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第19話

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「わっ!? す、凄い……! 何これ!?」

 画面が動くだけで、これほど驚くなんて……可愛いな。
 まあでも、俺もこの世界に来てから魔法を見た時は似た様に感動していたものだ。
 俺は一度スマホを手に持ち、リアのほうへ向け、パシャリ。
 カメラで彼女を撮影すると、リアは不思議そうに首を傾げていた。

「今のは、なに?」
「写真って言ってな。その場面を収めることができるんだ」

 先ほど撮影した写真をリアに見せると、やはり驚いている。
 予想通りの反応で、見ていて楽しくなってくるな。

「……こ、これあたしよね?」
「そうだ。これが写真って言ってな。こんな感じで色々撮影できるんだ」
「凄っ……! つまり、その場で絵を作っているみたいなもんよね!?」
「そうなるな」
「……やばいわね、これ……すご……」

 リアは驚きながらしばらくスマホの画面を見ていた。
 圏外は……直らないよな。画面に映るその文字が少し寂しい。
 リアの興奮が気になったようで、二段ベッドで眠りにつこうとしていたアンナも一緒になっていじっていたのだが、しばらくしてナーフィが眠たそうにあくびをした。

「そろそろ寝るか?」
「そ、そうね……そのごめんなさい。色々聞きまくっちゃって」
「別にいいよ」

 もう少し魔力が強化されたら、携帯型のゲーム機でも召喚してみようか。
 充電に関しても、モバイルバッテリーで多少はできるし、いい暇つぶしになるかもしれない。

 アンナとリアが左のベッドで、俺とナーフィが右のベッドだ。
 ナーフィは上が良いということだったので、二段ベッドの上を開け渡している。
 皆の寝息が聞こえてきたところで、俺もゆっくりと目を閉じた。





 次の日。スマホのアラームが鳴る前に目が覚めた。
 ……いつも、寝坊しないようにアラームをつけてはいるのだが、だいたいその前くらいに目が覚めるんだよな。

 スマホで時間を確認すると、午前七時二十三分。七時三十分にアラームはつけていたので、ひとまずそれを止めようとしたのだが、体が動かない。

 な、なぜだ?
 金縛りを一瞬疑ったが、理由は明白だ。
 俺の体にナーフィが抱きついていたからだ。

 なぜ、こんな状況になっているのか。
 分からん。考えられるとすれば、ナーフィがトイレにでもおきた時に、間違えてこちらに来てしまったとかだろうか。

 ……それにしても、ナーフィは整った顔をしている。
 こちらを見るようにして寝息を立てているナーフィはまったく起きる気配がない。

 俺の体を完全に抱き枕か何かと勘違いしている様子の彼女。
 ……ここまで、気持ちよさそうに眠っているというのに、起こすのも悪いか。
 ひとまず、まだ皆起きてこなそうなので、スマホのアラームだけを解除する。

 俺が少し動くとナーフィが俺をギュッと抱きしめてくる。
 ……その度に、色々大きなものがぶつけられるのだから、俺としては色々と思うこともあるわけだ。

 落ち着け、俺。
 あまり変な気持ちを起こさないようにしないと。
 落ち着くために深呼吸をしようとすると、ナーフィの香りとシャンプーが混ざった匂いに頭の中がおかしくなりそうになる。
 ……し、深呼吸はダメだ。あまり深く考えないようにしよう。

 目を閉じ、心を無にしようとするが、視覚が塞がれると余計に肌に触れている感触を敏感に察知してしまう。

 とか、呑気に考えていると、ぎゅっと力強く抱きしめられる。
 亜人は……人間よりも力が強い。それこそ、まるで蛇が獲物を仕留めるかのような威力で抱きしめられる。
 ま、まだ耐えられるレベルだが、それでもこのままではまずい。
 さすがに、死ぬほどの威力になれば奴隷紋が発動すると思うが……そういえば、故意ではない死などは警戒したほうがいい、とも話していたよな。
 ま、まさか……ナーフィ。

「ナーフィ? その、起きてくれないか?」

 とんとん、と肩を揺さぶる。だめだ、ナーフィは起きる気配がない。
 それどころか、さらにギュッと抱きしめられる。生命の危機と同時にむにゅんと彼女の胸が押しつけられる。
 まずいまずい。本当色々とまずいことになっている。

 そんな風に俺が一人苦悩していると、隣のベッドから目が覚めたかのような声が聞こえてきた。

「んー……あれ? あっ、そうでした……。今日からはちゃんと屋根の下で眠れるんですね……」

 ぽつり、と噛み締めるように呟いたアンナの声が耳に届く。
 ……感慨深そうに話している彼女には悪いが、俺は救助を求めるように声をかける。

「アンナー、聞こえるか?」

 小さな声で呼びかけると、アンナがびくりとこちらを見てきた。恥ずかしそうにしている彼女の目とあう。
 とても申し訳ないが、急を要する状況なので気を遣ってはいられない。

「……あっ、ご主人様。おはようございます。申し訳ありません、起こしてしまいましたか?」
「いや、大丈夫だ。それより、助けてくれ……! ナーフィが俺のベッドに間違えて入った挙句に潰されそうなんだ!」
「え……!? わっ!? な、ナーフィちゃん! ご主人様が死んじゃいます!」

 慌てた様子でアンナがベッドから立ちあがろうとして、天井に頭をぶつける。
 そ、そっちはそっちで心配だが、今は俺の方をなんとかしてほしい。

 よろよろと起き上がったアンナが二段ベッドから降りてこようとして、

「わ、わわわ!?」
 
 踏み外しそうになっていたが、なんとかこらえてくれた。
 あ、危ないところだ。下手をすればこちらよりも大怪我になりかねん。

 俺のところになんとか駆けつけてくれたアンナはそれから、びくりと俺の体を見て硬直する。
 そ、そういえば、男苦手だったな。
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