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第18話・謎の解決
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海へ一番近い街へ来てから、早くも1週間が経った。
こちらへ来てからの修行は概ね順調で、俺も実感としてモンスターと戦う力が身に付いてきていると感じている。
そして今日もティアとユキからの指導を無事に受け終わり、宿屋へと戻って来た俺は、明日の修行の為の準備をしていた。
「あれっ? 買い込んでた魔力ポーションの数が足りないな……なあ、どっちか俺のリュックから魔力ポーションを持って行ったか?」
「ううん。私は持って行ってないよ?」
「私も持って行ってないわ」
「そっか……」
6日ほど前からだが、なぜか俺が宿屋に置いているリュックの中から、毎日何か道具が一つ無くなっていた。
それは最初こそ俺の思い違いや勘違いだろうと気にしてはいなかったけど、こう毎日の様に道具が無くなると、さすがにそれが俺の勘違いや思い違いだとは思えない。
しかし、俺の道具を持ち出したのがティアでもユキでもないとなると、いったい無くなった道具はどこへ消えたというのだろう。まさか知らない間に妖精さんがふらりと部屋へやって来て、こっそりと俺の道具を持ち出したわけではないだろうし。
とりあえず、これまで無くなった道具の中に貴重な物は無い。だが、例え貴重な物じゃなくとも、自分の持ち物が無くなるというのは気持ちの良いものではない。
単純に考えれば、俺達が修行に出掛けている間に誰かが部屋に入り、俺の持ち物を盗んでいると考えるのが普通だろう。となれば、この宿屋の経営者で、俺達の部屋に入っても怪しまれないシャルロッテさん達が一番怪しいと言えるかもしれないけど、さすがにそうだとは思いたくない。
しかしそうなると他に考えられるのは、同じ階に泊まっているという2人のおじさんか、こっそりと外から入って来た誰かが犯人という事になるだろう。
本当ならティアとユキにもそれを話しておくべきなんだろうけど、6日前から道具が無くなっている事は、まだティアにもユキにも話していない。余計な心配をかけたくないからだ。
それにもしも、この件にシャルロッテさん達の誰かが関わっていたらと思うと、俺はそれを簡単に口にはできなかった。
「そういえばさ、お兄ちゃん。この宿って結構立派なのに、どうしてこんなにお客さんが居ないのかな?」
「えっ?」
「言われてみればそうね。こんなに立派で美味しい食事が出る宿屋なら、もっとお客さんが居てもいいはずなのに」
ティアの発言は、俺がこの宿へ最初に訪れた時に思っていた事ではあったが、俺はそういうものなんだろうと思い、特に気にしない様にはしていた。しかし、改めてそう言われると、やはりどこか違和感はある。
1週間が経ったところで改めてそんな事を感じた俺は、明日の用意をして来るという名目で宿を出て買物へ出掛け、そこでシャルロッテさん達の経営する宿の事を誰かに聞いてみようと思い立った。
そして街にある道具屋で必要な物を買ったあと、俺は思い切って道具屋の主人であるおじさんに、シャルロッテさん達の経営する宿の事を聞いてみた。
「ああ? 街の中心部にある宿の事を聞かせてくれだ?」
「はい。シャルロッテさんという方と、その家族が経営している宿なんですが」
「ああー、あの泥棒家族のやってる宿屋の事か」
「泥棒家族?」
「ああ。あそこはこの街で最も古い歴史を持つ宿で、前はこの街にあるどの宿屋よりも繁盛してたんだが、ある時を境にあの宿屋で盗難騒ぎが続発してな。そしてそれが宿屋の経営者達がやってるって噂が立ち始めて、それから段々とお客が寄り付かなくなったんだよ」
「なるほど。そんな事があったんですか……でも、それって本当にシャルロッテさん達がやったんですか?」
「本人達は認めてないが、泊まってた客からいくつかの目撃情報もあったらしいから、まあ間違い無いんだろうな」
「そうだったんですか……」
「もしかして兄ちゃん、あの泥棒宿に泊まってるのかい?」
「えっ? ええ、まあ」
「それなら悪い事は言わないから、早いところ他の宿屋へ移りな。何かを盗られる前に」
「は、はい。ご忠告、ありがとうございます」
俺は話を聞かせてくれたおじさんに丁寧にお礼を言い、道具屋をあとにした。
――あのシャルロッテさん達が泥棒を? まさか……。
にわかには信じられない話だが、あのおじさんの話が嘘だと言える根拠も無ければ証拠も無い。とりあえず、あのおじさんの話だけで確証を得るのは難しいと判断した俺は、そこから少しの間、色々な場所で年代性別を問わずにあの宿についての話を聞いてみた。
しかしどの人に話を聞いてみても、最初に話を聞いた道具屋のおじさんが言っていた話と内容に大差はなく、この街の人のシャルロッテさん達に対する認識は、そのほとんどが『泥棒家族』だった。
こうなってくると本当にそうなのだろうかと思ってしまいそうになるが、俺にはこの件に関して一つ大きな疑問があった。
それは、泥棒はなぜ一つずつしか俺の道具を盗んでいかないのか――という事だ。
普通に考えれば、宿泊場所で盗みをするのはかなりリスクが高い。だから仮に盗みを働くのだとしたら、一気に持ち物を盗むのが普通だろう。
しかし、俺の道具を盗んでいる犯人はそれはせず、毎日一つずつ何かを盗んでいる。これではまるで、俺が泥棒に気付いて騒ぎ始めるのを待っている様な印象を受けるし、そこには何か作為的なものも感じる。
いよいよこの件が気になって仕方なくなった俺は、それから毎日の修行が終わったあとに、ティア達には内緒でこの件を調査し始めた。もちろんその間も俺のリュックからは道具が盗まれていたけど、それに関しては既に手を打ってあるから気にはしていなかった。
そして何日か調査を進めた結果、俺は今回の件を解決する為の糸口を見つけ、その真相に迫る事ができた。
それは、シャルロッテさん達の同業者でライバルの宿屋が、シャルロッテさん達を陥れる為に盗難事件をでっちあげていたという事だった。
残念ながら過去の事件全ての真相を暴く事はできなかったが、少なくとも今回の件に関する犯人は分かっている。それは、俺達が宿泊を始めた翌日に泊まりに来た2人のおじさんだ。
俺の調べではその2人はライバルの宿屋に雇われたならず者らしく、過去の事件も同じ様にしてならず者達を使って盗難事件をでっちあげたり、実際に起こしたりしていたらしい。
こうして今回の件に関する証拠をいくつか集めた俺は、近々そのならず者達を問い詰め、シャルロッテさん達の無実の罪を晴らそうと思っていた。
そしてこの街に来てから20日目。
俺達が修行から帰って来た時、宿の三階から大きな怒鳴り声が聞こえてきた。
「このガキ! 客を盗人呼ばわりするとはいい度胸じゃねえかっ!」
「僕は見たんだ! おじさん達が姉ちゃんの金色のペンダントを盗って部屋の中に入って行くのを!」
「何かあったみたいだね」
「行ってみよう」
俺達は急いで声が聞こえてくる三階へと駆け上がり、部屋の前で揉めているおじさん2人とリズ君、シャルロッテさん達のもとへと駆け寄った。
「どうしたんですか?」
「おお、いいところに来てくれた。聞いてくれよ兄ちゃん達。このガキ、客の俺達を盗人だと言いやがるんだよ。酷いと思わねえか?」
「嘘じゃない! おじさん達は姉ちゃんの物を盗んだ盗人だっ!」
「このガキ! まだそんな事を言いやがるのか!」
「まあまあ、落ち着いて下さい。リズ君もとりあえず落ち着いて」
俺の言葉にとりあえず言い合いを止めた両者だったが、どちらもまだ興奮状態にあり、いつまた言い合いが始まってもおかしくはない状態だ。
「とりあえず、事情を聞かせてもらえませんか?」
「ああ、いいぜ。て言っても、話は簡単だ。俺達が仕事から帰って部屋で寝てたら、急にこのガキが入って来て俺達を泥棒呼ばわりしたんだよ」
「違う! この人達は仕事なんてしてない! この人達がしてたのは泥棒だ!」
「リズ君。君は本当に、このおじさん達がお姉さんの持ってた金色のペンダントを盗んだのを見たんだね?」
「うん!」
「まだ言うかこのガキはっ!」
「落ち着きなさい。大の大人がみっともない」
「なんだと!? てめー、このガキと一緒に痛い目に遭いたいのか!」
「痛い目? あなた達にそれが出来るならやってみてもいいけど、大怪我をしても私は知らないわよ?」
「なんだと!?」
「あのですね、こっちの2人はモンスタースレイヤーの称号を持つ、ダークネス・ティアと、白薔薇姫なんですよ。だから喧嘩をしたって勝ち目はありません。だから少し落ち着いて下さい」
「うぐっ……わ、分かったよ……」
まさかこんな小さな少女2人がモンスタースレイヤーだとは思っていなかったらしく、2人のおじさんはそれを聞いて少し大人しくなった。
まあ、普通の神経があれば、モンスタースレイヤーを相手に喧嘩をしようなどとは思わないだろう。
「とりあえず俺は荷物を置いて来るよ。2人の荷物も置いて来るから渡して」
「ありがとう、お兄ちゃん」
「ありがとう。お願いするわ」
俺は2人から荷物を受け取り、寝泊りをしている部屋へと戻った。
そして部屋へと戻った俺はそそくさと荷物を置き、急いで部屋に置いていたリュックの中身を確かめた。
――やっぱり今日も無くなってるな。
案の定と言うべきか、今日も俺のリュックの中から魔力ポーションが一つ無くなっていた。
それを見た俺は、ちょっと予定とは違ったけど、あのおじさん2人を追い詰める計画を実行に移す事にした。
「お待たせしました。で、今回の件ですが、どうでしょう? おじさん達の無実を立証する為に、俺達が荷物を見せていただくというのは?」
「はあっ!? そんなの駄目に決まってるだろ!」
「なぜですか? おじさん達が物を盗んで無いと言うなら、確かめても何の問題も無いと思いますが?」
「そうかもしれんが駄目だ!」
「どうしてもですか?」
「ああ。どうしてもだ」
「それじゃあ仕方ありませんね。ティア、この街の治安維持組織を呼んで来てくれないか? 俺達には強制的に調べる権限は無いから」
「うん! 分かったよ!」
「ま、待て待て!」
治安維持組織という言葉を聞いた瞬間、おじさん達の顔色が変わった。
「わ、分かったよ。調べさせればいいんだろう?」
「いいんですか?」
「ああ。好きなだけ調べればいい」
「ありがとうございます。それじゃあ、全員で部屋に入りましょう。それと、調べるのは両者に対して公平である様に、俺とティアとユキの3人で行います」
「好きにしろ」
ぶっきら棒にそう言うおじさんの許可を取った俺達は、そのまま部屋の中へと入った。
そして俺達は、おじさん達が部屋に置いている荷物や、部屋の中を色々と探し回り始めた。
――やっぱり反応がある。
俺は誰にも分からない様にして、おじさん達の道具袋に入っていた一つの魔力ポーション容器の底に魔力を当てた。
するとそこに、特殊なマジックインクで書いていた俺の名前が浮かび上がった。これでこの2人が俺の道具を盗んでいた事は確定だが、リズ君の言っていたシャルロッテさんの金色のペンダントは、どこを探しても見つからない。
「――どうだ? どこを探しても金色のペンダントなんて無いだろ? これであのガキの言い掛かりだって分かってもらえたんじゃないか?」
「そうね。これだけ探して見つからないんじゃ、この人達を犯人と言う事はできないわね」
「そ、そんな……僕は確かに見たんだ!」
「いい加減にしろクソガキが! 盗んだって言う品物が見つからないんだから、俺達は無実なんだよ! たくっ、客を盗人呼ばわりするとか、とんでもない宿だぜ。この事は街中で話すからな! 覚悟しとけよ!」
リズ君とシャルロッテさんに向かってそんな事を言う2人だが、この2人がライバルの宿屋に雇われたならず者だというのは調べがついている。だからリズ君の言っている事は間違い無いとは思うが、肝心のペンダントが出ないと、コイツらを完全に追い詰める事はできない。
「さあ! 分かったらとっとと部屋を出て行ってもらおうか!」
「待って!」「待ちなさい!」
どうにかして金色のペンダントを見つけ出さないといけないと、必死で考えを巡らせていた時、ティアとユキが同時に声を上げた。
「なんだい? お嬢ちゃん達。まだ何かあるのか?」
「うん。分かっちゃったんだ。おじさん達がペンダントを隠した場所がね」
「そうね。上手く誤魔化してはいたけど、最後の最後で油断したわね」
「な、なんだと?」
そう言うとティアとユキは部屋に置いてあった椅子を部屋の隅に持って行き、その二つの椅子を縦に重ね合わせた。
「お兄ちゃん。私達が支えてるから、その椅子に登って天井裏を見て」
「えっ?」
「急ぎなさい。きっとそこにペンダントがあるはずだから」
「あ、ああ」
俺はティア達に支えられている椅子の上へ素早く上り、天井の角を押した。
するとその角がガコッと上へ動き、そこに大きな穴が開いた。俺はその穴から頭を出し、中を覗き見る。
「あった! あったぞっ!」
開いた穴のすぐ近くにあった麻袋を手に取り、中身を見ると、そこにはシャルロッテさんのしていた金色のペンダントが入っていた。
「これはどういう事ですか?」
「し、しらねえ! 俺達は何もしらねえよっ!」
「そ、そうだ。俺達は何もしらねえ!」
だらだらと冷や汗を出しながらも、自分達がやったわけではないと主張する2人。ここまで来て往生際が悪いとは思うが、人ってのはこんなものなのかもしれない。
「あなた達の泊まっている部屋の天井裏から出てきたんですよ? 知らないはずはないでしょ?」
「知らん! そうだ! きっとそのガキが、俺達を陥れる為に仕込んでたんだ!」「そうだ! そうに違いない!」
この期に及んでとは思うけど、確かに彼らがこのペンダントを天井裏に隠したという証拠は無い。だからその辺りを攻められると、こちらも反論ができなくなる。
「はあっ……要するに、あなた達がこのペンダントを盗んで天井裏へ隠したという証拠があれば、あなた達は罪を認めるのね?」
「ああ。そんな証拠があればだけどな!」
「そう。それじゃあ、その証拠があるかどうか、実際に見てみましょうか?」
「「はっ?」」
ユキの言葉に対し、おじさん2人は間抜けな声を上げた。
しかし、ユキの言葉に対して疑問を感じたのは俺も同じだった。
「エリオス。ペンダントを貸してちょうだい」
「う、うん」
俺は言われるがままにユキへペンダントを渡した。
するとユキは俺に部屋のカーテンを全て閉める様に言い、俺はそれに従ってカーテンを閉めた。
「それじゃあお望みどおり、このペンダントの辿って来た道を見てみましょうか」
そう言うとユキはペンダントを両手で持ち、そこに魔力を送り始めた。
すると手に持ったペンダントの、水晶がはめ込まれた部分から一筋の光が放たれ、暗い部屋の壁に当たった。
「あ、ああ!?」
「ま、まさかそんな……」
壁に当たった光の中には、2人のおじさんの姿が映し出されていて、このペンダントを盗み出してから天井裏に隠すまでの姿がバッチリと映し出されていた。
「どお? これでもまだ、自分達が盗んだんじゃないと言い張るつもり?」
「く、くそっ……」
2人の内の1人が、頭を垂れて肩を落とす。
するとそれを見たもう1人も観念したのか、同じく肩を落として頭を垂れた。どうやら抵抗するのを諦めたらしいが、ここまで決定的な証拠があっては諦めざるを得ないだろう。
こうして俺達は盗みを働いたおじさん2人を拘束し、その後、シャルロッテさん達に呼んで来てもらった治安維持組織へとその2人を引き渡した。
「エリオス君、ティアさん、ユキさん、本当にありがとうございます」
「ありがとう! お兄さん達のおかげで助かりました!」
「いや、もともとあの人達が盗みをしてたのは分かってたから、遅かれ早かれこうなってたさ」
「そうだね。お兄ちゃんの荷物から物を盗むなんて、本当なら私の手でおしおきするところだったんだから」
「えっ!? ティア、俺の道具が盗まれてたの知ってたの?」
「もちろんだよ」
「あれだけ毎日、『アレが無いコレが無い』って言っていれば、おかしいと思うのが普通でしょ? だけどエリオスは私達に何も言わないし、自分で何かを調べてたみたいだから、あえて気付かない振りをしてたのよ」
「そ、そうだったんだ」
「私はいいけど、エリオスが調査をしている間、この子を落ち着かせるのは大変だったのよ? 『お兄ちゃんの力になりたい』『お兄ちゃんと一緒に調査がしたい』『お兄ちゃんを困らせる犯人を叩きのめしたい』って、ずっとそわそわしてたんだから」
「そ、そんな事は言ってないもん!」
「言ってたわよ。その度に私があなたを止めてたじゃない」
「言ってないったら言ってないもん!」
「ちょ、ちょっと待って! 2人に聞きたい事があるんだ」
再び2人の言い争いが始まりそうだったが、俺はそれを無理やりに制止した。
「なあに? お兄ちゃん?」
「あのさ、どうして2人は、あのおじさん達が金色のペンダントを隠した場所が分かったんだ?」
「そんなのは簡単よ。あれは――」
「あー! それは私が説明する! あれはね、『さあ! 分かったらとっとと部屋を出て行ってもらおうか!』って言ったおじさんが、あのペンダントがある方向をチラッと見たからだよ」
「そうなのか?」
「ええ。私達は最初っからあの2人を犯人だと思っていたから、部屋を探す振りをしながら、お互いにあの2人の様子を観察していたのよ。途中まではなんとか誤魔化せてはいたけど、私達がペンダントを見つけられなくて安心した時に、一瞬緊張が解けてしまったんでしょうね。その時に一瞬、あのおじさんは天井の角を見たの。だからそこが隠し場所だって分かったのよ」
「そういう事だね」
「な、なるほど……」
まさかティアとユキがそんなところを観察していたなんて思ってもいなかった俺は、感心すると同時に2人の凄さに改めて驚いた。
「あ、あの。私からも一つ、ユキさんに質問してもいいでしょうか?」
「何かしら?」
「どうしてユキさんは、私のペンダントにあんな機能がある事を知っていたんでしょうか?」
「あ、それは俺も聞きたいと思ってた」
「その答えは簡単よ。あのペンダントは、昔私が作った物の一つだからよ」
「「「ええーっ!?」」」
ユキの返答に対し、シャルロッテさんやリズ君も、俺と同じ様に驚きの声を上げた。
「私はこれでも、一級技工士の能力を持っているの。そしてそれはメモリーペンダントと言って、持ち主の大切な思い出を記録する為に、錬金術と技工技術を組み合わせて私が数個製作したものよ」
「そうだったんですね。納得です」
「私からも一つ、エリオスに聞きたい事があるんだけど、いいかしら?」
「ん? 何かな?」
「今回の一件、エリオスはどういう風にして解決する予定だったの?」
「ああ、それはね――」
俺は自分が予定していた計画を、ティア達に話して聞かせた。
当初の予定では、俺の持ち物全てを魔力ポーションだけにし、それにマジックインクで名前を書き、その後、魔力ポーションが盗まれた時にちょっとした騒ぎを起こしてからあの2人の部屋を調べさせてもらい、盗まれた魔力ポーションを発見するという筋書きだった。
しかし、魔力ポーションはどこにでも普通に売っている物なので、これは自分で買った物だ――と言われればそれまでだ。もちろん俺はこういう展開になると考えていたので、その手のセリフを相手が言った時に、考えていた罠を発動させようとしていたのだ。
そして俺が考えていた罠とは簡単な真理トラップで、『それじゃあ、その魔力ポーションの代金は後でお支払いするので、それを飲んでみてもらえますか? 実は俺が盗まれたって言う魔力ポーションは、中身が特殊な毒草を煮て作った即効性の毒薬を詰めてたんですよ。だからそれが盗んだものじゃないなら、飲めますよね?』――と、こう言って犯人を追い詰める予定だった。
「なるほど。なかなか上手い手を考えていたわね」
「さっすがお兄ちゃんだよっ!」
「いやー」
「でも、いい考えだとは思うけど、作戦としては荒が目立つわね」
「ちょっとユキ! お兄ちゃんの完璧な作戦にケチを付けるつもり?」
「あなたね、少しはちゃんと考えてみなさい。方法としてはいいと思うけど、そこへ行き着くまでに色々と無理があるじゃない」
「そんな事ないもん! お兄ちゃんの計画は完璧だもん!」
「はあっ……あなたのエリオス好きは、もう病気の域ね……」
「なによもうっ! ユキの意地悪!」
こうしてまたいつもの様に、ティアとユキの言い争いが始まってしまった。
さっきは聞きたい事があって止めたが、今度はもう止めるつもりはない。この2人の仲良しさんには、これくらいの刺激が必要なんだろう。
俺は言い争いを続けるティアとユキをそのまま残し、シャルロッテさんとリズ君の背中を押して下の階へと向かった。
そして下の階でしばらくシャルロッテさん達と話をする間、ずっと上の階から2人の元気な言い争いが聞こえてきていた。
こちらへ来てからの修行は概ね順調で、俺も実感としてモンスターと戦う力が身に付いてきていると感じている。
そして今日もティアとユキからの指導を無事に受け終わり、宿屋へと戻って来た俺は、明日の修行の為の準備をしていた。
「あれっ? 買い込んでた魔力ポーションの数が足りないな……なあ、どっちか俺のリュックから魔力ポーションを持って行ったか?」
「ううん。私は持って行ってないよ?」
「私も持って行ってないわ」
「そっか……」
6日ほど前からだが、なぜか俺が宿屋に置いているリュックの中から、毎日何か道具が一つ無くなっていた。
それは最初こそ俺の思い違いや勘違いだろうと気にしてはいなかったけど、こう毎日の様に道具が無くなると、さすがにそれが俺の勘違いや思い違いだとは思えない。
しかし、俺の道具を持ち出したのがティアでもユキでもないとなると、いったい無くなった道具はどこへ消えたというのだろう。まさか知らない間に妖精さんがふらりと部屋へやって来て、こっそりと俺の道具を持ち出したわけではないだろうし。
とりあえず、これまで無くなった道具の中に貴重な物は無い。だが、例え貴重な物じゃなくとも、自分の持ち物が無くなるというのは気持ちの良いものではない。
単純に考えれば、俺達が修行に出掛けている間に誰かが部屋に入り、俺の持ち物を盗んでいると考えるのが普通だろう。となれば、この宿屋の経営者で、俺達の部屋に入っても怪しまれないシャルロッテさん達が一番怪しいと言えるかもしれないけど、さすがにそうだとは思いたくない。
しかしそうなると他に考えられるのは、同じ階に泊まっているという2人のおじさんか、こっそりと外から入って来た誰かが犯人という事になるだろう。
本当ならティアとユキにもそれを話しておくべきなんだろうけど、6日前から道具が無くなっている事は、まだティアにもユキにも話していない。余計な心配をかけたくないからだ。
それにもしも、この件にシャルロッテさん達の誰かが関わっていたらと思うと、俺はそれを簡単に口にはできなかった。
「そういえばさ、お兄ちゃん。この宿って結構立派なのに、どうしてこんなにお客さんが居ないのかな?」
「えっ?」
「言われてみればそうね。こんなに立派で美味しい食事が出る宿屋なら、もっとお客さんが居てもいいはずなのに」
ティアの発言は、俺がこの宿へ最初に訪れた時に思っていた事ではあったが、俺はそういうものなんだろうと思い、特に気にしない様にはしていた。しかし、改めてそう言われると、やはりどこか違和感はある。
1週間が経ったところで改めてそんな事を感じた俺は、明日の用意をして来るという名目で宿を出て買物へ出掛け、そこでシャルロッテさん達の経営する宿の事を誰かに聞いてみようと思い立った。
そして街にある道具屋で必要な物を買ったあと、俺は思い切って道具屋の主人であるおじさんに、シャルロッテさん達の経営する宿の事を聞いてみた。
「ああ? 街の中心部にある宿の事を聞かせてくれだ?」
「はい。シャルロッテさんという方と、その家族が経営している宿なんですが」
「ああー、あの泥棒家族のやってる宿屋の事か」
「泥棒家族?」
「ああ。あそこはこの街で最も古い歴史を持つ宿で、前はこの街にあるどの宿屋よりも繁盛してたんだが、ある時を境にあの宿屋で盗難騒ぎが続発してな。そしてそれが宿屋の経営者達がやってるって噂が立ち始めて、それから段々とお客が寄り付かなくなったんだよ」
「なるほど。そんな事があったんですか……でも、それって本当にシャルロッテさん達がやったんですか?」
「本人達は認めてないが、泊まってた客からいくつかの目撃情報もあったらしいから、まあ間違い無いんだろうな」
「そうだったんですか……」
「もしかして兄ちゃん、あの泥棒宿に泊まってるのかい?」
「えっ? ええ、まあ」
「それなら悪い事は言わないから、早いところ他の宿屋へ移りな。何かを盗られる前に」
「は、はい。ご忠告、ありがとうございます」
俺は話を聞かせてくれたおじさんに丁寧にお礼を言い、道具屋をあとにした。
――あのシャルロッテさん達が泥棒を? まさか……。
にわかには信じられない話だが、あのおじさんの話が嘘だと言える根拠も無ければ証拠も無い。とりあえず、あのおじさんの話だけで確証を得るのは難しいと判断した俺は、そこから少しの間、色々な場所で年代性別を問わずにあの宿についての話を聞いてみた。
しかしどの人に話を聞いてみても、最初に話を聞いた道具屋のおじさんが言っていた話と内容に大差はなく、この街の人のシャルロッテさん達に対する認識は、そのほとんどが『泥棒家族』だった。
こうなってくると本当にそうなのだろうかと思ってしまいそうになるが、俺にはこの件に関して一つ大きな疑問があった。
それは、泥棒はなぜ一つずつしか俺の道具を盗んでいかないのか――という事だ。
普通に考えれば、宿泊場所で盗みをするのはかなりリスクが高い。だから仮に盗みを働くのだとしたら、一気に持ち物を盗むのが普通だろう。
しかし、俺の道具を盗んでいる犯人はそれはせず、毎日一つずつ何かを盗んでいる。これではまるで、俺が泥棒に気付いて騒ぎ始めるのを待っている様な印象を受けるし、そこには何か作為的なものも感じる。
いよいよこの件が気になって仕方なくなった俺は、それから毎日の修行が終わったあとに、ティア達には内緒でこの件を調査し始めた。もちろんその間も俺のリュックからは道具が盗まれていたけど、それに関しては既に手を打ってあるから気にはしていなかった。
そして何日か調査を進めた結果、俺は今回の件を解決する為の糸口を見つけ、その真相に迫る事ができた。
それは、シャルロッテさん達の同業者でライバルの宿屋が、シャルロッテさん達を陥れる為に盗難事件をでっちあげていたという事だった。
残念ながら過去の事件全ての真相を暴く事はできなかったが、少なくとも今回の件に関する犯人は分かっている。それは、俺達が宿泊を始めた翌日に泊まりに来た2人のおじさんだ。
俺の調べではその2人はライバルの宿屋に雇われたならず者らしく、過去の事件も同じ様にしてならず者達を使って盗難事件をでっちあげたり、実際に起こしたりしていたらしい。
こうして今回の件に関する証拠をいくつか集めた俺は、近々そのならず者達を問い詰め、シャルロッテさん達の無実の罪を晴らそうと思っていた。
そしてこの街に来てから20日目。
俺達が修行から帰って来た時、宿の三階から大きな怒鳴り声が聞こえてきた。
「このガキ! 客を盗人呼ばわりするとはいい度胸じゃねえかっ!」
「僕は見たんだ! おじさん達が姉ちゃんの金色のペンダントを盗って部屋の中に入って行くのを!」
「何かあったみたいだね」
「行ってみよう」
俺達は急いで声が聞こえてくる三階へと駆け上がり、部屋の前で揉めているおじさん2人とリズ君、シャルロッテさん達のもとへと駆け寄った。
「どうしたんですか?」
「おお、いいところに来てくれた。聞いてくれよ兄ちゃん達。このガキ、客の俺達を盗人だと言いやがるんだよ。酷いと思わねえか?」
「嘘じゃない! おじさん達は姉ちゃんの物を盗んだ盗人だっ!」
「このガキ! まだそんな事を言いやがるのか!」
「まあまあ、落ち着いて下さい。リズ君もとりあえず落ち着いて」
俺の言葉にとりあえず言い合いを止めた両者だったが、どちらもまだ興奮状態にあり、いつまた言い合いが始まってもおかしくはない状態だ。
「とりあえず、事情を聞かせてもらえませんか?」
「ああ、いいぜ。て言っても、話は簡単だ。俺達が仕事から帰って部屋で寝てたら、急にこのガキが入って来て俺達を泥棒呼ばわりしたんだよ」
「違う! この人達は仕事なんてしてない! この人達がしてたのは泥棒だ!」
「リズ君。君は本当に、このおじさん達がお姉さんの持ってた金色のペンダントを盗んだのを見たんだね?」
「うん!」
「まだ言うかこのガキはっ!」
「落ち着きなさい。大の大人がみっともない」
「なんだと!? てめー、このガキと一緒に痛い目に遭いたいのか!」
「痛い目? あなた達にそれが出来るならやってみてもいいけど、大怪我をしても私は知らないわよ?」
「なんだと!?」
「あのですね、こっちの2人はモンスタースレイヤーの称号を持つ、ダークネス・ティアと、白薔薇姫なんですよ。だから喧嘩をしたって勝ち目はありません。だから少し落ち着いて下さい」
「うぐっ……わ、分かったよ……」
まさかこんな小さな少女2人がモンスタースレイヤーだとは思っていなかったらしく、2人のおじさんはそれを聞いて少し大人しくなった。
まあ、普通の神経があれば、モンスタースレイヤーを相手に喧嘩をしようなどとは思わないだろう。
「とりあえず俺は荷物を置いて来るよ。2人の荷物も置いて来るから渡して」
「ありがとう、お兄ちゃん」
「ありがとう。お願いするわ」
俺は2人から荷物を受け取り、寝泊りをしている部屋へと戻った。
そして部屋へと戻った俺はそそくさと荷物を置き、急いで部屋に置いていたリュックの中身を確かめた。
――やっぱり今日も無くなってるな。
案の定と言うべきか、今日も俺のリュックの中から魔力ポーションが一つ無くなっていた。
それを見た俺は、ちょっと予定とは違ったけど、あのおじさん2人を追い詰める計画を実行に移す事にした。
「お待たせしました。で、今回の件ですが、どうでしょう? おじさん達の無実を立証する為に、俺達が荷物を見せていただくというのは?」
「はあっ!? そんなの駄目に決まってるだろ!」
「なぜですか? おじさん達が物を盗んで無いと言うなら、確かめても何の問題も無いと思いますが?」
「そうかもしれんが駄目だ!」
「どうしてもですか?」
「ああ。どうしてもだ」
「それじゃあ仕方ありませんね。ティア、この街の治安維持組織を呼んで来てくれないか? 俺達には強制的に調べる権限は無いから」
「うん! 分かったよ!」
「ま、待て待て!」
治安維持組織という言葉を聞いた瞬間、おじさん達の顔色が変わった。
「わ、分かったよ。調べさせればいいんだろう?」
「いいんですか?」
「ああ。好きなだけ調べればいい」
「ありがとうございます。それじゃあ、全員で部屋に入りましょう。それと、調べるのは両者に対して公平である様に、俺とティアとユキの3人で行います」
「好きにしろ」
ぶっきら棒にそう言うおじさんの許可を取った俺達は、そのまま部屋の中へと入った。
そして俺達は、おじさん達が部屋に置いている荷物や、部屋の中を色々と探し回り始めた。
――やっぱり反応がある。
俺は誰にも分からない様にして、おじさん達の道具袋に入っていた一つの魔力ポーション容器の底に魔力を当てた。
するとそこに、特殊なマジックインクで書いていた俺の名前が浮かび上がった。これでこの2人が俺の道具を盗んでいた事は確定だが、リズ君の言っていたシャルロッテさんの金色のペンダントは、どこを探しても見つからない。
「――どうだ? どこを探しても金色のペンダントなんて無いだろ? これであのガキの言い掛かりだって分かってもらえたんじゃないか?」
「そうね。これだけ探して見つからないんじゃ、この人達を犯人と言う事はできないわね」
「そ、そんな……僕は確かに見たんだ!」
「いい加減にしろクソガキが! 盗んだって言う品物が見つからないんだから、俺達は無実なんだよ! たくっ、客を盗人呼ばわりするとか、とんでもない宿だぜ。この事は街中で話すからな! 覚悟しとけよ!」
リズ君とシャルロッテさんに向かってそんな事を言う2人だが、この2人がライバルの宿屋に雇われたならず者だというのは調べがついている。だからリズ君の言っている事は間違い無いとは思うが、肝心のペンダントが出ないと、コイツらを完全に追い詰める事はできない。
「さあ! 分かったらとっとと部屋を出て行ってもらおうか!」
「待って!」「待ちなさい!」
どうにかして金色のペンダントを見つけ出さないといけないと、必死で考えを巡らせていた時、ティアとユキが同時に声を上げた。
「なんだい? お嬢ちゃん達。まだ何かあるのか?」
「うん。分かっちゃったんだ。おじさん達がペンダントを隠した場所がね」
「そうね。上手く誤魔化してはいたけど、最後の最後で油断したわね」
「な、なんだと?」
そう言うとティアとユキは部屋に置いてあった椅子を部屋の隅に持って行き、その二つの椅子を縦に重ね合わせた。
「お兄ちゃん。私達が支えてるから、その椅子に登って天井裏を見て」
「えっ?」
「急ぎなさい。きっとそこにペンダントがあるはずだから」
「あ、ああ」
俺はティア達に支えられている椅子の上へ素早く上り、天井の角を押した。
するとその角がガコッと上へ動き、そこに大きな穴が開いた。俺はその穴から頭を出し、中を覗き見る。
「あった! あったぞっ!」
開いた穴のすぐ近くにあった麻袋を手に取り、中身を見ると、そこにはシャルロッテさんのしていた金色のペンダントが入っていた。
「これはどういう事ですか?」
「し、しらねえ! 俺達は何もしらねえよっ!」
「そ、そうだ。俺達は何もしらねえ!」
だらだらと冷や汗を出しながらも、自分達がやったわけではないと主張する2人。ここまで来て往生際が悪いとは思うが、人ってのはこんなものなのかもしれない。
「あなた達の泊まっている部屋の天井裏から出てきたんですよ? 知らないはずはないでしょ?」
「知らん! そうだ! きっとそのガキが、俺達を陥れる為に仕込んでたんだ!」「そうだ! そうに違いない!」
この期に及んでとは思うけど、確かに彼らがこのペンダントを天井裏に隠したという証拠は無い。だからその辺りを攻められると、こちらも反論ができなくなる。
「はあっ……要するに、あなた達がこのペンダントを盗んで天井裏へ隠したという証拠があれば、あなた達は罪を認めるのね?」
「ああ。そんな証拠があればだけどな!」
「そう。それじゃあ、その証拠があるかどうか、実際に見てみましょうか?」
「「はっ?」」
ユキの言葉に対し、おじさん2人は間抜けな声を上げた。
しかし、ユキの言葉に対して疑問を感じたのは俺も同じだった。
「エリオス。ペンダントを貸してちょうだい」
「う、うん」
俺は言われるがままにユキへペンダントを渡した。
するとユキは俺に部屋のカーテンを全て閉める様に言い、俺はそれに従ってカーテンを閉めた。
「それじゃあお望みどおり、このペンダントの辿って来た道を見てみましょうか」
そう言うとユキはペンダントを両手で持ち、そこに魔力を送り始めた。
すると手に持ったペンダントの、水晶がはめ込まれた部分から一筋の光が放たれ、暗い部屋の壁に当たった。
「あ、ああ!?」
「ま、まさかそんな……」
壁に当たった光の中には、2人のおじさんの姿が映し出されていて、このペンダントを盗み出してから天井裏に隠すまでの姿がバッチリと映し出されていた。
「どお? これでもまだ、自分達が盗んだんじゃないと言い張るつもり?」
「く、くそっ……」
2人の内の1人が、頭を垂れて肩を落とす。
するとそれを見たもう1人も観念したのか、同じく肩を落として頭を垂れた。どうやら抵抗するのを諦めたらしいが、ここまで決定的な証拠があっては諦めざるを得ないだろう。
こうして俺達は盗みを働いたおじさん2人を拘束し、その後、シャルロッテさん達に呼んで来てもらった治安維持組織へとその2人を引き渡した。
「エリオス君、ティアさん、ユキさん、本当にありがとうございます」
「ありがとう! お兄さん達のおかげで助かりました!」
「いや、もともとあの人達が盗みをしてたのは分かってたから、遅かれ早かれこうなってたさ」
「そうだね。お兄ちゃんの荷物から物を盗むなんて、本当なら私の手でおしおきするところだったんだから」
「えっ!? ティア、俺の道具が盗まれてたの知ってたの?」
「もちろんだよ」
「あれだけ毎日、『アレが無いコレが無い』って言っていれば、おかしいと思うのが普通でしょ? だけどエリオスは私達に何も言わないし、自分で何かを調べてたみたいだから、あえて気付かない振りをしてたのよ」
「そ、そうだったんだ」
「私はいいけど、エリオスが調査をしている間、この子を落ち着かせるのは大変だったのよ? 『お兄ちゃんの力になりたい』『お兄ちゃんと一緒に調査がしたい』『お兄ちゃんを困らせる犯人を叩きのめしたい』って、ずっとそわそわしてたんだから」
「そ、そんな事は言ってないもん!」
「言ってたわよ。その度に私があなたを止めてたじゃない」
「言ってないったら言ってないもん!」
「ちょ、ちょっと待って! 2人に聞きたい事があるんだ」
再び2人の言い争いが始まりそうだったが、俺はそれを無理やりに制止した。
「なあに? お兄ちゃん?」
「あのさ、どうして2人は、あのおじさん達が金色のペンダントを隠した場所が分かったんだ?」
「そんなのは簡単よ。あれは――」
「あー! それは私が説明する! あれはね、『さあ! 分かったらとっとと部屋を出て行ってもらおうか!』って言ったおじさんが、あのペンダントがある方向をチラッと見たからだよ」
「そうなのか?」
「ええ。私達は最初っからあの2人を犯人だと思っていたから、部屋を探す振りをしながら、お互いにあの2人の様子を観察していたのよ。途中まではなんとか誤魔化せてはいたけど、私達がペンダントを見つけられなくて安心した時に、一瞬緊張が解けてしまったんでしょうね。その時に一瞬、あのおじさんは天井の角を見たの。だからそこが隠し場所だって分かったのよ」
「そういう事だね」
「な、なるほど……」
まさかティアとユキがそんなところを観察していたなんて思ってもいなかった俺は、感心すると同時に2人の凄さに改めて驚いた。
「あ、あの。私からも一つ、ユキさんに質問してもいいでしょうか?」
「何かしら?」
「どうしてユキさんは、私のペンダントにあんな機能がある事を知っていたんでしょうか?」
「あ、それは俺も聞きたいと思ってた」
「その答えは簡単よ。あのペンダントは、昔私が作った物の一つだからよ」
「「「ええーっ!?」」」
ユキの返答に対し、シャルロッテさんやリズ君も、俺と同じ様に驚きの声を上げた。
「私はこれでも、一級技工士の能力を持っているの。そしてそれはメモリーペンダントと言って、持ち主の大切な思い出を記録する為に、錬金術と技工技術を組み合わせて私が数個製作したものよ」
「そうだったんですね。納得です」
「私からも一つ、エリオスに聞きたい事があるんだけど、いいかしら?」
「ん? 何かな?」
「今回の一件、エリオスはどういう風にして解決する予定だったの?」
「ああ、それはね――」
俺は自分が予定していた計画を、ティア達に話して聞かせた。
当初の予定では、俺の持ち物全てを魔力ポーションだけにし、それにマジックインクで名前を書き、その後、魔力ポーションが盗まれた時にちょっとした騒ぎを起こしてからあの2人の部屋を調べさせてもらい、盗まれた魔力ポーションを発見するという筋書きだった。
しかし、魔力ポーションはどこにでも普通に売っている物なので、これは自分で買った物だ――と言われればそれまでだ。もちろん俺はこういう展開になると考えていたので、その手のセリフを相手が言った時に、考えていた罠を発動させようとしていたのだ。
そして俺が考えていた罠とは簡単な真理トラップで、『それじゃあ、その魔力ポーションの代金は後でお支払いするので、それを飲んでみてもらえますか? 実は俺が盗まれたって言う魔力ポーションは、中身が特殊な毒草を煮て作った即効性の毒薬を詰めてたんですよ。だからそれが盗んだものじゃないなら、飲めますよね?』――と、こう言って犯人を追い詰める予定だった。
「なるほど。なかなか上手い手を考えていたわね」
「さっすがお兄ちゃんだよっ!」
「いやー」
「でも、いい考えだとは思うけど、作戦としては荒が目立つわね」
「ちょっとユキ! お兄ちゃんの完璧な作戦にケチを付けるつもり?」
「あなたね、少しはちゃんと考えてみなさい。方法としてはいいと思うけど、そこへ行き着くまでに色々と無理があるじゃない」
「そんな事ないもん! お兄ちゃんの計画は完璧だもん!」
「はあっ……あなたのエリオス好きは、もう病気の域ね……」
「なによもうっ! ユキの意地悪!」
こうしてまたいつもの様に、ティアとユキの言い争いが始まってしまった。
さっきは聞きたい事があって止めたが、今度はもう止めるつもりはない。この2人の仲良しさんには、これくらいの刺激が必要なんだろう。
俺は言い争いを続けるティアとユキをそのまま残し、シャルロッテさんとリズ君の背中を押して下の階へと向かった。
そして下の階でしばらくシャルロッテさん達と話をする間、ずっと上の階から2人の元気な言い争いが聞こえてきていた。
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