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the 26th day 天才との帰り道
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ルイスは、各地から聖職者を城に搬送するため、それぞれの教会や修道院に馬車が到着するように手配をしていた。修道院に限っては数が足りず、数人を兵士の馬に同乗させたが、何人かの修道女はそれを酷く怖がった。
「兵士に連れられるのが怖いと思うのは、この国が平和だからかもしれないが……私の兵は皆、女性には優しいよ」
ルイスは怖がる修道女に声を掛けたが、どうしても抵抗があるらしい。
(王女のケースがそうだったように、修道女たちにもトラウマがあるのだとしたら、許しがたいな)
ルイスは、レナがメイソンの手に掛かりかけたように、この修道女たちにもそれぞれに事情があるような気がしてならなかった。何より、ミリーナ自身が先王の被害者だった。
(その辺は、私の考えすぎであって欲しいが)
ルイスは昔から好きだった国と王女が、なるべく傷つかないでいて欲しかった。平和に見えるこの国に、生きづらい事情があるとするならば力になりたい。レナが呪いに倒れたのは許せないが、不幸の連鎖は断ち切らなければならないと強く思う。
「レオナルド、帰り道、話せるかい?」
ルイスは久しぶりに姿を見る、国王付きの間諜に声を掛けた。
「はい、ルイス様。本当にご無沙汰しております」
ルイスの姿を見て和やかに微笑んだレオナルドを見て、ルイスは相変わらず表情の読めない間諜だなと恐ろしさを感じる。
「良かった、それでは、レオナルドとブラッドは私の馬車に同乗してもらおう」
ルイスはそう言って馬車に乗り込む。ブラッドは久しぶりのレオナルドを笑顔で迎え入れたが、その他の近衛兵はレオナルドの姿に何度も緊張し、全く疑われずに修道士に紛れていた様子に底知れぬ恐ろしさを感じていた。
ルリアーナ城に向かう馬車の中で、ルイスに向かい合ってブラッドとレオナルドが座っている。ブラッドはレオナルドと話せるのを楽しそうにしていたが、ルイスは神妙な顔をしていた。
「さて、どこから話をしてもらおうか……。君は、ミリーナと王女の関係は既に知っているね?」
ルイスが尋ねると、
「はい、ミリーナっていう女性とは2度ほど接触しましたが、姿を消す術で僕を煙に巻いたり、無差別に修道士に呪いを掛けたり、ロクな女じゃなさそうですよ。王女殿下は、親には恵まれませんでしたね。先王との婚外子だったらしいですし」
と、レオナルドが笑顔で言ったので、ルイスは顔をしかめた。
「その言い方は、好きではないな……。まあ、事実としてはそうなんだろう。で、レジスタンスは収穫祭で何か問題を起こした形跡はあるのか?」
ルイスが外国人兵の質問をする前にレジスタンスの情報について尋ねると、
「それが、イマイチよく分からないんです。収穫祭の前にミリーナは修道士に何か呪いをかけたようですが、それが何なのか、どんな影響があったのか、全く分かりません」
とレオナルドは悔しそうに答えた。
「そうか、まだ謎は多いわけだな」
ルイスが頷くと、
「ところで、修道士っていうのは、全員呪術を使うのか?」
と横からブラッドが尋ねた。
「いえ、ある程度修道士として経験を積まないと、呪術を習う段階にはいかないらしく……僕は習わせてもらっていないんですよね」
と不服そうな顔でレオナルドは答える。
「逆に言うと、経験を積めば習うことが出来て、みんな呪術師になるわけか」
ブラッドが驚いたので、
「ああ、はい。でも、呪術の素質がないと、そこまで術は使えないらしいですけどね。基本的なものはやり方さえ知っていれば、誰でも使えるらしいですよ」
とレオナルドは得意気に言った。
「王女は、その素質とやらがあるらしい。そして、ミリーナの呪いで今は自我を失うまでのカウントダウンが始まっている」
ルイスが言ったので、レオナルドは驚いて、
「実の娘に呪いをかけたのか……。もしかして、王家を終わらせたかったのか……」
と呟くように言う。
「私は、王女の呪いを解きたい」
ルイスが絞るような声で言ったのを、
「そういうことですね。呪術師を集めれば、知恵で何とかなるかもしれないのか……」
とレオナルドは軽く返したので、ブラッドはレオナルドの肩を掴み、
「それは、本当か?」
と強く尋ねた。
レオナルドはニコニコしながら「ええ」と頷くと、
「呪術って、素質が一定以上あると、他人のかけた呪いの術式を読んだりできるらしくて。何人かで王女の呪いの術式を読めば、解決の方法も見つかるかもしれませんよ。あ、ぬか喜びは出来ませんけど」
と付け加えた。
「いや、希望が出てきた。レオナルドの言う通りなら、ミリーナが居なくても呪いのことが分かるってことだろ」
ブラッドは言う。その2人のやり取りを聞いていたルイスは、
「上手くいくことを、願うしかないな」
と力なく笑った。レオナルドはそのルイスの姿を見て、普段は飄々としている第四王子がここまで追いつめられることがあるのだと、新たに関心を持った。
「兵士に連れられるのが怖いと思うのは、この国が平和だからかもしれないが……私の兵は皆、女性には優しいよ」
ルイスは怖がる修道女に声を掛けたが、どうしても抵抗があるらしい。
(王女のケースがそうだったように、修道女たちにもトラウマがあるのだとしたら、許しがたいな)
ルイスは、レナがメイソンの手に掛かりかけたように、この修道女たちにもそれぞれに事情があるような気がしてならなかった。何より、ミリーナ自身が先王の被害者だった。
(その辺は、私の考えすぎであって欲しいが)
ルイスは昔から好きだった国と王女が、なるべく傷つかないでいて欲しかった。平和に見えるこの国に、生きづらい事情があるとするならば力になりたい。レナが呪いに倒れたのは許せないが、不幸の連鎖は断ち切らなければならないと強く思う。
「レオナルド、帰り道、話せるかい?」
ルイスは久しぶりに姿を見る、国王付きの間諜に声を掛けた。
「はい、ルイス様。本当にご無沙汰しております」
ルイスの姿を見て和やかに微笑んだレオナルドを見て、ルイスは相変わらず表情の読めない間諜だなと恐ろしさを感じる。
「良かった、それでは、レオナルドとブラッドは私の馬車に同乗してもらおう」
ルイスはそう言って馬車に乗り込む。ブラッドは久しぶりのレオナルドを笑顔で迎え入れたが、その他の近衛兵はレオナルドの姿に何度も緊張し、全く疑われずに修道士に紛れていた様子に底知れぬ恐ろしさを感じていた。
ルリアーナ城に向かう馬車の中で、ルイスに向かい合ってブラッドとレオナルドが座っている。ブラッドはレオナルドと話せるのを楽しそうにしていたが、ルイスは神妙な顔をしていた。
「さて、どこから話をしてもらおうか……。君は、ミリーナと王女の関係は既に知っているね?」
ルイスが尋ねると、
「はい、ミリーナっていう女性とは2度ほど接触しましたが、姿を消す術で僕を煙に巻いたり、無差別に修道士に呪いを掛けたり、ロクな女じゃなさそうですよ。王女殿下は、親には恵まれませんでしたね。先王との婚外子だったらしいですし」
と、レオナルドが笑顔で言ったので、ルイスは顔をしかめた。
「その言い方は、好きではないな……。まあ、事実としてはそうなんだろう。で、レジスタンスは収穫祭で何か問題を起こした形跡はあるのか?」
ルイスが外国人兵の質問をする前にレジスタンスの情報について尋ねると、
「それが、イマイチよく分からないんです。収穫祭の前にミリーナは修道士に何か呪いをかけたようですが、それが何なのか、どんな影響があったのか、全く分かりません」
とレオナルドは悔しそうに答えた。
「そうか、まだ謎は多いわけだな」
ルイスが頷くと、
「ところで、修道士っていうのは、全員呪術を使うのか?」
と横からブラッドが尋ねた。
「いえ、ある程度修道士として経験を積まないと、呪術を習う段階にはいかないらしく……僕は習わせてもらっていないんですよね」
と不服そうな顔でレオナルドは答える。
「逆に言うと、経験を積めば習うことが出来て、みんな呪術師になるわけか」
ブラッドが驚いたので、
「ああ、はい。でも、呪術の素質がないと、そこまで術は使えないらしいですけどね。基本的なものはやり方さえ知っていれば、誰でも使えるらしいですよ」
とレオナルドは得意気に言った。
「王女は、その素質とやらがあるらしい。そして、ミリーナの呪いで今は自我を失うまでのカウントダウンが始まっている」
ルイスが言ったので、レオナルドは驚いて、
「実の娘に呪いをかけたのか……。もしかして、王家を終わらせたかったのか……」
と呟くように言う。
「私は、王女の呪いを解きたい」
ルイスが絞るような声で言ったのを、
「そういうことですね。呪術師を集めれば、知恵で何とかなるかもしれないのか……」
とレオナルドは軽く返したので、ブラッドはレオナルドの肩を掴み、
「それは、本当か?」
と強く尋ねた。
レオナルドはニコニコしながら「ええ」と頷くと、
「呪術って、素質が一定以上あると、他人のかけた呪いの術式を読んだりできるらしくて。何人かで王女の呪いの術式を読めば、解決の方法も見つかるかもしれませんよ。あ、ぬか喜びは出来ませんけど」
と付け加えた。
「いや、希望が出てきた。レオナルドの言う通りなら、ミリーナが居なくても呪いのことが分かるってことだろ」
ブラッドは言う。その2人のやり取りを聞いていたルイスは、
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