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2章
★二人格とひとり ノクス視点<過激表現有>
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陽が暮れて、ユリシーズの意識がノクスに切り替わった。
頭から耳を生やしたユリシーズは、目の前の光景に息を呑む。
乱れたシーツの上に、力を失って汗だくのまま丸くなっている裸のアイリーン。全身にはディエスの匂いがまとわりついていた。自分の身体からアイリーンの匂いもしているし、服を着ていない。
夫婦の間にあったことが、目の前で明らかにされている。
どうやら自分の身体がアイリーンを求めて、交尾らしいことを行ったのは間違いない。
「……ノクス?」
ぐったりとしたアイリーンに呼ばれ、複雑な気持ちの正体が分かった。
心が嫉妬まみれになっているのに、肉体が満たされている。
意識を別にしているディエスと身体を同じくしているのだ思うと気持ちの持っていく場所が分からない。
「ディエスと……したのか?」
ゆっくりと尋ねると、アイリーンは力なくうなずいた。
最愛の妻が関係を持ったのは自分自身だというのに、その記憶が別人だというのはこんなにも無力感に襲われるのだと知ってしまった。
アイリーンは疲れ切っていて、起き上がることすら困難なようだ。
ディエスは人間の姿をした人狼なのだから、アイリーンには負担が大きかったのだろう。
「ノクス……?」
目も半開きになりながら、アイリーンは両手を広げる。
ノクスはその裸体を優しく抱きしめた。
「こんなアイリーンを見ることになるなんて、思わなかったな」
思った以上にショックだ、と言おうとしてやめた。
アイリーンは二つの人格を持つ厄介な自分のことを、充分に尊重してくれている。
「私にとっては、ディエスもノクスもユリシーズなの」
アイリーンはそう言うと、そっとノクスの瞼にキスをした。
アイリーンの匂いにディエスの匂いが混じっているせいか、浮気でもされたような気分になる。
昼と夜の自分が、全く同じ匂いならこんなに悩まない。
記憶を全て共有していれば、まだーー。
「あなたが嫌でなければ、あなたのことも受け入れたい」
アイリーンの言葉にノクスは耳を疑った。それはどういう意図で、と聞きたかった。
「私は、ディエスもノクスも好きだから。両方の記憶に残らないのは違うと思う」
「アイリーン……」
抱きしめた身体にディエスの匂いが混じっていた。
本当は自分だけの妻であって欲しいと願ったが、そもそもユリシーズが二人格を持つのが問題であって、アイリーンは何も悪くない。
「ひとつ、我儘を言っていいか?」
「?」
「身体を流そう。アイリーンにディエスの匂いが混じっていて変な気分だ」
アイリーンはうなずいた。
ノクスはバスローブを羽織ると隣のバスルームに湯浴みの準備をするように使用人に命令をする。
アイリーンはベッドの中に身体を隠しながら待っていたが、部屋に入ってきた使用人も何があったのかくらい分かっているに違いない。
アイリーンと自室に繋がるバスルームに入る。
湯船に浸かりながら、ノクスはその身体を抱きしめて深いキスを続けた。
ディエスの匂いが薄れていくと、複雑な気持ちが洗い流されていくような気がする。
「アイリーンは、優しいな」
気を遣ってくれたのだろうと思った。ディエスにつけられた噛み痕や鬱血痕が白い肌に目立っていて、自分の肉体が行ったらしい行為を見せつけられている。
「夫が優しいから、優しさを返したいと思うのかも」
「でも、我慢や無理をしたら夫婦は続かないぞ?」
「それはあなただって同じでしょう? ここで我慢をしたらおかしな関係になると思わない?」
アイリーンはどうしてそんなことを考えられるのか。ノクスは驚いていた。
向かい合っていた身体を後ろから包み込むようにして、指を絡め合う。
湯船の湯が、小さく音を立てた。
「アイリーンは、本当にいい女だと思う」
女性を多く知っているわけではないが、ノクスには確信がある。
アイリーンと伴侶になる幸運が訪れた以上、自分は誰よりも幸せだと思う。
だが、人狼と違い人間は移り気だ。人間の愛情というのは冷めるものらしい。
「本当に嫌なことはしたくない」
「妻は一生大切にしないとダメよ」
「そこは信用しろよ」
思わず耳の裏側を舐めてそのまま噛みついた。アイリーンの匂いが強く感じられる場所がノクスは好きだ。執拗に匂いを嗅ぐと、自然と息が荒くなってアイリーンの耳をくすぐる。
「ん……」
小さな声が漏れると、クリスティーナを真似て染められた赤い毛が揺れ、頭のてっぺんでまとめられていた髪の毛先が湯に浸かっていた。
「もう湯浴みは充分だ。上がろう」
ノクスはアイリーンを抱えて湯船を出ると、湯上り用の大判の布でアイリーンを包む。
「残っていて欲しい匂いまで流すことはないからな」
身体を拭くためにアイリーンを立たせて布を滑らせる。きめの細かい肌が湯上りにふっくらとしていたので、二の腕や顔を甘噛みした。
気持ちが逸る。ノクスは重くなった尻尾をぶるぶると振って水気を飛ばしながら、早く部屋に戻りたくて焦るばかりだ。
「尻尾も、拭くの?」
「拭かないと、いつまでも重い」
アイリーンが興味深そうに見ている。ノクスの尻尾は濡れるとボリュームが無くなってしまうからだろうか。
「ふふ、かわいい」
「あのなあ、俺に対してかわいいは止めろ」
「どうして?」
「好きな女には……頼りがいがあるとか、かっこいいとか、そう思われたいもんなんだよ」
「どうして?」
「どうしてって、そりゃ……」
どうしてだろうか、と首を傾げてノクスは考え込んだ。
かわいいと言われるのは不名誉なことだろうか、いや、族長たるものかわいいでは威厳がない、と思う。
「私は、かわいいところがとても好きよ」
にこりと笑ったアイリーンの、水に濡れて光るまつげが艶やかだ。いつもは匂いで惹かれているノクスだが、見た目の美しさに改めて気づき、新しく恋に落ちてしまいそうだと思う。
「そう言われちゃ、仕方ねえな……」
アイリーンはノクスの髪の中に手を入れると、優しく撫でて微笑んでいた。
「でも犬扱いはやめろ」
「だってかわいいんだもの」
本当に調子が狂うんだよな、とアイリーンの嬉しそうな顔を見ながらノクスは困った。犬扱いをされるのも、かわいいと言って愛でられるのも、プライドが許さないはずだったのにとつくづく思う。
「アイリーンなら、いいか」
そう言って後ろから抱きついて、なめらかな肌に手を這わせた。
「もう、触り方がいやらしいわ」
「残念だったな。いやらしいことをするつもりなんだよ」
「人狼にとっても、いやらしいことになるの?」
「どうかな。人間みたいに隠さなきゃいけないことだとは思われていない。必要なことだし、自然なことだから」
首に舌を這わせると、肩に口付ける。
ノクスには、陽が上るまでの時間がある。
昼行性のアイリーンと過ごせる時間は短いが、寝る時に一緒にベッドに入るのはノクスだ。行為に誘うのが自然になるだろうし、これからは遠慮なく求めていたい。
どうやら、この点に於いては夜の長さに恵まれたノクスの方が有利に違いない。
生まれて初めてディエスに対して優越感を覚え、尻尾を振る。
人生の目標ができた。アイリーンを自分の愛情に溺れさせたい。
これからは、昼も夜もとびきり幸せな夫婦になればいい。
頭から耳を生やしたユリシーズは、目の前の光景に息を呑む。
乱れたシーツの上に、力を失って汗だくのまま丸くなっている裸のアイリーン。全身にはディエスの匂いがまとわりついていた。自分の身体からアイリーンの匂いもしているし、服を着ていない。
夫婦の間にあったことが、目の前で明らかにされている。
どうやら自分の身体がアイリーンを求めて、交尾らしいことを行ったのは間違いない。
「……ノクス?」
ぐったりとしたアイリーンに呼ばれ、複雑な気持ちの正体が分かった。
心が嫉妬まみれになっているのに、肉体が満たされている。
意識を別にしているディエスと身体を同じくしているのだ思うと気持ちの持っていく場所が分からない。
「ディエスと……したのか?」
ゆっくりと尋ねると、アイリーンは力なくうなずいた。
最愛の妻が関係を持ったのは自分自身だというのに、その記憶が別人だというのはこんなにも無力感に襲われるのだと知ってしまった。
アイリーンは疲れ切っていて、起き上がることすら困難なようだ。
ディエスは人間の姿をした人狼なのだから、アイリーンには負担が大きかったのだろう。
「ノクス……?」
目も半開きになりながら、アイリーンは両手を広げる。
ノクスはその裸体を優しく抱きしめた。
「こんなアイリーンを見ることになるなんて、思わなかったな」
思った以上にショックだ、と言おうとしてやめた。
アイリーンは二つの人格を持つ厄介な自分のことを、充分に尊重してくれている。
「私にとっては、ディエスもノクスもユリシーズなの」
アイリーンはそう言うと、そっとノクスの瞼にキスをした。
アイリーンの匂いにディエスの匂いが混じっているせいか、浮気でもされたような気分になる。
昼と夜の自分が、全く同じ匂いならこんなに悩まない。
記憶を全て共有していれば、まだーー。
「あなたが嫌でなければ、あなたのことも受け入れたい」
アイリーンの言葉にノクスは耳を疑った。それはどういう意図で、と聞きたかった。
「私は、ディエスもノクスも好きだから。両方の記憶に残らないのは違うと思う」
「アイリーン……」
抱きしめた身体にディエスの匂いが混じっていた。
本当は自分だけの妻であって欲しいと願ったが、そもそもユリシーズが二人格を持つのが問題であって、アイリーンは何も悪くない。
「ひとつ、我儘を言っていいか?」
「?」
「身体を流そう。アイリーンにディエスの匂いが混じっていて変な気分だ」
アイリーンはうなずいた。
ノクスはバスローブを羽織ると隣のバスルームに湯浴みの準備をするように使用人に命令をする。
アイリーンはベッドの中に身体を隠しながら待っていたが、部屋に入ってきた使用人も何があったのかくらい分かっているに違いない。
アイリーンと自室に繋がるバスルームに入る。
湯船に浸かりながら、ノクスはその身体を抱きしめて深いキスを続けた。
ディエスの匂いが薄れていくと、複雑な気持ちが洗い流されていくような気がする。
「アイリーンは、優しいな」
気を遣ってくれたのだろうと思った。ディエスにつけられた噛み痕や鬱血痕が白い肌に目立っていて、自分の肉体が行ったらしい行為を見せつけられている。
「夫が優しいから、優しさを返したいと思うのかも」
「でも、我慢や無理をしたら夫婦は続かないぞ?」
「それはあなただって同じでしょう? ここで我慢をしたらおかしな関係になると思わない?」
アイリーンはどうしてそんなことを考えられるのか。ノクスは驚いていた。
向かい合っていた身体を後ろから包み込むようにして、指を絡め合う。
湯船の湯が、小さく音を立てた。
「アイリーンは、本当にいい女だと思う」
女性を多く知っているわけではないが、ノクスには確信がある。
アイリーンと伴侶になる幸運が訪れた以上、自分は誰よりも幸せだと思う。
だが、人狼と違い人間は移り気だ。人間の愛情というのは冷めるものらしい。
「本当に嫌なことはしたくない」
「妻は一生大切にしないとダメよ」
「そこは信用しろよ」
思わず耳の裏側を舐めてそのまま噛みついた。アイリーンの匂いが強く感じられる場所がノクスは好きだ。執拗に匂いを嗅ぐと、自然と息が荒くなってアイリーンの耳をくすぐる。
「ん……」
小さな声が漏れると、クリスティーナを真似て染められた赤い毛が揺れ、頭のてっぺんでまとめられていた髪の毛先が湯に浸かっていた。
「もう湯浴みは充分だ。上がろう」
ノクスはアイリーンを抱えて湯船を出ると、湯上り用の大判の布でアイリーンを包む。
「残っていて欲しい匂いまで流すことはないからな」
身体を拭くためにアイリーンを立たせて布を滑らせる。きめの細かい肌が湯上りにふっくらとしていたので、二の腕や顔を甘噛みした。
気持ちが逸る。ノクスは重くなった尻尾をぶるぶると振って水気を飛ばしながら、早く部屋に戻りたくて焦るばかりだ。
「尻尾も、拭くの?」
「拭かないと、いつまでも重い」
アイリーンが興味深そうに見ている。ノクスの尻尾は濡れるとボリュームが無くなってしまうからだろうか。
「ふふ、かわいい」
「あのなあ、俺に対してかわいいは止めろ」
「どうして?」
「好きな女には……頼りがいがあるとか、かっこいいとか、そう思われたいもんなんだよ」
「どうして?」
「どうしてって、そりゃ……」
どうしてだろうか、と首を傾げてノクスは考え込んだ。
かわいいと言われるのは不名誉なことだろうか、いや、族長たるものかわいいでは威厳がない、と思う。
「私は、かわいいところがとても好きよ」
にこりと笑ったアイリーンの、水に濡れて光るまつげが艶やかだ。いつもは匂いで惹かれているノクスだが、見た目の美しさに改めて気づき、新しく恋に落ちてしまいそうだと思う。
「そう言われちゃ、仕方ねえな……」
アイリーンはノクスの髪の中に手を入れると、優しく撫でて微笑んでいた。
「でも犬扱いはやめろ」
「だってかわいいんだもの」
本当に調子が狂うんだよな、とアイリーンの嬉しそうな顔を見ながらノクスは困った。犬扱いをされるのも、かわいいと言って愛でられるのも、プライドが許さないはずだったのにとつくづく思う。
「アイリーンなら、いいか」
そう言って後ろから抱きついて、なめらかな肌に手を這わせた。
「もう、触り方がいやらしいわ」
「残念だったな。いやらしいことをするつもりなんだよ」
「人狼にとっても、いやらしいことになるの?」
「どうかな。人間みたいに隠さなきゃいけないことだとは思われていない。必要なことだし、自然なことだから」
首に舌を這わせると、肩に口付ける。
ノクスには、陽が上るまでの時間がある。
昼行性のアイリーンと過ごせる時間は短いが、寝る時に一緒にベッドに入るのはノクスだ。行為に誘うのが自然になるだろうし、これからは遠慮なく求めていたい。
どうやら、この点に於いては夜の長さに恵まれたノクスの方が有利に違いない。
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