だな」
と言って小さく笑った。
「争いごとがあった方があなたは儲かるのね」
レナが納得してカイの仕事を思い出す。雇い始めてもうすぐ2週間になるというのに、その事実に違和感があった。目の前の男は、小説の中では戦場の申し子のような戦いの中に身を置く存在だ。
「人聞きの悪いことを言うな。要人警護は戦争がなくても一定の需要はあるし、こう見えても領地持ち貴族の端くれなんでね、何かしら生きていく道は見つける」
カイはそう言うと、シンとロキからの報告はどうなっているのだろうか、と思い出していた。
「そういえば、シンとロキはどうなの?」
レナからタイミング良く質問があった。
「まだ、今のところ有力な情報は見つかっていないらしいが、レジスタンスの教会で呪術のようなものをかけられて、特に何もなかったようだったと報告はあった」
カイが伝えると、レナは驚いて言葉を失っている。
「大丈夫だ、恐らく何の影響もない。そのあと普通に移動して、今は海辺の町を調査中だ。今日か明日にでも何かしらの報告が来ると思うが」
カイがフォローするが、レナは少し震えているように見えた。
「気に病むことはないだろう。俺も含めて命を張っているだけの対価をもらって仕事をしている。この仕事をしていなくても何かしらの危険な任務に就いていたはずだ。ここの仕事は安全すぎるくらいで、今のところ命の危険を感じたことはない」
カイはそう言うと、レナに余計な心配をさせたことを後悔していた。パースの話どころではなくなっている。
「このまま、2人に調査をお願いするのよね……。大丈夫かしら……」
レナはそう言って不安そうにカイを見た。
「何度も言っているが、あの2人は部下の中でも勘の良さと運の良さがトップクラスなんだ。2人で動く時には連携も取れているし、この手のことを任せるのにあれほど最適な部下はいない。ポテンシアから来たレオナルドほど専門じゃないし場数は踏んでいないが、俺より有能に働くはずだ」
カイの言葉にも、レナは少し浮かない顔をしている。
「力になってもらっているだけの報酬は払っているかもしれないけど、この国の犠牲になる必要なんてないわ。危険な目に遭うようだったら、別に成果なんてなくても構わないから」
レナはそう言ってカイをじっと見ていた。
「承知したが……。そんなことでは解決する問題も解決しないぞ」
カイはレナにそう答えると、一旦席を外そうと椅子から立ち上がった。
「あなたの大切な部下に、危険な仕事をお願いすることになってごめんなさい」
慌てて謝るレナの言葉に、
「最高権力者が簡単に人に頭を下げるのは、どうかと思うがな。殿下は、必要な犠牲を堂々と消費していけばいい。俺たちは殿下の代わりに消耗される人材で、それも理解して仕事を受けているつもりだ」
カイは言い放ち、レナを突き放すように背を向ける。
「あなたは、自分の部下が犠牲になっても平気なの?」
レナは信じられないとでも言いたそうな顔でカイに尋ねた。
「平気かどうかという問題じゃない。こちらは犠牲になる可能性も含んだ前提で動いている。任務の中で命を落とすようなことがあれば、それまでの運だったというだけだ。残念ながら、そうやって仕事をこなすしかない」
カイはそう言って、レナからの反論を待たずに部屋を出て行った。
レナは、カイの言っていることを飲み込みきれない。
平和な国で育った王女は、この世に必要な犠牲など無いと言い切りたかった。
カイはテーブルの席に、レナはソファに腰を掛けている。
「パースとポテンシアって関係良好じゃないのね……」
伯爵の言葉を思い出す。ルイスとの見合いが新聞に載るなど国内で話題になっているのは、パースにとっては好ましくないのかもしれない。
「いや、それにしても、さっきの話は実りが多かったんじゃないのか?見合いの場にわざわざ出向いてまで、パースの連中は親切に自国の状況を提供してくれるな」
カイは先日パースの状況を伝えに来た貿易商を営むクリストファーを思い出し、パースの貴族は積極的にクレームを言いにくるなと感心した。が、状況が良くなったわけではないか、と思い直す。
「パースは王族の権力があまり貴族連中に及んでいないからな……。パースの王族との婚姻はあまり得策とは言えないが、それでもここまで何も頼らずにパースの見合いも進んでいないとなると、表向き好ましくはないだろうな」
カイの冷静な分析に、レナは、
「パースの護衛が頼れなかったからカイを雇っている時点で、パースとの同盟が破綻しているのは確かなのよね」
と頬杖をつきながらため息をついた。
「でも、パースとの同盟があったから他国からの侵略を防げていたのなら、同盟による抑止力の効果は高いんじゃないか?」
カイに言われてレナはうーんと唸る。
「確かに、抑止力っていうのはあるのかもしれないけれど、そもそもルリアーナの地系はポテンシア側以外は山に囲まれているし、農業以外にあまり産業もないから他の国に比べて食糧目当て以外で攻める理由が少ないのもあるわよ。勿論、どの国も領土が大きい方が都合は良いでしょうし、ポテンシアのように食糧難で苦しむ国のことを考えたら、いつ攻め込まれていてもおかしくなかったのだけれど……」
そう言って、いつも座っているソファの背もたれにもたれかかった。
「一部ではね、侵略を防ぐために呪術を使っていたって記述も残っているの。それが本当なら、呪術の影響も効果も、すごいと思うわ」
レナがそう言ってカイを見ると、カイは離れたテーブルから、
「そんなものが普及したら、うちは破産だな」
と言って小さく笑った。
「争いごとがあった方があなたは儲かるのね」
レナが納得してカイの仕事を思い出す。雇い始めてもうすぐ2週間になるというのに、その事実に違和感があった。目の前の男は、小説の中では戦場の申し子のような戦いの中に身を置く存在だ。
「人聞きの悪いことを言うな。要人警護は戦争がなくても一定の需要はあるし、こう見えても領地持ち貴族の端くれなんでね、何かしら生きていく道は見つける」
カイはそう言うと、シンとロキからの報告はどうなっているのだろうか、と思い出していた。
「そういえば、シンとロキはどうなの?」
レナからタイミング良く質問があった。
「まだ、今のところ有力な情報は見つかっていないらしいが、レジスタンスの教会で呪術のようなものをかけられて、特に何もなかったようだったと報告はあった」
カイが伝えると、レナは驚いて言葉を失っている。
「大丈夫だ、恐らく何の影響もない。そのあと普通に移動して、今は海辺の町を調査中だ。今日か明日にでも何かしらの報告が来ると思うが」
カイがフォローするが、レナは少し震えているように見えた。
「気に病むことはないだろう。俺も含めて命を張っているだけの対価をもらって仕事をしている。この仕事をしていなくても何かしらの危険な任務に就いていたはずだ。ここの仕事は安全すぎるくらいで、今のところ命の危険を感じたことはない」
カイはそう言うと、レナに余計な心配をさせたことを後悔していた。パースの話どころではなくなっている。
「このまま、2人に調査をお願いするのよね……。大丈夫かしら……」
レナはそう言って不安そうにカイを見た。
「何度も言っているが、あの2人は部下の中でも勘の良さと運の良さがトップクラスなんだ。2人で動く時には連携も取れているし、この手のことを任せるのにあれほど最適な部下はいない。ポテンシアから来たレオナルドほど専門じゃないし場数は踏んでいないが、俺より有能に働くはずだ」
カイの言葉にも、レナは少し浮かない顔をしている。
「力になってもらっているだけの報酬は払っているかもしれないけど、この国の犠牲になる必要なんてないわ。危険な目に遭うようだったら、別に成果なんてなくても構わないから」
レナはそう言ってカイをじっと見ていた。
「承知したが……。そんなことでは解決する問題も解決しないぞ」
カイはレナにそう答えると、一旦席を外そうと椅子から立ち上がった。
「あなたの大切な部下に、危険な仕事をお願いすることになってごめんなさい」
慌てて謝るレナの言葉に、
「最高権力者が簡単に人に頭を下げるのは、どうかと思うがな。殿下は、必要な犠牲を堂々と消費していけばいい。俺たちは殿下の代わりに消耗される人材で、それも理解して仕事を受けているつもりだ」
カイは言い放ち、レナを突き放すように背を向ける。
「あなたは、自分の部下が犠牲になっても平気なの?」
レナは信じられないとでも言いたそうな顔でカイに尋ねた。
「平気かどうかという問題じゃない。こちらは犠牲になる可能性も含んだ前提で動いている。任務の中で命を落とすようなことがあれば、それまでの運だったというだけだ。残念ながら、そうやって仕事をこなすしかない」
カイはそう言って、レナからの反論を待たずに部屋を出て行った。
レナは、カイの言っていることを飲み込みきれない。
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