<完結> βの俺が運命の番に適うわけがない

燈坂 もと

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< 本編 >

89.保健室で君と

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次の講義を休む、と言って咲耶はフラフラしながら教室を後にした。
確かに朝会の時、病み上がりだからしんどい、と俺に寄りかかっては来てたけど、それでも元気になったと勝手に思っていた俺は、咲耶のフラフラ歩く後ろ姿を見て心配で堪らなくなった。

「士郎?そんなに気になるなら……様子、見に行けば?」
「遼……そう、だよな。心配だから……ちょっと様子だけ見てくる。次の講義、遅刻するかも。ごめん、俺が予鈴鳴っても戻らなかったら、欠席のシート、席に置いといて」

分かった、と言ってくれた遼の言葉に甘えて俺は教室を出て、咲耶が向かったであろう保健室へ向かった。

もうすぐ予鈴が鳴る時間だからか、廊下は誰もいなくて。焦る気持ちと同調して足早に廊下を進む。
何事もなく、保健室に辿り着いていて、休めているのを確認できたら……俺もきっと、安心できる。

太陽みたいな明るくて元気な咲耶が、普段と違う事が心配でしょうがなかった。

この角を曲がれば保健室、というところで……深い溜息が聞こえて。
不安が増して、角を曲がると、咲耶が保健室前で壁に凭れて歩けない状況で佇んでいるのが目に飛び込んできて、自責の念が込み上げた。

俺は、彼が体調を崩してる、って知ってたのに。
大丈夫だろうと高を括っていた。

「咲耶?!大丈夫……?!」

様子を確認したくて、慌てて声をかけたら、振り向いた咲耶の表情は驚いて固まっていた。
吃驚したんだろう。まさか俺がこの時間に来るとは思わない筈だ。
何も口を開かない咲耶に、謝りたくて……俺は続けて口を開く。

「そんな、壁に凭れないといけないくらいキツかったの……?!ごめ、俺……ここまで一緒に来るべきだった……!朝会の時、咲耶しんどいって言ってたのに……、っ。……肩、掴まって……?……歩ける?」

せめて歩けるようにと、彼の横に並んだ時だった。
腕を引かれて、保健室の中で


キツく……抱きしめられたのは。


「へ……?さ、くや……?」
「……ッ、もう……予鈴が……鳴る……、何で……俺のとこに……来た……?」
「え、と、……心配で……教室、出た時……足元が覚束なかったから……無事に保健、室で……休めてるか……みた、くて……咲耶、なんで……離、して、……ぃッ、」

俺の腰と背中に回った咲耶の腕は、更に強さが増して痛みが走って思わず声を上げる。
俺は、急な焦燥感に駆られた。

……何だか、ヤバい気が、する。

「……優し、すぎるんだ……士郎は。折角、君のために距離を取ったつもりだったのに……どれだけ……俺の心を掴んで離さないつもりなんだ……?」

彼の声は……とても苦しそうで。
俺は今にも泣き出しそうな声色に、胸が締め付けられる。

「咲耶?一旦、休もう?少し寝たら落ち着くかも……!」
「そう、だな。……ベッドに、行こうか
、───────── 一緒に」
「え」

急に横抱きにされて、視界がぐらつく。
落ちそうになって慌てて彼の首元にしがみ付くと、圭介さんと同じ香りがして。驚いて咲耶を見やった。

フランボワーズ、の、香り……!

頭が、くらくら、する。
どう、して……同じ、香りが……?

「士郎……?香りに当てられてる顔してるけど……もしかして、βなのに香りだけは分かるの……?……ふふ。嬉しい。俺も、士郎の甘い蜜の香り……ずっと気付いてたよ。βなのに不思議だな、って思ってた。」

え、俺って、香りがある、の?
どういう、事、だろう……

「不思議そうな顔……、……ああ、そっか。士郎には、言ってなかったけど……俺と黒木は……従兄弟なんだ。母親が、兄妹。だから……士郎が感じてる俺たちの香りはほぼ一緒なのかも。」

咲耶から色んな事実が飛び出して、考えようと頭を動かすけど、香りに当てられて脳の処理が追いつかない。

咲耶は俺をゆっくりとベッドに置いて、俺の上に覆い被さる。
フランボワーズの香りが充満して……くらくらした。
身体が、動かない。

そんな俺の耳元に、彼は低く、ゆっくりと声を落とした。

「……士郎、知ってた?婚約指輪って……結婚指輪より精度が劣ってるらしい。全く一致しない遺伝子情報だと反応するけど……少しでも一致すると、反応しないって。」

咲耶の両手が、動けなくなった俺の頬を優しく包んだ。
彼から、目が、離せない。

「……試して、みようか。俺と黒木は……遺伝子的に重なりがある。そんな俺が……君と接触したら……この指輪が、反応するかどうか……反応したら、すぐに、退く。でも、反応しなかったら……」


そう言って、彼の口唇が

俺の口唇に

やわらかく、落ちた。


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