<完結> βの俺が運命の番に適うわけがない

燈坂 もと

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< 本編 >

8.寮の部屋でキミと(3)

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「黒木先輩……時間、ヤバい気がするんです、けど……」
「まだ大丈夫だ。もう少し、このままがいい。」

今日は入学式だ。
入寮したあの日から1週間。
黒木先輩は「また」という言葉に違わず、毎朝この部屋に来た。

入寮2日目の朝、黒木先輩が部屋にやってきた。
総兄と一緒に登校するのがルーティンなのかもしれない。
見送ろうと玄関先に向かったら、先輩にいきなり抱きしめられた。

寄りかからないとしんどいほど、体調が悪いんだろうか……?

「士郎、昨日借りたハンカチなんだが、洗っても血が落ちないんだ」
「気にしないでください!俺、何枚も持ってるんで」
「そういう訳ににはいかない。代わりと言っては何だが、コレを受け取ってくれ」
「……!わ!こんな高そうなハンカチもらえないですよ……!あのハンカチ安物だし……!」
「俺が、士郎に渡したいんだ。受け取って欲しい」
「……わ、わかりました。ありがとうございます」

プレゼント、なんて家族に誕生日に貰うくらいで他人からそうそう貰った事のない俺は、嬉しくなって先輩に向かって笑顔でお礼を言った。

「……っ。────── 、」
「……先輩?体調……大丈夫、ですか?」
「……あ、ああ。大丈夫、大丈夫だ。」

すごくしんどそうに見えた。
大丈夫、ではない。絶対無理してる。

その日の夜、総兄に黒木先輩の体調の悪さを指摘して、病院に通院してるのか聞いた。
通院はしてない、との返事。

え、あんなにしんどそうなのに、行かなくて大丈夫なの?早く病院に行った方がいいって伝えてほしいと言ったら、病院じゃ治せない病気なんだよって言われた。

元気そうなのに、そんな難病にかかってるのか……と悲しい気持ちになった俺を「そういうところなんだろうな」ってニコニコしてた総兄はマジで意味がわからん。
仲良いのに心配じゃないんだろうか、と黒木先輩がかわいそうになった。
そんな訳で、体調崩した先輩の支えをして固まった俺を
総兄が助ける、というのが、昨日までのやりとりだったのだ。

『毎朝、総兄を迎えに来る』+『立ってるのがしんどい黒木先輩』=『背丈が寄りかかるのに丁度いい俺』

と勝手な公式が出来上がってた俺にとって、今日の先輩の行動は予想できなかった。
総兄は入学式の事で教授に呼ばれて、いつもより早めに出て行ったのだ。
つまりは、先輩はこの部屋にこない、ということ。

入学式に出るべく制服に身を包んだ俺は、インターホンが鳴った事に吃驚して慌てて玄関先に出た。

「え!く、黒木先輩?あれ?総兄は、いま」
「知っている。そう仕向けたのは、俺だ。」

部屋の中に入った瞬間、ギュッ、ときつく抱きしめられた。

え、仕向けたってどういう事……いや。それよりも。
もう1週間もこのやりとりをしてる。
あまりに体調が心配になって、直接先輩に問いかけた。

「先輩、病院には……?一度しっかり診てもらったほうがいいですよ……!」
「病院か。受診はしたが、病名は分からないとの事だ。」
「え!やっぱり、難病なんですか……?!」
「胸がずっと痛くてな。しかし、医師には病名が付けられないと。難病、なのかもしれない。」

難病、と聞いて衝撃が走った。
黒木先輩とは、まだ知り合って1週間ほどだが1週間も毎日顔を合わせていると流石に情がうつる。

「っ、何でも言ってください。俺に出来る事なら、何でも手伝いますから……!」

一瞬手が緩んだ、と思ったらまた胸を押さえた。
えっ、ほんとに大丈夫?これヤバいやつじゃ?

「先輩?!大丈夫ですか?!」
「……ッ、大丈夫だ、問題ない……!……士郎……さっき、力になってくれる、と言ったな?お前にしか頼めない事がある。聞いて、くれるか?」

そう言って、大きな両手で俺の両頬を包む。

う、わ。先輩って、顔、キレイ、だな。
今まで緊張してまともに顔見れてなかったけど初めて面と向かって見たかも。

あれ、…………………………距離、ちかいな???
先輩は、人との距離がゼロな人なんだろうか。
こんな近距離で人と話す事がない俺は少し戸惑ったけど、先輩がこの距離が安心するなら、このまま話を続けよう。

「分かりました!何でも言ってください!」
「1日、最低でも1回。こうして抱きしめていいか?」

ん?なんて???

「えっ、と……?」
「聞こえなかったか?お前を、抱きしめたい。」
「抱きしめる?寄りかかる、じゃなくて?」
「抱きしめたいんだ。そうすれば俺の病気が緩和される事が証明されている。」

なんじゃそりゃ。初めて聞いたぞそんな病気。
でも、αには解明されてない未知の事が山程あるのかもしれない、と自分の中で納得する事にした。

「分かりました。そんな事で力になれるなら、俺でよければ協力します」
「……ッ!そうか!」

パァッ!と背後にお花が飛んでいる(様に見える)……!
そんな先輩に一瞬怯んだ俺を、先輩はギュッ……!と。
今までにないくらい、力強く抱きしめた。

なんだかまるで抱きしめることが出来て、めちゃんこ嬉しいと言わんばかりの空気感で物凄くむず痒くなった。
まあ、間違いなく気のせいだけど。

ふ、と。目の前に姿見があり、今の状況が第三者の目線として俺の目に飛び込んできた。

あれ

ていうか

うーんと。


この体制、改めて見るとめっちゃ恥ずかしいな……?!

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