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第4章 ポテンシア王国に走る衝撃

ファニアとリディア

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 その日の朝、ファニアの顔が腫れているのを見つけたリディアは、驚いて使用人たちにファニアの傷を手当てさせた。

 リディアはユリウスの正室で、ポテンシアでは特に有力な貴族の出身だった。それ故か、ユリウスからひどい扱いは受けたことは一度もない。
 一方で側室のファニアは、特に身分も低くない出だというのにユリウスからの暴力を日常的に受けている。

 リディアは、ファニアのことを同志のように思い、事あるごとに気にしていた。それに対してファニアは特に感情を動かしている様子はなく、いつも通りの無表情で言葉もあまり発しない。ファニアは何も言わないことが多かった。

 リディアから見たファニアは、この世の女性なのかと思うほどの美しさだった。
 絶世の美女とは、彼女を指して言うのだろう。透き通った薄桃色の肌を持ち、白味を帯びた金髪が真っ直ぐ腰上まで延びている。下を向くと長い睫毛が淡い肌の色とブルーグレーの透き通った瞳に影を落とし、更に美しさが際立った。

 リディアは同じ女性の立場でも、ファニアを見ているだけで溜息が出そうになることがある。リディアは平凡な自分の見た目に落ち込みながらも、あれ程の美人を平気で痛めつけるユリウスが信じられなかった。

「どうして殿下は、ファニアにあんな酷いことをするのかしらね……」

 リディアが自室で侍女たちと話している。

「あれがユリウス様の愛情表現かもしれませんよ?」

 と、侍女の一人が意地悪な顔で冗談を言った。勿論、誰もそんなことは信じない。

「別に、ファニア様は身分の低い出というわけでもないので、冷たい対応になられる理由がありませんものね」

 もう一人の侍女は、先ほど見たファニアの怪我を思い出していた。あれはどう見ても物理的に衝撃を与えられた跡だった。

「ファニア様が、いつもあの調子で冷たいからではありませんか? リディア様はユリウス様と対等にお話をされますが、ファニア様はどこか無関心で対応も失礼に見えるというか」

 侍女の一人が確信をもってそう言うと、その場の全員が納得しながら頷く。ほぼ、その説に間違いはないだろうと全員が腑に落ちたところで、リディアはもうひとつ引っかかっていたことを思い出した。

 ユリウスがファニアに対して暴力を振るっているのは間違いないが、ユリウスは正室のリディアに比べて側室のファニアといる時間が圧倒的に長い。そればかりか、殆どの夜はファニアと過ごしているように思えた。

 リディアは特に跡継ぎのことで焦っているわけではなかったが、それでも実家の期待を背負わされてユリウスに嫁いでいる。
 ユリウスがファニアとばかり過ごしているとなると、正室のリディアよりも側室のファニアが先に身籠る可能性は高い。そんなことを考える時のリディアは、気の毒なファニアに対して軽い嫉妬のようなものを覚えてしまう。

 ファニアが美しいからだろうか。リディアがあまりに普通の見た目なことで、ユリウスはリディアと過ごさないのだろうか。そんなことを考える度、リディアはどうしたら良いのか分からず、ひどく虚しくなって落ち込むのだった。
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