97 / 221
the 15th night 護衛の2人
しおりを挟む
夜の護衛でサラがレナの部屋の横に来ていた時、ブラッドはベッドで横たわりながら食事中に話した内容を思い出し、同室にいるカイに声を掛けた。
「ハウザー殿じゃないのか……」
カイは突然ブラッドに名前を呼ばれて、
「何の話だ」
と怪訝な表情でブラッドを見た。
「てっきり、俺は王女殿下がハウザー殿へ想いを寄せているのだと思っていた」
ブラッドの言葉をカイは鼻で笑い、
「それは盛大な誤解をしていたな。確かに『騎士物語』で描かれた主人公に対して憧れを抱いていたらしいが、あれはハッキリ言って創作が多く、ほぼ俺じゃない」
と、机で書類を読みながら言った。
「いや、普通ハウザー殿のような見た目の護衛を置いていたら、年頃の女は往々にして惹かれるものだろう」
ブラッドが自分の見た目に落ち込みながらカイを見て言うと、
「さあな」
とカイは会話を続ける気すらなさそうだった。
「ルイス様は、王女殿下がハウザー殿を想っているのであれば、愛人として置くことも考える、と言っていたんだ」
ブラッドが言った言葉にカイは耳を疑った。
「なんだって? なんでそんな話が出る? ルイス王子も愛人を囲うつもりか?」
ブラッドはベッドから起き上がり、カイの反応が普通だろうなと思いながら、
「いや、ルイス様は王女殿下が一番幸せになれる方法を取りたいだけのこと。心のない結婚をしたいんじゃない。レナ様が愛人を囲おうが、ルイス様を最終的に選ぶのであればそれで良い、と思っていらっしゃるだけだ」
と、ルイスの気持ちをそのままカイに伝えた。
「また、えらくいびつな話が出てきたな……」
カイは一息つくと書類を置いて机に置かれた水を一口飲んだ。
「そうか……。じゃあ、王女殿下は恋を知らずに結婚を決めるということか。それはそれで、都合が良くないな」
ブラッドはこの事実をどうルイスに伝えるべきか悩んでいた。
「何を言っている? 王族の婚姻などそんなものだろう?」
カイが当然のように言うと、ブラッドは、
「ああ、本当に人の気持ちが分からないんだな。政略結婚で、相手は同盟国の第四王子だ。今までの流れでレナ様がルイス様に惹かれているわけではないとなれば、この先ルイス様以外の人間に惹かれる可能性があるだろ」
と頭を掻きながら面倒くさそうに言った。
「そんなことまで分からない。予言者でもあるまいし」
カイは特に気にも留めずブラッドの話を流すように聞いていたが、
「王族同士の結婚で、一番最悪なのが結婚後の不貞だ。ポテンシアでも過去は心中や自殺が相次いだことがある。一度も色恋を知らずに政略結婚をすると、よく起きる話なんだよ。相手は大抵身分の低い使用人だったり、奴隷だったりする。だから、側室や愛人を置いてでもそういうことを防ぐようにするんだ」
とブラッドが言うと、カイはなるほどな、と内容を理解した。
「ポテンシアではそうかもしれないが、この国はどうなんだろうな?王族のことを聞こうにも、王女以外の王族が存命していないとなるとイマイチ分からない。しかも、先王は何者かに殺されたと言うし」
カイは、大して興味も無さそうに言ったが、
「先王は殺されたのか? しかも、犯人も分からずに?」
とブラッドの驚きで、この事実は周辺国には伝わっていないのだったと思い出す。
「口外するなよ」
カイはしまったと思いながら、ブラッドの良心に頼るしかないなと半ば諦めた。
「言えるわけないだろう。ルイス様の危険についても考える必要があるが、国王陛下が知ったらまずい」
ブラッドは考え込むように言うと、何やら深刻になっていた。
「ポテンシア国王か。食えない王だとは聞いている」
カイは、ブリステ公国に漏れ聞こえてくるポテンシア国王の評判について思い出していた。
「食えない、か。確かにあの王の不気味さは、食えないと言うんだろうな」
ブラッドはそう言ってカイをじっと見つめた。
「ハウザー殿は、この国に留まることは考えていないのか? 恐らく王女殿下の護衛が本格的に必要なのはこれからだと思うが」
ブラッドが真剣に言っているのを、カイは、
「さあな。仕事として受けるかどうかは金額と条件次第だ」
と一蹴した。ブラッドはそのカイの様子をじっと見つめながら、こんな割り切った考え方をする騎士もいるのだなと、自身の境遇との違いに驚きを覚えた。
「ハウザー殿じゃないのか……」
カイは突然ブラッドに名前を呼ばれて、
「何の話だ」
と怪訝な表情でブラッドを見た。
「てっきり、俺は王女殿下がハウザー殿へ想いを寄せているのだと思っていた」
ブラッドの言葉をカイは鼻で笑い、
「それは盛大な誤解をしていたな。確かに『騎士物語』で描かれた主人公に対して憧れを抱いていたらしいが、あれはハッキリ言って創作が多く、ほぼ俺じゃない」
と、机で書類を読みながら言った。
「いや、普通ハウザー殿のような見た目の護衛を置いていたら、年頃の女は往々にして惹かれるものだろう」
ブラッドが自分の見た目に落ち込みながらカイを見て言うと、
「さあな」
とカイは会話を続ける気すらなさそうだった。
「ルイス様は、王女殿下がハウザー殿を想っているのであれば、愛人として置くことも考える、と言っていたんだ」
ブラッドが言った言葉にカイは耳を疑った。
「なんだって? なんでそんな話が出る? ルイス王子も愛人を囲うつもりか?」
ブラッドはベッドから起き上がり、カイの反応が普通だろうなと思いながら、
「いや、ルイス様は王女殿下が一番幸せになれる方法を取りたいだけのこと。心のない結婚をしたいんじゃない。レナ様が愛人を囲おうが、ルイス様を最終的に選ぶのであればそれで良い、と思っていらっしゃるだけだ」
と、ルイスの気持ちをそのままカイに伝えた。
「また、えらくいびつな話が出てきたな……」
カイは一息つくと書類を置いて机に置かれた水を一口飲んだ。
「そうか……。じゃあ、王女殿下は恋を知らずに結婚を決めるということか。それはそれで、都合が良くないな」
ブラッドはこの事実をどうルイスに伝えるべきか悩んでいた。
「何を言っている? 王族の婚姻などそんなものだろう?」
カイが当然のように言うと、ブラッドは、
「ああ、本当に人の気持ちが分からないんだな。政略結婚で、相手は同盟国の第四王子だ。今までの流れでレナ様がルイス様に惹かれているわけではないとなれば、この先ルイス様以外の人間に惹かれる可能性があるだろ」
と頭を掻きながら面倒くさそうに言った。
「そんなことまで分からない。予言者でもあるまいし」
カイは特に気にも留めずブラッドの話を流すように聞いていたが、
「王族同士の結婚で、一番最悪なのが結婚後の不貞だ。ポテンシアでも過去は心中や自殺が相次いだことがある。一度も色恋を知らずに政略結婚をすると、よく起きる話なんだよ。相手は大抵身分の低い使用人だったり、奴隷だったりする。だから、側室や愛人を置いてでもそういうことを防ぐようにするんだ」
とブラッドが言うと、カイはなるほどな、と内容を理解した。
「ポテンシアではそうかもしれないが、この国はどうなんだろうな?王族のことを聞こうにも、王女以外の王族が存命していないとなるとイマイチ分からない。しかも、先王は何者かに殺されたと言うし」
カイは、大して興味も無さそうに言ったが、
「先王は殺されたのか? しかも、犯人も分からずに?」
とブラッドの驚きで、この事実は周辺国には伝わっていないのだったと思い出す。
「口外するなよ」
カイはしまったと思いながら、ブラッドの良心に頼るしかないなと半ば諦めた。
「言えるわけないだろう。ルイス様の危険についても考える必要があるが、国王陛下が知ったらまずい」
ブラッドは考え込むように言うと、何やら深刻になっていた。
「ポテンシア国王か。食えない王だとは聞いている」
カイは、ブリステ公国に漏れ聞こえてくるポテンシア国王の評判について思い出していた。
「食えない、か。確かにあの王の不気味さは、食えないと言うんだろうな」
ブラッドはそう言ってカイをじっと見つめた。
「ハウザー殿は、この国に留まることは考えていないのか? 恐らく王女殿下の護衛が本格的に必要なのはこれからだと思うが」
ブラッドが真剣に言っているのを、カイは、
「さあな。仕事として受けるかどうかは金額と条件次第だ」
と一蹴した。ブラッドはそのカイの様子をじっと見つめながら、こんな割り切った考え方をする騎士もいるのだなと、自身の境遇との違いに驚きを覚えた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。
彩世幻夜
ファンタジー
※ 2019年ファンタジー小説大賞 148 位! 読者の皆様、ありがとうございました!
裕福な商家の生まれながら身分は平民の悪役令嬢に転生したアンリが、ユニークスキル「クリエイト」を駆使してシナリオ改変に挑む、恋と冒険から始まる成り上がりの物語。
※2019年10月23日 完結
新作
【あやかしたちのとまり木の日常】
連載開始しました
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
淫紋付きランジェリーパーティーへようこそ~麗人辺境伯、婿殿の逆襲の罠にハメられる
柿崎まつる
恋愛
ローテ辺境伯領から最重要機密を盗んだ男が潜んだ先は、ある紳士社交倶楽部の夜会会場。女辺境伯とその夫は夜会に潜入するが、なんとそこはランジェリーパーティーだった!
※辺境伯は女です ムーンライトノベルズに掲載済みです。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる