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< 本編 >
19.その茶色の瞳の中に:side黒木(1)
しおりを挟む初めて、キミの瞳に自分が映っているのを見た時もっと、この瞳に映っていたい、とそう願った。
そんな感情に、出逢うことなど、一生ないと思っていた。
それ以外にも今まで感じたことのない、表現できない感情がキミと出逢ってから、どんどん溢れて、止まらなくなる。
こんな自分は、自分じゃないようで。
これは、一種の病気だと、思い込んでいたんだ。
「ほんとに、予定通りで……ビックリしてる。」
「俺は、嘘は言わない。」
開始予定時刻を30分超えでスタートした打合せは終了予定時刻ピッタリに終わった。
打合せが予定通り終わり、比良坂教授は入学式の最終確認のため、生徒会室を出たところだった。
士郎と共にいた四阿のある西棟から、生徒会室のある北棟まで正規ルートで移動すると、軽く30分はかかる。
つまり、正規じゃないルートを使って、俺たちは移動した。
生徒会室は北棟の一階に位置している。
生徒会室の奥の会長専用の執務室。
その横の仮眠室の床に、地下へ降りる階段がある。
階段を降りると、四阿へ抜けるトラベレーターが存在している。
そのトラベレーターを使うと、30分かかる道のりが、ものの5分で着くのだ。
「……えっ。何この通路……こんなの、図面には」
「これは、違法改造されてる通路だ」
そのルートは数十年前に、当時の生徒会長がこっそり、生徒会室から四阿へ抜けるルートを1年かけて、独自の資金で工事をして、学院には内緒で作った地下通路だった。
そのため、学院の設計図面にそのルートは記載されていない。
「……これは、日記か……?」
執務室を昨年整理していたところ、当時の会長の日記が出てきた。
読むつもりは無かったが、本棚を整理中に薄い本と薄い本の間にその日記は埋もれていた。
一冊だと思っていたその本を手に取った拍子に、日記だけが床に落ち、バラけてしまったのだ。
そこには、日記の主である生徒会長と、四阿の管理を任されていた庭師の娘で、こっそり手伝いに毎日訪れていたΩの女性が、ひっそりと逢瀬を重ねていた事が事細かに記載されていた。
彼は財閥の息子で、家の仕事も既に手伝っていたらしく、資産が潤沢にあったそうだ。
βの婚約者がいたらしいが、学院に入り、運命の番 ────── 四阿でしか会えない彼女と出逢った、という文章で日記は始まっている。
彼女と過ごす自分は、満たされている。
ずっと、この時間が続いて欲しい。
彼女の瞳にもっと、自分を映して欲しい。
その日記には、番に対する感情が、赤裸々に記載されていた。
結局、彼は全てを捨てて、運命の番を人生の伴侶にする、と決断したところで日記は終わっていた。
「……なんて、無責任な……吐き気がする」
俺には全く、分からない感情だった。
何よりも、結婚することを小さい頃から決められていて、その為に教育されていたであろうβの婚約者に対して、俺にしては珍しく不憫に思った。
しかし……日記に赤裸々に記載されていた、番に対する感情。
それをまさか、自分が体感する事になるとは、この日記を手にした時には予想だにもしていなかった。
「しかし……あのルート、よく見つけたな。」
「俺も実際使ったのは初めてだ。四阿へ行く必要性が、今までは一度もなかったからな。しかし、このルートをたまたまだが発見していて僥倖だった。不必要だと思っていたものだったが……役に立ってくれそうだ。」
先程、士郎と連絡先を交換したスマホを、ぐ、と握る。
俺が、四阿へ駆けつけた時には、既に鷲宮と連絡先を交換した後のようだった。
毎日、弁当を鷲宮のために作ると約束までして……
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