亡国の王女は世界を歌う ―アメイジング・ナイト２—

第3章 それが日常になっていく

ライト商事の珍客

　ライト商事の門番が、その日の珍客に要件や事情などを尋ねていると、その3人の客はたちまち大声を上げ始めた。

「俺らは社長にここに来ると良いって言われて来てるんですよ」
「なんなんだよ、セキュリティとか聞いてねえし！」

　3人の男はガタイの良い風貌で、身なりこそきちんとしていたが言葉遣いなどからして育ちの良さそうな客ではなかった。

「あ、あの……失礼ですが、どちらからお越しですか？　あとご要件をいただければ……」

　門番が困っていると、騒ぎを聞いて駆け付けた営業部長のデニス・レンナーが3人の姿を見て、「ロキウィズが、何かしたか？」と声を掛ける。

　体格も良く強面のデニスが大きな声をあげるとそれなりに迫力があるのだが、3人は全く動じず、「ああ、お宅の社長に出資してもらったお礼をしに来たんだよ」と堂々と言い切った。

「ああ、そういうやつか」

　デニスは納得すると3人を社屋に招き入れ、応接に案内することにする。


「す……すげえ」

　3人は社屋の大きさや、茶を運んで来たカミラの美しさなどにひとしきり感動していた。

「ほんとに大物だったんだな」

　そんなことを言いながらはしゃいでいると、以前会ったプラチナブロンドの男が現れた。

「えーと、……誰？」

　スリーピースのスーツに身を包んだ美人は、3人を見て首を傾げている。

「あんたに出資してもらった、あの、ルリアーナのゴロツキだよ」
「兄貴、自分でゴロツキって言っちゃいます？」
「まあ、あの時はほぼ強盗でしたからね」

　3人がワイワイとそんなことを話していると、ロキはようやく思い出し、「ああ、ルリアーナで追い剥ぎやってた連中かあ。格好がマトモになってたから全然分からなかったよ」と嬉しそうに言った。

　3人は目の前の男が戦っても勝てなかった実力者であることをしっかり覚えており、ロキを見るとまだ少し緊張する様子だ。

「はい、実はあれから色々ありまして……」
「ちゃんと仕事をやれるようになったんですよ」
「初めは誰も相手にしてくれなくて大変だったんですけどね」

　3人はそう言って、ロキから受け取った金貨1枚を元手に村の特産品をマーケットで売る事業を始め、今では従業員を2名雇って仕事をしていることを話した。ロキは嬉しそうに話を聞きながら、時折、驚いたり笑ったりしていた。

「それでですね、ロキウィズさん……」

　1人が神妙な顔をして話を切り出す。ロキは、また追加の出資でも求められるのだろうと何となく思っていた。

「自分たちを、ライト商事の傘下に入れてはもらえませんか？　この会社、ルリアーナに拠点、要りませんか？」
　ロキの予想とは全く違う展開に、一瞬耳を疑った。

「拠点……？」

　そういえば、現在、渉外部のルーカスをルリアーナに出張させている。

「そうです、自分ら、何しろ信用ってものが足りないと日々痛感してまして……。心入れ替えて真面目にやってはいるものの、出来れば、どこかのグループに入っていた方が商売しやすいなと気付いちゃいまして。あと、ここ最近はルリアーナもポテンシアになってしまったので、ブリステとポテンシアの間の国境を超えるために、国際的な組織として動きたいんです。入国審査が楽になるんで」

　ルリアーナから来た客のその話を聞いて、ロキは思わず、「それだ」と声を上げた。

「ライト商事のルリアーナ支店として開業してもらってもいいな。ただ、いくつか条件がある」

　3人は、条件と言われて緊張しているようだった。

「一番重要な条件を先ず。俺には、ルリアーナに探している女性がいる。生存も含めて確認したい」

　ロキの言葉に、3人はキョトンとしている。

「その女性の情報が手に入ったら、逐一こちらに情報を寄せてくれ。あと、彼女の情報を収集してくれたらそこに対しての報酬を払う」

　ロキが真剣に言ったので、3人は女性というのは余程大切な人なのだろうと理解した。

「構いません、仕事をしながら、並行して女性を探せばいいんですね？」

　3人のうちの1人がそう言ってロキに向かって頷いた。それを見てロキは嬉しそうな顔をする。

　ロキはまさか以前自分の荷物を狙った者に、こんな提案をされる日が来るとは思わなかった。
　失敗も多い出資事業だが、やはりこのために自分は事業をやっているのだと、ロキは金貨1枚が広げる世界の広さに感慨深くなるのだった。