地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~

かくろう

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魔将、あらわる

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 僕たちは、ダータルカーンの街を出発した。
 ギルドからの正式な依頼を受け、今回の目的地はあの「囁く迷宮」のさらに奥。セレスを捕まえていた連中の拠点は潰したが、調査の結果、その先に“もっと深い領域”があると判明したのだ。

「セージ君、気を引き締めていきましょう。今回の依頼は、教団の本格的な動きを探るものだから」
「ん……油断しない」
「わたくしも……皆様のお力になれるよう、努めます」

 リンカは凛とした声で、ルミナスは短く、セレスは不安を抱えながらも真剣な瞳で。
 それぞれが自分の役割を理解し、歩を進めていた。

 入口からしばらく進んだ頃、湿った空気に混じって、不吉な気配が広がってきた。
「……来るわよ」
 リンカの耳がぴくりと動いた瞬間、闇の中からスケルトンとゾンビの群れが現れた。

「数、多い……」
「だけど、大丈夫。僕たちで突破する!」

 リンカが矢を放ち、ルミナスが《ファイア・バレット》を連射してゾンビを焼き払う。
 僕は剣を握りしめ、浄化の光を纏わせてスケルトンを一閃した。

「――ライト・セイバー!」
 白光が骨を砕き、暗闇を裂いていく。

「わたくしも……《ホーリー・シールド》!」
 セレスが光の防壁を展開し、後方から仲間を守ってくれる。淡い光が仲間たちを包み込み、呪詛の力をかき消していくのが分かった。

「セレス……ありがと!」
「いえ……! これが、わたくしにできることですから」

 しばらくして、アンデッドの群れは完全に沈黙した。灰と魔石だけが、床に残される。


 休息をとりながら、僕らはさらに奥へ進んだ。
 ここは以前セレスが囚われていた場所よりもずっと奥。壁には古代の文字が刻まれ、紫の苔の光が揺らめいている。

「……空気が、重い」
「ん……嫌な気配。強いの、いる」
「セージ君、気をつけて。ここからが本番かもしれないわ」

 全員の表情が引き締まる。

 やがて、広間のような場所に辿り着いた。天井は高く、岩壁のあちこちから赤い光が漏れ出している。
 その中央に――炎の渦が生まれた。

「な、なんだ……⁉」
「これは……ただの魔物じゃない!」

 灼熱の風が吹き荒れ、視界が揺らぐ。
 やがて現れたのは、黒鉄の鎧を纏い、燃え盛るマントを背負った巨躯の男。

「フハハハッ……人間ども、ここまで来るとは見事だ。だが、ここで灰と化せ」

 大剣を振り上げると、火柱が広間を走った。

 僕たちは、一瞬で理解した。ここから先は、今までの戦いとは桁が違う。

「そうか、こいつが……」
「分かるわ。今までの奴らとは、明らかに違う」

「熱いのに、寒気がする」

「なんて恐ろしい……」


 熱気が空間を満たし、肌を焼くような熱風が押し寄せてきた。
 爆ぜる炎と共に現れたのは、黒鉄の鎧に全身を覆われ、燃え盛るマントを背負った巨躯の男――間違いなく、こいつが炎の魔将イグニスだろう。

「ふんっ」

 大剣を振るうたびに火柱が走り、床石が溶けていく。圧倒的な存在感に、思わず息が詰まった。

「セージ君、来るわ!」
「ん……大きい。強い」

 リンカとルミナスが同時に身構える。次の瞬間、イグニスの炎の奔流が押し寄せてきた。


 炎の刃が空間を切り裂く。僕は即座に剣を構え、衝撃を受け止めた。
「うおおおおっ……!」
 重すぎる。力任せに押し潰すような一撃だ。普通の冒険者なら一瞬で灰になる。

「《ホーリー・シールド》!」
 セレスが光の盾を展開し、迫り来る炎を遮った。眩しい光が僕らを包み、熱気を和らげてくれる。
「ありがとう、セレス!」

「セージ君、隙を狙うわ!」
 リンカが矢を番え、疾風のように放つ。だが、イグニスは鎧の肩で受け流し、炎の反撃を浴びせてきた。

「……っ、炎が強すぎる。押し切れない!」
「ルミナス、炎で消す……《ファイア・ランス》!」

 ルミナスの炎の槍が火柱を貫く。しかし、すぐにかき消され、逆に熱気に押し返されてしまう。
「セージ……炎、炎じゃ、勝てない」
 額に汗を滲ませながら、必死に声を上げるルミナス。たぶん同じ属性同士だと、純粋に威力が高い方が勝つんだろう。

 その瞬間、あの女声が脳裏に響いた。

――――――――――――――――――

――『フィーリングリンクで新たな属性適性・氷属性魔法を習得可能です。習得には魔素ストック300,000を消費します。消費しますか?』

――――――――――――――――――

 ……来た。いつも僕らを助けてくれる謎の声。
 迷う理由はなかった。
(やれ! ルミナスに力を!)

「……来た。冷たい……力」
 ルミナスの周囲に白い霧が立ちこめ、炎とは正反対の冷気が生まれた。
「《アイス・ランス》!」

 鋭い氷槍が無数に生成され、炎の奔流を貫いて消し去る。灼熱の空気が一瞬にして冷気に変わり、僕らの頬を撫でた。

「なにっ……!? 我が炎を凍らせるだと!?」
 イグニスの声が揺らいだ。

「さらに……縛る。《フロスト・バインド》!」
 氷の鎖がイグニスの足元から絡みつき、一瞬その巨体を拘束する。


「今だ、全員で!」
「了解!」
「ん……任された!」

 セレスが再び《ホーリー・シールド》を展開し、炎への耐性を強化。
 リンカが双剣を閃かせ、装甲の隙間を斬り裂く。
 僕は渾身の力を込めて叫ぶ。

「破魔斬光陣ッ!」
 光の大斬撃がイグニスを包み込み、ルミナスの炎と氷が同時に炸裂した。

「ぐおおおおおおおおっ……!」
 爆風が巻き起こり、洞窟全体が震える。

 煙の中から現れたイグニスの鎧はひび割れ、赤熱の瞳が怒りに揺れていた。
「人間ごときに……ここまで追い詰められるとはな。だが所詮は未熟。次に会う時、真の地獄を見せてやろう」

 そう言い残し、炎の渦に包まれて消え去った。


「……追い払った、のよね」
リンカが息をつきながら言う。
「ん……でも、完全に勝ってない」
ルミナスが冷静に呟く。
「あれが炎の魔将・イグニス。なんて凄まじい……」

 ルミナスの新しい力――氷魔法が仲間に加わった。
 でも、イグニスはまだ本気を出していなかった気がする。

 ツインヘッド・ダークドラゴンすら一撃で葬った僕の力に加えて、リンカ、ルミナス、セレスの力を合わせてもギリギリだった。

 これまでの相手とは桁違いだ。
 次の戦いは、もっと苛烈なものになる。

 そろそろ今のレベルではキツくなってきた。魔素ストックを解放する時期がきたのかもしれない。

 しかし、今までの経験上、拮抗した戦いをするほどに強い力に目覚める傾向にある。

 もしも限界値の100レベルで太刀打ちできない相手が現われた時のために、この選択肢はギリギリまでとっておきたい。

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