愛想がないと王子に罵られた大聖女は、婚約破棄、国外追放される。 ～何もしていないと思われていた大聖女の私がいなくなったことで、国は崩壊寸前～

第22話

「……おい、アーニャ」

　呼び声に反応してそちらを見ると、エリックが頬を引きつらせていた。

「なんでしょうか？」
「さっきの魔法は、全力か？」
「全力まではまだありますね。少し準備運動がてら使ってみました」
「……威力強すぎだ。もう少し抑えてくれ」
「え？　あっ、はい」

　……さっきのでも強すぎちゃったみたい。
　でも、うん。調子は悪くない。
　今の調子で魔法を使っていけば問題ないと思う。

　魔物を倒しながら、街を走っていく。
　基本的に地上にいる魔物はエリックがてこずることなく仕留めていく。
　そうして、段々と魔物が多い地区へと進んでいく。

「がぁ！」

　ゴブリンが群れで飛びかかってくる。
　数体の攻撃をすべてかわしながら、エリックは確実に一体ずつ仕留めていく。
　私は周囲の警戒に努めていたけど、地上にいる魔物相手にエリックが負けることはなかった。

　剣についた血をぬぐってから、エリックはすぐにまた動き出した。
　その時だった。建物が崩れた。
　同時、巨体が姿を見せる。

「グオオオ！」

　そちらを見ると、何名かの騎士が倒れていた。
　今もなお、剣を持って構えている一人の騎士がいた。
　……見覚えのある――あっ！　酔っ払いに絡まれてエリックが助けた人だ。

「み、みんなをよくも……っ！」

　その若い騎士は、大地を蹴りつけオークへととびかかる。
　酔っ払いよりもよっぽど怖い相手だけど、まったく怯んでいる様子はない。
　しかし、力の差は歴然だった。
　
　若い騎士はその小柄を活かした速度こそあったけど、オークの体を傷つけるほどの力はないみたい。
　と、それまで固まって目を閉じていたエリックが目を開いた。

「……っ」

　圧倒的魔力が彼からあふれていた。
　先ほどまでとはまるで別格。
　……これまで、まだ加減していたんだ。エリックの身体能力が一気に向上したのは、恐らく魔力で身体強化をしたからだ。

　でも、それにしたって異常だ。
　大地を蹴りつけた瞬間、その衝撃が周囲を抜ける。

　同時、エリックはオークへととびかかり、その右腕を切断した。
　……人間の大人の胴程はあった腕を、あんなに簡単に。
　崩れたオークへ、そのままエリックは剣を叩きつけ、仕留めてみせた。

　……本当に一瞬、あっさりすぎ。

「エリック……私に魔法を注意しましたが、エリックもやりすぎです」
「そうでもないだろ？」
「あります」

　エリックは眉間を寄せて首を傾げてから、若い騎士をちらと見る。
　若い騎士は目を見開き、ぼーっとエリックを見ていた。ほら、エリックがやりすぎるから驚いちゃってる。

「大丈夫か？」
「は、はい……ってあなたは酔っ払いから助けてくれた人ですね。また、助けられてしまいました……」
「気にするな。若いんだから年上を頼ればいいんだ。……それじゃあ、次の魔物を倒すために――」

　その時だった。
　街全体に何やら鐘の音が三回響いた。
　なんだろうか？　私が首を傾げていると、エリックは剣を鞘にしまった

「……あっ！　今の鐘は戦闘終了の合図です。街にいる魔物のほぼすべてが討伐されたみたいです！」
　
　そうなんだ？
　私は試しに索敵魔法を使って街全体にいる魔物を見てみると、確かにもう反応はなかった。
　たぶん、騎士団にいる索敵魔法が使える人が判断してあの鐘を鳴らしたんだろうね。

「そうだな。それじゃあ、俺たちはこれで」

　エリックがちらとこちらを見てきた。別に長居する理由もないから私も宿を戻ろうとしたときだった。

「え、エリック！？　エリックじゃないか！」

　嬉しそうな声が聞こえた。
　エリックとともにそちらを見ると騎士がいた。