おもいたち

蒼上愛三(あおうえあいみ)

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case5

私のいる場所

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 何回も、何度も、何時でも、早く死にたいと思って過ごしてきた。だけど、自殺する勇気もなくてカッターを握っても、私の腕は固まってただ握る掌にだけ力が入って行くだけで、震える肩を落ち着かせるために体が勝手に荒い呼吸を催促する。
 母は父の暴力に疲れ切って私を置いて行ったきり帰ってくることはなかった。父は新しい彼女と暮らし始めて、私の住む団地の一室に戻ってくることもここしばらくはなく、家にいれば静かな時が流れていた。
 だが、私には平穏はなく学校では、酷いイジメに合っている。現在進行形でそうこの瞬間も私の背後に立つ、女子数名と男子数人が私の体を傷つけんと待ちわびているのだ。
 一度はこの刃を彼ら彼女らに突き付けて、狂乱に身を任せようかとも思ったが、多勢に無勢であることは言わずもがな、わかり切っていることで、この日もまた私は自分で死ねるチャンスを棒に振ったあげく、初夏の学校の体育倉庫で私は弄ばれ、惨めにも冷たいコンクリートとざらつく砂を舐めて這いつくばっていた。
 はだけた制服、破れたストッキング、奪われたローファー、赤く腫れた頬、犯された体がただ転がっている。サウナのようなこの室内で埃っぽい空気を吸うと喉が焼けそうになりむせびくと、血の混じった唾液をプッと吐き出して、これから先生や何もしてくれない生徒たちの目から逃れる方法を模索するという愚かな思考を巡らせ始める。
 ヨロヨロと立ち上がり、石灰で白くなった群青のセーラーをさも綺麗に着ているように見せかけて、体育館の裏側から学校の外に逃げ出した。フェンスの下に穴があり、ここから何時も私は逃げ出していた。今日は運悪く昼休みに逃げ出そうとここまで来て、あと一歩というところであの集団に捕まってしまった挙句こんなことになろうとは、私は予想もしていなかった。
 お財布も教科書も何もかも置いてきた。もういらない。もう戻らない。私はここには用はない。そう思い、とにかく帰ろうと裸足の脚を引きずって歩き出した。









 衝撃。








 
 鈍い音。












 内臓が飛び出るような感覚。グニャリと曲がった腕が私が見た最後の光景だった。
 どうやら気とせず私はトラックに轢かれて死んだ。呆気なく死んでしまった。ようやく終われると喜んだ。
 落ち着いた心持ちで、暖かさに包まれるように安らかな眠気に誘われて目蓋を閉じる。
「やっと、これで・・・」
 そよ風が髪を撫でて、私の鼻腔に花の香りが入り込む。
「クシュン」
 ここはどこだろう。
 私はこの時は知らなかった。神という存在は私が休むことを許してはくれないということを。この後私は、この世界で二回目の人生を歩んだ。綺麗なことも汚いこともあったけど、私にはかけがえのない確かなものが生まれた。
 私はこの世界で愛を知り、友を知り、そして私を知った。友を愛し、私を愛した。それが許される世界、初めは人生という地獄をもう一度味わうのかと絶望感と憂鬱感に苛まれていたが、今は心から私が得たものが尊いと思うことができる。
 私の居場所はここにある。この世界が私のいる場所で私のいる場所がこの世界であってくれたことに、私は感謝するだろう。
 
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