亡国の王女は世界を歌う ―アメイジング・ナイト2—

碧井夢夏

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第7章 争いの種はやがて全てを巻き込んで行く

他人の優しさ

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「えー……まさかカイが王女様捕まえて来るなんて思わなかったー……」

 リリスはレナを眺めながら、それにしても噂通り美人で可愛らしい王女なのだなと感心している。

「まあ、一緒にいた俺とサラさんだって現実を疑ったくらいだから……って、レナ様は、結局団長と付き合ってるんですか? 前より堂々とくっついているような気がするんですけど」

 リリスの隣には夫のシンがいた。サラは本日営業活動中で席を外している。

「ええと、そうね……」

 レナが気まずそうに笑って言ったので、シンとリリスは「おお」と声を上げた。
 あのカイ・ハウザーが女性と付き合っているのをハッキリ確認すると改めて驚きがやってくる。

「あの団長が女性と付き合うようになるとか、想像もしなかったな」
「ホントね。私、カイはそのうち男性と付き合うんじゃないかとすら思ってたし」
「団長を変えたのが何だったのか、ものすごく気になるな」
「そうね、シンがカイに聞いて来てよ」

 2人の会話に全く入れないレナは、シンとリリスのやり取りを暫く眺めているだけだった。

「で、カイって2人きりだとどんな感じなの? 全然想像つかないわ。あ、でもキスとかすごいしつこそう。あの人、色々規格外だから大変でしょ」
「いや、そういう詮索は止めておこうよ、リリス……」

 シンがリリスの言葉にヒヤヒヤしていると、レナが急に悲しそうな顔をしたのでドキリとしながらレナの様子に釘付けになってしまう。

「2人きりだからって、別に、普段と変わらないわ」

 レナが思い詰めたように言ったので、シンは焦って、「いや、そういう人もいます。団長らしいじゃないですか。誰の前でも態度が変わらないってだけですよ!」とフォローをしながらリリスに「ほら、余計なこと言わない」と小声で注意をしていた。

「なんか、ずっとアロイス陛下のことばっかりだし……」

 レナの口が尖っていたので、シンは何の話なのか分からず、「アロイス陛下がどうされたんですか?」と軽く尋ねる。

「陛下が私に恋をしているとか言ったものだから、カイが心配してるの」
「はい、死ぬほど心配な案件来ました」
「泥沼すぎて言葉を失うわね」

 シンとリリスは一気に蒼白になり、なぜアロイス・ブリステがレナを知ったのだろうかと単純に疑問だった。

「レナ様……それは、団長でなくても心配です。アロイス陛下は、本当に危険人物ですよ」
「あの王なら……こんな可愛い王女様が現れたら恋にでも落ちそうなのは分かるけど」

「私がカイと離れるのが寂しいって言っても、カイはあんまり理解してくれないの。それに……そんなに女性として見られていない気もするし……」

 レナは溜息をつきながら悲しそうな顔をしている。
 シンはすぐにあのカイ・ハウザーの不器用なところが悪い方に出ているのだろうと分かった。

「女性として見ていないわけないじゃないですか。レナ様に対してだけ別人ですよ。あんなに優しい団長、俺は知りませんけど」
「そうね、カイに寂しいと伝えても、『いやすぐ会えるだろ』ってなるのは目に見えて分かるわね。そういう、情緒のない男だから」

 シンとリリスが口々に言うと、レナは「そうなの?」と意外そうに2人を見る。
 シンは、そんなことにも気付かないで付き合っているのだなと、むしろレナに驚いた。

「きっと私、カイと一緒にいることに慣れてしまったのね。側に居ないと、失ってしまいそうで不安になるの」

 レナはそう言って窓から外を眺める。
 団員が何かの準備に慌ただしく移動している様子を見ながら、この場にいる全ての人員のトップにいるカイ・ハウザーという男の責任を、しっかりと目に焼き付けようとした。

「大丈夫、カイは殺しても死なないから」

 リリスがあっけらかんと言ったので、シンも「確かに」と笑う。

「さっきの話を聞いている限り、カイの方が離れることを心配しているはずよ。うちにレナさんを預けたいとか言い出しそうだもの」

 リリスがそう言ってレナをにっこり見ると、「うちは大歓迎だけど」と付け加えた。
 シンはそのリリスに少し驚いたが、「確かに、アロイス陛下から守ろうと思ったら、マクウェル家くらい動じなさそうな領主のところがお薦めかもしれないな」と納得する。

 シンはレナを失ったと思っていた期間に少なくない後悔を味わったことで、レナを守りたい気持ちもあった。

「そんな、邪魔できないわ……」
「大丈夫、邪魔じゃないのよ」
「確かに、邪魔ではないです」

 レナの遠慮に、リリスとシンは何でもないことのように笑う。
 レナは、2人が何も持たない自分に対してどうしてそこまで親切なのか分からなかった。
 王女としてできることもなければ、払える報酬も無い。

「王女でなくなってから……人の優しさに触れることが増えたの。どうして、何もない私に、そこまでしてくれるのか分からなくて。申し訳なくて、嬉しくて……」

 レナは、アウグス家のイリアに始まり、イサームやアウルシスターズなど、理由なく優しさをくれた人たちを思い出す。

「それが普通なんですよ。何かを持っているから繋がるんじゃなく、ただその人のためになるならしてあげたいというのが、普通なんです」

 シンはそう言ってリリスと手を繋ぎながらレナに笑った。レナはそんなシンに微笑みを返す。
 シンはそのレナの顔に一瞬息をするのを忘れかけたが、そんなレナが無事に目の前にいることを、誰にでもなく感謝した。



「じゃあ、すぐ戻る。シンとリリスのところなら、やかましいから気も紛れるだろ。アロイスかロキが訪ねてきたら、呪術で姿を消してやり過ごせ」

 カイがそう言ってレナの右頬と左頬に口付けをし、騎士団本部から旅立って行こうとしている。
 レナは堪らずカイの胸にしがみついた。

「変なことを気にしないで。あなた以外の人のものになったりしないわよ」

 レナがハッキリ言い切ったので、カイを含めて周囲にいる男性陣が赤面した。

「良かったわねーカイ。愛されてるじゃない」

 リリスがニヤニヤしながらその様子を見ていたので、カイはワザとらしい咳払いをして誤魔化している。
 レナは行動の割に相変わらず言葉がハッキリしていて大胆なことを口走るのだと、カイは離れる瞬間まで思い知るのだ。

 クロノスに跨り遠くなっていくカイを見ながら、レナは寂しさで胸が張り裂けそうになった。
 まだ知り合ったばかりのリリスに抱きついて、リリスに頭を撫でられながらカイの無事を祈る。
 離れた途端、また長い間会えなくなってしまうのではないかと、レナは不安でたまらなかった。
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