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第3章 それが日常になっていく

暴君討伐に向けて

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 カイとハンが治安維持のために町に出ていると、1人の近衛兵が2人に近付いてきた。カイとハンは馬上から槍を構えて戦う姿勢を見せるが、歩いて向かってくる近衛兵は武器を構えず、両手を挙げて戦う意思がないことを表明している。

「ハウザー団長、ルイス様の元で働いている者です」

 近衛兵は丸腰で近付いてくるが、カイもハンも周囲に伏兵がいないか武器を下ろさずに見守っていた。

「いきなり何の用だ?」
「パトロールの最中に待ち伏せなんて、趣味が悪い気がするね、弟?」

 2人がそう言って近付いて来る近衛兵を威嚇するが、近衛兵は気にせずに2人の元まで歩いてきた。

「ユリウス様の領内に、ルイス殿下から書簡を送るのは危険と判断されたのです。事前連絡がなく、申し訳ございません」
 近衛兵がそう言って頭を下げたので、カイとハンは武器を下ろして近衛兵の言葉に耳を傾けることにした。

「ここでは、誰に聞かれているか分かりません。どこか……話すのに適している場所、できれば元領主のブライアン・バンクス様のお屋敷まで連れて行っていただけませんか?」

 その言葉を聞いて、カイとハンは顔を見合わせる。カイは、自分がいればブライアンに危険も及ばないだろうという意味でハンに向かって頷いた。ハンは、カイの判断に任せよう、と肩をすくめる。

「分かった、付いてこい」
 カイはそう言うと、ブライアンの家まで近衛兵を案内した。



「いやぁあああ、それはねええええ……」

 ブライアン・バンクスは机に肘をついて大きな溜息をついた。険しい表情のせいで、48歳のブライアンの皺は深くなっている。

「ルイス殿下が王族の中の望みではなかったのですか?」

 カイがブライアンに尋ねると、「いや、それとこれとはさあ、事情が違うじゃないか」とブライアンは頭を抱えている。

「確かに、ユリウスを討つ必要があるのか、私も疑問がありますが」

 カイは、そう言ってルイスの部下だと名乗る近衛兵をじろりと見た。

「この土地は、やはりブライアン・バンクス様が治めるべきです。ユリウス様を討った後、ルイス殿下はあなたに侯爵の爵位を戻して統治を任せたいとおっしゃっています」

 近衛兵がハッキリそう言うと、ブライアンは首を左右に振った。

「そんなことをしたら、ポテンシア国王に攻め落とされるのがオチだ。ユリウスを討つのはそこまで難しくないかもしれないが、相手が国王となったらまず対抗できないだろう」

 ブライアンは断固協力しない姿勢を貫いている。

「ユリウス様を討つのが難しくないことは分かっているのですね?」

 近衛兵がブライアンに確認するように言ったので、ブライアンは困った顔で頷いた。

「それでは、ユリウス様を討った後、ルイス殿下が国王陛下のところに向かい、ユリウス様のものを奪ったことを宣言すれば良いのです。国王陛下は、王子同士が争って一番優れた者が残ることに、肯定的な方ですから」

 ポテンシアの近衛兵が当たり前のように言ったので、ブライアンは言葉を失う。

「相変わらず、悪趣味な王だな」

 ショックで声を失ったブライアンの代わりに、カイがうんざりとした様子で言う。
 ブライアンは、自分の国がそんな王によって奪われたのだとつくづく嫌になっていた。

「ユリウスを討つだけであれば、私も協力しようと思いますが」

 カイがブライアンに向かってそう付け加えると、ブライアンはカイと近衛兵を交互に見て大きな溜息をついた。
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