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< 本編 >
15.四阿でキミと(1)
しおりを挟む9時5分前に教室に到着した俺は、自分の席に移動する。
自分のクラスや入学式の概要は、事前に個人PCに飛んできていたため、自分がどのクラスかは把握できていた。
俺の席は、真ん中の一番後ろの席。
とりあえず、腰を掛けた。
1年生は全部で12クラスあり、8割がαだ。
残りの2割はβ。
狭き門と言われているその2割に入れた喜びは、ここにいるβ、みんな同じ気持ちだろう。
ふいに、前の座席に座っていた子がくるっと俺の方を向く。
勢いがあったのか振り向いた流れで、ふわっと色素の薄いふわふわの髪が揺れた。
おっ、と。すごくかわいい……!
俺と同い年とは思えない程、幼さの残るその顔立ちは目を見張るほど整っていた。
「士郎くん……だよね?覚えてる?ボク、寺畑、祥大なんだけど……」
「えっ!祥くん?!眼鏡は……?!全然分からなかった、ごめん!あっ!入学おめでと……!」
士郎くんも、おめでと。とにっこり笑ってくれたこの子は、寺畑 祥大くん……俺が最初に通ってた塾で同じクラスだった子だ。
その当時はすごく分厚い眼鏡で(じいちゃん達がよく使うフレーズで言うところの「牛乳瓶の底みたいな眼鏡」ってヤツだ。牛乳瓶を見た事ないからこの表現が的確かは分かんないけど)、今の短い髪ではなく、ロングでひとつに結んでいた。
この学院に入るために身なりなんか気にしてられない、と必死に勉強していた当時の彼を思い出す。
試験当日は別グループだったため、祥くんとは会場では会っていなかった。
「試験直前に、面接あるのにそんな身なりじゃ、って母さんに、色々連れ回されたんだよね」
「でも、眼鏡外して正解だよ!めちゃめちゃかわいい……って、かわいいって言われるの嫌だったら、ごめん」
「そんな事ないよ!嬉しい。士郎くん、ありがと。」
その塾は、慧明に合格しているβは殆どがその塾出身というところで、親に勧められて入塾した。
祥くんは、あの塾で唯一、俺に癒しをくれたβだ。
入塾の際の実力を測るテストの結果で、クラス分けがある。
トップのクラスには甘々な塾講師達の、下位のクラスだった俺たちに対する扱いは、酷いモノだった。
結局、俺はその扱いに納得いかなくて、3ヶ月くらいは頑張ったんだけど、成績も伸びなかったから、別の塾に移っちゃったんだよな……祥くんは俺の事を責めなかったけど、申し訳なさは残った。
「祥くんは、ずっとあの塾に?」
「ボクは、あそこのやり方が合ってたみたい。最後はAクラスに移動して、講師達は掌返したみたいに態度が違って……ふふ。何か面白かったよ?」
そう言って、くすくす笑う祥くんは小悪魔みたいで頼もしかった。
そんなことよりも!と身を乗り出した彼の勢いに圧倒される。
うお。急にどうしたんだ。
「士郎くん、知ってる?今年の生徒会長の事!凄いよね、2年生で生徒会長なんて……慧明の歴史の中で過去誰1人として2年生で生徒会長なんてした事ないのに……!」
興奮した様子で話す祥くんを見る限り、ほんとに凄い事なんだろう。
なんてったって彼は慧明オタクなのだ。
慧明が好きすぎて慧明の歴史を全て、そらで言えるほど、極めている。
黒木先輩はほんとに凄い。
でもその分、心配になった。
「本当に凄い人だよね。……でも、あんまり、無理はしないでほしいと思ってるよ」
「えっ!士郎くん、会長と知り合いなの?!」
ガラ、と扉が開いた。
このクラスの担当教授が入ってきたようだ。
祥くんは、小声で「後で詳しく話聞かせてっ」と言い、慌てて前を向いた。
その後、式典の流れの説明や諸々の練習で、祥くんに黒木先輩の話を出来る時間もないままに、ランチの時間になった。
祥くんに食堂に誘われたけど遠慮した。
慧明の食堂はαで溢れかえっていて、しかも、食堂で提供されているランチは豪華なモノばかりだった。
庶民的な食事で慣れてる胃袋を持つ俺は、式典中に胃がビックリして痛くなるのが怖くて、自分のお弁当を持って来ていたし、あの食堂でお弁当を広げるのが恥ずかしかったのもある。
俺は、以前から気になっていた西棟にある四阿に行く事にした。
生徒はみんな食堂に行くらしく、四阿には普段誰も寄り付かないらしい。
お昼時間は11時から2時間ほどあるから、結構ゆっくり出来るだろう。
気温も程良かったしピクニックみたいでいい感じだ。
「うわあ……!すご……!」
一面、お花が咲き乱れた花壇が広がっている。
この花壇の管理をしている人は何人くらいいるんだろう。凄く大変だろうな。
四阿のある西棟は入寮してから一度も足を踏み入れてなかった。
寮は北棟側にあり、入寮してから総兄には、生徒会室や体育館のある北棟、そして教室や保健室、職員室がある中央棟、食堂がある南棟、専門科がある東棟を軽く案内してもらってはいた。
1週間ほどもあったのに、広すぎる校内と、自分の部屋の整理で殆ど回りきれなかったなあ。
3年間で、訪れない部屋の方が多いんじゃないだろうか、というくらい広い。
西棟は、他の4棟に比べて、距離がかなりある。
そのため、わざわざここまで移動してお昼を食べる人がいない、と総兄から聞いていたが、ほんとに誰もいなかった。
人が多いところより、静かな方が好きな俺は、いいところを見つけた!とウキウキで四阿の中へ足を踏み入れた。
誰もいない、という思い込みのせいで、普段より勢いがあったのかもしれない。
ガツっと何かに当たった。
「……っ、いてぇ」
「?!わ!すみません!!!こんなとこに人がいるなんて思わなくて……っ!大丈夫ですか?!」
体の大きな男の人が、ぬっ、と現れた。
入学式早々、傷害沙汰とか……何してんだ俺……!
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