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第二十四話
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会話が弾み、圭吾はフィリスとエンヒに自分の世界がどんな世界か話していた。
特に社会人としての苦労話がウケていたのは少し悲しかったが。
やがて、ユグドラシルの実を食べ終えた。
圭吾もエンヒも、そしてフィリス自身も、言葉少なにその神秘的な果実の余韻に浸っている。
倉庫には心地よい静寂と、満ち足りた空気が流れていた。
ふと自身の身体に意識を向けてみる。
身体の奥底から湧き上がってくるような、清らかで力強いエネルギー。
先ほどまでの疲労感は完全に消え去り、むしろ今なら日本アルプスの縦走だってこなせそうなほど、身体が軽く、活力がみなぎっていた。
倉庫の中には、まだユグドラシルの実の甘く芳醇な香りがふわりと漂い、差し込む陽光に舞う埃さえも、どこか神聖なもののように見えた。
そんな中、フィリスがゆっくりと立ち上がり、壁際に積まれた雑多な棚の一つへと歩み寄った。
そして、何段目かにある年季の入った木箱を、まるで大切な宝物を扱うかのように、そっと取り出す。
彼女がテーブルに戻り、その木箱の古びた留め金を外すと、中から現れたのは、息をのむほど美しい一対のバングルだった。
それは、繊細な銀細工で装飾されており、表面にはまるで生きているかのように複雑な古代文字のような紋様がびっしりと刻み込まれている。
バングルそのものが、淡く青白い幽玄な光を放っており、ただの装飾品ではないことが一目でわかった。
フィリスは穏やかな笑みを浮かべ、そのバングルを一つずつ手に取ると、エンヒと圭吾にそれぞれ差し出した。
「これは、美味しい料理と、興味深いお話を聞かせてくれた君たちへのお礼。そして、きっとこれからの助けになるはずよ」
エンヒは、バングルを一目見るなり、目を爛々と輝かせた。
「おおっ! これはまた…! なんという強力な魔力を秘めた魔道具じゃ! フィリス、こんな貴重なものを本当に私にくれるのか!?」
彼女は興奮気味にバングルを受け取り、食い入るように見つめている。
一方、圭吾は、目の前に差し出されたバングルを手に取り、そのずっしりとした重みと、ひんやりとした感触に戸惑っていた。
「え、これは……バングル、ですか? 俺に……?」
ただのアクセサリーにしては、あまりにも荘厳で、そして不思議な力を感じさせる。
ユグドラシルの実といい、このバングルといい、この異世界では常識外れの出来事が立て続けに起こりすぎて、圭吾のキャパシティは限界に近づいていた。
フィリスは、キョトンとしている圭吾の様子を見て、楽しそうに説明を始めた。
「ええ、見た目はただのバングルだけど、これは『絆渡りの腕輪』とでも呼ぶべき特別な魔道具なの。このバングルは、対となるもう一方の腕輪の持ち主の位置へ、瞬時に転移することを可能にするわ。たとえ、異なる世界を跨いだとしても、互いの場所へ、ただ強く願うだけで移動できるのよ。もちろん、ユグドラシルの実と同じく、これも極めて稀少で、そう簡単には手に入らない代物よ」
「異なる世界へ……転移!?」
圭吾は思わず声を上げた。
フィリスは静かに頷き、言葉を続ける。その紫の瞳は、真剣な光を宿していた。
「ただし、この腕輪を使うには、いくつかの条件があるわ。まず、持ち主同士の間に、強い信頼と絆が必要不可欠。適当な気持ちや、疑念を抱いたままでは、腕輪は決して応えてくれないでしょう。そして、一度使うと、かなりの魔力を消耗する。無闇に使い続ければ、持ち主の魔力が枯渇するだけでなく、腕輪そのものが力を失い、壊れてしまう危険性もあるわ。だから、使う時と場所は慎重に選ぶことね」
エンヒは、フィリスの説明を聞きながら、自分の腕にバングルをはめてみて、感嘆の声を漏らした。
「ほほう! つまり、私とけいごは、『龍の契約の紋』で魂レベルで繋がっておるから、この腕輪を使えば、いつでもどこでも一緒に冒険ができるというわけじゃな! それは素晴らしい!」
彼女は無邪気に喜び、ぶんぶんと腕を振っている。
圭吾は、エンヒの楽観的な反応とは裏腹に、まだ現実味を感じられずにいた。
世界を跨ぐ転移、強い絆、魔力の枯渇…。
まるでファンタジー映画の小道具だ。
「世界を跨ぐって言われても……でも、現にこうして、俺はこの異世界にいるからありえるのか」
しかし、フィリスの真剣な眼差しと、手に持ったバングルから伝わってくる不思議な温かさ、そしてそれが放つ微かな光は、これがただの作り話ではないことを雄弁に物語っていた。
圭吾は、覚悟を決めたように、慎重にバングルを受け取り、自分の左腕に装着してみた。
その瞬間、カチリ、という小さな音と共にバングルが腕に収まると、まるで最初からそこにあったかのように、ぴたりと馴染んだ。
そして、バングルに刻まれた古代文字が、一瞬、鮮やかな青白い光を放ち、圭吾の左手の甲に浮かぶ桜の鱗のような紋様が、それに呼応するかのように、とくん、と温かく脈打ったのだ。
それは、間違いなく、このバングルと自分が、そしてエンヒとが、何か特別な力で繋がったことを示す証だった。
「さて、名残惜しいけれど、そろそろ時間かしらね」
フィリスはそう言うと、二人を促し、倉庫の中央、以前圭吾たちが転移してきた際に現れた魔法陣が描かれた石畳の上へと導いた。
「また美味しいご飯を作りに来てちょうだいね、圭吾。エンヒも、あんまり無茶をして、この世界や他の世界に迷惑をかけないようにね」
フィリスは、悪戯っぽく笑いながら言った。
エンヒは、ふんと鼻を鳴らして胸を張る。
「任せておくのじゃ! 次は私が、けいごの世界ですごい食材を見つけ出して、フィリスに馳走してやるぞ!」
圭吾は、フィリスの温かい言葉に、少し照れながらも感謝の気持ちを込めて頭を下げた。
「色々と…本当にありがとうございました、フィリスさん。多分、エンヒに引っ張られて、またすぐに来ることになると思います。その時は、またよろしくお願いします」
「ええ、いつでも歓迎するわ」
フィリスがそう言って、軽く手を振ると、足元の魔法陣がゆっくりと青白い光を放ち始めた。
石畳に刻まれた文字が一つ、また一つと輝きを増し、倉庫全体が微かに振動するのを感じる。
圭吾は、再び体験する異世界への転移に、一瞬、身構えた。
「心配すんな、けいご! フィリスの転移魔法は、この世界でも随一じゃ! 目を瞑っておれば、あっという間よ!」
隣でエンヒが、豪快に笑い飛ばす。
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、魔法陣の光が一気に強まり、視界が真っ白な光に包まれた。
圭吾は思わず目を固く閉じる。身体がふわりと浮き上がるような、
そして次の瞬間には、ぐっと何かに引き寄せられるような、不思議な感覚。
次に目を開けた時、そこは彼がこの倉庫に来る前にいた、あの神殿の廃墟の広場だった。
先ほどまでの埃っぽくも温かい倉庫の雰囲気はなく、ひんやりとした夜気が肌を撫でる。
頭上には、満天の星が瞬き、遠くで風が草を揺らす音だけが、さわさわと聞こえていた。
「ふぁーあ! やっぱりフィリスの転移はスムーズじゃな! 少しも酔わん!」
隣では、エンヒが気持ちよさそうに大きな伸びをしていた。
「さあ、けいご! これで私たち、いつでもどこへだって行けるようになったぞ!」
エンヒは、興奮冷めやらぬといった様子で、圭吾の肩をバンバンと力強く叩いた。
彼女の翡翠色の瞳は、新たな冒険への期待でキラキラと輝いている。
「次はどこへ行く? 何を食う? いや、何を冒険する!? 考えるだけでワクワクするのじゃ!」
圭吾は、まだ目の前の状況の変化に頭が追いついていない部分もあったが、左腕にはめられたバングルの確かな重みと、ユグドラシルの実のおかげで驚くほど軽くなった身体を感じていた。
異世界での出来事は夢ではなかったのだ。
「はは……そうだな。でも、とりあえずは……俺、自宅に帰りたいかな。今日一日で、色々なことがあり過ぎて、身体と心がちょっとついていかないよ」
圭吾は、苦笑いを浮かべながら、正直な気持ちを口にした。
エンヒは、一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐにニカッと笑った。
「それもそうじゃな! よし、ならばまずは、お主の自宅に案内してもらうとしよう! そこでまた、美味い飯を食わせてくれるのじゃろうな!?」
「こっちの世界にもくるのかい!? トラブル起こさずにいられるかなぁ」
その言葉に反して、圭吾はまんざらでもない表情を浮かべていた。
星空の下、古代の廃墟に佇む、
現代日本のサラリーマンと、異世界の龍の少女。
手には、互いを繋ぐ魔法のバングル。
これから彼らを待ち受けるのは、どんな冒険なのだろうか。
それはまだ、誰にも分からない。
ただ、確かなことは、二人の奇妙で、そして美味しいものに満ちた旅は、まだ始まったばかりだということだ。
特に社会人としての苦労話がウケていたのは少し悲しかったが。
やがて、ユグドラシルの実を食べ終えた。
圭吾もエンヒも、そしてフィリス自身も、言葉少なにその神秘的な果実の余韻に浸っている。
倉庫には心地よい静寂と、満ち足りた空気が流れていた。
ふと自身の身体に意識を向けてみる。
身体の奥底から湧き上がってくるような、清らかで力強いエネルギー。
先ほどまでの疲労感は完全に消え去り、むしろ今なら日本アルプスの縦走だってこなせそうなほど、身体が軽く、活力がみなぎっていた。
倉庫の中には、まだユグドラシルの実の甘く芳醇な香りがふわりと漂い、差し込む陽光に舞う埃さえも、どこか神聖なもののように見えた。
そんな中、フィリスがゆっくりと立ち上がり、壁際に積まれた雑多な棚の一つへと歩み寄った。
そして、何段目かにある年季の入った木箱を、まるで大切な宝物を扱うかのように、そっと取り出す。
彼女がテーブルに戻り、その木箱の古びた留め金を外すと、中から現れたのは、息をのむほど美しい一対のバングルだった。
それは、繊細な銀細工で装飾されており、表面にはまるで生きているかのように複雑な古代文字のような紋様がびっしりと刻み込まれている。
バングルそのものが、淡く青白い幽玄な光を放っており、ただの装飾品ではないことが一目でわかった。
フィリスは穏やかな笑みを浮かべ、そのバングルを一つずつ手に取ると、エンヒと圭吾にそれぞれ差し出した。
「これは、美味しい料理と、興味深いお話を聞かせてくれた君たちへのお礼。そして、きっとこれからの助けになるはずよ」
エンヒは、バングルを一目見るなり、目を爛々と輝かせた。
「おおっ! これはまた…! なんという強力な魔力を秘めた魔道具じゃ! フィリス、こんな貴重なものを本当に私にくれるのか!?」
彼女は興奮気味にバングルを受け取り、食い入るように見つめている。
一方、圭吾は、目の前に差し出されたバングルを手に取り、そのずっしりとした重みと、ひんやりとした感触に戸惑っていた。
「え、これは……バングル、ですか? 俺に……?」
ただのアクセサリーにしては、あまりにも荘厳で、そして不思議な力を感じさせる。
ユグドラシルの実といい、このバングルといい、この異世界では常識外れの出来事が立て続けに起こりすぎて、圭吾のキャパシティは限界に近づいていた。
フィリスは、キョトンとしている圭吾の様子を見て、楽しそうに説明を始めた。
「ええ、見た目はただのバングルだけど、これは『絆渡りの腕輪』とでも呼ぶべき特別な魔道具なの。このバングルは、対となるもう一方の腕輪の持ち主の位置へ、瞬時に転移することを可能にするわ。たとえ、異なる世界を跨いだとしても、互いの場所へ、ただ強く願うだけで移動できるのよ。もちろん、ユグドラシルの実と同じく、これも極めて稀少で、そう簡単には手に入らない代物よ」
「異なる世界へ……転移!?」
圭吾は思わず声を上げた。
フィリスは静かに頷き、言葉を続ける。その紫の瞳は、真剣な光を宿していた。
「ただし、この腕輪を使うには、いくつかの条件があるわ。まず、持ち主同士の間に、強い信頼と絆が必要不可欠。適当な気持ちや、疑念を抱いたままでは、腕輪は決して応えてくれないでしょう。そして、一度使うと、かなりの魔力を消耗する。無闇に使い続ければ、持ち主の魔力が枯渇するだけでなく、腕輪そのものが力を失い、壊れてしまう危険性もあるわ。だから、使う時と場所は慎重に選ぶことね」
エンヒは、フィリスの説明を聞きながら、自分の腕にバングルをはめてみて、感嘆の声を漏らした。
「ほほう! つまり、私とけいごは、『龍の契約の紋』で魂レベルで繋がっておるから、この腕輪を使えば、いつでもどこでも一緒に冒険ができるというわけじゃな! それは素晴らしい!」
彼女は無邪気に喜び、ぶんぶんと腕を振っている。
圭吾は、エンヒの楽観的な反応とは裏腹に、まだ現実味を感じられずにいた。
世界を跨ぐ転移、強い絆、魔力の枯渇…。
まるでファンタジー映画の小道具だ。
「世界を跨ぐって言われても……でも、現にこうして、俺はこの異世界にいるからありえるのか」
しかし、フィリスの真剣な眼差しと、手に持ったバングルから伝わってくる不思議な温かさ、そしてそれが放つ微かな光は、これがただの作り話ではないことを雄弁に物語っていた。
圭吾は、覚悟を決めたように、慎重にバングルを受け取り、自分の左腕に装着してみた。
その瞬間、カチリ、という小さな音と共にバングルが腕に収まると、まるで最初からそこにあったかのように、ぴたりと馴染んだ。
そして、バングルに刻まれた古代文字が、一瞬、鮮やかな青白い光を放ち、圭吾の左手の甲に浮かぶ桜の鱗のような紋様が、それに呼応するかのように、とくん、と温かく脈打ったのだ。
それは、間違いなく、このバングルと自分が、そしてエンヒとが、何か特別な力で繋がったことを示す証だった。
「さて、名残惜しいけれど、そろそろ時間かしらね」
フィリスはそう言うと、二人を促し、倉庫の中央、以前圭吾たちが転移してきた際に現れた魔法陣が描かれた石畳の上へと導いた。
「また美味しいご飯を作りに来てちょうだいね、圭吾。エンヒも、あんまり無茶をして、この世界や他の世界に迷惑をかけないようにね」
フィリスは、悪戯っぽく笑いながら言った。
エンヒは、ふんと鼻を鳴らして胸を張る。
「任せておくのじゃ! 次は私が、けいごの世界ですごい食材を見つけ出して、フィリスに馳走してやるぞ!」
圭吾は、フィリスの温かい言葉に、少し照れながらも感謝の気持ちを込めて頭を下げた。
「色々と…本当にありがとうございました、フィリスさん。多分、エンヒに引っ張られて、またすぐに来ることになると思います。その時は、またよろしくお願いします」
「ええ、いつでも歓迎するわ」
フィリスがそう言って、軽く手を振ると、足元の魔法陣がゆっくりと青白い光を放ち始めた。
石畳に刻まれた文字が一つ、また一つと輝きを増し、倉庫全体が微かに振動するのを感じる。
圭吾は、再び体験する異世界への転移に、一瞬、身構えた。
「心配すんな、けいご! フィリスの転移魔法は、この世界でも随一じゃ! 目を瞑っておれば、あっという間よ!」
隣でエンヒが、豪快に笑い飛ばす。
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、魔法陣の光が一気に強まり、視界が真っ白な光に包まれた。
圭吾は思わず目を固く閉じる。身体がふわりと浮き上がるような、
そして次の瞬間には、ぐっと何かに引き寄せられるような、不思議な感覚。
次に目を開けた時、そこは彼がこの倉庫に来る前にいた、あの神殿の廃墟の広場だった。
先ほどまでの埃っぽくも温かい倉庫の雰囲気はなく、ひんやりとした夜気が肌を撫でる。
頭上には、満天の星が瞬き、遠くで風が草を揺らす音だけが、さわさわと聞こえていた。
「ふぁーあ! やっぱりフィリスの転移はスムーズじゃな! 少しも酔わん!」
隣では、エンヒが気持ちよさそうに大きな伸びをしていた。
「さあ、けいご! これで私たち、いつでもどこへだって行けるようになったぞ!」
エンヒは、興奮冷めやらぬといった様子で、圭吾の肩をバンバンと力強く叩いた。
彼女の翡翠色の瞳は、新たな冒険への期待でキラキラと輝いている。
「次はどこへ行く? 何を食う? いや、何を冒険する!? 考えるだけでワクワクするのじゃ!」
圭吾は、まだ目の前の状況の変化に頭が追いついていない部分もあったが、左腕にはめられたバングルの確かな重みと、ユグドラシルの実のおかげで驚くほど軽くなった身体を感じていた。
異世界での出来事は夢ではなかったのだ。
「はは……そうだな。でも、とりあえずは……俺、自宅に帰りたいかな。今日一日で、色々なことがあり過ぎて、身体と心がちょっとついていかないよ」
圭吾は、苦笑いを浮かべながら、正直な気持ちを口にした。
エンヒは、一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐにニカッと笑った。
「それもそうじゃな! よし、ならばまずは、お主の自宅に案内してもらうとしよう! そこでまた、美味い飯を食わせてくれるのじゃろうな!?」
「こっちの世界にもくるのかい!? トラブル起こさずにいられるかなぁ」
その言葉に反して、圭吾はまんざらでもない表情を浮かべていた。
星空の下、古代の廃墟に佇む、
現代日本のサラリーマンと、異世界の龍の少女。
手には、互いを繋ぐ魔法のバングル。
これから彼らを待ち受けるのは、どんな冒険なのだろうか。
それはまだ、誰にも分からない。
ただ、確かなことは、二人の奇妙で、そして美味しいものに満ちた旅は、まだ始まったばかりだということだ。
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