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the 18th day 頂上にて
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山を登っていると、不意に絶景が見られる場所がある。ルリアーナは険しい山が多いと聞いていたが、実際に来ると想像以上だった。
「早めに出たけど、夜までに到着するのかな。近道かと思ったけど、やっぱり山は油断できないね」
ロキは前を歩くシンに向かって言った。2人は登山の経験も豊かだったが、岩場を登ったり、時折獣道のような場所があったりと、一筋縄ではいかない山道に苦戦していた。地元の人間もほとんど通っていないのではないかと疑うほどの道が続き、行く手を阻まれながらなんとか進む。
「自然が豊かな国だとは思ったけど、こういう場所があるんだな。仕事じゃなきゃ楽しんで登れたけど、これからお城に戻るっていうのに、山で野宿は勘弁だな」
シンは休憩を取るつもりで歩いていたが、足場が悪く座れそうな場所がなく、ひたすら歩くことになってしまった。
「ほんと、夜になる前に抜けたいね。こんなとこで寝るための装備なんて持ってないしさ……」
ロキは息を切らしながらそう言った。そろそろ話しながら歩く余裕も無くなりそうだ。
「もう少し、開けた場所に出たら一旦休憩しよう」
シンは、ロキの様子を気遣いながらそう言った。2人とも、これまでは体力が尽きることを考えながら移動することがなかった。それが今回はそうもいかないらしい。険しい山道が続くとロキに比べてシンの方が少し余裕を持っていた。
(やっぱり俺は農業従事者で昔から野山を駆け回って生活してたから、お屋敷育ちのロキよりこういうところは得意なのかもな)
シンはそんなことを考えながら、目の前に広がる山道を眺める。もう少し歩くと頂上らしいところに着きそうだった。
(持って来た水が足りなくなるのは避けたいな……どこかに川でもあればいいんだけど)
シンは山の天気を気にしながら、自分の持っている水や食料の心配をしていた。
「絶景だなー」
頂上の開けた場所に着くと、シンは荷物を下ろして深呼吸をした。すぐ下に広がる森の先に、遠くの農園風景が広がっている。
「うわ、なんか感動」
ロキも遅れて絶景を目にすると、ふと頂上の看板が目に入った。
「山の名前かな。『鷹峰』って……ここも、鷹なんだ」
ロキが呟くように言うと、シンはロキの見ている看板の所に歩き、
「この山が鷹に似ているのか、鷹にちなんだのか、ここから見える景色が鷹なのか……」
と、辺りを見渡した。
「このあたりで一番高い山の頂上みたいだから、鷹を神格化している国らしい名前ではあるよね」
ロキがそう言って鷹峰から見える景色を眺めた。
「遠くの方に、お城が見えるような……」
ロキがそう言ったのでシンは吹き出した。
「まさかそんな幻覚まで見えるようになったのか?」
ニヤニヤしながらシンがロキの隣に立ち、同じ方向を眺める。
「ん……? 確かに、ここから見ると、なんかあの辺の建物がお城かなって思うかもしれないな……」
シンは不思議に思い、滑落しないように少しずつ前に歩いていく。岩場の頂上にも草が生えていて足元が悪い。草に埋もれた中で、大きな石板のようなものと足がぶつかったので、シンはしゃがんで草を掻き分けてみた。
「この岩、なんか、書いてある……?」
シンが何かを見つけたので、ロキも近寄った。
「『へ・レ・ナ』じゃない?」
ロキは、岩に刻まれた文字が苔でところどころ見えなくなっていたのを、指でなぞりながら読んだ。
「人の、名前だよな……? ヘレナって」
シンは不思議そうに岩に書かれた文字を見つめて言った。
「女性だよね……建国者の名前は? 殿下の名前にも似ているし、王族関係なんじゃないかな……」
ロキが言ったのを、シンは驚いて、
「よく、殿下の名前に似てるなんて……そうか、そうだよな」
と自己完結してしまい、それ以上の言葉を発するのを止める。
「殿下がらみですぐに連想出来ちゃうのが、気持ち悪いって言いたいんでしょ……」
ロキはシンが控えた内容を察して、不機嫌に言った。
「いや、そうじゃなくてさ。やっぱり俺は、好きな子の名前って特別だと思う方なんだよ」
シンがそう言ってロキに笑う。
「特別ねえ」
ロキはシンの彼女の顔を思い浮かべると、ロキの天敵であるシンの彼女の名前がそこまで特別なものだろうかと思い、それ以上は何も言わないでおいた。
「早めに出たけど、夜までに到着するのかな。近道かと思ったけど、やっぱり山は油断できないね」
ロキは前を歩くシンに向かって言った。2人は登山の経験も豊かだったが、岩場を登ったり、時折獣道のような場所があったりと、一筋縄ではいかない山道に苦戦していた。地元の人間もほとんど通っていないのではないかと疑うほどの道が続き、行く手を阻まれながらなんとか進む。
「自然が豊かな国だとは思ったけど、こういう場所があるんだな。仕事じゃなきゃ楽しんで登れたけど、これからお城に戻るっていうのに、山で野宿は勘弁だな」
シンは休憩を取るつもりで歩いていたが、足場が悪く座れそうな場所がなく、ひたすら歩くことになってしまった。
「ほんと、夜になる前に抜けたいね。こんなとこで寝るための装備なんて持ってないしさ……」
ロキは息を切らしながらそう言った。そろそろ話しながら歩く余裕も無くなりそうだ。
「もう少し、開けた場所に出たら一旦休憩しよう」
シンは、ロキの様子を気遣いながらそう言った。2人とも、これまでは体力が尽きることを考えながら移動することがなかった。それが今回はそうもいかないらしい。険しい山道が続くとロキに比べてシンの方が少し余裕を持っていた。
(やっぱり俺は農業従事者で昔から野山を駆け回って生活してたから、お屋敷育ちのロキよりこういうところは得意なのかもな)
シンはそんなことを考えながら、目の前に広がる山道を眺める。もう少し歩くと頂上らしいところに着きそうだった。
(持って来た水が足りなくなるのは避けたいな……どこかに川でもあればいいんだけど)
シンは山の天気を気にしながら、自分の持っている水や食料の心配をしていた。
「絶景だなー」
頂上の開けた場所に着くと、シンは荷物を下ろして深呼吸をした。すぐ下に広がる森の先に、遠くの農園風景が広がっている。
「うわ、なんか感動」
ロキも遅れて絶景を目にすると、ふと頂上の看板が目に入った。
「山の名前かな。『鷹峰』って……ここも、鷹なんだ」
ロキが呟くように言うと、シンはロキの見ている看板の所に歩き、
「この山が鷹に似ているのか、鷹にちなんだのか、ここから見える景色が鷹なのか……」
と、辺りを見渡した。
「このあたりで一番高い山の頂上みたいだから、鷹を神格化している国らしい名前ではあるよね」
ロキがそう言って鷹峰から見える景色を眺めた。
「遠くの方に、お城が見えるような……」
ロキがそう言ったのでシンは吹き出した。
「まさかそんな幻覚まで見えるようになったのか?」
ニヤニヤしながらシンがロキの隣に立ち、同じ方向を眺める。
「ん……? 確かに、ここから見ると、なんかあの辺の建物がお城かなって思うかもしれないな……」
シンは不思議に思い、滑落しないように少しずつ前に歩いていく。岩場の頂上にも草が生えていて足元が悪い。草に埋もれた中で、大きな石板のようなものと足がぶつかったので、シンはしゃがんで草を掻き分けてみた。
「この岩、なんか、書いてある……?」
シンが何かを見つけたので、ロキも近寄った。
「『へ・レ・ナ』じゃない?」
ロキは、岩に刻まれた文字が苔でところどころ見えなくなっていたのを、指でなぞりながら読んだ。
「人の、名前だよな……? ヘレナって」
シンは不思議そうに岩に書かれた文字を見つめて言った。
「女性だよね……建国者の名前は? 殿下の名前にも似ているし、王族関係なんじゃないかな……」
ロキが言ったのを、シンは驚いて、
「よく、殿下の名前に似てるなんて……そうか、そうだよな」
と自己完結してしまい、それ以上の言葉を発するのを止める。
「殿下がらみですぐに連想出来ちゃうのが、気持ち悪いって言いたいんでしょ……」
ロキはシンが控えた内容を察して、不機嫌に言った。
「いや、そうじゃなくてさ。やっぱり俺は、好きな子の名前って特別だと思う方なんだよ」
シンがそう言ってロキに笑う。
「特別ねえ」
ロキはシンの彼女の顔を思い浮かべると、ロキの天敵であるシンの彼女の名前がそこまで特別なものだろうかと思い、それ以上は何も言わないでおいた。
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