<完結> βの俺が運命の番に適うわけがない

燈坂 もと

文字の大きさ
7 / 107
< 本編 >

7.それはまるで、奇跡のような:side黒木(3)

しおりを挟む



β枠候補者の資料に目を通しながら、佐伯が口を開いた。

「教授、時任を候補者の中にいれていただいてありがとうございました。」
「いや、確かにきっかけは佐伯くんだったが、全ての情報を勘案した結果だ。逆に推薦してくれて助かったよ。佐伯くんの角度からの指摘がなければ、このβ枠は成立しなかったからね。」

教授の佐伯を見る表情がやや、穏やかなものに変わる。
というか、佐伯はこの事を前から知っていたのか。
──────  2人の関係性を考慮すれば、それはあり得る事だろう。

佐伯から、はい。と渡された資料を受け取った。
1番上にあったのが、佐伯の推薦した新入生のようだった。

「時任、士郎……」

候補者の資料に記載してあるのは、氏名、生年月日、年齢、血液型、性別、第二性。
入学試験時の筆記、面接、適性検査の各点数、中等科6年間の通知書のみで、本人の写真は添付がなかった。
見目で判断せず、総合評価で採決するため、らしい。

時任の資料に目を通す。
学力は評価がB。
AやSがひしめく中で、下位の方だといえるだろう。
ただ、目を見張るのは適性検査の数値だ。

適性検査は、いわば人間力を測る検査だ。
入学試験で筆記、面接の後、必ず検査することになっている。
現在、この学院では寮が2人1部屋のため、進学の際、寮に残る在校生にも年に1回検査を行っている。

俺が今まで、確認した検査の数値で過去トップはB+だった。

「S+……?!初めて見たぞこんな数値。」
「士郎は、恐ろしく心情の機微に敏感な子でね。俺、この子がいたから中学は外部だったんだよ。この子といると、どんなドロドロした世界にいても、心地よく過ごせるんだよね。」

今まで見たことのない柔らかい表情を携え、自慢そうに話す様は、何だか眩しかった。

「黒木くん、佐伯くん、そしてαの役員にサクサク仕事をこなしてもらい、β枠で入った3人に足りない部分を補填してもらう。αの役員も確定しているんだ。後で資料をPCに送付しておくから、確認しておいて。」

コーヒーのいい香りが辺りを立ち込める。
教授はコーヒー豆をミルで挽き、フィルターに淹れ、お湯を注ぎながら話を続けた。

「ちなみに、β枠は黒木くんにひとり固定で付いてもらって、残りのふたりは他のメンバーのサポートだね。」
「……β枠の決定はいつ頃ですか?」

そう言いながら、佐伯はシュガーポットから教授のカップに砂糖を入れる。
どんどん投入される様はいつもの光景だ。
教授の甘党は、大のつくほどだが、これを知っているのは限られた人間しかいない。
俺もこのことを知ったのは最近だ。
入れる回数は、特に決まっていなく、日によってバラバラだ。
教授がいつも、このくらいで、と止めるまで、佐伯は入れ続ける。
………………今日は、一段と……多いな。

「そうだね……再度生徒会用に作成した適性検査を受けてもらってからだから……入学式までには決まるだろう。生徒会の仕事も覚えてもらわないといけないしね。」

じゃあ通達だけ、よろしく頼むよ。と佐伯の肩をポンと叩き、コーヒーを持ちながら教授は出ていった。
とりあえず候補者には、通知文書を作成して学院に登録されているメールアドレスに送信すればすぐ済むだろう。
そう考えた俺は資料を確認しながらPCで文書を打ち始める。

「あっ?!士郎から電話だ……!うわー!絶対合格の報告だよ~!知らないフリしないと……!がんばれ俺!」

変なテンションになっている佐伯のスマホ画面を覗き込むと『士郎』の文字。
普段飄々としている佐伯が変なテンションになっているが、俺は気にせず、そんな佐伯を横目に通知文書の文字をカタカタ打つ。

「士郎!どうした?────── マジかー!おめでとう!………………あ、士郎ちょっと。いきなりで悪いんだけど、電話替わるわ。」

何……?!急すぎないか……?
演技がしんどかったのかもしれないが、急に知らない人間に変わるなんて薄情だ、と相手は思うだろう。

怪訝な顔をした俺に、頼む!と両手を合わせる佐伯を見て、はあ。とため息をついた。

しょうがない。文書で送付する予定だったが時任のみ、β枠の事を口頭で伝えるか。
佐伯には普段から助けてもらってるからな。今回ばかりは、力を貸そう。

佐伯からスマホを受け取り、電話口に向かって声を出した。

「もしもし。」

『………もし、もし?』

声を聞いた瞬間にゾクっとした。
なんだ、この感覚。

「キミは……────── いや。なんでもない。佐伯、やはり大丈夫だ。β枠は必要ない。」

β枠が必要ないとは思っていない。
ただ、この時は、何故かこの瞬間から逃げたくて、咄嗟に口について出た言葉だった。

「ってちょ、黒木、どこに……!」

何だかわからないが、無性にその場から逃げ出したかった。
初めての感覚。声が耳から離れない。
どうしたっていうんだ、こんな事今までなかった。

「黒木!どうした?!何か変だぞ……っ!」

慌てて追いかけてきた佐伯に腕を取られる。
確かに普段の俺らしくない。
居ても立っても居られず、とにかく部屋に戻りたかった。
まだ全身がゾワゾワしている。

「っ、面倒事は、ごめんだ……!俺は、β枠には一切関与しない……!」

何故だか、一切関わりたくなかった。
掴まれた腕を払い、自分の部屋へ駆け込む。

この時の俺には、何故こんな状態になったのか、全く気付ける術はなかった。
初めての感情で、正解を知らなかったからだ。
対処法が不明な事など、今まで一度もなかった。
どうしたらいいかが分からないという事が初めてで、ただただ恐怖でしかなかった。
しかし、こんな気持ちになった原因だけは、はっきり分かる。

────── 時任 士郎だ。

あいつの声を聞いた瞬間から、全身の血が沸き立つ感覚が消えない。

俺に畏怖の感覚を知らしめた初めての人間……
その男が俺にとって、最もかけがえのない存在になるなんて。


この時の俺は、まだ、知らない。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ
BL
この国に生きる者は必ず受けなければいけない「天啓の儀」。それはその者が未来で最も大きく人生が動く時を見せる。 フィルニース国の貴族令息、アレンシカ・リリーベルは天啓の儀で未来を見た。きっと殿下との結婚式が映されると信じて。しかし悲しくも映ったのは殿下から婚約破棄される未来だった。腕の中に別の人を抱きながら。自分には冷たい殿下がそんなに愛している人ならば、自分は穏便に身を引いて二人を祝福しましょう。そうして一年後、学園に入学後に出会った友人になった将来の殿下の想い人をそれとなく応援しようと思ったら…。 ●婚約破棄ものですが主人公に悪役令息、転生転移、回帰の要素はありません。 性表現は一切出てきません。

【書籍化決定/完結】カメラ越しのシリウス イケメン俳優と俺が運命なんてありえない!

野原 耳子
BL
★執着溺愛系イケメン俳優α×平凡なカメラマンΩ 平凡なオメガである保(たもつ)は、ある日テレビで見たイケメン俳優が自分の『運命』だと気付くが、 どうせ結ばれない恋だと思って、速攻で諦めることにする。 数年後、テレビカメラマンとなった保は、生放送番組で運命である藍人(あいと)と初めて出会う。 きっと自分の存在に気付くことはないだろうと思っていたのに、 生放送中、藍人はカメラ越しに保を見据えて、こう言い放つ。 「やっと見つけた。もう絶対に逃がさない」 それから藍人は、混乱する保を囲い込もうと色々と動き始めて―― ★リブレ様にて紙書籍・電子書籍化が決定しました! 応援してくださった皆様のおかげです! 本当にありがとうございます! 発売日などの詳細は、決まり次第、作者のXや近況ボードなどでご報告させていただきますのでお待ちいただければ幸いです。

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます

ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。 しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。 ——このままじゃ、王太子に処刑される。 前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。 中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。 囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。 ところが動くほど状況は悪化していく。 レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、 カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、 隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。 しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。 周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり—— 自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。 誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う—— ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。

αに軟禁されました

雪兎
BL
支配的なαに閉じ込められたΩ。だがそれは、愛のはじまりだった――。

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

大嫌いなアルファと結婚しまして

リミル
BL
面倒見のいい隠れSなα×アルファから転化したΩ 久世優生と神崎基城はアルファの幼馴染みで、互いのスペックを競い合うライバル同士でもあった。 パーティーの最中、基城は原因不明の体調不良に襲われ、第二性がアルファからオメガに転化したと告げられる。 オメガになったことで、優生に馬鹿にされるかと思えば、何故かプロポーズを申し込まれてしまい──!?

処理中です...