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第13話
しおりを挟むどうやら、防御はあまり得意ではないようだ。
まあ、冒険者は攻めるのが基本の職業だ。
魔物を発見したら攻撃を仕掛け、ボスを発見しても先制攻撃を仕掛ける。
基本的に、やられる前にやる、というのが冒険者なので、リアンナ家もそういった戦い方を指導しているのだろう。
だからこそ、アイフィは自分優勢の状態に持っていくために動いてきた。
魔力で肉体を強化したようで、俺の剣を弾き返すように力を込めてくる。
速度が増し、反応も良くなった。
……身体強化の魔法とは、少し違うようだ。固有魔法だろうか。
そういえば、アイフィは固有魔法を持っている、と冒険者登録を行うときに話していた気がする。
皆が使える魔力での身体強化は微々たるものだが、今のアイフィの速度はそれを遥かに凌駕している。
今度はアイフィが攻撃を連打してくる。それを受けきってみせると、アイフィの速度は落ちていく。
……時間切れ、という感じか。そう思った次の瞬間、力の乗った一撃に切り替わった。
剣で受け止めたが、重い。
だが、少し力を込めれば弾き返せる。さすがに、魔物の力――魔人化せずともまだ返せる。
それでも、さっきの一撃ならばGランク迷宮の雑魚くらいなら確実に倒せるだろう。
やはり、ずば抜けた才能だ。
これを活かすも殺すも俺次第というのは、少しプレッシャーになる。
しかし、その一撃を最後に、アイフィの動きはがくんと悪くなった。
俺が反撃で剣を振り抜くと、彼女は冷静に剣を合わせ、攻撃を受け流してくる。
しかし、額の汗はびっしりと浮かんでいる。
……変化、しているな。
今のアイフィは、剛、柔、速の三つのスタイルを切り替えているように感じる。
ただ、共通しているのは時間制限だろうか。先ほど、俺に攻め込んできたときにかなりの時間を使ってしまったためか、今はそのどれもが全力で出せないようだ。
「はぁ……ッ、はぁ……ッ!」
息を乱しながら、アイフィが俺から大きく距離を取ったところで、彼女は膝をついた。
……限界だろう。
「よし、一旦落ち着くまで休憩だ」
「……あ、ありがとう、ございました……っ」
アイフィが疲れた様子でそう声をあげ、俺は腰に下げているアイテムボックスに剣をしまい、スポーツドリンクを取り出して渡す。
彼女はそれをぐっと飲んでいく。戦闘が終わったからか、汗もかいていたのでタオルも取り出して渡す。
「……ありがとう、ございます」
「無理して話さなくていいぞ。今は休んでくれ」
「……はい。……あっ、これショウさんの匂いがしますね」
「嗅ぐな」
顔に押し付けて何やら幸せそうな表情をしている。
……次から、タオルは市販のものをそのまま用意して渡してやろうか。
そんなことを考えながら、アイフィが落ち着くまで待つ。
「さっきの戦闘、確かにかなりの腕なのは分かったよ」
「……そ、そうですか? えへへ、ありがとうございます」
ゴブリンイーター相手に持ち堪えられていたのも、アイフィだからこそだろう。
他の新人冒険者だと想像したら、最悪な結果になっていたかもしれない。
「さっき使っていた魔法は、固有魔法か?」
「はい。そうですね。モードチェンジ、という魔法ですね」
「聞いたことのない魔法だな」
「特に、前例はなかったようなので私の方で勝手にそう呼んでいます。さっきのように、状況に合わせて自分の能力配分を切り替える、感じですね」
「……力を強くしたり、速度をあげたり、集中力を高めて敵の攻撃をいなしたり、とかか」
「はい。あとまあ、一応体の強度を高めて攻撃を受けることもできますけど、痛いから使わないです」
苦い顔をするアイフィ。まあ、かわせるか捌けるなら、無理に受け止める必要なんてないだろう。
「あんまり長時間は戦えない感じか?」
「そうなんですよ。なので、色々と魔力だけでできる身体強化かと小技を覚えようかと迷っているところなんですよね」
あはは、とわらう。
……確かに、さっきの戦闘で言えば三分程度しかもっていなかった。
それを補うために色々とやってみるのも手だとは思うが、まずは固有魔法についてもう少し聞いてみたいな。
「魔力消費が激しいのか?」
「それもあるのですが特に、肉体的に厳しい感じです。もっと鍛錬を積んでいけばどうにかなるのかもしれませんけど……」
ならば、加護を受けて肉体の強度が高まればいずれは改善されるかもしれない。
……とはいえ、それが彼女の魔法となると迷宮攻略のような何度も戦闘を行う必要のあるものとは相性が良くないな。
「迷宮攻略だと使いにくい魔法ではあるな……」
「……そうなんです。それでまあ、あまり家での評価は高くなかったんです。私も分かっているので魔力のみで使える身体強化や魔力剣など、色々と研究はしているんですよね」
……継戦能力の低さは、確かにネックになるので何かしら改善するべきだろう。
試練迷宮は一人での挑戦になってしまうため、身体面はもちろん、魔力面でのスタミナが大事になる。
……仮に迷宮中で一回しかさっきの魔法を使えないとなると、ボス戦まで温存しておく必要がある。
それまで、アイフィは何の技術もなく戦うことになるため……それは結構大変だ。
とはいえ、そういった短期決戦のような魔法しかもたない人でも、Sランク冒険者にはなっている人もいるはずだ。
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