亡国の王女は世界を歌う ―アメイジング・ナイト2—

碧井夢夏

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第3章 それが日常になっていく

デニス・レンナーとカミラ・エステン

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 ライト商事の有名人、美人秘書のカミラ・エステンは、社長室の扉の前で動けなくなっていた。
 部屋の中では営業部長のデニス・レンナーとロキが話しをしている。デニスは声が大きく、扉の前に立った時にハッキリと内容が聞こえてきてしまったのだ。

『まさか、よりにもよって王女に手を出したのか……?』

 その言葉に、ロキは否定も肯定もしなかった。カミラがそのまま扉の前で立ち尽くしていると、部屋からデニスが出て来る。

「カミラ……いたのか」

 デニスは明らかにしまったという顔をしている。

「デニス、少し話せる?」

 カミラは真剣な顔でデニスを見つめていた。

「既婚者つかまえて、そんな挑戦的な目をしてくれるなよ」

 デニスはカミラに冗談を言って、そのまま通り過ぎようとした。

「聞こえたのよ、ハッキリ」

 カミラはデニスの腕を掴み、逃がすまいと強い目でデニスを捕らえる。

「いや……聞かれるとは思ってなかったな……」

 デニスは、こうなったら仕方がないかとカミラに付き合うことにした。


 ライト商事社屋の庭で、ひと際華やかな女性と強面の男性が2人で話し込んでいる。
 話の内容を聞かずにその様子をうかがうと、背の高い強面の男性が美人に言い寄っているようにも見えた。

 同じ会社の人間であれば、何か面倒なことでも起きたのだろうとすぐに察したところだ。

「さっきのあれは、何なのよ」

 カミラは腕を組み、明らかに不機嫌な様子でデニスに言い放つ。

「いや、冗談を言っただけだろ?」

 デニスは必死に取り繕うが、カミラには全く通じない。

「あんな際どい内容、誰かに聞かれたら大問題よ。うちの会社の信用に関わるわ」

 カミラはそう言うとデニスに詰め寄る。

「あなたは営業さえ出来ればいいのかもしれないけど、噂ひとつで社員全員の生活が守れなくなったらどうするの? 部長までやっているのに、呆れるわね」

 正論を振りかざし、カミラはデニスを睨んだ。

「ああ、そういうお前は、私情が漏れすぎていて痛々しいぞ」

 デニスは高めの身長からくりだす視線から、ゆっくりとカミラを見下ろすように言った。その瞬間カミラに血が上った様子が見て取れる。

(罪な男だな、ほんとに)

 デニスはカミラを冷静に見ながら、口元でニヤリと笑った。

「あなたに……そんなことを言われる筋合いないけど」

 カミラは今すぐに平手でも食らわせたい衝動に駆られていたが、かっとなって手を挙げるような行動は慎むように言われていたのを思い出し、ぐっと我慢をする。

(感情的な女だと……ロキウィズに……呆れられてしまうわ)

 カミラは、元女優だ。

「社長の私生活を切り売りするのはやめて。それが会社にとって悪影響なものなら、尚更よ」

 すぐに普段の「やり手秘書」に戻り、冷静にデニスに語り掛ける。

「ああ、分かったよ。なるべくその辺は注意しておこう」

 デニスは、そう言って話を切り上げると、カミラから逃げるように立ち去った。カミラはその後ろ姿をじっと見たまま、奥歯をぐっと噛みしめていた。
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