<完結> βの俺が運命の番に適うわけがない

燈坂 もと

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< 本編 >

10.にがくて、あまい。少しでもあなたと:side佐伯(1)

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この世はどろどろした恐ろしい世界だ。

平気で他人の足を引っ張ったり、勝つためには容赦なく他人を蹴落とす奴ばかり。
俺がいたのは、そんな世界。

αの両親の元、ひとりっ子として生まれた。
第二性検査を受ける前から頭角を現してたらしい俺は、英才教育を受けて育った。

初等科の頃は地元だったが週に5日、やりたくもない習い事をしていた。
そこには俺と同じく、αであろう人間達が集まっていて、妬みや嫉み、憎悪が沢山犇めいているようなところだった。
それを見掛ける度に嫌な気持ちになった。

そんな世界にも唯一、癒しがあった。

ひとつ年下の幼馴染の子。
よく俺の後をついて回っては、ずっと離れなかった。

その子は、小さい頃から俺が表面上は普通にしてても、いつもと違うと気付いて行動してくれるのだ。

「そうにい、だいじょうぶよ!いたいいたいとんでけ!」

俺の頭に小さな手を伸ばし、ポンポンとしてから満面の笑みをくれたりした。
その子がいるだけで、気持ちがほわっと暖かくなる。
まるで天使だった。

第二性検査でαと判明した俺は、中等科は慧明に行くよう、両親に言われていたけど、その子と離れたくなかった。
だから、親に自ら条件を提示した。

中等科6年間全てトップでいる事。
塾の模試、ピアノ、ヴァイオリン、剣道で常に上位にいる事。
高等科からは必ず慧明に入る事。
それならば、と中等科は地元の学校に進学する事を許可されたのだ。

ずっと近くにいたい、傷つけず優しくしたい、と思えるほど、かけがえのない存在だった。
俺はきっと、この子が好きなんだろう。
これが人を好きになるという事なんだ、そう思っていた。


──────  あの日、あの人に逢うまでは。

高等科1年の夏休み目前。
黒木以外の生徒会本部役員と顧問が、異例の辞任をした。
黒木から業務を1人で全てこなすと聞いていた俺は、学院側から指名こそされていないが、ほったらかしに出来ず、補佐として黒木の指示通り業務をこなしていた。

依頼される仕事はそこまで大変でもなく、こんなので黒木の負担が減っているのだろうか?と疑問に思う内容だったが、それでも、あの黒木に感謝されていたところを見ると、俺の動きも悪くはなかった様だ。
2学期も始まろうか、という時期だったと思う。
作業をしようと生徒会室に入った俺の目の前に 彼 が現れた。

「佐伯……総司くん、かな?初めまして。生物工学研究室の比良坂 高人ひらさか たかひとです。今日から、ここの顧問をする事になりました。よろしく。」

ビリビリッと、背筋に痺れがきた。
ドクドク、ドクドク、血が巡る音が聞こえる。

頸を噛みたい、と初めて他人に対して思った。

「……?佐伯、どうした、汗がすごいぞ。体調でも悪いのか?」
「い、いや、なんでも、ない」

自分自身が怖くなった。
こんな感情、生まれて初めてだ。
黒木に質問され、いつもならうまく躱せる筈なのに言い訳が思いつかない。
頭の中は……この男の事でいっぱいだった。

「ほんとですね……佐伯くん、顔色が悪い。黒木くん、仕事を任せすぎなんじゃあないですか?よっ、と。」
「ちょ……ッ!教授?!」
「こんなヒョロヒョロでも、大人ですからね。力はキミよりあるつもりだよ。」

細身の見た目とは裏腹に難なく俺をお姫様抱っこした教授は、保健室に連れて行きますね。と黒木に言いながら生徒会室を出る。
何か、遠くで黒木の声が聞こえたような気がしたが、よく、覚えていない。
黒木の声が頭に入らないくらい、今、俺の意識は教授にしか向いていなかった。

目の前にいるこの男が……欲しくて欲しくてたまらない。

「落ちると危ないです。腕、しっかり首に回して」
「教授、は、Ω……ですか……?」

俺の質問にキョトン、とした表情を見せた。
えっかわいすぎるんだが。たまらん。

いつのまにか硬くなってた部分が更に硬さを増す。
バレないように少し足を動かして隠すように身動ぎしたが……教授にはバレていたようだ。

「若いですねえ。生憎、僕はβです。キミの運命の番ではないですよ。」
「……俺の、運命の番かどうかは ──── 俺が決めます。」

首に回していた腕にぐ、と力を込めて、教授の目の前に頭を持っていく。
お互いの息が感じれる距離。教授は逃げようともしない。

「俺は、貴方がいい。貴方と番いたい。」
「非現実的ですね。今さっき会ったばかりですよ?僕の何を知ってるんですか?」
「貴方の事は何も知りません。それでも、俺は、貴方がいい。高人さんの全てを俺にください。」

初めて、こんなに他人が欲しいと、自分のモノにしたいと思った。
どんな手を使ってもこの人とずっと一緒にいたい。
この男の中に入ってぐちゃぐちゃにしたい。

この男を ────── 孕ませたい。

自分でも吃驚している。俺にもこんな感情があったのか、と。

あんなに毛嫌いしていた筈なのに。
自分も、どろどろした世界の住人のひとりだったんだと、初めて実感した。

つくか、つかないかの微妙な距離に我慢ができなかった。
更に近づいて目の前の口唇に、自分の口唇を落とす。


コーヒーの苦くて、甘い香りがした。

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