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第12章 騎士はその地で

婚姻

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レナは鏡の前に座り、髪に編み込まれたリボンを見つめる。
サーヤは、丁寧に白いバラを髪に差し込んでいった。

「本当に、お綺麗です……」

サーヤが感極まりながら鏡越しにレナを見ると、レナは嬉しそうに微笑む。
ドレスの白いレースは精巧な刺繍が施され、ドレープを描いて幾重にも重なっていた。

そろそろ顔を合わせる時間だろうかとレナはシルクの手袋をはめる。

扉がノックされると、向こう側から声が上がった。

「段取りの説明だそうだ」

カイの声に、レナの心臓が大きく跳ねる。

「どうぞ」

鏡台の前から振り返り扉に目をやると、そこから現れた姿に両手で口を覆って悲鳴を抑えた。

「……今のは、どういう反応だ?」

カイはブリステ公国の軍服姿で立っている。
光沢の掛かった白い正装は、特別な時に着用されるものだった。
これから王配になる総督は、ブリステ公国の紋章をつけて襷をかけている。

「素敵……。ああ、目に毒すぎて、見ていられないわ……」

レナはそう言うと鏡台に突っ伏す。
サーヤに「御髪が崩れます!」と注意されてしまった。

「もう、これから毎日ご一緒に過ごされるのに……惚気ですか?」

サーヤはレナを見てくすくすと笑う。カイは何と声をかけて良いものか分からずに立ち尽くして困っている。
隣でハオルが咳払いをしたが、レナには全く聞こえていなかった。

 *

立ったままハオルからひと通りの段取りを説明され、レナは小声で「面倒でしょ? 王族の婚姻って……」とすぐ側に立つカイに囁く。
カイは小さく笑うと、「ここまで来るのに苦労したせいか、あまり気にならないな」と得意気な顔をした。

「――!!」

レナは顔を覆って悶える。幸せ過ぎて言葉が出ていない。

「……ヘレナ・ルリアーナ。先ほどからあなたは……」

ハオルが苦言を呈した。
一国の女王たる者が、自身の結婚式にここまで浮かれるとは何事だろう。
この日は要人が集まるのだ。

「ごめんなさい。でも、ハオルだって見なさいよ! カイがこんなに素敵だったら正気でいられないわ!」
「そこは完全に同意ですが!」
「同意なんですか……」

ハオルはレナ側の感性なのか、とカイは苦笑いする。
その顔を見て、「絵師が必要です! 今すぐに!」とハオルは取り乱した。

「式全体の護衛に、シンフォール様をお呼びしております。ご家族様には控室をご案内したので、もうそろそろこちらにいらっしゃる頃かと……」

すぐに気を取り直したハオルが告げると、レナとカイは驚いた。シンが家族で駆け付けているらしい。

「リリスとお子さんも一緒ってこと? 会いたい! 会いたいわ!」
「待て、式が終わってからにしよう。俺は式の前にリリスとは会いたくない」
「ええ? 折角だから先に挨拶に行きましょうよ」

意見が割れる。すっかり普段通りのやり取りになっていた。

「団長……いえ、総督。相変わらず散々じゃないですか」

扉が開いたままになっており、そこにシンの姿がある。
ハウザー騎士団の副団長は、普段通りの穏やかな表情を浮かべていた。
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