<完結> βの俺が運命の番に適うわけがない

燈坂 もと

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< 本編 >

91.保健室できみと

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キツく、抱きしめられて。
咲耶の心臓の音が、大きく、早く、俺に響く。
それだけで、咲耶の言葉が嘘ではない、とハッキリわかった。

「……っ、さく、や」

このままじゃ、流されて、圭介さんを裏切ってしまいそうで……
力の入らない腕を必死に咲耶の胸元に移動させて弱々しくも抵抗する。

「……士郎、聞いて、くれ。……士郎が、半年前に家に泊めた男は……俺、だ」
「……え、」
「俺は……その時、色々あって、全国を旅していて……士郎には、偶々……ぶつかったんだ。でも、その出逢いが……俺が学院に、戻るきっかけをくれた。……俺は、君が慧明に入学する前から……君の事が、気になっていた……その時はそれが恋だって、気づいてなかった、けど。」

咲耶は俺の背中を片手で支えながら、もう片方の手を俺の頬に添えて、青みがかった黒色の瞳を揺らしながら……俺に真剣な表情を向けた。

咲耶から、目が……離せない。

「俺は……、士郎しか、いらない……、士郎と、番に……なりたい……俺は、君が……好きだ。」

咲耶から放たれた言葉は俺の心臓を、ノックした。
頸動脈が、激しく……脈を打って……息が、苦しい。

俺には、圭介さん、だけなのに。
既に彼を……裏切って、しまっている、気がして。


俺なんかが、婚約者で……ほんとにいいのだろうか。


──────── ガンッ!!!!!
ドアの方から激しく開く音が聞こえたけど、力が入らない俺は振り向くことが出来ない。
俺を支える咲耶の手の力が、強まった。

シャッ、と……俺たちのいるベッドのカーテンが開く音が聞こえて……飛び込んできたのは……

俺の、愛しい人の、声。

「……し、ろ……う……!……っ、全体的に、力が入っていない……?フェロモンに、当てられてる……!……鷲宮、士郎から……ゆっくり手を離せ……!」
「……意外、だな……俺を先にぶっ飛ばしにくるかと、思っていた」
「……ッ、これ以上、口を開いてくれるな……!フェロモンに当てられてるこの子に、なるべく、負担を掛けたくないだけだ……!本当なら、お前を殺してやりたいくらいだ……ッ、しかし、それよりも、早く……士郎を、解放してやりたい……!そして、お前は……士郎の……大事な友達、だ……今は傷付ける気は、ない。」
「……っ、」

咲耶は、俺の身体をゆっくりベッドに下ろすと、やっと俺から離れてくれて……俺を覗き込んだ圭介さんの目が優しくて。……張り詰めていたモノが一気に、解けた。

「……っ、け、すけ、さ……!ごめ、ごめん、なさい……!おれ、うらぎっ、ちゃ……!」

胸が裂けるように痛い。涙が溢れて、止まらなかった。

すると、彼は……俺を、優しく、包み込むように。
俺をゆっくりと抱きしめた。
苦しかった息が、和らいだ。

「……士郎、すまなかった……!もっと、早く……気付いていれば……、君がこんなに傷つく事も……なかったのに……!これは、裏切りでは、ない。完全な、事故だ。士郎は……何も……悪くない……!頼む、これからも……俺の傍に、いて、ほしい……!」

彼に抱きしめられて、じわじわと暖かさが降りてくる。
少しずつ、痺れがなくなってきて……俺は、自分の意思で、圭介さんに腕を……回した。

「……っ、……すごく、早く来てくれて……吃驚、した。指輪も、反応……しなかったし、助けて、なんて……叫ぶ事も、出来なかった、のに」
「……士郎のピンチくらい、すぐ気付く。君は、俺の ──────── 運命の番、だからな。」

俺はβだから、そんな事ありえないよ、と言いながら……嬉しくなって微笑んだ。
そんな俺を、彼が優しく抱き上げる。

俺はまだ、完全に力が入っていなくて……くたっとしてる状態で、彼に抱き寄せられた。
腕だけは、力を込めると上げれたので、彼の首元に腕を絡める。

大好きな、いつもの香り。
同じだと、思ったけど……咲耶とは少し違う匂いがして。

俺はずっと嗅いでいたくて、彼の首元に身を委ねた。


「……佐伯。今日は俺たちは、このまま早退する。俺が、士郎の身体の自由を取り戻す。もしかしたら、明日から、1週間……欠席になるかも知れん。その時は、生徒会の事、よろしく……頼む。教授も、すまない。」
「……大丈夫。こっちの事は、任せて。士郎を……よろしく頼む。」
「構わないよ。黒木くん、時任くん……ゆっくり、休んで。……黒木くん?カラー、これで……よかった、かな?」
「!すまない……!用意して、くれていたのか。助かる。ありがとう、ございます。」
「……ははっ。黒木くんの敬語は新鮮でいいね!……ちなみに、俺とお揃いにしたから。時任くんにそう、伝えておいて?」
「……?!な……?!、……んんっ。……承知した。士郎が覚醒したら、伝える。……行こう、士郎。」
「……ん、圭介さんと……行く……圭介さん……大好き……」
「……ッ、煽りの天才め……!」


何だかみんなの声が色々聞こえたけど、しっかり頭に入ってこなくて、唯一聞き取れた圭介さんの言葉にだけ反応した。

気持ちよくて…ふわふわして。

このままでいたい、と思った。



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