<完結> βの俺が運命の番に適うわけがない

燈坂 もと

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20.その茶色の瞳の中に:side黒木(2)

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急遽変更になった入学式の事項書に目を落とす。
そこには、昨日までなかった『生徒会役員、β枠の発表、概要説明』という文字が追加されていた。

「……なぜ、アイツがβ枠の統括担当なんだ」
「……それを言うなら、なんで彼が、比良坂教授の補佐なんだ」

俺と佐伯の意見は珍しく一致していた。

佐伯からは直接聞いてはいないが、佐伯と比良坂教授は特別な関係だと、俺は感じている。
ふたりが出会った次の日から、比良坂教授の体は、佐伯の匂いで充満していたからだ。

他のαは相手が佐伯という事には、気が付いて、いない。
匂いの判別が出来るαは限られているからだ。
この学院のαは、比良坂教授に恐ろしく独占欲の強い相手がいる、程度にしか認識していない。

そして、βは匂いには気付けない。
だから、佐伯の噂を聞いて、体だけでもひとつになりたいβは勿論、相手が佐伯だと気付いていないαの女たちは、佐伯の本当の気持ちに全く気付いていない。
だから、簡単に言い寄れるんだろう。

あそこまで、陰湿なマーキングを俺は見た事がない。


「恐らく、だが、比良坂教授も監視対象なのだろう。βだからな。」
「納得いかない。あんなに生徒会のために動いてくれているのに……並のαよりも仕事が出来る人だぞ」
「その意見には、俺も同意だ。」
「β枠の統括という重要なポジションを ────── なんで、鷲宮くんが担当するんだ……?」

溜め息を吐きながら、俺の憶測だが、間違いないと断言できる予想を佐伯に告げる。

「特例を、出してしまったから、だろう。新設部署で功績を上げさせ、チャラにしようという学院側の姑息な思惑だろうな。」


鷲宮咲耶。俺や佐伯と同い年だが、去年半年間、病気療養のため、学院を欠席。
出席日数が足りず、今年再度1年生として、過ごす事になった特例生だ。
何故、特例かと言うと、基本この学院は留年という制度がない。
単位を取れない、ないし出席日数が足りない生徒は退学になるのだ。

鷲宮は、頭が非常にいい生徒だ。
休学するまでの間に俺と学年一位を争っていたのは鷲宮で、1年の段階で取るべき単位は全て取っていた。
しかし、学生生活を満喫してほしい、と鷲宮の母親のたっての希望で1年からもう一度、という事になった、らしい。
鷲宮の親は学院に多額の寄付金を渡している、という噂も耳に入ってはきていた。
それも、強ち間違いではないのだろう。


「……!士郎……と、……鷲、宮……?!」

食堂にいない士郎を見つけるべく、俺のつけた匂いを辿った先に、ふたりがいた。
鷲宮に笑顔を向ける士郎を見た瞬間、胸が焼ける様だった。

「なんなんだ……一体……胸焼けがする……」

士郎と出逢ってから、知らない感情ばかりを思い知らされる。
士郎は一体、何者なんだ……。

しかし……鷲宮が、たまたま士郎と出会い、弁当の約束を取り付け、連絡先を交換し、呼び捨てで呼び合い、タメ口で話をしている、という事実に腑が煮え繰り返りそうだった。


「……佐伯。何故あの時、邪魔をしたんだ」

俺は、士郎の頬を両手で包んで、瞳の中に映る自分を見て、気持ちが昂った時のことを思い出していた。

そしてあの時、顔の真っ赤な士郎を見て、体が勝手に動いた。こんな事は初めてだ。
俺には性欲がない、と思っていたのに。
 ────── 無性にあの口唇が、欲しくなってしまった。

「無理やり、しちゃだめ。士郎の気持ちを黒木に向けて、士郎からキスしたいってならないと。俺の弟みたいな子だから心配すぎる……まあ、俺もあんまり人の事言えないけど……」
「俺に気持ちを向ける……士郎から……」

後半何か佐伯が言っていたが、初めてぶつかった難題に、頭を悩ませていて良く聞こえなかった。
すると、佐伯から予想外の答えが返ってきた。

「 でも、あの様子だと、時間の問題じゃないかな」
「…………、お前、どこから見ていた」
「士郎が弁当用意するって言ったあたりからかな。あんな真っ赤な顔の士郎、初めてみたよ。」
「勝手に見るな。士郎が減る。」
「黒木、ほんと独占欲強いね。こんなのにつかまって士郎も大変だ」

独占欲、と言われて、比良坂教授が浮かぶ。
よくよく考えたら、俺も士郎に恐ろしいほどマーキングをしている。
……佐伯が教授に向けるのと同じ様な気持ちを、俺も士郎に、向けて、いる……?

「独占欲……?俺が、士郎に?」
「わー。やっぱ無自覚だったのか。結構最初から態度はあからさまだったけど、自覚してなかったんだな」

その言葉に、日記の主の毎回出てくる甘い言葉が、俺の脳を掠めた。

俺は

もしかして。


「俺は、士郎を……好き、なのか」
「俺に聞く?あそこまでしといて。まあ、……戸惑うよな。分かるよ。でも、答えは黒木の中にしかないんじゃないか?」

その言葉は、自分とは無縁だと、そう思い込んでいた。
今までの自分の不可解な行動や、感じたことのない感情が、パズルのように当てはまっていく。

好き……、?

俺は、士郎が 、、、

好き、だ。


「────── そうか、そうだな。答えは既に、出ていた。きっと、士郎と出逢った……いや、電話で話した時から」
「へぇ」
「佐伯…………、俺は、士郎が、好きだ」


自覚した瞬間
士郎を誰にも渡したくない、
と、堪らない気持ちになった。


日記の主の気持ちが、初めて理解できたような気がした。

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