アメイジング・ナイト ―王女と騎士の35日―

碧井夢夏

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the 29th day 呪術の洗礼

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 レオナルド、カイ、レナの3人は静かに村の中を歩いていた。
 カイはレオナルドから発せられる不気味な殺気が何に向けられているのか分からず、レナを自分の身体で隠していた。
 一方レナは、とうとうミリーナと対峙する場面が近づいていることに緊張し、カイの側で心の準備をしようとしている。

「ところで、レオナルドはミリーナをどうするつもりでいる?」
 カイに聞かれ、レオナルドは、
「あちらの態度次第かなと思ってます。本当は追い詰めて色々確認したいことがあるんですけど」
 と答える。カイの顔に嫌悪感がハッキリと見て取れたのを確認し、レオナルドはニヤリと笑った。

「態度次第、とお前が言うと物騒だ」
「いや、物騒なんですよ? 僕」

 カイとレオナルドが小さな声で言い合った時、レナが小さな声を上げた。カイは何があったのかとレナを背に隠したまま、振り返ってレナの方を見た。

「そこの教会の中に、何かあるかもしれない……」

 レナが目の前に現れた小さな木造の教会を指差す。
「そこ、僕も3回くらい隅々まで探したんですよ。やっぱり何か術が施してありますか……」
 とレオナルドはため息をついた。レナは教会を見ながら、生唾をごくりと飲む。

「術式を読むわね……。1階層に、他人が入ることができない空間を作って、2階層目に術者とそうでない者で違うところに入るように組まれている……。恐らく、ここにレオナルドの言った『空間のはざま』が作られているんじゃないかしら……?」

「へえ……? ところで、その術式ってやつは、どんな見え方をしているんですか?」
 レオナルドは呪術がどんなものなのか気になったらしく、レナに純粋な疑問を投げかけた。

「文字だったり記号だったり、図形だったり、形は色々だけど……人が生みだした『術を使うための式の形』が構造物のように見えるのよ。術者は、術式を頭の中に描きながら、それぞれ使いこなしているの」
 レナはそう説明したが、目で見えていないカイはどんな状態なのか想像がつかなかった。

「じゃあ、術者には特殊な目が備わっているような状態なんですね」
 レオナルドが返した時、教会の中から新しい術式の列が溢れてくるのをレナは確認する。

「カイ、来るわ!」
 レナは大声を上げた。
 術式の列が次々に小さな雷に変わると、周囲に雷が様々な角度から走り、木や草を燃やしていく。

「雷は初めて見たな」
 カイが自分の身体を強化させレナの前に立ち、手を掲げて「気」の壁を作りながら雷を受ける。痺れが残った掌を軽く振りながら舌打ちした。

「あーあー、何が起きてるか分からないってのは、イライラするな……」
 レオナルドは身体を伏せながら、目の前で次々起こる超常現象に、明らかに苛立っていた。

「俺だって見えていないから安心しろ」
 カイがそう言って笑うと、レオナルドは「ふん」とだけ声を出し、両手に短剣を構えた。

「話し合いは、無理かもしれないわ……」
 レナは建物から次々と現れる大量の術式を見ながら、絶望して言った。

「何が見えているんだ?」
 カイが尋ねた時、レナは焦って、
「伏せて!」
 と叫ぶ。大きな爆発音がして、周囲に砂や石などを始めとした周囲にあるものが飛び散っていた。

 レナは覆いかぶさってきたカイの下で怪我をせずに済んでいたが、レオナルドは身体中にかすり傷を作ってうっすらと傷から血を浮かばせている。

「やってくれるじゃないか……。呪術師っていうのは、姿を見るのも大変で、攻撃も難解だね」
 レオナルドはそう言うと、口の中に溜まった血を軽く吐いて教会の中に向かって行こうとした。

「待って! あなただけで進むと、術者のいるところには行けないようになっているの」
 レナがレオナルドを制して、カイを連れて3人で進むのを提案した。

「何から何まで、ややこしいんですね……」
 レオナルドは渋々レナの側まで戻り、
「こうやって一緒に進めば、ミリーナのいるところに行けそうですか?」
 と素直にレナに従おうとしていた。カイはレオナルドとレナの間に割って入り、
「では、王女の護衛はここにいた方がいいな」
 と大きな体でレナを隠す。

 それを見たレオナルドは苦笑いをすると、
「勝手にしてくださいよ、騎士様」
 と言ってカイから視線を外し、教会の中を睨むようにじっと見た。

「まさか、攻撃がこれで終わりってことはないでしょうね?」
「さっきの術はもともと張っていた罠か何かだと思うわよ……」
 レオナルドの問いに、レナは息を呑みながら答えた。
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