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< 本編 >
17.四阿でキミと(3)
しおりを挟む上を見上げると黒木先輩が息を切らして、俺を覗き込んでいた。
「先輩……?!どうしたんですか……っぐえ」
俺を引き寄せ、ギュ、と抱きしめる。
あれ、今朝抱きしめられたばっかりじゃ……あ、そういや、最低1回、って言ってたような………
あれ、じゃあ、最高何回なんだ???
「食堂に行ったら、士郎が見当たらないから、匂いを辿ってきた。……鷲宮、どういうつもりだ」
「別に。俺は、式典に去年既に出席済みだから、今日は学院側から休んでいいってお達もらってんのよ。部屋に篭ってんのも辛気臭いし、誰も来ない四阿で寝てただけ。俺が先約。まあ、でも、そのお陰で士郎に出逢えたのは……よかったけど。」
ゴッ、と俺を抱きしめる先輩から物凄いオーラが飛び出した(様に感じた)。
先輩の方を向かされていて咲耶の顔が見えないが、先輩が腹立つ様な顔でもしてたんだろうか?
ていうか、この状況、一体何???
「ま、またどうせ会うよ。俺、何か生徒会で面倒な役回りをさせられるって聞かされて、うんざりしてたけど、士郎がいるなら別だわ。またな、黒木。あ、士郎……明日から弁当、よろしくな」
そう言って足音が聞こえた。
きっと、咲耶が移動しているんだろう。
目線を合わせないのも失礼かと思い、ぐ、と先輩の胸を両手で押さえる。
慌てて体を起こし、咲耶の方に少し体を向けた。
「あ!食堂がいい時は、遠慮せず言ってね?!咲耶、また……んぶっ。」
背中を向けたまま、ひらひらと手を振って去っていった咲耶をチラッとだけ見れたかと思った瞬間に再度、先輩の胸に顔を埋められる。めっちゃ痛い。
先輩は俺に覆い被さって、全身、先輩にぐるぐる巻きにされてる感じだ。
……俺、先輩の匂い、結構好きだなあ、とか考えてたら、上の方から、長い、長い溜息が聞こえる。
あれ、もしかして、体調崩したんだろうか。
「士郎……どういう事、だ……?」
「えっ。何が、ですか?」
「こういう時、どうしたら、いいんだ……?聞きたいことが山程あり過ぎるが、聞くのが、怖い……。こんな事、初めてだ……。」
「???……先輩、体調、大丈夫ですか……?お昼、食べました?」
食べていない……と今にも消え入りそうな声で先輩は答えた。
時計を見たら、時間は11時45分。
今から食堂へ戻ってお昼を食べる余裕はきっと、ない。
取り敢えず、この埋もれてる状態から顔を出そうと、頭をグリグリした。少し、腕が緩む。
ポンっ、と頭を出した俺は、目の前にある先輩の顔を見ながら、口を開いた。
「先輩、今から食堂戻ってる時間ない……ですよね……?口に合うか分かんないですけど、俺の弁当、食べ」
「食べる」
「はやっ」
あまりの返事の速さに思わずタメ口でツッコミを入れてしまった。
すみません、と心の中で謝っておく。
先輩がグイッと俺の腕を引っ張ったかと思ったら、自分の膝の上に俺を乗せて、先輩の腕は俺を囲っている。
え、このままじゃ食べれなくない?
ていうか、この態勢、恥ずいなあ。
「士郎は、食べなくていいのか?」
「俺、結構食べましたよ。今日は配分ミスって多く持って来すぎちゃったから……残すの勿体無いなあと思ってたところだったんで、助かりました。……あ、残り物処理係みたいな事させてすみません。」
「構わない。士郎、あ。」
「自分で食べた方が食べやすい、と思いますけど……」
「士郎が、食べさせてくれたら、元気が出る。頼む。」
この学年の人達は自分で食べる事を知らないんだろうか。
でも、まあ。さっきから元気のないのは確かにそうだし、こんな事で元気になるなら……
箸でおかずを摘んで口へ持っていく。
ぱくっと先輩は上品に食べた。おぉ。何だか優雅だ。
「美味い……」
「よかったぁ。口に合わなかったら、どうしようかと思いました。」
「……?この弁当は……誰に、作ってもらったんだ……、っ!もしかして、士郎が、自分で、か……?」
「え?ええ。そうですけど……」
そういうことか……弁当よろしくな、はソコに繋がるのか……と俺の肩に頭を埋めながら、また消え入りそうな声を出している。
元気出るって言ってた割に、元気全然なくない???
もしかして、先輩も庶民の味が食べたい人なのか?
「先輩」
「……なんだ……?」
「俺のお弁当、前の夜ご飯の残りとか、しょぼい時とかもあるんですけど……」
「全くしょぼくないだろう」
「いや、食堂のに比べたらしょぼいですって。じゃなくて!……先輩も、食べますか?」
「え」
「俺の作った弁当で良かったら、先輩の分も用意しますけど」
「……っ」
「あっ!全然!食堂のが絶対美味しいから、いらなかったらいいんですけど……、俺の味付け、さっき美味しいって言ってくれて、めっちゃ嬉しかったから……こんなのでよかったら、先輩の分も……って、先輩、だ、大丈夫ですか?!」
何だか静かだと先輩の方を見たら、顔が茹蛸並みに真っ赤で、湯気が立っていた。
両手で顔を抱えて青空を見上げてる先輩を見て心配になったけど、さっきよりも表情は嬉しそうで、何だかこっちまで嬉しくなった。
「……手作りの弁当を、士郎が俺に作って、くれるのか……何だか不思議な気持ちだ……」
先輩の背中からほわほわーっとお花が飛んでる(様に見える)……!
多分喜んでくれてるんだろうなあ。うれしい。
何だか、不思議だ。先輩が落ち込んでると、俺も悲しくなるし、先輩が嬉しそうだと、俺も嬉しくなる。
俺、こんな人の気持ちに感化されるタイプじゃ無い筈なんだけどな。
あ、咲耶にも渡すから同じ内容なの伝えたほうがいいよな。何かあんまり仲良くなさそうだったし……。
「あ、あと、咲耶にも」
「そこだ。一番気になるのは」
「へっ」
ガッ!と俺の肩に鷲掴みに両手を置いて、先輩は俺を見つめた。目はガン開きで血走っている。こわ。
「何故、俺が『先輩』で、鷲宮が呼び捨てなんだ」
「…………先輩に、呼び捨て、なんて、出来ない、ですよ?」
「ぐっ。そう、なんだが……!どうしたらいい、このモヤモヤする感じ……」
名前、で呼んで欲しいのか、な?
えーと、確か……黒木……
「圭介、先輩、って呼んだ方が、いい、ですか?」
「 ────── ッ!」
わ。
まっか。
一気に茹蛸になった。体調大丈夫かな。
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