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1~10
追放と裏切り
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「セージ、貴様を我がタブリンス家より追放する。出来損ないに与える場所はない。今すぐ消え失せろ」
王都の宿泊場所である領事館に戻り、僕たちはそれぞれが授かったギフトをご当主様に報告した。
剣神を獲得したマハル様のギフト名を聞いたご当主様は滅多に見せない笑顔で褒めちぎり、【さすがワシの高貴な血を受け継ぐ息子だ】と肩を叩いた。
でも、僕のギフトが【ためて・放つ】だと告げた瞬間、ご当主様はまるでゴミを見るような目で見下ろして開口一番告げたのが追放だった。
「愚か者め……ためて放つだと? よりにもよってそんな最底辺の地味なギフトを授かりおって。貴様は最低の失敗作だ。ワシに恥をかかせた報いを受けろ」
「し、失敗……作……」
まるで人間を見る目ではなかった。失敗作だなんて、まるでモノ扱いをされているようで戸惑いを隠せない。
「こんな事なら下賎なメイドに種をくれてやるんではなかったわっ」
「げ、下賎なメイド……まさか母上の事を言っているのですかっ! 取り消してくださいっ! いくらご当主様でもっ」
「黙れゴミが。せめて役に立つギフトなら使い道もあったろうに」
恐れていた最悪の事態だった。
タブリンス家において、平民の血を引く僕は貢献以外に居場所を得られない。
だけど僕はその期待に応えるために必死の努力を重ねてきた。
剣も魔法も学問も……。厳しい訓練に耐え、睡眠を削って学び、必死に必死に結果を出し続けてきた。
だけど、人生でたった一度、与えられる事自体が奇蹟に等しいギフトが得られなかっただけで用なしだと切り捨てられた。
何よりも悲しいのは母上に対する暴言だった。
僕の不甲斐なさは仕方ない。だけど僕を愛して育ててくれた母上に対しての屈辱的な言葉は、これまでの家族関係を根底から全否定するものだった。
「何度でもいいますっ! 母上を侮辱する言葉は看過できませんっ! 取り消してくださいっ」
「黙れ! ワシの高貴な血を受け継ぎながらゴミのようなギフトしか持たぬ出来損ないになりおって。所詮平民の血は平民の血か」
「なんてことを……正気ですかご当主様」
「ワシは至って正気だ。貴様の母も女としてそれなりに気に入っていたが、魔力持ちであればこそだ。そうでなければ誰があのような女に子種を仕込むものかっ!」
知らなかった……。ご当主様がここまで過激な選民思想の持ち主だったなんて。
いや違う……知っていた筈なんだ。こうなるのが何より怖くて必死に努力してきたのに。
僕が何を言っても聞き入れてもらえず、母上への暴言も取り消してもらえなかった。
「もう一度言う。一刻も早くワシの前から消え失せろ。ワシを不快にさせた罰だ。できるだけ惨めに残りの人生を生きろ。そして惨たらしく死ね」
「……そんな」
酷い……。いくらなんでも酷すぎる……。
「それは手切れ金だ。今夜のうちに消え失せろ。日が昇ってまだここに残っていたら打ち首だと知れ」
小さな布袋を投げつけられ、ジャリンと音を立てる。
お金、か……。心が凍ったように冷たくなっていくのが分かる。
ご当主様は言いたいことだけ言ってさっさと自分の部屋へ戻ってしまった。
そして僕も、愛する母上への暴言を吐き続けるご当主様に対してこれ以上反論する気は起きなかった。
◇◇◇
既に日は堕ちきっている。
もうこの屋敷で朝を迎える事すら許されず、今夜のうちに王都を出て行くように命じられた。
「ご当主様はお見送りもなし、か……。やっぱり僕はその程度の存在だったんだな」
これまでの15年の歳月全てが無に帰す。それどころか汚点だと言い切ったご当主様にとって、僕は文字通りゴミなのだろう。
せめてもの情けとして王都の隣にある冒険者の町「ダータルカーン」への馬車を手配してもらえる事になった。
一刻も早く消えてほしいらしい。
手切れ金として僅かな金銭を持たされ、最低限の装備と旅支度で玄関へと向かう。
「セージ様ッ!」
「セージ様ぁっ!」
「ミレイユ……みんな」
廊下を歩く僕に声を掛けたのは屋敷に奉公しているメイド達だった。
その中の1人、ミレイユ。
パールピンクの髪を二つに結び、宝石のような瞳は文字通りピンクサファイアのように美しかった。
彼女は平民の娘でありながら、10歳の頃からお屋敷に奉公している中堅メイドでもある。
それ故にメイド長や家令長からの覚えも良く、仕事も出来る上に領民からの人気が高いので信頼も厚い。
病気の妹のために一生懸命働く彼女の姿に何度勇気づけられたか分からない。
一つ年下の彼女とは年が近い事もあって何かと話が合うことが多かった。正直使用人の中で一番仲が良かったのが彼女だ。
タブリンス家に仕えるメイドの中には平民から選抜されて奉公している子が何人もいる。
しかし貴族特有の選民思想のせいでかなり冷遇されており、半分平民の僕とは話しやすかったようで、よくみんなで休憩時間にお茶会をしたりしていた。
だから僕が追放されたと聞きつけて見送りに来てくれたのだ。
「ご当主様、酷いです。これまで血の滲むような努力をされてきたセージ様を……」
「そうです。いくらギフトが大事だからって」
「ダメだよみんな。それ以上は不敬に当たる。誰かに聞かれたら処罰じゃ済まない」
「でもっ」
「僕はいいんだ。ご当主様からはちゃんと手切れ金を頂いているし、どうとでも生きていける」
「そんな……寂しいです。私たちも連れて行ってください」
「ダメだよ。僕にはもう何も残っていない。でも君たちにはちゃんと住むところと仕事がある」
「だけど……。セージ様がいないタブリンス家にいても意味がないです」
「ありがとう、その言葉だけで十分だ。もう行くよ」
「セージ様ッ」
「セージ様ぁ」
「みんな。これ以上はセージ様にご迷惑よ。セージ様……分かりました。ならせめて、こちらを」
「これは」
ミレイユは茶色の鞘に収められた一振りのショートソードを手渡してくれた。
「メイド達でお金を出し合って買いました。来月のお誕生日に送ろうと思って」
「そんな、ミレイユは妹さんの薬代もあるのに、こんな良い物を」
剣なんてどれだけ低級であっても決して安い代物じゃない。
「いいんです。この頃は妹の体調もよくて、少しずつ余裕が出てきたんです。それでも安物しか買えなかったことが心苦しいですが……」
「いいや、伝説の聖剣にも勝る最高の贈り物だよ。ありがとう」
ミレイユが渡してくれたのは決して低級な品ではなく、鞘の質感や柄の握り具合を見るだけで腕の良い職人による業物であることが分かる。
鞘から引き抜いたショートソードの刃は、よく磨かれていて手入れも行き届いていた。
旅先にまで持ってくるほど大事に扱ってくれていたのが手に取るように分かった。
「セージ様、どうかお元気で。さよならは申しません。メイド達一同、いつかお会いできるように。どうか、お願いします」
「分かった、約束する。生活が落ち着いたら手紙を出すから、それまでみんな、息災でね」
「はい。お待ちしてますっ」
「絶対帰ってきてくださいねっ!」
「私達みんな、待ってますからっ」
それ以上は言葉にすることなく、僕はメイドのみんなに別れを告げて屋敷を出た。
◇◇◇
「よろこべセージ。ダータルカーンまでは俺が送っていく事になった」
「身に余る光栄です。しかし私には勿体無い。馬車を手配して頂けるだけで十分でございますれば……」
「ふん。お前に決定権はない。さっさと馬車に乗れ」
「……分かりました」
マハル様は自分は貴族用の立派な馬車へ。僕はその後ろに準備された別の馬車に乗せられた。
窓がなく、魔力ランプ一つの灯り以外は何もない質素な幌だった。
「まるで囚人だな……」
間違ってもミレイユを連れて行くことはできない。これから僕には過酷な生活が待っているのだから……。
王都を出てしばらく。
馬車は隣町に向かって順調に進んでいた。といっても外が見えないのでどのくらい進んでいるのか分からない。
「ついたぞ」
「え?」
出発をして数時間は経っただろうか。何故だか馬車が止まる。
不思議に思って御者に確認しようと窓を開けようとしたところで、不意に外に出るように促してくる。
「こんなに早く? まだ出発してそんなに経ってないじゃありませんか」
外は真っ暗だ。考えてみれば真夜中の暗闇で月明かりを頼りに馬車を走らせるなんて危険極まりないのに……。
王都とダータルカーンの間には凶暴なモンスターが跋扈する魔の森がある。
道中には宿を取れるような宿場町もないので、ここで停まるのは危険度が高いはず。
「ここがお前の降りる場所だよ」
「な、何をおっしゃるのですかっ! ここは森の入り口じゃ……」
「いいからさっさと馬車から降りろよっ」
「うわっ、ちょ、ちょっと」
マハル様に腕を引っ張られ、馬車の外に放り出されてしまう。
無防備な地面に尻餅を付き、困惑する僕を彼の蹴りが追い打ちする。
「がふっ、な、何を……」
「口の利き方に気を付けろよ愚民」
「……」
ご当主様と同じゴミを見る目。月明かりとカンテラの火に浮かび上がり、まるで悪魔かと見紛うほどの邪悪な笑みで口元を歪めている。
「……ここで僕を始末するってわけですか」
「その通りだゴミがッ! やっと目障りなお前を堂々と排除することができる」
「何もしなくても僕はいなくなります。わざわざ始末してくれなくたって」
「それじゃ俺の気が収まらない。だからここで魔物に襲われてお前は死ぬ。そういう筋書きになるんだ。俺がそうするんだよ」
殺意の籠もった目。この男は本気だ。
もはや様なんて付けるに値しない。目の前にいるのは殺意を持った敵だった。
ザクッ!
「うわぁああああああっ!」
太ももに激痛が走る。
目にもとまらないスピードで鞘から引き抜かれた騎士剣を太ももに突き刺され、地面に縫い付けられた。
「ははははっ! 剣神のスキルは素晴らしいなっ。愚民の分際で剣も魔法も俺を追い抜きやがって。ずっと疎ましかったんだ。お前の存在自体が心底気に食わなかった」
「そ、それは、僕だって必死に努力して。それに、将来はあなたをお守りするのが僕の役目です。そのために努力してきたんですっ」
それは本当に嘘じゃない。どれだけ冷遇されても必死に努力すれば認めてもらえると信じていた。
曲がりなりにも育ててもらった恩を返すため、命をかけてタブリンス家に尽くすつもりだったのは本気だ。
「だまれっ。剣神ギフトを授かったこれからは違うっ! 俺は神に選ばれたんだ。ゴミギフトの貴様とは全てが違う」
「くっ!」
マハルの目は本気だった。痛む足を引きずりながら歯を食いしばって森に向かって走り出す。
「はははっ! 真夜中の魔の森に逃げてどうする気だっ。モンスター達のエサになって惨たらしく死ぬだけだぞっ! フラッシュアローッ」
「ぐぁああああっ、あぐっ」
背中に迫った熱量に身の危険を感じ、身をよじって光の矢を避けるも、肩を貫いてしまう。
「くっ……このままじゃ……」
死にたくない。その一心で必死になって走る。
「ははははっ。バカめ。自分から行き止まりに追い詰められたな」
執拗に追いかけてくるマハルの追撃を死に物狂いで躱しながら走り続けたが、やがて崖の端っこに追い詰められてしまった。
「終わりだ。俺の剣に心臓を貫かれるか。崖から落ちて叩き付けられるか。好きな方を選べ……」
「はぁ……はぁ……どちらも、お断りだっ! あんたはクズだっ。人間のクズッ!」
「ふん。生意気な口を……。そうだな、足を切り落として動けなくしてやろう。そろそろモンスターが血の臭いを嗅ぎつけてくる頃だ。お前を囮にして俺は帰るとしようか」
低く笑うマハルの邪悪に歪んだ顔が月明かりに浮かび上がり、僕は死の予感に身を焦がされた。
ジリジリと追い詰められ、もう後がない。
このままじゃ本当に殺される。剣神のスキルはこれまでのマハルの剣速とは比べものにならない速度を生み出していた。
戦って勝てる未来は見えなかった。
ウオオオオオオオン
マハルの殺気が増していよいよ剣を構えるのと同時に、遠くの方からオオカミの遠吠えが響く。
この森に住む凶悪なフォレストウルフだ。最近は危険な変異種「イレギュラー」が出現したという噂もある。
「そろそろ引き上げないとこちらも危険だな。死ねセージッ!」
「くっ!」
このままじゃ確実に殺される。そう思った僕は思いきって後ろに飛ぼうと足に力を込めた。
が、その瞬間に足場が崩れてバランスを失った体は浮遊感に包まれてしまう。
「うわっ、ぁああああああっ――――」
「バカめッ、自ら死を選んだか」
蔑みの笑いを浮かべるマハルの表情に悲しみを覚えながら、僕は崖下に真っ逆さまに落ちていった。
王都の宿泊場所である領事館に戻り、僕たちはそれぞれが授かったギフトをご当主様に報告した。
剣神を獲得したマハル様のギフト名を聞いたご当主様は滅多に見せない笑顔で褒めちぎり、【さすがワシの高貴な血を受け継ぐ息子だ】と肩を叩いた。
でも、僕のギフトが【ためて・放つ】だと告げた瞬間、ご当主様はまるでゴミを見るような目で見下ろして開口一番告げたのが追放だった。
「愚か者め……ためて放つだと? よりにもよってそんな最底辺の地味なギフトを授かりおって。貴様は最低の失敗作だ。ワシに恥をかかせた報いを受けろ」
「し、失敗……作……」
まるで人間を見る目ではなかった。失敗作だなんて、まるでモノ扱いをされているようで戸惑いを隠せない。
「こんな事なら下賎なメイドに種をくれてやるんではなかったわっ」
「げ、下賎なメイド……まさか母上の事を言っているのですかっ! 取り消してくださいっ! いくらご当主様でもっ」
「黙れゴミが。せめて役に立つギフトなら使い道もあったろうに」
恐れていた最悪の事態だった。
タブリンス家において、平民の血を引く僕は貢献以外に居場所を得られない。
だけど僕はその期待に応えるために必死の努力を重ねてきた。
剣も魔法も学問も……。厳しい訓練に耐え、睡眠を削って学び、必死に必死に結果を出し続けてきた。
だけど、人生でたった一度、与えられる事自体が奇蹟に等しいギフトが得られなかっただけで用なしだと切り捨てられた。
何よりも悲しいのは母上に対する暴言だった。
僕の不甲斐なさは仕方ない。だけど僕を愛して育ててくれた母上に対しての屈辱的な言葉は、これまでの家族関係を根底から全否定するものだった。
「何度でもいいますっ! 母上を侮辱する言葉は看過できませんっ! 取り消してくださいっ」
「黙れ! ワシの高貴な血を受け継ぎながらゴミのようなギフトしか持たぬ出来損ないになりおって。所詮平民の血は平民の血か」
「なんてことを……正気ですかご当主様」
「ワシは至って正気だ。貴様の母も女としてそれなりに気に入っていたが、魔力持ちであればこそだ。そうでなければ誰があのような女に子種を仕込むものかっ!」
知らなかった……。ご当主様がここまで過激な選民思想の持ち主だったなんて。
いや違う……知っていた筈なんだ。こうなるのが何より怖くて必死に努力してきたのに。
僕が何を言っても聞き入れてもらえず、母上への暴言も取り消してもらえなかった。
「もう一度言う。一刻も早くワシの前から消え失せろ。ワシを不快にさせた罰だ。できるだけ惨めに残りの人生を生きろ。そして惨たらしく死ね」
「……そんな」
酷い……。いくらなんでも酷すぎる……。
「それは手切れ金だ。今夜のうちに消え失せろ。日が昇ってまだここに残っていたら打ち首だと知れ」
小さな布袋を投げつけられ、ジャリンと音を立てる。
お金、か……。心が凍ったように冷たくなっていくのが分かる。
ご当主様は言いたいことだけ言ってさっさと自分の部屋へ戻ってしまった。
そして僕も、愛する母上への暴言を吐き続けるご当主様に対してこれ以上反論する気は起きなかった。
◇◇◇
既に日は堕ちきっている。
もうこの屋敷で朝を迎える事すら許されず、今夜のうちに王都を出て行くように命じられた。
「ご当主様はお見送りもなし、か……。やっぱり僕はその程度の存在だったんだな」
これまでの15年の歳月全てが無に帰す。それどころか汚点だと言い切ったご当主様にとって、僕は文字通りゴミなのだろう。
せめてもの情けとして王都の隣にある冒険者の町「ダータルカーン」への馬車を手配してもらえる事になった。
一刻も早く消えてほしいらしい。
手切れ金として僅かな金銭を持たされ、最低限の装備と旅支度で玄関へと向かう。
「セージ様ッ!」
「セージ様ぁっ!」
「ミレイユ……みんな」
廊下を歩く僕に声を掛けたのは屋敷に奉公しているメイド達だった。
その中の1人、ミレイユ。
パールピンクの髪を二つに結び、宝石のような瞳は文字通りピンクサファイアのように美しかった。
彼女は平民の娘でありながら、10歳の頃からお屋敷に奉公している中堅メイドでもある。
それ故にメイド長や家令長からの覚えも良く、仕事も出来る上に領民からの人気が高いので信頼も厚い。
病気の妹のために一生懸命働く彼女の姿に何度勇気づけられたか分からない。
一つ年下の彼女とは年が近い事もあって何かと話が合うことが多かった。正直使用人の中で一番仲が良かったのが彼女だ。
タブリンス家に仕えるメイドの中には平民から選抜されて奉公している子が何人もいる。
しかし貴族特有の選民思想のせいでかなり冷遇されており、半分平民の僕とは話しやすかったようで、よくみんなで休憩時間にお茶会をしたりしていた。
だから僕が追放されたと聞きつけて見送りに来てくれたのだ。
「ご当主様、酷いです。これまで血の滲むような努力をされてきたセージ様を……」
「そうです。いくらギフトが大事だからって」
「ダメだよみんな。それ以上は不敬に当たる。誰かに聞かれたら処罰じゃ済まない」
「でもっ」
「僕はいいんだ。ご当主様からはちゃんと手切れ金を頂いているし、どうとでも生きていける」
「そんな……寂しいです。私たちも連れて行ってください」
「ダメだよ。僕にはもう何も残っていない。でも君たちにはちゃんと住むところと仕事がある」
「だけど……。セージ様がいないタブリンス家にいても意味がないです」
「ありがとう、その言葉だけで十分だ。もう行くよ」
「セージ様ッ」
「セージ様ぁ」
「みんな。これ以上はセージ様にご迷惑よ。セージ様……分かりました。ならせめて、こちらを」
「これは」
ミレイユは茶色の鞘に収められた一振りのショートソードを手渡してくれた。
「メイド達でお金を出し合って買いました。来月のお誕生日に送ろうと思って」
「そんな、ミレイユは妹さんの薬代もあるのに、こんな良い物を」
剣なんてどれだけ低級であっても決して安い代物じゃない。
「いいんです。この頃は妹の体調もよくて、少しずつ余裕が出てきたんです。それでも安物しか買えなかったことが心苦しいですが……」
「いいや、伝説の聖剣にも勝る最高の贈り物だよ。ありがとう」
ミレイユが渡してくれたのは決して低級な品ではなく、鞘の質感や柄の握り具合を見るだけで腕の良い職人による業物であることが分かる。
鞘から引き抜いたショートソードの刃は、よく磨かれていて手入れも行き届いていた。
旅先にまで持ってくるほど大事に扱ってくれていたのが手に取るように分かった。
「セージ様、どうかお元気で。さよならは申しません。メイド達一同、いつかお会いできるように。どうか、お願いします」
「分かった、約束する。生活が落ち着いたら手紙を出すから、それまでみんな、息災でね」
「はい。お待ちしてますっ」
「絶対帰ってきてくださいねっ!」
「私達みんな、待ってますからっ」
それ以上は言葉にすることなく、僕はメイドのみんなに別れを告げて屋敷を出た。
◇◇◇
「よろこべセージ。ダータルカーンまでは俺が送っていく事になった」
「身に余る光栄です。しかし私には勿体無い。馬車を手配して頂けるだけで十分でございますれば……」
「ふん。お前に決定権はない。さっさと馬車に乗れ」
「……分かりました」
マハル様は自分は貴族用の立派な馬車へ。僕はその後ろに準備された別の馬車に乗せられた。
窓がなく、魔力ランプ一つの灯り以外は何もない質素な幌だった。
「まるで囚人だな……」
間違ってもミレイユを連れて行くことはできない。これから僕には過酷な生活が待っているのだから……。
王都を出てしばらく。
馬車は隣町に向かって順調に進んでいた。といっても外が見えないのでどのくらい進んでいるのか分からない。
「ついたぞ」
「え?」
出発をして数時間は経っただろうか。何故だか馬車が止まる。
不思議に思って御者に確認しようと窓を開けようとしたところで、不意に外に出るように促してくる。
「こんなに早く? まだ出発してそんなに経ってないじゃありませんか」
外は真っ暗だ。考えてみれば真夜中の暗闇で月明かりを頼りに馬車を走らせるなんて危険極まりないのに……。
王都とダータルカーンの間には凶暴なモンスターが跋扈する魔の森がある。
道中には宿を取れるような宿場町もないので、ここで停まるのは危険度が高いはず。
「ここがお前の降りる場所だよ」
「な、何をおっしゃるのですかっ! ここは森の入り口じゃ……」
「いいからさっさと馬車から降りろよっ」
「うわっ、ちょ、ちょっと」
マハル様に腕を引っ張られ、馬車の外に放り出されてしまう。
無防備な地面に尻餅を付き、困惑する僕を彼の蹴りが追い打ちする。
「がふっ、な、何を……」
「口の利き方に気を付けろよ愚民」
「……」
ご当主様と同じゴミを見る目。月明かりとカンテラの火に浮かび上がり、まるで悪魔かと見紛うほどの邪悪な笑みで口元を歪めている。
「……ここで僕を始末するってわけですか」
「その通りだゴミがッ! やっと目障りなお前を堂々と排除することができる」
「何もしなくても僕はいなくなります。わざわざ始末してくれなくたって」
「それじゃ俺の気が収まらない。だからここで魔物に襲われてお前は死ぬ。そういう筋書きになるんだ。俺がそうするんだよ」
殺意の籠もった目。この男は本気だ。
もはや様なんて付けるに値しない。目の前にいるのは殺意を持った敵だった。
ザクッ!
「うわぁああああああっ!」
太ももに激痛が走る。
目にもとまらないスピードで鞘から引き抜かれた騎士剣を太ももに突き刺され、地面に縫い付けられた。
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それは本当に嘘じゃない。どれだけ冷遇されても必死に努力すれば認めてもらえると信じていた。
曲がりなりにも育ててもらった恩を返すため、命をかけてタブリンス家に尽くすつもりだったのは本気だ。
「だまれっ。剣神ギフトを授かったこれからは違うっ! 俺は神に選ばれたんだ。ゴミギフトの貴様とは全てが違う」
「くっ!」
マハルの目は本気だった。痛む足を引きずりながら歯を食いしばって森に向かって走り出す。
「はははっ! 真夜中の魔の森に逃げてどうする気だっ。モンスター達のエサになって惨たらしく死ぬだけだぞっ! フラッシュアローッ」
「ぐぁああああっ、あぐっ」
背中に迫った熱量に身の危険を感じ、身をよじって光の矢を避けるも、肩を貫いてしまう。
「くっ……このままじゃ……」
死にたくない。その一心で必死になって走る。
「ははははっ。バカめ。自分から行き止まりに追い詰められたな」
執拗に追いかけてくるマハルの追撃を死に物狂いで躱しながら走り続けたが、やがて崖の端っこに追い詰められてしまった。
「終わりだ。俺の剣に心臓を貫かれるか。崖から落ちて叩き付けられるか。好きな方を選べ……」
「はぁ……はぁ……どちらも、お断りだっ! あんたはクズだっ。人間のクズッ!」
「ふん。生意気な口を……。そうだな、足を切り落として動けなくしてやろう。そろそろモンスターが血の臭いを嗅ぎつけてくる頃だ。お前を囮にして俺は帰るとしようか」
低く笑うマハルの邪悪に歪んだ顔が月明かりに浮かび上がり、僕は死の予感に身を焦がされた。
ジリジリと追い詰められ、もう後がない。
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戦って勝てる未来は見えなかった。
ウオオオオオオオン
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「そろそろ引き上げないとこちらも危険だな。死ねセージッ!」
「くっ!」
このままじゃ確実に殺される。そう思った僕は思いきって後ろに飛ぼうと足に力を込めた。
が、その瞬間に足場が崩れてバランスを失った体は浮遊感に包まれてしまう。
「うわっ、ぁああああああっ――――」
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書道が大好き(強制)なごくごく普通の
一般高校生真田蒼字、しかし実際は家の
関係で、幽霊や妖怪を倒す陰陽師的な仕事
を裏でしていた。ある日のこと学校を
出たら目の前は薄暗い檻の中なんじゃ
こりゃーと思っていると、女神(駄)が
現れ異世界に転移されていた。魔王を
倒してほしんですか?いえ違います。
失敗しちゃった。テヘ!ふざけんな!
さっさと元の世界に帰せ‼
これは運悪く異世界に飛ばされた青年が
仲間のリル、レイチェルと楽しくほのぼの
と商売をして暮らしているところで、
様々な事件に巻き込まれながらも、この
世界に来て手に入れたスキル『書道神級』
の力で無双し敵をバッタバッタと倒し
解決していく中で、魔王と勇者達の戦いに
巻き込まれ時にはカッコよく(モテる)、
時には面白く敵を倒して(笑える)いつの
間にか世界を救う話です。
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