地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~

かくろう

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傲慢な男とオークション

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 夜の王都。閉ざされた地下の広間には、燭台に揺れる光が血のような影を描き、獣の吐息のようなざわめきが渦巻いていた。

 そこに現れた二人の男――父と子は、誰よりも場を支配し、誰よりも嫌悪を集める存在だった。

 ゴルドール・タブリンス。
 年の頃は四十。全身を覆う厚い筋肉と戦場を幾度も渡り歩いた風貌。武人として見れば頼もしさを感じさせる体躯だが、その眼光は戦士の誇りではなく、底知れぬ支配欲と強欲を映している。剣を握れば百を屠るだろう豪腕。しかし彼が欲するのは戦場の栄光ではない。人を所有し、血を縛り、家を己の延長として支配することだ。
 彼は「父」でありながら、子を育む慈しみを欠片も持たない。息子を「家の証明」、女を「繁殖の器」としか認識しない。

 笑えば笑うほど、そこに滲むのは人間を数字に還元する冷酷さ。領民の血税を浪費して女を買い、領地を荒廃させながらも「私がいるから家は栄光なのだ」と嘯く。

 その口調は穏やかで、低く落ち着いているが、言葉の裏には他者を一切人間と認めない傲慢さが潜む。

 彼が一歩進み出るたび、壁に刻まれた古代の石文すら重みに怯えるかのように影を震わせた。

 マハル。

 年は十五。父から与えられた財と地位を当然のように受け取り、傲岸不遜に振る舞う少年。

 顔立ちは整っている。だが、整った顔こそが逆に醜悪さを際立たせる。笑えば笑うほど、口元に宿るのは純粋な悪意であり、眼差しには相手を弄び、踏みにじることしか映らない。

 若さの無邪気さを装いながら、その実、弱者の呻きや涙を嗜好品として貪る小悪魔のような邪悪さを放っていた。

 彼は父を誇り、父の腐敗を受け継ぐことを当然とする。人を支配することを「選ばれし自分の権利」と信じ込み、誰かを痛めつけて屈服させることを「愉快」と笑う。その笑みはあまりにも純粋で、だからこそ醜悪であった。

 二人は並んで立つだけで、会場の空気を腐らせる。

 ゴルドールは権威の仮面を被りながら、「タブリンスの血こそ至高」「人は我らのために存在する」と嘯く。言葉は低く穏やかであるが、耳にした瞬間、誰もが吐き気を催す。なぜなら彼の論理には、慈悲も人倫も存在しないからだ。

 マハルはその隣で、あどけなさを残す顔に邪悪な笑みを浮かべる。彼は檻の中に押し込まれた人々を指差して笑い、恥と恐怖を嗤いものにする。彼にとって仲間も民も同じ――すべては遊びの舞台であり、自分の退屈を晴らす駒でしかない。

 父は冷酷な支配者。子は嗜虐を喜ぶ悪魔。
 二人が揃うことで生まれるのは、社会を腐らせる病巣そのものであった。

 そして今夜。
 銀狐族という「獲物」を狙う彼らの姿は、救いようのない邪悪の象徴としてそこに在る。
 彼らの眼差しには誇りも理想もなく、ただ「欲望」と「嘲笑」だけが燃えている。
 ――誰が見ても、吐き気を催すほどに。


 ◇◇◇

【sideマハル】
「マハル。お前も成人したことだし、そろそろ自由にできる女を持って良い頃だ」
「はい、父上」
「今度王都の地下でオークションが行なわれる。そこに出品される銀狐族を買ってこい。金は用意してやる」

「……銀狐族ッ! 本当ですか父上っ」
 俺の胸が高鳴った。

 俺は選ばれし存在、タブリンス家という国内最高のオメガ貴族の嫡男。
 あの忌々しい腹違いの兄――セージを消してから、人生は順風満帆だ。

「いいかマハル。私の息子として生まれたからには、セージのような汚点を残すことは絶対に許さん。高位の種族を孕ませ、優秀な子を産ませるのだ」
「承知しております。全てはタブリンス家の――」
「違う。この私のためだ。タブリンス家は私がいるからこそ栄光なのだ。お前はその証となれ」
「……はい、父上」

 父上は絶対だ。俺はその栄光を継ぐ者。
 銀狐族を孕ませ、帝王種の血を我がものとする。それが俺の宿命だ。

 三億ルクス――大金を手に、俺はオークションの場へと赴いた。


 ◇◇◇

『これより特別オークションを開催いたします――』

 闇の会場には香の煙と酒の匂い、そして飢えた獣のような眼差しが渦巻いていた。
 この狂気の渦を支配するのは俺だ。

「さて、俺の女になる幸運な銀狐族はどんな顔をしているのか……」

 次々と奴隷や秘薬が出される。
 だが、本命は最後――銀狐族。

『続いては、極上の美少女メイド四人! なんと処女保証付き!』

 ステージに並んだ顔を見て、俺は口の端を吊り上げた。
「ははは……いいザマだな、ゴミ共」

 セージに心酔し、俺に逆らった愚民メイド四人。
 哀れな末路。奴隷として売られる姿を見ることこそ最高の酒の肴。


 ◇◇◇

【sideセージ】

「……な」
 目に飛び込んできた光景に、脳髄が焼けるような衝撃が走った。

 檻に押し込まれた――ミレイユ、シャミー、レイシス、アーリア。
 俺の拳は血が滲むほど握り締められた。

「マハルッ……!」
 吐き捨てるように名を呼ぶ。

 思い出すのは母のこと。
 黒髪黒目の希少な魔力持ちの女。まだ若く、処女だった母上を、あの男――ゴルドール・タブリンスが領民の血税で買った。
 まるで贅沢品のように。

 その結果が俺だ。
 買われた母と、その子として生まれた俺を、マハルも父も「汚点」と罵った。

 ――許せるものか。

 あの時の怒りが今も胸を灼いている。
 その血を継いだマハルが、今度はリンカを手に入れようとしている。
 同じことを繰り返すつもりか。

「絶対に……させるかッ!」

 視線の先、マハルがいやらしい笑みを浮かべながら競りに加わっていた。
 僕の仲間を、弄びの道具として笑っている。

 血が逆流するような怒りが全身を駆け巡った。
 こめかみが脈打ち、視界が赤く染まる。

「セージ様、迷ってはいけません!」
 隣でエリスが声を張る。

「このまま見捨てれば後悔しますわ! リンカ様もきっと望まれません!」

 心を撃たれた。
 そうだ。俺は、誰一人犠牲にしたくない。

「……ありがとう、エリス」

 俺は声を張り上げた。
「五千万ルクスッ!」

 会場がどよめく。
 マハルの目がこちらを射抜き、憎悪の火花が交錯した。

 ◇◇◇

『さあ、いよいよ本日の超目玉商品――』

 重い鉄格子が舞台に押し出される。
 どよめきが爆ぜ、歓声へと変わる。

 銀の髪、虚ろな瞳、着飾られた少女――リンカ。

「……リンカ」
 俺の喉が震えた。

『銀狐族! しかも処女保証付き! 五千万ルクスからスタート!』

 観衆は狂喜乱舞する。
 その欲望の視線に、俺の怒りは再び膨れ上がった。

「マハル……お前だけは許さん」
 母を辱め、仲間を弄び、今度はリンカまで――
 絶対にここで終わらせる。

 震える拳を、エリスがそっと握った。
「大丈夫ですわ、セージ様。勝つのは私達」

「……ああ。リンカ、必ず取り戻す」

 ――地獄のオークション。
 最後の決戦が始まろうとしていた。





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