亡国の王女は世界を歌う ―アメイジング・ナイト2—

碧井夢夏

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第9章 知ってしまったから

離れる不安

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「いいか、レナは絶対に前線に出るなよ。本当は待っていて欲しいところだが・・サポート要員として有力なのは間違いない。絶対に後ろを守るつもりだが、いざとなったら姿を消して逃げろ」

カイは何度もレナに念押ししている。これは同じ内容を15回目に言ったところだ。

「分かったってば・・あなたって、本当に過保護ね」
「言っておくが、本来はそうでもない」
「ほら団長、もう行きますよ」

部下に引きずられるようにレナから離れたカイは、どう見ても駄々をこねる子どものようだった。マルセルはその様子を遠目に見ながら、「あいつ威厳どこに置いてきたんだ?」と笑っている。

昨日はカイにきつく当たったマルセルも、カイが戦地に戻って任務を全うしようとするのを見ると普段通りの調子に戻っていた。

レナは、後方支援の部隊と一緒に行動することになった。荷馬車の荷台に乗り、レナは二名の兵士たちと共に戦地に向かう。

「ところで、これから向かうところは?」
レナが同乗している兵士に尋ねると、
「はい、ポテンシアのルイス王子領地です」
と答えが返ってきたのでレナは驚いた。

「ルイス様の領地が、戦地になっているの?」
「はい、そうですが・・」

戦争を知らないレナは、ポテンシア内のあらゆるところが戦地になっているのだと勝手に思っていた。
リブニケ王国の攻め方はその認識と変わらないことが起きるが、ポテンシア国王とルイスはあらかじめ戦う場所をいくつか設定した動きをする。

「まだ、ルイス王子はルリアーナ城から出ていないと報告を受けています」
「そう・・」

レナにとって、初めてルイスの領をちゃんと訪れる機会になってしまった。婚約者として、本来ならルイスの領地を訪れる機会が訪れていたかもしれなかったのだ。

「後方支援は・・弓矢で敵を狙うの?」
「あとは、投石機を使ったりもします」
「投石・・? それは、何故?」
「城壁を破壊したり、石を降らせて攻撃するためです。そこまでの戦いになるかは分かりませんが」
「・・そう」

レナは初めて知る戦い方に感心したが、どちらにしても殺し合いの場なのだ、と気を引き締める。

「今、ブリステ公国はリブニケ王国とどういう戦いをしているの?」
「どういう、ですか」
「ブリステ公国の狙いとか、戦地で起きていることとか」

「リブニケの兵がポテンシア国境からブリステ公国に向けて出兵し始め、国境付近で一度撃退したのですが、二度目に妙な術で火を用いるため、こちらからも出兵し始めました。兵は本拠地をルイス王子の領地に構えています」
「周りを何でも焼き払っているという、火攻めね」

レナは何となく事情を把握し始めた。
ルイスの下に付いたリブニケ王国の兵が、呪術を用いて揺さぶりをかけたのだろうかと想像を巡らせる。

「リブニケ王国は、二方向からブリステ公国を攻めて来ています。ハウザー様はポテンシア側があちらの本命と読んでいるらしいのですが」
「そう・・カイが言うなら、そうなのかも」

レナは先ほど離れたカイの姿を思い出した。
予言のことが引っかかっているが、この先に待つ光景がどんなに凄惨で残酷な場だったとしても、それがカイの生きている場だと思うだけで目を逸らす気にはなれなかった。

カイを理解して寄り添いたいという気持ちが自然と湧いてくることが、レナは自分でも不思議だ。

「随分、ハウザー団長を信頼していらっしゃるんですね」
「ええ、そうね。誰よりも信頼してるけど、誰よりも誤解しているのかもしれないわね」
「誤解、ですか」
「カイが心配でたまらないから」

レナが苦笑すると、同乗していた兵士二人は納得していた。

「ハウザー様を心から心配できるのは、唯一貴女だけなのでしょう。だから、あの方も貴女を慈しんでいらっしゃる」
「慈しんで・・?」
「ハウザー団長は、本来はあんなに人間らしいのかと驚いたところですよ」
「そうですね、ハウザー様といえば、いつも表情を変えませんし、冷たい口調で一定の調子で話されるところしか知りませんでした」

レナは初めて聞く他人から見たカイと、自分の知るカイの違いに改めて驚く。やはり、カイはレナにだけは特別な顔を見せてくれているらしい。

「ああも何度も同じことを言いながらレナ様を心配されて、引きずられるように向かって行きましたからね」
「そうね、本当にかわいかったわね」
「ちょっとその感覚は分かりませんが」

レナが嬉しそうに言うと、兵士の二人は真顔で否定した。カイのような身体の大きな、愛想も大して良くない成人男性をかわいいと思うほど感覚は歪んでいない。かわいいというのなら、むしろ目の前のレナの姿のほうがよっぽど可愛らしい見た目をしている。

「きっと、そのうち分かるようになるわ」
レナが花が咲いたように笑ったのを見て、二人はつられて、
「そうですね」
と笑ったが、心の底では全く共感できていなかった。
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