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第21話
しおりを挟む「ベルに会いに来てくれたの?」
「……はい。そうですね」
「ありがとね」
「……すみません」
俺がベルの母に会うとき。
いつも俺は彼女にそう言ってしまう。それは、ベルが俺を庇って死んでしまったからだ。
……ベルの母にも、詳細までは話していない。
俺たちは、ある依頼の途中で魔物に襲われて、死んでしまった……くらいにしか。
……全てを話せば、ベルの母さえも巻き込んでしまうと思っていたからだ。
「もう、気にしなくていいのよ。ベルだって、あなたのことが大事だったから庇ったんだろうし」
「……すみません」
「もう……とにかく、ベルに会うなら明るい顔でお願いね」
ベルの母はそういって俺の肩を叩いてから去っていった。
……俺はその背中に深く頭を下げてから、ベルの墓前へと向かう。
……俺たちが研究所から抜け出したときのことを思い出す。
あの日は、本当にたまたま、運が良かった。地震が発生し、研究所内で機械のトラブルが起き、俺たち実験体の拘束具が緩んだ。
俺たちはその瞬間に魔人化を使い、そこから脱出をした。
俺とベル以外にも、同じく捕まっていた人たち全員で逃げ出し、研究所内にけたたましいアラーム音が響いた。
脱走者たちがいたからだ。
研究所の警備はかなりのものであり、被験体の俺たちは次々に捕まるか、殺されていった。
俺とベルは、運がいい方だった。だが、それでも脱出目前で俺を銃弾が襲った。
その次の瞬間。ベルが俺を庇うように突き飛ばしてくれた。
即座に追手を倒した俺だったが、度重なる実験もあり、ベルは致命傷だった。
治療ができる知識もなく、そもそもそこがどこなのかも分かっていない状態だった。
それでも俺はベルを担いで逃げ出そうとしたのだが、ベルが俺の背中を突き飛ばした。
……そして、彼は言った。
リールゴルの街のことや母さんのことを頼む、と。
ここに来ると……あのときのことが鮮明に思い出される。
俺はベルの墓の前で両手を合わせる。
……最近は、特に話すことは何もなかったのだが、ここ数日で俺の立場が色々と変わった。
いつもなら、共通の友人だったボルトルが何かしらの問題を起こしたらそれについて話をしていた。
俺、アイフィっていう子と専属契約をしたんだよ。
……色々と事情があってな。
俺のファントムとしての活動とか全部バレてさ。
……俺のこと、全部話しちゃったんだよ。
死ぬまで、誰にも話すつもりはなかった。
ボルトルやベルの母にも聞かれたことはあったが、すべて嘘で誤魔化してきた。
それを俺は、あのときアイフィには話してしまった。
……誰かに、聞いて欲しかったんだと思う。
その言い訳として、ファントムの正体がバレたから、ではあるが……今までなら例え、そうだとしても俺は口を割ることはしなかったと思う。
「……巻き込んじまったな」
ベルに、この街の冒険者を頼む、と言われていたのに……俺自ら危険に巻き込むなんてどうかしてる。
俺たちが捕まっていた研究所は、犯罪組織と報道されていた。
だが、それはあくまで表向きの尻尾切りだ。
実際はもっと複雑だ。
この魔人化についての研究に関して、一部の犯罪組織がやっているわけではないのだ。
いくつかの国が共同で出資している、可能性がある。
……少なくとも俺は、研究所にいた時にいくつかの国の重鎮らしき人物を見たことがあったからだ。
まあ確かに……冒険者としての活動期間の短さは、今も大きな問題になっている。
ギルド職員が指導に成功しても、活躍できるのは最長で五年。
冒険者が魅力あるものだと世界的に報道されていても、危険がつきまとう仕事だし、テレビに出るような有名冒険者の下には、そこまで這い上がれなかった大量の冒険者がいることも知られている。
志望者は少しずつだが、減少傾向だ。
そうなれば、迷宮から得られる資源が減り、迷宮に関連したビジネスや魔石燃料に依存していた様々な産業へと負担がかかっていく。
今もどこかで、この研究は続けられているのだろう。
だからこそ、誰も巻き込みたくはなかったはずなのに、俺はアイフィにこのことを話してしまった。
……まあ、彼女は誰にもこれについて話すような口の軽い人間ではないと思うのだが、それでも巻き込んだという後ろめたさはある。
……あまり、考えすぎても仕方ないな。
いつまでもここでウジウジとしていては、ベルに怒られるだろう。
俺はアイフィのために全力で支援すると決めた。
……迷う必要はないだろう。
「またいい報告ができるようになったら来るよ」
俺はそういってから、ギルドへと向かう。
特に、用事があるわけではないが、何かアイフィにとってプラスになる情報があるかもしれないからな。
ギルドに到着すると、何やら職員たちが慌ただしく動いている。
……あー、これは。
何か、問題が発生したんだろうな。
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