18 / 107
< 本編 >
18.四阿でキミと(4)
しおりを挟む真っ赤な顔を隠すかの様に、俺の肩口に顔を埋める。
名前、呼んだのミスったかなあ……。
体調大丈夫だろうか。
「黒木先輩?」
「士郎……呼び方が、戻っている」
「あっ、名前呼び大丈夫なんだ……!圭介先輩?」
「……っ。……なんだ……?」
「体調大丈夫ですか?保健室行きます?」
「……大丈夫だ。いや、大丈夫じゃ、ない……が、このままが、いい……」
どっち???とクエスチョンマークが頭に飛んでる俺の頬を先輩は両手で包む。
じっ、と俺の顔を覗き込む。
わ。先輩の瞳、って、少し青みがかった黒なんだな。
すご、めっちゃ、綺麗。
「…………士郎は、何者だ……?」
「へ?俺は何の変哲もない……ただのβ、です、よ」
「普通の人間な、ワケ、ないだろう」
「ええと……」
「……いや、違うな……お前と、出逢ってから……俺が、変なのか……?」
俺のおでこに、先輩のおでこが ゆっくりと重なる。
凄く近い距離に先輩の息遣いを感じて、恥ずかしいような、擽ったいような、変な感覚。
────── 何だか、心臓が、いたい。
あれ、俺、どうしたん、だろ。
咄嗟に、先輩と後輩の距離感として、この距離は合っているのか不安になった。
何だか…、まるで……
恋人、と、過ごしてる、ような…………
「…………士郎……、どうした……?」
「へ」
「顔が真っ赤、だ……、……っ。」
「けい、すけ、せんぱ」
このままだ、と、
おれ、せんぱい、と
キス
しちゃ、うん、じゃ
「黒木!!!!こんなとこにいた!!!」
総兄が大きな声と共に圭介先輩を、ベリッ、と俺から剥がした。
助かったよう、な、残念、だった、ような……、?!
え、何……?どういうことだ、俺……???
「………………佐伯、何の用だ」
「打合せ!式典と生徒会の打合せに遅刻だよ!携帯、結構鳴らしたのに無視するなよ……」
時計を見たら12時10分……咲耶と別れてから、そんなに時間経ってたんだ……?
5分くらいしか経ってないかと……思ってた……えええ。
「佐伯、少し、時間をくれ」
「結構押してて、時間ヤバいけど」
「……打合せは、予定の時間に確実に終わらせると、約束する。頼む。コレを今しておかないと、俺は絶対に後悔する。」
そう言いながら、先輩はスマホを揺らした。
「……了解。すぐ終わらせろよ。」
「すまない、助かる」
そう言って、すぐ、俺の方を向いた。
えっ、俺と、何をするつもり……なんだ……?!
「…………士郎」
「へあっ!は、はい!な、なんですか?!」
「…………、連絡先を、教えてもらって、いいだろうか」
「へっ!?」
「……ダメ、だろうか」
「い、いえ!ダメとか、じゃなくて……!そんな事だと、思わなくて……!ど、どうぞ」
慌てて、スマホの画面を出す。
俺のスマホに先輩がスマホを翳した。
ティロン♪と音が鳴り、無事、俺のデータが転送されたようだ。
後悔、とか言うから……。
もっと大変な事、されるかと、思った。
……例えば、キス、とか……、
────── って何考えてんの、俺……っ?!
まさかの自分の発想にビックリして、慌てて頭の上にある(であろう)スケベな思想をパタパタ消した。
俺がひとりであわあわしてる間に、俺の携帯に通知音が鳴った。
「……士郎、ありがとう。俺の連絡先も今、転送したから……登録、よろしく頼む。」
「……登録、しました。ありがとう、ございます」
よし。と満足そうに笑った先輩は、俺の耳元にそっとやってきて、総兄に聞こえないようにか、小さな声を落とした。
「……夜、連絡する。……できれば、毎日、声を聞けると、嬉しい。」
「へっ?!」
また、後で。と言って、靴を翻す。
先輩と総兄の姿が見えなくなるまで、俺は、先輩の声と吐息が残った左耳をずっと押さえていた。
心臓が、バクバク、音を立ててる。
「…………距離感……バグってる、よね」
俺が、俺じゃないみたいで。
ふわふわ、ふわふわ、変な感じだ。
先輩の低く響く声のせいか、まだ左耳が、じわじわする。
この変な感覚は、初めての事ばっかりでビックリしたから、だと思うことにした。
先輩も、自分の難病を緩和してくれる人間が初めて現れて、どうしたらいいか分からないだけだろう。
だって、俺は、Ωじゃない。ただの、βだ。
俺は彼の 運命の番 では、ないのだから。
32
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
溺愛の加速が尋常じゃない!?~味方作りに全振りしたら兄たちに溺愛されました~
液体猫(299)
BL
毎日AM2:10分に予約投稿。
*執着脳筋ヤンデレイケメン×儚げ美人受け
【《血の繋がりは"絶対"ではない。》この言葉を胸に、クリスがひたすら生きる物語】
大陸の全土を治めるアルバディア王国の第五皇子クリスは謂れのない罪を背負わされ、処刑されてしまう。
けれど次に目を覚ましたとき、彼は子供の姿になっていた。
これ幸いにと、クリスは過去の自分と同じ過ちを繰り返さないようにと自ら行動を起こす。巻き戻す前の世界とは異なるけれど同じ場所で、クリスは生き残るために知恵を振り絞っていく。
かわいい末っ子が兄たちに可愛がられ、溺愛されていくほのぼの物語。やり直しもほどほどに。罪を着せた者への復讐はついで。そんな気持ちで、新たな人生を謳歌するマイペースで、コミカル&シリアスなクリスの物語です。
主人公は後に18歳へと成長します(*・ω・)*_ _)ペコリ
⚠️濡れ場のサブタイトルに*のマークがついてます。冒頭のみ重い展開あり。それ以降はコミカルでほのぼの✌
⚠️本格的な塗れ場シーンは三章(18歳になって)からとなります。
胎児の頃から執着されていたらしい
夜鳥すぱり
BL
好きでも嫌いでもない幼馴染みの鉄堅(てっけん)は、葉月(はづき)と結婚してツガイになりたいらしい。しかし、どうしても鉄堅のねばつくような想いを受け入れられない葉月は、しつこく求愛してくる鉄堅から逃げる事にした。オメガバース執着です。
◆完結済みです。いつもながら読んで下さった皆様に感謝です。
◆表紙絵を、花々緒さんが描いて下さいました(*^^*)。葉月を常に守りたい一途な鉄堅と、ひたすら逃げたい意地っぱりな葉月。
【完結】君を上手に振る方法
社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞に応募しましたので、見て頂けると嬉しいです!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる