愛想がないと王子に罵られた大聖女は、婚約破棄、国外追放される。 ~何もしていないと思われていた大聖女の私がいなくなったことで、国は崩壊寸前~

木嶋隆太

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第32話

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「ケンリ、無事か?」

 エリックがそう声をかけると、倒れていたケンリが笑いながら体を起こした。

「は、はいぃぃぃ……何とか。み、見事な剣でした!」
「それはどうも。こっちも助かった。中々攻めあぐねていたからお前の援護、助かった」
「そ、それは良かったです! ありがとうございまし――いだっ!」

 ケンリは笑顔を浮かべていたが、突然痛みに苦しみだした。
 ……あー、たぶんさっきの支援魔法が原因だと思う。かなり無理やりに強化しちゃったからね。
 私が急いで近づいて、ケンリの治療を開始する。

「エリックも治療しますからこちらに来てください」

 エリックも、先ほどの骸の剣士との戦いで少なからず傷ついていた。
 彼は一度自分の体を見てから首を横に振った。

「俺の治療はあとでも大丈夫だ。先に、他の人たちを治療してくれ」
「安心してください。この戦場の人たちくらいなら同時に治療できますから」

 私はそういってから、エリックの治療を始めた。
 彼は頬を引きつらせていた。それは彼だけではなく、周りにいた騎士たちもだ。

「え? う、嘘何この広範囲の回復魔法……」
「す、凄すぎる……。こ、こんな魔法使えるって一体何者なんでしょうか?」

 え、この回復魔法ってそんなに驚くことなの?

「やりすぎだぞ」
「……そ、そうですかね?」
「そうなんだよ」

 じーっとエリックがこちらを見てきたが、私は頬をかいた。
 治療はほぼ一瞬で終わり、残っていた魔物の掃討が始まった。

 骸の剣士が、魔物たちの統率者だったようだ。

 今さらながらに恐怖心を思いだしたように、魔物たちは逃げていく。
 無理に深追いはしないが、狩れる範囲の魔物は倒していくという方針みたい。

 そして、それらの戦いもすべて終わったところで、私たちはようやく一息つけた。



 次の日の朝。
 昼過ぎに目を覚ました私はそれから背中を伸ばした。

 昨日は夜更かしして魔物と戦っていたからね。昼過ぎまで寝ても文句は言われないよね。

 私は窓を開け、新鮮な空気を胸いっぱいに集めてから街を眺めていた。
 昨日の戦いの後は残っておらず、すっかり街はいつもの調子を戻している様子だった。

 私たちも、明日にはこの街を出発して当初の予定だった北の街に向かうつもりだ。
 ……旅、というのも悪くないかな。

 国外追放が決まった時はどうなるかと思っていたけど、今私はかなり楽しんでいた。

 次の街ではどんな出会いがあるのだろうか? そんな風に考えていると、部屋の扉がノックされた。
 慌てた様子のノックだったので、私もできるだけすぐに扉をあけると、険しい表情のエリックがそこにいた。
 
「どうしたんですかエリック?」
「急いで街を出るぞ、アーニャ」
「どうしたのですか?」
「おまえの捜索が始まったらしい」

 エリックの言葉に、私は首を傾げてしまった。
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