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第二十話
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フィリスの期待に満ちた視線と、エンヒの「早く食わせろ!」というプレッシャーを背中に感じながら、圭吾は倉庫の簡易キッチンへと向かった。
石を組んで作られた炉は、まるで中世の竃のようだった。
その横にはしっかりとした木の作業台が備え付けられていた。
壁には黒ずんだ鍋やフライパン、用途不明の金属製の器具などが掛けられ、乾燥ハーブや、干し肉の塊などが吊り下げられている。
魔術師の実験室、と言われた方がしっくりくるような、独特の雰囲気だ。
「えっと……フィリスさん、火を使いたいんですが、どうすれば?」
圭吾が尋ねると、フィリスは優雅に微笑んだ。
「あら、火ならお安い御用よ。火加減はどのくらいがいいかしら?」
「そうですね……このスキレットの底を、火の先が舐めるくらいの、弱火がちょうどいいんですが……そんな調整、できます?」
正直、こんな石の炉で微妙な火加減ができるとは思えなかった。
「ふふ、お安い御用よ」
フィリスはそう言うと、炉に向かって軽く指を振った。
瞬間、ポン、という軽い音と共に、炉の中に柔らかなオレンジ色の炎が灯った。
驚くべきことに、その炎は圭吾が頼んだ通りの絶妙な弱火で安定している。
「おおう、ちょうどいい火加減……本当に魔法なんだ」
圭吾は思わず感嘆の声を漏らした。
気を取り直し、圭吾はスキレットを炉の上に置く。
次に、持参したオリーブオイルの小瓶を開け、スキレットに少量垂らす。
オイルが温まるのを待って、真空パックされた少量の豚ロース肉を開封して投入した。
ジュッ!という小気味良い音と共に、肉の焼ける香ばしい匂いが、埃っぽい倉庫の空気を満たしていく。
「おおっ! なんじゃ、この良い匂いは!」
エンヒがすぐさま反応し、テーブルから身を乗り出して目を輝かせた。
「ただ肉を焼いておるのだけなのに良い匂いがする」
「なかなか上質なお肉の匂いね。貴方の世界では、こういうものを常食しているの?」
フィリスも腕を組み、興味深そうに圭吾の手元を観察している。
「ええ、こちらにいるかどうか分かりませんが豚という食肉用の家畜のお肉です」
説明しながら圭吾は肉の両面に焼き色がつくまで丁寧に焼き、一旦皿に取り出す。
次に、スキレットに残った肉汁とオリーブオイルへレトルトカレーを投入する。
途端に、クミンやコリアンダーといったカレー特有の濃厚で複雑な香りが、倉庫いっぱいに立ち込めた。
「むおおっ! 今度は、さらに刺激的な香りじゃ! 腹が……腹が鳴るのを止められぬ!」
エンヒは、くんくんと鼻を鳴らしながら、そわそわと落ち着かない様子だ。
圭吾は更にパックご飯と、少量の水を加えた。
持参した折り畳み式のヘラで、焦げ付かないように鍋底から丁寧に混ぜ合わせる。
カレーとご飯が馴染み、全体にとろみが出てきたところで、中央を少しくぼませ、持ってきた最後の一個である卵を割り落とした。
「卵とな!?」
エンヒが驚きの声を上げる。
卵が好みの半熟具合になったところで、ヘラで黄身を軽く崩し、全体をさっとかき混ぜる。
最後に、ピザ用のスライスチーズをちぎって散らし、予熱で溶かせば完成だ。
カレーの茶色、卵の黄色、チーズの白が混ざり合い、見るからに食欲をそそる黄金色のリゾットが出来上がった。
「よし、できた! スキレットカレーリゾット、特製キャンプバージョン!」
圭吾は満足げに頷き、耐熱軍手を使って熱々のスキレットを炉から下ろした。
スパイスとチーズ、卵の香りが混ざり合い、最高のコンディションだ。
「さあ、できたてが一番美味いから、早く食べよう」
圭吾はリュックから、最後の数枚となっていた紙皿を取り出し、カレーリゾットを三人分、均等に盛り付けた。
とろりと溶けたチーズが糸を引き、湯気と共に立ち上るカレーの香りがたまらない。
「はい、エンヒ。熱いから気をつけてな」
カレーリゾットを盛りつけた紙皿にスプーンを載せて渡す。
「うむ! 待っておったぞ!」
エンヒは目を輝かせ、喜び勇んで紙皿を受け取った。
「フィリスさんも、どうぞ。まあ、レトルトとパックご飯なんで、あまり期待しないでくださいね」
圭吾は少し照れながら、フィリスにも紙皿を差し出した。
「あら、ありがとう。龍を絆した料理、期待しない方が無理というものよ」
フィリスは優雅に微笑み、紙皿を受け取った。
さて、お食べ、としようとしたところで、圭吾は重大なことに気づいた。
「あ……しまった! スプーン、一本しか持ってきてなかった……」
キャンプでは、荷物を切り詰めるために、カトラリーは最小限しか持ってこないのが常だ。
自分とフィリスの分のスプーンがない。
「どうしよう……」
簡易キッチンを見渡すがそれっぽいものが見つからない。
圭吾が困っていると、フィリスが「あらあら」と微笑んだ。
「スプーンね? それなら、こうすればいいのよ」
フィリスはそう言うと、空いている方の手を軽く前に差し出し、指先をくるりと回した。
すると、彼女の指先に淡い紫色の光が集まり、キラキラと星屑のような粒子が舞ったかと思うと、その光の中から、滑らかな鉄製のスプーンが二本、するりと現れたのだ。
「ええっ!? ま、魔法!?」
圭吾は目を丸くして叫んだ。
火を起こすだけでなく、何もないところから物を作り出すこともできるのか。
「ふん、そのくらい、私にだってできるのじゃ!」
エンヒは、圭吾の驚くリアクションが少し面白くないのか、むすっとした表情で言い放った。
フィリスは、魔法で作り出したスプーンを、何でもないことのように圭吾に手渡した。
「はい、どうぞ。これで食べられるでしょう?」
圭吾は、まだ驚きから醒めないまま、鉄製のスプーンを受け取った。
見た目は普通のスプーンだが、手に持つと、ほんのりと温かいような気がした。
石を組んで作られた炉は、まるで中世の竃のようだった。
その横にはしっかりとした木の作業台が備え付けられていた。
壁には黒ずんだ鍋やフライパン、用途不明の金属製の器具などが掛けられ、乾燥ハーブや、干し肉の塊などが吊り下げられている。
魔術師の実験室、と言われた方がしっくりくるような、独特の雰囲気だ。
「えっと……フィリスさん、火を使いたいんですが、どうすれば?」
圭吾が尋ねると、フィリスは優雅に微笑んだ。
「あら、火ならお安い御用よ。火加減はどのくらいがいいかしら?」
「そうですね……このスキレットの底を、火の先が舐めるくらいの、弱火がちょうどいいんですが……そんな調整、できます?」
正直、こんな石の炉で微妙な火加減ができるとは思えなかった。
「ふふ、お安い御用よ」
フィリスはそう言うと、炉に向かって軽く指を振った。
瞬間、ポン、という軽い音と共に、炉の中に柔らかなオレンジ色の炎が灯った。
驚くべきことに、その炎は圭吾が頼んだ通りの絶妙な弱火で安定している。
「おおう、ちょうどいい火加減……本当に魔法なんだ」
圭吾は思わず感嘆の声を漏らした。
気を取り直し、圭吾はスキレットを炉の上に置く。
次に、持参したオリーブオイルの小瓶を開け、スキレットに少量垂らす。
オイルが温まるのを待って、真空パックされた少量の豚ロース肉を開封して投入した。
ジュッ!という小気味良い音と共に、肉の焼ける香ばしい匂いが、埃っぽい倉庫の空気を満たしていく。
「おおっ! なんじゃ、この良い匂いは!」
エンヒがすぐさま反応し、テーブルから身を乗り出して目を輝かせた。
「ただ肉を焼いておるのだけなのに良い匂いがする」
「なかなか上質なお肉の匂いね。貴方の世界では、こういうものを常食しているの?」
フィリスも腕を組み、興味深そうに圭吾の手元を観察している。
「ええ、こちらにいるかどうか分かりませんが豚という食肉用の家畜のお肉です」
説明しながら圭吾は肉の両面に焼き色がつくまで丁寧に焼き、一旦皿に取り出す。
次に、スキレットに残った肉汁とオリーブオイルへレトルトカレーを投入する。
途端に、クミンやコリアンダーといったカレー特有の濃厚で複雑な香りが、倉庫いっぱいに立ち込めた。
「むおおっ! 今度は、さらに刺激的な香りじゃ! 腹が……腹が鳴るのを止められぬ!」
エンヒは、くんくんと鼻を鳴らしながら、そわそわと落ち着かない様子だ。
圭吾は更にパックご飯と、少量の水を加えた。
持参した折り畳み式のヘラで、焦げ付かないように鍋底から丁寧に混ぜ合わせる。
カレーとご飯が馴染み、全体にとろみが出てきたところで、中央を少しくぼませ、持ってきた最後の一個である卵を割り落とした。
「卵とな!?」
エンヒが驚きの声を上げる。
卵が好みの半熟具合になったところで、ヘラで黄身を軽く崩し、全体をさっとかき混ぜる。
最後に、ピザ用のスライスチーズをちぎって散らし、予熱で溶かせば完成だ。
カレーの茶色、卵の黄色、チーズの白が混ざり合い、見るからに食欲をそそる黄金色のリゾットが出来上がった。
「よし、できた! スキレットカレーリゾット、特製キャンプバージョン!」
圭吾は満足げに頷き、耐熱軍手を使って熱々のスキレットを炉から下ろした。
スパイスとチーズ、卵の香りが混ざり合い、最高のコンディションだ。
「さあ、できたてが一番美味いから、早く食べよう」
圭吾はリュックから、最後の数枚となっていた紙皿を取り出し、カレーリゾットを三人分、均等に盛り付けた。
とろりと溶けたチーズが糸を引き、湯気と共に立ち上るカレーの香りがたまらない。
「はい、エンヒ。熱いから気をつけてな」
カレーリゾットを盛りつけた紙皿にスプーンを載せて渡す。
「うむ! 待っておったぞ!」
エンヒは目を輝かせ、喜び勇んで紙皿を受け取った。
「フィリスさんも、どうぞ。まあ、レトルトとパックご飯なんで、あまり期待しないでくださいね」
圭吾は少し照れながら、フィリスにも紙皿を差し出した。
「あら、ありがとう。龍を絆した料理、期待しない方が無理というものよ」
フィリスは優雅に微笑み、紙皿を受け取った。
さて、お食べ、としようとしたところで、圭吾は重大なことに気づいた。
「あ……しまった! スプーン、一本しか持ってきてなかった……」
キャンプでは、荷物を切り詰めるために、カトラリーは最小限しか持ってこないのが常だ。
自分とフィリスの分のスプーンがない。
「どうしよう……」
簡易キッチンを見渡すがそれっぽいものが見つからない。
圭吾が困っていると、フィリスが「あらあら」と微笑んだ。
「スプーンね? それなら、こうすればいいのよ」
フィリスはそう言うと、空いている方の手を軽く前に差し出し、指先をくるりと回した。
すると、彼女の指先に淡い紫色の光が集まり、キラキラと星屑のような粒子が舞ったかと思うと、その光の中から、滑らかな鉄製のスプーンが二本、するりと現れたのだ。
「ええっ!? ま、魔法!?」
圭吾は目を丸くして叫んだ。
火を起こすだけでなく、何もないところから物を作り出すこともできるのか。
「ふん、そのくらい、私にだってできるのじゃ!」
エンヒは、圭吾の驚くリアクションが少し面白くないのか、むすっとした表情で言い放った。
フィリスは、魔法で作り出したスプーンを、何でもないことのように圭吾に手渡した。
「はい、どうぞ。これで食べられるでしょう?」
圭吾は、まだ驚きから醒めないまま、鉄製のスプーンを受け取った。
見た目は普通のスプーンだが、手に持つと、ほんのりと温かいような気がした。
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