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第1章
第31話 魔物と獣
しおりを挟む理希とミケとハチの一行は、川沿いを西北西に向かって歩いていた。
道はなく石がゴロゴロとしているけど、見通しの悪い森や林の中よりは進みやすい。
「人里は遠いニャね…」
ハチの頭の上で退屈そうにミケが呟いた。魔物が多いので、理希は先行して歩いている。
あの騒動の後、一応湯船は直しておいた。
城壁の方はさずがに規模が大きいから、ゴーレムでも修復には1週間くらいはかかると思う。
ついでに近づいてくるものは追い払うように頼んだけど、対象は魔物に限定することにした。
相手が人間の場合、悪人か善人かの判断をゴーレムに任せるのは難しいし。
最悪、山賊とかに占拠されたとしても取り返せばいいや。
「空から見た感じだと、もうそろそろな気がする…」
途中野宿を繰り返し、3日ほど経過していた。
「また出たのニャ」
ミケがぼそりと呟いた。あまりに頻度が高いのでもう驚くようなことはない。
「なんで襲ってくるんだろね」
岩の隙間から、5,6匹位の黒い影が現れた。鋭い牙と爪を光らせ、一斉に飛びかかってくる。
理希はレイピアを引き抜くと、真横に薙ぎ払った。
空中で同時に燃え上がり、一瞬で灰と化す。
「……」
「どうしたのニャ?」
「これ、魔物なのかな…」
すぐに倒しちゃうからじっくり観察している暇がないけど、凶暴なタヌキと言われれば、そう見えなくもない。
「魔物じゃニャいニャらニャんニャ?」
「いや、野生の獣ってこともありえるよ」
日本でもクマとかイノシシとか、人間を襲うこともあるし。
「別にどっちでもいいニャ…」
ミケは興味なさそうに欠伸をしている。
「う~ん、でも、獣なら、ただ灰にしちゃうのは悪い気がする」
「うニャ?」
「美味しく食べて供養すべきじゃない?」
干し肉にすれば保存食にもなるし。
「よく分からニャいニャ。魔物なら食べニャくてもいいニャか?」
「魔物はちょっと遠慮したいかなぁ…」
「ドラゴンの肉は食べてるニャ」
「あれは別格。美味いものと相場が決まってるんだよ」
情報源はフィクションだけど。
「こんがらがってきたのニャ…」
「まぁ、詳しくはこの世界の住人に聞くことにして、とりあえず武器を取り換えよう」
理希は異空間収納を開くとレイピア(モスアゲート)を取り出し、これまで使っていたレイピア(カーネリアン)を中にしまった。
「風属性なら落ち葉に引火して山火事になる心配もないし」
「見た目は同じニャ」
「違いはここだけだね」
柄の部分に埋め込まれている、緑の石を指さした。
「よっと」
軽く振ってみると、魔法石が輝き、風切り音が聞こえた。
少し遅れて前方にあった小石が弾ける。
「日本風に言うとカマイタチかな…」
カーネリアンのレイピアと同様に、たいして威力があるようには見えない。
「遠距離でも攻撃ができるニャ」
「使い勝手は良さそうだけど、効果の範囲が広い分、気をつけないとね」
その後も変わらず襲ってくるタヌキもどきを倒しながら、黙々と歩を進めた。
実際に触ってみたら、もこもこの毛のせいで、丸々と太って見えていたことが分かった。
肉はほとんどなさそうだけど、ハチの背に載せた大きなボーブスの袋に詰めていく。
南へと流れを変えた川とは途中で別れ、西北西に向かって森の中を突き進む。
「こんニャにいっぱい、魔物だったらどうするのニャ?」
「ファンタジーの定番だと、ギルドに持っていって…、あっ!」
巨木を回り込むと急に視界が開け、眼下に畑が見えた。
「ニャんかあったみたいニャ」
畑の一角に人々が集まっている。
「ちょっと急ごうか」
ミケを抱え上げるとローブのフードに入れ、理希はハチに跨った。
「ユベント・ハチ、フェスティーナ・モドゥス」
ハチは大きく頷き、斜面を一気に駆け下りる。
一度谷に降りて沢を横切り、崖に近い急な坂を少し上ると、畑が目の前に見えた。
「エウント・レンテ」
村人を驚かさないようにゆっくり進み、畑を囲んでいる簡素な木の柵を飛び越えた。
結構な振動だと思うけど、誰もこちらを振り返らない。よほどの事態らしい。
「また、面倒くさいことにならなきゃいいけど…」
作物を踏まないように注意しながら人の輪に近づき、ハチから降りた。
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