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第23話
しおりを挟むエリックは少し驚いたような、困った様な表情を浮かべたエリックとは裏腹に、騎士の男性はエリックへと近づいていく。
「おまえ……エリックじゃないか!」
エリックはその騎士に抱擁され、困った様子で嘆息をついていた。
「久しぶりだな、ブレンド」
諦めた様子でエリックがそう返していた。
ブレンド、と呼ばれた騎士はそれからさらにエリックに抱きついた。
「心配していたんだぞ! おまえ、貴族の不正を暴こうとして、それからすぐに除隊が決まってさ! あれからどうなったのかずっと心配していたんだからな!」
「あ、ああ……分かったから。とにかく、無事だ。相変わらず暑苦しいな」
「そりゃあそうだろう! オレとおまえ、騎士学園で首席卒業のおまえと、次席のオレでいつも争っていたじゃないか! ライバルにして親友だったおまえとの再会……暑苦しくなるってもんだよ!」
さらにブレンドは強くエリックを抱きしめ、エリックはため息のあと彼を放すように力を込めた。
「隊長、知り合いなのですか?」
若い騎士が訊ねると、ブレンドは嬉しそうに頷いた。
「おう、そうだケンリ。こいつはオレの同期でな。次の騎士団長になるんじゃないかって言われていたような奴なんだ」
「……平民の俺が騎士団長になれるわけないだろ?」
「はは、この国初の騎士団長になれるんじゃないかってほど強かっただろ?」
「強いだけでなれれば苦労はしないだろう」
「それに、ご令嬢にもモテモテで、貴族の仲間入りができそうだったじゃないか」
「別に、モテていたわけじゃない」
エリックは心底疲れた様子でブレンドに答えていた。
……まあ、確かにモテそうな容姿をしているしね。それに実力だってあるんだし。
婚約者がいない令嬢なら、エリックにアタックしていてもおかしくはないと思う。
それからブレンドは倒れていたオークを見て、頬を引きつらせた。
「あのオークはおまえが倒したのか? ……一撃、か」
「一撃じゃない。腕を切断して、その後で首をはねた。……二撃だ」
「この巨体を二撃……相変わらずバケモノみたいな強さをしているな。今回出現した魔物たちは通常の個体よりもずっと強くてな。……正直いって、かなり苦戦したよ。おまけに、王都の方も何やら忙しいらしくてロクに騎士を派遣してもくれないんだ」
「今ある戦力でどうにかするしかないだろう。貴族はどうせ、自分を守るのに忙しいんだからな」
「おいおい、一応オレだって子爵だぜ? 貴族を目の前にそんなこというなよなぁ」
「おまえだから、気軽に話しているんだ」
「はは、嬉しいこと言ってくれるな」
……気心のいった相手、って感じみたい。
確かに、エリックはいつものクールな表情をしているけど、ちょっとだけ柔らかい気もする。
と、やがてブレンドの視線が私のほうを向いた。
「おいおい、もしかして奥さんか……って……そちらの方はもしかして――」
ブレンドは私をちらと見てから、驚いたようすで目を見開いた。
さすがに隊長クラスの人となると、王城にも出入りすることはあるし、私のことを知っていたようだ。
ちらちら、と私とエリックを何度か見てから、ブレンドは頭をかいた。
「もしかして、そっちの方って……」
「まあ、そうだ。別に、何かあるわけじゃないだろ? 今はもう、ただの少女だ」
「……そうだな。それじゃあ、またあとでな」
「またあとがあるのか?」
「ああ! 久しぶりに飲みにでも行こうぜ! それじゃ、オレは後処理があるから……ケンリ! ほら、行くぞ!」
「は、はい! きょ、今日はありがとうございましたエリックさん!」
目を輝かせたケンリがそのまま、ブレンドとともに走っていった。
それから私はじーっとエリックを見ていた。
エリックは無視するように歩いていこうとしたので、私がその手を握った。
「騎士、だったんですね」
「……聞かなかったことにはならないか?」
「いえ、無理です」
……やっぱり、元騎士だったんだ。
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