おもいたち

蒼上愛三(あおうえあいみ)

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昨日よりも良い明日を

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 「こんにちはー」
 小柄な少女が声を上げて、木箱を二つ積み上げただけの壇上に立ち小さな村を見渡していた。
「あーら、村長さんこんにちは」
「みんな集めてどうすんだい」
「はい、私、村咲樹里むらさきじゅりこの村をもっと大きくしたいと思います。なのでみんなも協力してください」
 ここは日本の山地にひっそりとある村、限界集落である。お年寄りが五人そして早くに親を亡くした樹里という娘が一人の村である。彼女は村長なのだ。経緯は簡単で、若者が彼女しかいないからである。けれど樹里はまだ高校一年生になったばかりであるため、肩書きは村長でも、実際は見習いの域を出ないのであった。
「週に一度役所の職員さんが来るけどあと3日の間に何かいい案がある人は私のところに言いに来てね」
「確かに耕した土地は使わにゃ損じゃがのう」
「あんたも考えるんだろ。ならあたしゃ隣町まで買い物に行かせてもらうよ」
 集会から一番に抜けたのは、村一弁の立つぜつさんである。隣町までは山を二つ超えねばならないため、当分戻っては来ない。
 樹里は、もう時間がないのに。と思ったが、結局はいつも独り相撲になるので、焦ったり、苛立ったりするだけ無駄だと、長年この村に住み学んだ。
「樹里ちゃんや。せめて具体的に何がいいとかあるのかい」
 そう聞いてきたのは、お年寄りの中でも一番若い穂住ほずみさんだった。そして隣には二歳年上の奥さんがいた。
 樹里は迷わず言った。
「名物みたいな食べ物がいいわね」
「ほえー、さすが村長じゃ。ワシらは帰って早速餅でも作るかえ」
「ええ、ええ」
 穂住夫妻は足早に帰って行き、樹里が寂しく取り残された。
「終わったかい、樹里ちゃん」
「あっ、おばあちゃん。うん終わったよ。私以外にも若い人呼ぼうねおばあちゃん」
「そうだね。若い人がいてくれると色々と助かるからね」
 樹里の祖母は樹里と暮らしてもう三年になる。初めは二人の距離は遠いように思われたが、祖母、改めおばあちゃんは樹里の気を引くためにあらゆる手を尽くした。
 樹里はその気づかいと優しさに触れ心を許すようになった。
 樹里の父は医師で国境なき医師団として今はアフリカにいる。また母親は研究室に入り今は調査の為北極にいる。寂しいと思ったことはあるが、愛がないと感じたことはない。むしろ二人とも尊敬に値すると思っている。二人からくるメールや手紙を樹里は楽しみにしている。
 おばあちゃんはパソコンができる。なんでも若い頃はプログラマーだったのだとか。そのためやってきたおばあちゃんは樹里の顔を見て少しにっこりと笑っていった。
「栄一からメールが来てるよ。それでさっき郵便の配達員さんが先月来れなくてごめんなさいって、お母さんからの手紙を二通渡してくれたよ」
「ホントッ、おばあちゃん」
「本当だよ。だから早く帰っておいで」
「うん、わかった」
 樹里はポンっと積み上げた木箱から飛び降り、おばあちゃんの後について家に帰る。
 玄関を開けると靴箱の上の花瓶の手前に手紙が二通ある。ひとつはおばあちゃん宛に、もう一通は樹里宛だった。
「お母さんがおばあちゃん宛に手紙出すの久しぶりだね」
「近頃、この村に寄るって言ってたかしらね」
 樹里はハッと驚き少しムッとして手を洗いに洗面所へ向かった。
 手を水につけザブザブ洗い顔にパシャりと雪解け水を引いた冷たさを顔の鼻先から順に感じる。
「ぱはぁ」
 樹里は水を拭き取りおばあちゃんの夕餉の支度を手伝いに台所へ向かう。
「ふふふ、手伝ってくれるのかい樹里ちゃん」
「私だっていつでもお嫁さんになれるように修行しないとだしね」
 彼女はおどけて見せた。本当は寮生活の準備が終わり少し寂しくなったのだ。
 村を出る前にこの村を大きくしたい。
 この夢を叶えるために春休みの間になんとしてでも村を大きくしたい。これは最後の賭けだ。と息巻いていたのだ。
「母さんも母さんだよ。私にも一言くれたらいいのに」
「お母さんも樹里ちゃんに悪いと思っているんだよ。きっと」
「そうかなぁ」
「さっ、ご飯が炊けた。机を吹いてきておくれ」
 布巾を手に取り居間に向かう。頭の中は母が来る期待と、村をはなれることへの寂しさがぐるぐると渦巻いている。
 その時、ピンポーンとドアベルの音がした。樹里はなぜかドキリとして胸を押さえ、玄関へと向かった。
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