亡国の王女は世界を歌う ―アメイジング・ナイト2—

碧井夢夏

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第11章 歴史を変える

夕暮れ時の誘惑 2

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「「レナを守る役目を、他の誰にも渡したくない」
「えっ……」

カイの言いたいことが分かった途端、レナは真剣な顔で話すカイの横顔をまともに見られなくなった。

「私だって……あなた以外の人に護衛を任せたりしたくないわ……」

護衛としてカイを雇えば、側で存在を感じることができる。
例え会話ができなかったとしても、一緒にいられる時間も長くなるのだ。

「それに、ルリアーナには自衛の仕組みが必要だ。軍隊なのか……形は検討の余地があるとしても」
「そうね……」

レナには答えが出なかった。

軍隊など持たなくてすむのならそれが一番だと考えていたが、軍事立国のブリステ公国で過ごしたことでそれが甘かったのだと分かった。
略奪で成長する国がある以上、自衛の手段を持たなければ大きな犠牲が生まれてしまう。

「ルリアーナの軍隊を、リブニケ公国に委託してみないか? そしてこれは勝手な俺の希望なんだが……その責任者に任命して欲しいと思っている」
「あなたが、ルリアーナの軍隊を?」
「何度考えてみても、他の誰にも担わせたくなかった。レナを本気で守ろうとする気持ちが強い人間など……」

話しているうちに日が暮れたのか、部屋はすっかり暗くなっていた。
そこで一旦カイは会話を止めると、部屋に備え付けられているいくつかの真鍮製の燭台を目に入れた。

席を立ってその蝋燭にマッチで火を灯して行く。部屋がぼうっと明るくなった。

「あの、カイ……」

レナは暫く黙っていたが、ようやく口を開く。カイはレナの隣に戻って来ると、身体をレナに向けて座った。

「それは、アロイス陛下を通して話をすればいいの?」
「ああ、そうすればブリステ公国と軍事同盟という形で、何かしらの条件はつくだろうが……」

カイは淡々としていた。暗い部屋で、久しぶりに周りに誰もいないというのに軍事の話をしている。

「私は、あなたといられる一番いい方法がそれなら……」

レナが熱い視線をカイに送るが、カイは前を向いたままだった。

「恐らく、それが一番いい方法だろうな。この間のような雇用契約では、できることが少なすぎる。……さて、どこか食事にでも行こうか」
「……ええ」

レナはしっかりと落ち込んでいた。
2人きりになったかと思えば、いつもどこかカイはとらえどころがない。

大事にされているのは分かるのに、何かが合わないような、噛み合わない心地がした。

「食事と言ったら、明らかに嫌そうな顔をしたな?」
「……そういうのは分かるのね」
「まだ腹は減っていないのか」
「違うわ」

レナは、そういうことじゃなくて、と言いたい気持ちを抑える。カイが鈍いのは今に始まったことではない。

「久しぶりに2人きりで、誰も邪魔する人がいないところなのに……なんだか業務的なんだもの」

レナが明らかに拗ねた口調だったので、カイは苦笑した。

「久しぶりにレナと2人になって、邪魔する者がいないのは都合が悪いな」
「どうして……?」

レナは口を尖らせてカイを責めようとした。恋人同士の時間に浮かれる気持ちを共有できないのは悲しい。

「あんなに偉そうなことを言って約束したのに、欲に負けたら意味がない」
「よく……?」

レナは暫く考えて、ようやく意味が分かる。顔が火を噴くかというほど熱くなった。

(欲ってことは、つまり、その……)

「どうも駄目だな。ルリアーナにレナをくれてやるのが癪なのかもしれない。王女がいなくなってからの日常が当たり前になっているのなら、もうそれでいいだろうと……」
「……あなたは、私がルリアーナに行くことに反対?」
「残念ながら、こんな状況ではレナを手に入れた心地はしない」
「……それなら」

(あなたに、全てを捧げてもいいのに)

「意志を折らないでくれ。一度赦されてしまったら、この先が余計につらい」

カイは立ち上がって荷物のある場所に歩く。なるべく話を逸らして外に行く支度をし始めている。

「でも、あなたと私は同じ気持ちでしょう……? 何が起きても、後悔なんかしないわ……」

レナはカイの元に寄り、背を向けているカイにしがみついた。

「同じかどうかは分からないが、この状況は気が狂いそうだ」
「そんなの、私……」
「駄目だ」

カイは背中にしがみついているレナをそっと引きはがす。

「レナが女王になっても、迎えに行く。隣に立てるように、何だってやってやる」
「……」

カイに抱きしめられてそう告げられると、レナは言葉を失っていた。
その覚悟を、レナは本当の意味では分かっていなかったのだ。

「いつまでも待ってる……。お願い、私を諦めないで……」
「承知した」

しばらく抱き合っていた2人は、空腹を満たすため部屋を出ることにした。
外はすっかり闇に飲まれたような光を失った世界に変わっている。
廊下に出ると、等間隔に置かれたランタンが足元を照らしていた。
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