<完結> βの俺が運命の番に適うわけがない

燈坂 もと

文字の大きさ
15 / 107
< 本編 >

15.四阿でキミと(1)

しおりを挟む




9時5分前に教室に到着した俺は、自分の席に移動する。
自分のクラスや入学式の概要は、事前に個人PCに飛んできていたため、自分がどのクラスかは把握できていた。
俺の席は、真ん中の一番後ろの席。
とりあえず、腰を掛けた。

1年生は全部で12クラスあり、8割がαだ。
残りの2割はβ。
狭き門と言われているその2割に入れた喜びは、ここにいるβ、みんな同じ気持ちだろう。

ふいに、前の座席に座っていた子がくるっと俺の方を向く。
勢いがあったのか振り向いた流れで、ふわっと色素の薄いふわふわの髪が揺れた。

おっ、と。すごくかわいい……!
俺と同い年とは思えない程、幼さの残るその顔立ちは目を見張るほど整っていた。

「士郎くん……だよね?覚えてる?ボク、寺畑、祥大なんだけど……」
「えっ!祥くん?!眼鏡は……?!全然分からなかった、ごめん!あっ!入学おめでと……!」

士郎くんも、おめでと。とにっこり笑ってくれたこの子は、寺畑 祥大てらはた しょうたくん……俺が最初に通ってた塾で同じクラスだった子だ。

その当時はすごく分厚い眼鏡で(じいちゃん達がよく使うフレーズで言うところの「牛乳瓶の底みたいな眼鏡」ってヤツだ。牛乳瓶を見た事ないからこの表現が的確かは分かんないけど)、今の短い髪ではなく、ロングでひとつに結んでいた。
この学院に入るために身なりなんか気にしてられない、と必死に勉強していた当時の彼を思い出す。
試験当日は別グループだったため、祥くんとは会場では会っていなかった。

「試験直前に、面接あるのにそんな身なりじゃ、って母さんに、色々連れ回されたんだよね」
「でも、眼鏡外して正解だよ!めちゃめちゃかわいい……って、かわいいって言われるの嫌だったら、ごめん」
「そんな事ないよ!嬉しい。士郎くん、ありがと。」

その塾は、慧明に合格しているβは殆どがその塾出身というところで、親に勧められて入塾した。

祥くんは、あの塾で唯一、俺に癒しをくれたβだ。
入塾の際の実力を測るテストの結果で、クラス分けがある。
トップのクラスには甘々な塾講師達の、下位のクラスだった俺たちに対する扱いは、酷いモノだった。
結局、俺はその扱いに納得いかなくて、3ヶ月くらいは頑張ったんだけど、成績も伸びなかったから、別の塾に移っちゃったんだよな……祥くんは俺の事を責めなかったけど、申し訳なさは残った。

「祥くんは、ずっとあの塾に?」
「ボクは、あそこのやり方が合ってたみたい。最後はAクラスに移動して、講師達は掌返したみたいに態度が違って……ふふ。何か面白かったよ?」

そう言って、くすくす笑う祥くんは小悪魔みたいで頼もしかった。
そんなことよりも!と身を乗り出した彼の勢いに圧倒される。
うお。急にどうしたんだ。

「士郎くん、知ってる?今年の生徒会長の事!凄いよね、2年生で生徒会長なんて……慧明の歴史の中で過去誰1人として2年生で生徒会長なんてした事ないのに……!」

興奮した様子で話す祥くんを見る限り、ほんとに凄い事なんだろう。
なんてったって彼は慧明オタクなのだ。
慧明が好きすぎて慧明の歴史を全て、そらで言えるほど、極めている。
黒木先輩はほんとに凄い。
でもその分、心配になった。

「本当に凄い人だよね。……でも、あんまり、無理はしないでほしいと思ってるよ」
「えっ!士郎くん、会長と知り合いなの?!」

ガラ、と扉が開いた。
このクラスの担当教授が入ってきたようだ。
祥くんは、小声で「後で詳しく話聞かせてっ」と言い、慌てて前を向いた。
その後、式典の流れの説明や諸々の練習で、祥くんに黒木先輩の話を出来る時間もないままに、ランチの時間になった。

祥くんに食堂に誘われたけど遠慮した。
慧明の食堂はαで溢れかえっていて、しかも、食堂で提供されているランチは豪華なモノばかりだった。

庶民的な食事で慣れてる胃袋を持つ俺は、式典中に胃がビックリして痛くなるのが怖くて、自分のお弁当を持って来ていたし、あの食堂でお弁当を広げるのが恥ずかしかったのもある。
俺は、以前から気になっていた西棟にある四阿あずまやに行く事にした。
生徒はみんな食堂に行くらしく、四阿には普段誰も寄り付かないらしい。
お昼時間は11時から2時間ほどあるから、結構ゆっくり出来るだろう。
気温も程良かったしピクニックみたいでいい感じだ。

「うわあ……!すご……!」

一面、お花が咲き乱れた花壇が広がっている。
この花壇の管理をしている人は何人くらいいるんだろう。凄く大変だろうな。
四阿のある西棟は入寮してから一度も足を踏み入れてなかった。

寮は北棟側にあり、入寮してから総兄には、生徒会室や体育館のある北棟、そして教室や保健室、職員室がある中央棟、食堂がある南棟、専門科がある東棟を軽く案内してもらってはいた。
1週間ほどもあったのに、広すぎる校内と、自分の部屋の整理で殆ど回りきれなかったなあ。
3年間で、訪れない部屋の方が多いんじゃないだろうか、というくらい広い。
西棟は、他の4棟に比べて、距離がかなりある。
そのため、わざわざここまで移動してお昼を食べる人がいない、と総兄から聞いていたが、ほんとに誰もいなかった。

人が多いところより、静かな方が好きな俺は、いいところを見つけた!とウキウキで四阿の中へ足を踏み入れた。
誰もいない、という思い込みのせいで、普段より勢いがあったのかもしれない。
ガツっと何かに当たった。

「……っ、いてぇ」
「?!わ!すみません!!!こんなとこに人がいるなんて思わなくて……っ!大丈夫ですか?!」

体の大きな男の人が、ぬっ、と現れた。
入学式早々、傷害沙汰とか……何してんだ俺……!

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの二人は、スキルを得た事で魔王討伐に旅立つ勇者と彼の帰還を待つだけのただの親友となる。 勇者と親友の無自覚両片想いのじれったい恋愛の物語。

αに軟禁されました

雪兎
BL
支配的なαに閉じ込められたΩ。だがそれは、愛のはじまりだった――。

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

溺愛極道と逃げたがりのウサギ

イワキヒロチカ
BL
完全会員制クラブでキャストとして働く湊には、忘れられない人がいた。 想い合いながら、…想っているからこそ逃げ出すしかなかった初恋の相手が。 悲しい別れから五年経ち、少しずつ悲しみも癒えてきていたある日、オーナーが客人としてクラブに連れてきた男はまさかの初恋の相手、松平竜次郎その人で……。 ※本編完結済。アフター&サイドストーリー更新中。 二人のその後の話は【極道とウサギの甘いその後+ナンバリング】、サイドストーリー的なものは【タイトル(メインになるキャラ)】で表記しています。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

元執着ヤンデレ夫だったので警戒しています。

くまだった
BL
 新入生の歓迎会で壇上に立つアーサー アグレンを見た時に、記憶がざっと戻った。  金髪金目のこの才色兼備の男はおれの元執着ヤンデレ夫だ。絶対この男とは関わらない!とおれは決めた。 貴族金髪金目 元執着ヤンデレ夫 先輩攻め→→→茶髪黒目童顔平凡受け ムーンさんで先行投稿してます。 感想頂けたら嬉しいです!

ヤンキーΩに愛の巣を用意した結果

SF
BL
アルファの高校生・雪政にはかわいいかわいい幼馴染がいる。オメガにして学校一のヤンキー・春太郎だ。雪政は猛アタックするもそっけなく対応される。  そこで雪政がひらめいたのは 「めちゃくちゃ居心地のいい巣を作れば俺のとこに居てくれるんじゃない?!」  アルファである雪政が巣作りの為に奮闘するが果たして……⁈  ちゃらんぽらん風紀委員長アルファ×パワー系ヤンキーオメガのハッピーなラブコメ! ※猫宮乾様主催 ●●バースアンソロジー寄稿作品です。

胎児の頃から執着されていたらしい

夜鳥すぱり
BL
好きでも嫌いでもない幼馴染みの鉄堅(てっけん)は、葉月(はづき)と結婚してツガイになりたいらしい。しかし、どうしても鉄堅のねばつくような想いを受け入れられない葉月は、しつこく求愛してくる鉄堅から逃げる事にした。オメガバース執着です。 ◆完結済みです。いつもながら読んで下さった皆様に感謝です。 ◆表紙絵を、花々緒さんが描いて下さいました(*^^*)。葉月を常に守りたい一途な鉄堅と、ひたすら逃げたい意地っぱりな葉月。

処理中です...