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第二十三話
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フィリスは、そんな二人の様子を微笑ましそうに眺めながら、自分用の果物を手に取り、懐から取り出した小さな銀のナイフで、まるで芸術品を扱うかのように丁寧に皮を剥き始めた。
そして、一口大に切り分けた果肉を、上品に口へと運ぶ。
「この芳醇な甘みと、身体に満ちる確かな滋養……これを味わうためなら、百年の時を待つ価値も十分にあるというものよ」
彼女は、うっとりと目を細め、その紫色の瞳で、手の中の果物を愛おしそうに見つめていた。
その言葉と表情から、この果物がただ美味しいだけでなく、何か特別な意味を持っていることが圭吾にも伝わってきた。
手の甲の紋様が、この果物の持つ力に呼応するかのように、微かに、しかし確かに温かさを増しているのを感じた。
口の中に残るユグドラシルの実の芳醇な余韻を楽しみながら、圭吾はフィリスとエンヒに尋ねた。
「あの……今さらですけど、このとんでもなく美味しい果物、アレやコレって呼んでますけど、なんて名前なんですか? 一体、どういうものなんですか? 食べただけでこんなに元気になるなんて、普通じゃないですよね?」
エンヒは、すでに二つ目の実を半分ほど食べ終え、口の周りを果汁でベトベトにしながら、得意満面で答えた。
「うむ! ユグドラシルの実じゃ! すごいんじゃぞ、これは! ただ美味いだけじゃない! ちょっとした病ならすぐに治ってしまうし、怪我の治りも早くなる! それに、ものすごく貴重な魔法薬、エリクサーとやらの材料にもなるらしい! 確か、大昔には、この実を巡って国同士で大きな戦争が起きたこともあったとか、なかったとか……そんな話も聞いたことがあるのじゃ!」
「せ、戦争!? エリクサーの材料!?」
エンヒのあまりにも無邪気な説明に、圭吾は手に持っていたユグドラシルの実の食べかけと、口から出したばかりの黒光りする種を交互に見比べ、思わずゴクリと喉を鳴らした。
さっきまでただの美味しい果物だと思っていたものが、急に恐ろしく価値のある、そして危険な代物に見えてくる。
「え、ええっ!? この果物、そんなにヤバいものだったのか!?」
思わず手が震え、危うく種を落としそうになった。
エンヒは、圭吾の狼狽ぶりにケラケラと笑っている。
「まあ、美味いから良いではないか!」
フィリスは、そんな圭吾の反応を楽しんでいるかのように、くすくすと笑みを漏らした。
「ふふ、確かに、エンヒの言う通り、これはとてつもなく貴重なものよ。ユグドラシルの実……正確には、世界樹ユグドラシルの分かち身、とでも言うべきかしらね。この実は、百年という長い周期を経て、ようやく収穫できる、まさに大地の恵み、生命力の結晶なの。この世界広しといえど、ユグドラシルの木そのものが極めて稀少だし、ましてやその実を安定して栽培し、収穫できているのは、おそらく私くらいなものでしょうね」
フィリスは、そこで一旦言葉を切り、ふう、と小さなため息をついた。
「世界樹ユグドラシルは、この世界の魔力の源泉そのものと言っても過言ではないわ。そして、その実は、凝縮された生命エネルギーの塊。だから、エンヒが言ったように、万病に効き、傷を癒し、時には死者すら蘇らせるとも言われるエリクサーの主成分となる。当然、これを求める者は後を絶たないわ。特に、この実が熟すこの時期になるとね…どこからともなく嗅ぎつけてくる、招かれざる客が多くて困るのよ。いわゆる『冒険者』とかいう、腕は立つのかもしれないけれど、思慮の浅い半端者たちがね……」
フィリスの言葉には、普段の余裕のある態度からは想像できないような、苛立ちと疲労の色が滲んでいた。
「あら、フィリス、今年もまた盗人が出たのかや?」
エンヒが心配そうに尋ねる。
「ええ、毎度のことだけどね。まったく、手間をかけさせてくれるわ」
そんなシリアスな話を聞かされ、圭吾はますます手の中の果物を持て余してしまう。
「百年周期で、戦争の原因にもなって、盗人まで出るような代物を……お、俺なんかが、こんなに気軽に食べちゃって、本当に大丈夫だったんでしょうか……?」
背中に冷たい汗が流れるのを感じた。
しかし、同時に、先ほどまでの疲労感が嘘のように消え去り、身体が驚くほど軽く、力がみなぎっているのもまた事実だった。
エンヒは、そんな圭吾の不安そうな顔を見て、バンバンと背中を叩いた。
「何を気にしておるか、けいご! フィリスが良いと言っておるのじゃから、遠慮はいらん! 美味いものは美味いうちに食うのが一番じゃ! それに、フィリスのところに来ると、こうしてユグドラシルの実が食べられるから、私も定期的に顔を出しておるのじゃ!」
「もう、エンヒったら…。そうやって、あんたが気軽に食べ散らかしていくから、私の苦労が絶えないのよ」
フィリスは、呆れたように、しかしどこか愛情のこもった眼差しでエンヒを軽く睨んだ。
圭吾は、二人のやり取りを見て、少しだけ緊張が和らいだ。
確かに、とんでもないものを食べてしまったのかもしれないが、おかげで体調は絶好調だ。
それに、目の前で繰り広げられる、まるで姉妹のような二人の気のおけない会話は、異世界でも確かな温かさと日常が存在することを示しているようだった。
「まあ……元気になったのは間違いないし、美味しかったし……いっか」
圭吾は、自分にそう言い聞かせ、残りのユグドラシルの実を、ありがたく、そして少しだけビクビクしながら、最後まで味わい尽くしたのだった。
そして、一口大に切り分けた果肉を、上品に口へと運ぶ。
「この芳醇な甘みと、身体に満ちる確かな滋養……これを味わうためなら、百年の時を待つ価値も十分にあるというものよ」
彼女は、うっとりと目を細め、その紫色の瞳で、手の中の果物を愛おしそうに見つめていた。
その言葉と表情から、この果物がただ美味しいだけでなく、何か特別な意味を持っていることが圭吾にも伝わってきた。
手の甲の紋様が、この果物の持つ力に呼応するかのように、微かに、しかし確かに温かさを増しているのを感じた。
口の中に残るユグドラシルの実の芳醇な余韻を楽しみながら、圭吾はフィリスとエンヒに尋ねた。
「あの……今さらですけど、このとんでもなく美味しい果物、アレやコレって呼んでますけど、なんて名前なんですか? 一体、どういうものなんですか? 食べただけでこんなに元気になるなんて、普通じゃないですよね?」
エンヒは、すでに二つ目の実を半分ほど食べ終え、口の周りを果汁でベトベトにしながら、得意満面で答えた。
「うむ! ユグドラシルの実じゃ! すごいんじゃぞ、これは! ただ美味いだけじゃない! ちょっとした病ならすぐに治ってしまうし、怪我の治りも早くなる! それに、ものすごく貴重な魔法薬、エリクサーとやらの材料にもなるらしい! 確か、大昔には、この実を巡って国同士で大きな戦争が起きたこともあったとか、なかったとか……そんな話も聞いたことがあるのじゃ!」
「せ、戦争!? エリクサーの材料!?」
エンヒのあまりにも無邪気な説明に、圭吾は手に持っていたユグドラシルの実の食べかけと、口から出したばかりの黒光りする種を交互に見比べ、思わずゴクリと喉を鳴らした。
さっきまでただの美味しい果物だと思っていたものが、急に恐ろしく価値のある、そして危険な代物に見えてくる。
「え、ええっ!? この果物、そんなにヤバいものだったのか!?」
思わず手が震え、危うく種を落としそうになった。
エンヒは、圭吾の狼狽ぶりにケラケラと笑っている。
「まあ、美味いから良いではないか!」
フィリスは、そんな圭吾の反応を楽しんでいるかのように、くすくすと笑みを漏らした。
「ふふ、確かに、エンヒの言う通り、これはとてつもなく貴重なものよ。ユグドラシルの実……正確には、世界樹ユグドラシルの分かち身、とでも言うべきかしらね。この実は、百年という長い周期を経て、ようやく収穫できる、まさに大地の恵み、生命力の結晶なの。この世界広しといえど、ユグドラシルの木そのものが極めて稀少だし、ましてやその実を安定して栽培し、収穫できているのは、おそらく私くらいなものでしょうね」
フィリスは、そこで一旦言葉を切り、ふう、と小さなため息をついた。
「世界樹ユグドラシルは、この世界の魔力の源泉そのものと言っても過言ではないわ。そして、その実は、凝縮された生命エネルギーの塊。だから、エンヒが言ったように、万病に効き、傷を癒し、時には死者すら蘇らせるとも言われるエリクサーの主成分となる。当然、これを求める者は後を絶たないわ。特に、この実が熟すこの時期になるとね…どこからともなく嗅ぎつけてくる、招かれざる客が多くて困るのよ。いわゆる『冒険者』とかいう、腕は立つのかもしれないけれど、思慮の浅い半端者たちがね……」
フィリスの言葉には、普段の余裕のある態度からは想像できないような、苛立ちと疲労の色が滲んでいた。
「あら、フィリス、今年もまた盗人が出たのかや?」
エンヒが心配そうに尋ねる。
「ええ、毎度のことだけどね。まったく、手間をかけさせてくれるわ」
そんなシリアスな話を聞かされ、圭吾はますます手の中の果物を持て余してしまう。
「百年周期で、戦争の原因にもなって、盗人まで出るような代物を……お、俺なんかが、こんなに気軽に食べちゃって、本当に大丈夫だったんでしょうか……?」
背中に冷たい汗が流れるのを感じた。
しかし、同時に、先ほどまでの疲労感が嘘のように消え去り、身体が驚くほど軽く、力がみなぎっているのもまた事実だった。
エンヒは、そんな圭吾の不安そうな顔を見て、バンバンと背中を叩いた。
「何を気にしておるか、けいご! フィリスが良いと言っておるのじゃから、遠慮はいらん! 美味いものは美味いうちに食うのが一番じゃ! それに、フィリスのところに来ると、こうしてユグドラシルの実が食べられるから、私も定期的に顔を出しておるのじゃ!」
「もう、エンヒったら…。そうやって、あんたが気軽に食べ散らかしていくから、私の苦労が絶えないのよ」
フィリスは、呆れたように、しかしどこか愛情のこもった眼差しでエンヒを軽く睨んだ。
圭吾は、二人のやり取りを見て、少しだけ緊張が和らいだ。
確かに、とんでもないものを食べてしまったのかもしれないが、おかげで体調は絶好調だ。
それに、目の前で繰り広げられる、まるで姉妹のような二人の気のおけない会話は、異世界でも確かな温かさと日常が存在することを示しているようだった。
「まあ……元気になったのは間違いないし、美味しかったし……いっか」
圭吾は、自分にそう言い聞かせ、残りのユグドラシルの実を、ありがたく、そして少しだけビクビクしながら、最後まで味わい尽くしたのだった。
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