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case4
せなか
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先輩は少し変わっている。容姿は良く、成績も良く愛想もいいけど、いつも告白されるとこう言う。「俺の女が待ってるから」と。
そうしていつも、女子たちを泣かせては、先輩はいたたまれない表情をして事後報告をしてくれる。
先輩には彼女はいないが愛するものがいる。
「先輩、どうだったんですか」
「どう・・・だと、聞かなくてもわかっているだろう」
「またですかぁ」
「彼女はあいつだけで十分だ」
これがいつもの調子の先輩である。
「それだけあの子のことを愛しているってことなのよ」
「部長」
私の席の後ろから現れた。一見女性にしか見えない彼女は男だ。
女子よりもメイクが上手で、体は華奢で、さらには声も透き通るように綺麗な声ときた。
色々苦労があったという噂を聞くが噂の域を出ない。謎めいた人なのだ。というか私の先輩二人は謎めいた存在と言っていいと思う。
「ご飯はあげたの、名前はアンジェだったかしら、犬里くん」
「ああ、もちろんだ。おやつを入れたおもちゃもセット済みだ」
「猫目先輩、今後の予定はありますか」
「んー、今日はもう何もないわね」
私の所属するサークルは、猫好きによる猫好きのための猫好きだけが集う。『猫研究サークル』通称『ネコサー』と呼ばれている。まだ同好会レベルだが、犬研究サークルと部屋を共同で借りているので、人数条件はクリアしているのだ。少しズルいような気もするが・・・・・。
しかし学園祭の催しである『犬・猫合戦』は毎年公表だ。と記録に記されている。昨年は、『犬・猫分け目の関ヶ原』と銘打って開催されたが、たしかにお客さんは割ときていたな。犬里先輩が猫の良さを生き生きと語っていた。
先輩の愛する猫はノルウェージャンフォレストキャットとロシアンブルーの雑種だ。長い毛がグレーで目が碧いとてもかっこいい感じの猫である。
「じゃあ、私帰るわね」
猫目先輩はいそいそ帰っていった。
「先輩、例によって今年もアンジェの自慢話しをするんですか」
「いや、何、毎年熱くなってしまうが、あれは勢いだ。ネコの良さを理解しない犬派の連中にズに乗られてはたまらんからな」
いや、ズに乗ってはいないと思うけど・・・。もはや戦乱にいるのは先輩だけではないだろか。
「今年こそ奴等のみならず、会場の全てをネコ派に引きずり込む。そのためにアンジェには一肌脱いでもらうしかない」
「あんまりストレス与えちゃダメですよ。猫はデリケートなんだですから」
「わかっている」
犬里先輩は今年もやはり燃えている。アンジェにぞっこんなのだ。さて私も今年の学祭の準備をしなくちゃね。
「今年の題は何がいいと思います。イヌサーの皆さんには一任しますねと言われてしまいましたが」
「お前の思うままでいいと思うぞ」
毎年堅苦しいのが多いみたいだし、そうだなあ・・・・・。
「『にくきゅう合戦、学祭の陣』なんてどうですか」
犬里先輩は窓に寄りかかり、微笑する。
「フッ、いいだろう。犬どもに猫の肉球の柔らかさを味あわせてやろう」
ああ、すでに先輩はひとりで戦いを始めてしまったようだ。「犬って・・・」と呟いたことは秘密である。先輩の相手はもはや犬好きではなく、犬そのものになってしまっている。
カタカタとパソコンのキーボードを打ち込み、学祭の企画書を早々と書き上げ、最後の一文の『。』を打ち終えた。学祭まであと一ヶ月に迫っている。
不敵な笑みを浮かべる先輩を横目に私は身支度をして、ドアノブに手をかけた。「フフフッ、ハアーハハハハ」と私が扉をバタンと閉めた音にも気付かず、先輩はあたかも勝利したかのような歓喜の笑いを部室に轟かせていた。
ただ一点迷惑なことに毎朝餌を与えるために私の家に訪れるのはやめてほしいものだ。
「ただいま、アンジェ。ご飯にしよ」
先輩の愛する猫、アンジェは何を隠そう私の愛猫なのである。
そうしていつも、女子たちを泣かせては、先輩はいたたまれない表情をして事後報告をしてくれる。
先輩には彼女はいないが愛するものがいる。
「先輩、どうだったんですか」
「どう・・・だと、聞かなくてもわかっているだろう」
「またですかぁ」
「彼女はあいつだけで十分だ」
これがいつもの調子の先輩である。
「それだけあの子のことを愛しているってことなのよ」
「部長」
私の席の後ろから現れた。一見女性にしか見えない彼女は男だ。
女子よりもメイクが上手で、体は華奢で、さらには声も透き通るように綺麗な声ときた。
色々苦労があったという噂を聞くが噂の域を出ない。謎めいた人なのだ。というか私の先輩二人は謎めいた存在と言っていいと思う。
「ご飯はあげたの、名前はアンジェだったかしら、犬里くん」
「ああ、もちろんだ。おやつを入れたおもちゃもセット済みだ」
「猫目先輩、今後の予定はありますか」
「んー、今日はもう何もないわね」
私の所属するサークルは、猫好きによる猫好きのための猫好きだけが集う。『猫研究サークル』通称『ネコサー』と呼ばれている。まだ同好会レベルだが、犬研究サークルと部屋を共同で借りているので、人数条件はクリアしているのだ。少しズルいような気もするが・・・・・。
しかし学園祭の催しである『犬・猫合戦』は毎年公表だ。と記録に記されている。昨年は、『犬・猫分け目の関ヶ原』と銘打って開催されたが、たしかにお客さんは割ときていたな。犬里先輩が猫の良さを生き生きと語っていた。
先輩の愛する猫はノルウェージャンフォレストキャットとロシアンブルーの雑種だ。長い毛がグレーで目が碧いとてもかっこいい感じの猫である。
「じゃあ、私帰るわね」
猫目先輩はいそいそ帰っていった。
「先輩、例によって今年もアンジェの自慢話しをするんですか」
「いや、何、毎年熱くなってしまうが、あれは勢いだ。ネコの良さを理解しない犬派の連中にズに乗られてはたまらんからな」
いや、ズに乗ってはいないと思うけど・・・。もはや戦乱にいるのは先輩だけではないだろか。
「今年こそ奴等のみならず、会場の全てをネコ派に引きずり込む。そのためにアンジェには一肌脱いでもらうしかない」
「あんまりストレス与えちゃダメですよ。猫はデリケートなんだですから」
「わかっている」
犬里先輩は今年もやはり燃えている。アンジェにぞっこんなのだ。さて私も今年の学祭の準備をしなくちゃね。
「今年の題は何がいいと思います。イヌサーの皆さんには一任しますねと言われてしまいましたが」
「お前の思うままでいいと思うぞ」
毎年堅苦しいのが多いみたいだし、そうだなあ・・・・・。
「『にくきゅう合戦、学祭の陣』なんてどうですか」
犬里先輩は窓に寄りかかり、微笑する。
「フッ、いいだろう。犬どもに猫の肉球の柔らかさを味あわせてやろう」
ああ、すでに先輩はひとりで戦いを始めてしまったようだ。「犬って・・・」と呟いたことは秘密である。先輩の相手はもはや犬好きではなく、犬そのものになってしまっている。
カタカタとパソコンのキーボードを打ち込み、学祭の企画書を早々と書き上げ、最後の一文の『。』を打ち終えた。学祭まであと一ヶ月に迫っている。
不敵な笑みを浮かべる先輩を横目に私は身支度をして、ドアノブに手をかけた。「フフフッ、ハアーハハハハ」と私が扉をバタンと閉めた音にも気付かず、先輩はあたかも勝利したかのような歓喜の笑いを部室に轟かせていた。
ただ一点迷惑なことに毎朝餌を与えるために私の家に訪れるのはやめてほしいものだ。
「ただいま、アンジェ。ご飯にしよ」
先輩の愛する猫、アンジェは何を隠そう私の愛猫なのである。
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