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第5話

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 そんな咲と治では、何もかもの立場が違った。
 治は彼女と比較してしまい、その差にがっくりと肩を落としていた。

 特に治は、高校生活において決して咲ほど誇れるものはなかった。
 高校生活についてあまり触れられたくなかったため、治はその話題を切り上げるように言った。

「それで、さっきの話をしたいっていうのはこういう話なのか?」
「……えーと、その」

 ぽりぽりと頬をかいてから、彼女は頬を僅かに染めて笑った。

「あまり同年代の男子とお話をする機会というのがありませんでしたので、良い機会だと思いまして。その、それも一つの理由ですね」
「……共学だよな?」
「もちろん共学ですよ? で、ですが学校で誰かと話すなんて恥ずかしくてできませんよ!」

 叫んだあと、咲はぷしゅーっと煙でも出そうなほどに顔を真っ赤にしていた。
 咲の意外な反応に治は驚いていた。彼女の容姿ならば、彼氏がいてもおかしくはないと思っていたからだ。
 そんな治の疑問とは裏腹に、咲は人差し指を突き合わせ、照れ臭そうに話していた。

「意外だな」
「意外って言わないでください。とにかく、そういうこともありまして、嫌でなければもう少しお話でもと思いまして。色々と聞きたいこともありますし」
「もちろん、嫌じゃないよ」

 治はすぐに返事をした。これだけの美少女相手に、嫌だなんて思うことはなかった。
 ほっとしたように息を吐く彼女を、治は落ち着いた心で見ていた。

(たぶん、俺相手なら気楽に話せるんだろうな。容姿が優れているわけでもなければ、今後会うこともないような相手だしな。悩みの相談するなら、他人にしたほうが良いなんて聞いたこともあるし、そんなところだろうか)

 そう治が思ったところで、咲の視線がちらとソファをちらと向いた。そこで治ははっとする。

「その…とりあえず、風呂にも入らずソファで眠ってしまったが……汚れたりはしてないよな?」

 彼女が今腰掛けているソファは昨日治が寝ていたところだった。
 このマンションのすべてが高級そうなものばかりだったため、治はとても不安に思っていた。
 咲はソファをちらと見たが、首を横に振った。

「特に見たところ問題ありませんよ? ……あ、色々とお話ししたいと話しましたけど、気が利かなくてすみませんでした。シャワーでも浴びてきますか?」
「……え? さ、さすがにそれは悪いだろ」
「気にしないでください。別にみられて恥ずかしいものはありませんし。……あー、でも着替えとかはないですね」
「それは別に大丈夫だ。この服そのまま着ればいいし……それじゃあ、その借りても、いいか?」」

 今着ている制服を示したあと、治は訊ねた。
 一日シャワーを浴びてないと臭いが少し気になったからだ。
 こくり、と咲は頷いた。

「もちろんです。それでは、タオルはこちらで用意しますね。シャワーはこちらになります、ついてきてください」
「……ああ」

 咲がそういってソファから立ち上がり、治は大きなバスルームに驚きながら、そこで体を流した。
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