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消える純白の剣
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湿気と血の匂いが入り混じる暗い石造りの牢獄。
その奥、鉄格子の中でうずくまる三人の人影があった。
かつて《純白の剣》として名を馳せた冒険者達――
リーダーのハーカル、重戦士ベガルト、魔術師シェリル。
だが今は「リンカを奴隷に売り払った裏切り者」として囚われ、打ちひしがれた姿をさらしていた。
「……チッ、クソが。いつまでこんなとこに閉じ込める気だ」
ハーカルが苛立ちを隠さず、牢の壁を拳で叩く。
「酒も女もねえ。冗談じゃねえぞ……」
ベガルトが苛ついた息を吐き、腹を鳴らす。
「……いずれ出られるはずよ。私たちがこんな所で終わるはずがないわ」
シェリルは淡々と呟きながらも、瞳の奥には焦燥を宿していた。
それは不可能であった。いや、仮に出られたとしても、彼らに待っているのは地獄の贖罪である。
それが分かっているからこそ、3人とも既に争う気力も残っていない。
その時――。
――ギィィ……
重い扉が軋みを上げて開く。現れたのは黒衣の一団だった。
顔を覆う仮面、手には枷を外すための奇妙な金属器具。
ただ者ではない。牢番の兵士はすでに倒れており、呻き声だけが遠くから響いてくる。
「あなた、……闇ギルドの」
シェリルが息を呑む。それはかつて、リンカを売り渡す時にエージェントとして現われた不気味な仮面の男達。
先頭の男が仮面越しに笑った。
「貴様ら、選ばれた。ここから先は……新しい力を授けてやろう」
「力だと?」
ハーカルが鼻で笑う。
「俺をこんな所に閉じ込めやがった連中に仕返しできるってのか?」
「もちろんだ。お前の怒りも、欲も、すべて糧となる」
冷たい声が石牢に響く。次の瞬間、黒衣の一団は三人に枷を嵌め直し、闇の布で顔を覆った。
「おい、どこへ連れて行く気だ!」
「俺はまだ死にたくねえぞ!」
「……ふふ、悪くないわね」
叫びと笑いが交錯しながら、三人は闇に呑まれるように連れ去られていった。
――その夜、王都の地下牢から三人の囚人が忽然と消えたことを知る者は、ほとんどいなかった。
闇に潜む「尖兵化の儀式」の始まりを告げる鐘の音は、まだ誰にも届いてはいなかった。
◇◇◇
ギルドの酒場は、今日も昼間から冒険者達で賑わっていた。
新しい迷宮の噂や依頼の取り合い、武勇伝や愚痴が飛び交うその場に、妙に重たい話が持ち込まれる。
「おい、聞いたか?」
「王都の地下牢から、囚人が三人まとめて消えたらしい」
ざわめきが広がる。隣のテーブルに座っていたリンカの耳がぴくりと動いた。
僕も自然と耳を傾ける。
「……三人って、誰だ?」
「いや、それが……例の《純白の剣》の3人だとよ」
その言葉に、空気が一気に冷えた。
リンカの表情が固まる。
「ハーカル……ベガルト……シェリル……」
彼女は小さく名をつぶやいた。
僕は唇を噛む。捕縛され、牢に繋がれていたはずの彼らが、なぜ。
「まさか脱獄……?」
「いや、牢番は全員殺されていたそうだ。おそらく闇の手引きだろう」
噂を伝えた冒険者が低く言った。
「王都の連中は隠してるが、すぐに街全体に広まるぜ。なんせアイツら、処刑待ちの囚人だったんだからな」
ルミナスが不安げに僕の袖をつまむ。
「セージ……悪い気配。嫌な予感……する」
セレスも心配そうに僕を見つめる。
「彼らが、ただの人間のまま解放されたとは思えません。……何か、もっと禍々しい力が関わっているはずですわ」
リンカは拳を握りしめ、声を震わせた。
「まさか……闇ギルド……」
その一言に、僕たち全員の視線が交錯する。
囚人消失の裏に、ベアストリア教団と繋がる闇ギルドの影。
嫌な予感が、確信へと変わりつつあった。
◇◇◇
木製の大きなテーブルを囲み、僕たちは顔を突き合わせていた。
さきほど耳にした噂が、胸の奥で重く沈んでいる。
「……まさか、あいつらが牢から消えるなんて」
僕は低くつぶやく。
リンカは腕を組み、眉をひそめていた。
「ハーカル達は、もうまともじゃないはず。あれだけの罪を重ねて……。でも、消えたとなると、ただの逃亡じゃない」
セレスが静かに口を開いた。
「わたくしもそう思います。王都の地下牢は堅牢を誇ります。正面から破ることはまず不可能。……ならば、裏に誰かが手を回したとしか」
ルミナスがぽつりと言葉を落とす。
「闇の気配……感じる。ギルド……教団、繋がってる、かも」
その名を口にした瞬間、室内の空気がさらに重くなる。
ベアストリア教団。民衆には救いを説く大宗教、けれど裏では魔将達が支配する腐敗の温床。
僕は拳を握りしめた。
「もし本当に教団が裏で動いてるとしたら……ハーカル達は尖兵として利用される可能性が高い」
「尖兵……」
リンカが苦い顔でつぶやく。
「つまり、洗脳されて、完全に敵として差し向けられるってこと?」
「……ああ。生きているけど、もう人間として戻れない。そんな可能性もある」
セレスは唇を噛み、両手を胸元で握りしめる。
「わたくしの無力が……また人を苦しめてしまうのですね……」
「セレス、違うよ」
僕は即座に否定した。
「君が自分を責めることじゃない。悪いのは、彼らを利用しようとする連中だ。僕達の役目は、それを止めることだ」
リンカも頷く。
「そうよ。セージ君の言うとおり。過去の仲間だからこそ……ちゃんと向き合わなきゃ」
ルミナスが静かに続ける。
「敵になるなら……倒す。セージと一緒に。リンカも。セレスも」
セレスは一瞬ためらったが、真っ直ぐ僕を見つめ、小さく頷いた。
「……はい。わたくしも、お二人と共に。どうか、力を尽くさせてください」
その瞬間、まるで四人の絆が強まるのを感じた。
かつてリンカを裏切った幼馴染み。
今度は彼らが、教団の尖兵として僕たちの前に立ちはだかる。
「準備を整えよう。次は必ず……教団の影を暴く」
ギルドの窓の外には、夕日が赤く街を染めていた。
決戦の足音が、確実に近づいている。
◇◇◇
湿った石の匂いと、燻る香の煙が充満する地下空間。
牢から連れ出されたハーカル、ベガルト、シェリルは、鎖で縛られたまま黒衣の男たちに引きずられてきた。
「……ここは……?」
目を開けたハーカルの視線の先にあったのは、歪んだ魔法陣。
血のように赤黒い光が床を脈打ち、異様な鼓動を放っている。
「お前たちは選ばれし者だ」
フードを深く被った男が、低く響く声で告げる。
「ベアストリア教団の尖兵として、新たな力を得るのだ」
ベガルトが鎖を振りほどこうと暴れる。
「ふざけんな! 俺は牢から出たいだけで……ッ」
だが、黒衣の男の合図で現れた呪術師が、額に黒い印を刻みつけた瞬間、ベガルトの体は石像のように硬直した。
「ひっ……!」シェリルが顔を引きつらせる。
「ま、待って……わたしは協力するわ……! あの女の居場所も知ってる……だからっ!」
黒衣の男は冷笑する。
「必要ない。お前の口から聞くより、尖兵として動く方が確実だ」
シェリルの悲鳴が響き、魔法陣がより強く赤黒く脈打つ。
彼女の瞳が、ひとときで濁った漆黒に染まっていった。
ハーカルは恐怖で青ざめながらも、なお虚勢を張る。
「お、俺は……世界一の剣士になる男だ! こんな場所で……!」
黒衣の男は嘲るように肩をすくめる。
「ならば望み通りだ。剣と共に在り、剣と共に滅ぶ尖兵となれ」
次の瞬間、ハーカルの胸に漆黒の魔石が押し込まれる。
体内で何かが破裂し、黒い靄が全身を駆け巡った。
「……があああああああああッ!」
絶叫と共に、彼の肉体は光沢のない鎧のように変貌していく。
もはや人間ではない。闇の尖兵へと堕とされた。
やがて三人の足枷は外れた。
だが、代わりに瞳には理性の光はなく、ただ黒い忠誠心だけが宿っていた。
黒衣の男は満足げに両手を広げる。
「これでよい。お前たちの過去も、悔いも、全ては不要。
――ただ教団の命じるままに、敵を屠れ」
ハーカル達の唇が、同時に不気味な言葉を紡ぐ。
「……命ずるままに……」
地下祭壇の赤黒い光が、一層深く、禍々しく明滅した。
禍々しい燭火が揺れる広間。
玉座のような椅子に腰掛けていたのは、枢機卿服を纏った壮年の男――だがその背後には、燃え盛る幻影のような影が立ち昇っていた。
「目覚めたか、我らが尖兵よ」
声は低く、重く、冷たさの奥に熱を孕んでいる。
床に跪くのはハーカル、ベガルト、シェリル。
もはや瞳は濁りきり、人間だったころの光は消えていた。
「……我らは、教団の剣……」
三人が同時に呟く。
枢機卿の口元に薄笑いが浮かぶ。
「良い。お前たちには役割がある。――冒険者の町、ダータルカーン。その地に潜む芽を摘み取れ」
ベガルトが重々しい声で問う。
「……誰を……斬る」
「セージ。リンカニア。そして彼らに連なる者すべてだ」
その名が告げられた瞬間、三人の表情は氷のように無機質な殺意に変わった。
「承知……」
玉座の背後、炎の幻影が揺らめき、赤黒い瞳が覗く。
――《烈火の魔将》イグニス。
彼の低い声が、幻影越しに祭壇へと響いた。
「ふん……人間風情がどこまで抗うか、見ものだな。
尖兵ども……その命、燃やし尽くせ」
赤黒い炎が三人の体を舐め、漆黒の鎧がさらに禍々しく変貌する。
もはや完全に、人間としての面影はなかった。
「命ずるままに……」
ハーカルが剣を抜き、ベガルトが盾を叩き、シェリルが杖を掲げる。
そして、禍々しい転移陣が足元に展開した。
「――行け。教団の影として。ベアストリアの名の下に」
重苦しい轟音と共に、三人の姿は光に呑まれ、ダータルカーンへと送り出された。
その奥、鉄格子の中でうずくまる三人の人影があった。
かつて《純白の剣》として名を馳せた冒険者達――
リーダーのハーカル、重戦士ベガルト、魔術師シェリル。
だが今は「リンカを奴隷に売り払った裏切り者」として囚われ、打ちひしがれた姿をさらしていた。
「……チッ、クソが。いつまでこんなとこに閉じ込める気だ」
ハーカルが苛立ちを隠さず、牢の壁を拳で叩く。
「酒も女もねえ。冗談じゃねえぞ……」
ベガルトが苛ついた息を吐き、腹を鳴らす。
「……いずれ出られるはずよ。私たちがこんな所で終わるはずがないわ」
シェリルは淡々と呟きながらも、瞳の奥には焦燥を宿していた。
それは不可能であった。いや、仮に出られたとしても、彼らに待っているのは地獄の贖罪である。
それが分かっているからこそ、3人とも既に争う気力も残っていない。
その時――。
――ギィィ……
重い扉が軋みを上げて開く。現れたのは黒衣の一団だった。
顔を覆う仮面、手には枷を外すための奇妙な金属器具。
ただ者ではない。牢番の兵士はすでに倒れており、呻き声だけが遠くから響いてくる。
「あなた、……闇ギルドの」
シェリルが息を呑む。それはかつて、リンカを売り渡す時にエージェントとして現われた不気味な仮面の男達。
先頭の男が仮面越しに笑った。
「貴様ら、選ばれた。ここから先は……新しい力を授けてやろう」
「力だと?」
ハーカルが鼻で笑う。
「俺をこんな所に閉じ込めやがった連中に仕返しできるってのか?」
「もちろんだ。お前の怒りも、欲も、すべて糧となる」
冷たい声が石牢に響く。次の瞬間、黒衣の一団は三人に枷を嵌め直し、闇の布で顔を覆った。
「おい、どこへ連れて行く気だ!」
「俺はまだ死にたくねえぞ!」
「……ふふ、悪くないわね」
叫びと笑いが交錯しながら、三人は闇に呑まれるように連れ去られていった。
――その夜、王都の地下牢から三人の囚人が忽然と消えたことを知る者は、ほとんどいなかった。
闇に潜む「尖兵化の儀式」の始まりを告げる鐘の音は、まだ誰にも届いてはいなかった。
◇◇◇
ギルドの酒場は、今日も昼間から冒険者達で賑わっていた。
新しい迷宮の噂や依頼の取り合い、武勇伝や愚痴が飛び交うその場に、妙に重たい話が持ち込まれる。
「おい、聞いたか?」
「王都の地下牢から、囚人が三人まとめて消えたらしい」
ざわめきが広がる。隣のテーブルに座っていたリンカの耳がぴくりと動いた。
僕も自然と耳を傾ける。
「……三人って、誰だ?」
「いや、それが……例の《純白の剣》の3人だとよ」
その言葉に、空気が一気に冷えた。
リンカの表情が固まる。
「ハーカル……ベガルト……シェリル……」
彼女は小さく名をつぶやいた。
僕は唇を噛む。捕縛され、牢に繋がれていたはずの彼らが、なぜ。
「まさか脱獄……?」
「いや、牢番は全員殺されていたそうだ。おそらく闇の手引きだろう」
噂を伝えた冒険者が低く言った。
「王都の連中は隠してるが、すぐに街全体に広まるぜ。なんせアイツら、処刑待ちの囚人だったんだからな」
ルミナスが不安げに僕の袖をつまむ。
「セージ……悪い気配。嫌な予感……する」
セレスも心配そうに僕を見つめる。
「彼らが、ただの人間のまま解放されたとは思えません。……何か、もっと禍々しい力が関わっているはずですわ」
リンカは拳を握りしめ、声を震わせた。
「まさか……闇ギルド……」
その一言に、僕たち全員の視線が交錯する。
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嫌な予感が、確信へと変わりつつあった。
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木製の大きなテーブルを囲み、僕たちは顔を突き合わせていた。
さきほど耳にした噂が、胸の奥で重く沈んでいる。
「……まさか、あいつらが牢から消えるなんて」
僕は低くつぶやく。
リンカは腕を組み、眉をひそめていた。
「ハーカル達は、もうまともじゃないはず。あれだけの罪を重ねて……。でも、消えたとなると、ただの逃亡じゃない」
セレスが静かに口を開いた。
「わたくしもそう思います。王都の地下牢は堅牢を誇ります。正面から破ることはまず不可能。……ならば、裏に誰かが手を回したとしか」
ルミナスがぽつりと言葉を落とす。
「闇の気配……感じる。ギルド……教団、繋がってる、かも」
その名を口にした瞬間、室内の空気がさらに重くなる。
ベアストリア教団。民衆には救いを説く大宗教、けれど裏では魔将達が支配する腐敗の温床。
僕は拳を握りしめた。
「もし本当に教団が裏で動いてるとしたら……ハーカル達は尖兵として利用される可能性が高い」
「尖兵……」
リンカが苦い顔でつぶやく。
「つまり、洗脳されて、完全に敵として差し向けられるってこと?」
「……ああ。生きているけど、もう人間として戻れない。そんな可能性もある」
セレスは唇を噛み、両手を胸元で握りしめる。
「わたくしの無力が……また人を苦しめてしまうのですね……」
「セレス、違うよ」
僕は即座に否定した。
「君が自分を責めることじゃない。悪いのは、彼らを利用しようとする連中だ。僕達の役目は、それを止めることだ」
リンカも頷く。
「そうよ。セージ君の言うとおり。過去の仲間だからこそ……ちゃんと向き合わなきゃ」
ルミナスが静かに続ける。
「敵になるなら……倒す。セージと一緒に。リンカも。セレスも」
セレスは一瞬ためらったが、真っ直ぐ僕を見つめ、小さく頷いた。
「……はい。わたくしも、お二人と共に。どうか、力を尽くさせてください」
その瞬間、まるで四人の絆が強まるのを感じた。
かつてリンカを裏切った幼馴染み。
今度は彼らが、教団の尖兵として僕たちの前に立ちはだかる。
「準備を整えよう。次は必ず……教団の影を暴く」
ギルドの窓の外には、夕日が赤く街を染めていた。
決戦の足音が、確実に近づいている。
◇◇◇
湿った石の匂いと、燻る香の煙が充満する地下空間。
牢から連れ出されたハーカル、ベガルト、シェリルは、鎖で縛られたまま黒衣の男たちに引きずられてきた。
「……ここは……?」
目を開けたハーカルの視線の先にあったのは、歪んだ魔法陣。
血のように赤黒い光が床を脈打ち、異様な鼓動を放っている。
「お前たちは選ばれし者だ」
フードを深く被った男が、低く響く声で告げる。
「ベアストリア教団の尖兵として、新たな力を得るのだ」
ベガルトが鎖を振りほどこうと暴れる。
「ふざけんな! 俺は牢から出たいだけで……ッ」
だが、黒衣の男の合図で現れた呪術師が、額に黒い印を刻みつけた瞬間、ベガルトの体は石像のように硬直した。
「ひっ……!」シェリルが顔を引きつらせる。
「ま、待って……わたしは協力するわ……! あの女の居場所も知ってる……だからっ!」
黒衣の男は冷笑する。
「必要ない。お前の口から聞くより、尖兵として動く方が確実だ」
シェリルの悲鳴が響き、魔法陣がより強く赤黒く脈打つ。
彼女の瞳が、ひとときで濁った漆黒に染まっていった。
ハーカルは恐怖で青ざめながらも、なお虚勢を張る。
「お、俺は……世界一の剣士になる男だ! こんな場所で……!」
黒衣の男は嘲るように肩をすくめる。
「ならば望み通りだ。剣と共に在り、剣と共に滅ぶ尖兵となれ」
次の瞬間、ハーカルの胸に漆黒の魔石が押し込まれる。
体内で何かが破裂し、黒い靄が全身を駆け巡った。
「……があああああああああッ!」
絶叫と共に、彼の肉体は光沢のない鎧のように変貌していく。
もはや人間ではない。闇の尖兵へと堕とされた。
やがて三人の足枷は外れた。
だが、代わりに瞳には理性の光はなく、ただ黒い忠誠心だけが宿っていた。
黒衣の男は満足げに両手を広げる。
「これでよい。お前たちの過去も、悔いも、全ては不要。
――ただ教団の命じるままに、敵を屠れ」
ハーカル達の唇が、同時に不気味な言葉を紡ぐ。
「……命ずるままに……」
地下祭壇の赤黒い光が、一層深く、禍々しく明滅した。
禍々しい燭火が揺れる広間。
玉座のような椅子に腰掛けていたのは、枢機卿服を纏った壮年の男――だがその背後には、燃え盛る幻影のような影が立ち昇っていた。
「目覚めたか、我らが尖兵よ」
声は低く、重く、冷たさの奥に熱を孕んでいる。
床に跪くのはハーカル、ベガルト、シェリル。
もはや瞳は濁りきり、人間だったころの光は消えていた。
「……我らは、教団の剣……」
三人が同時に呟く。
枢機卿の口元に薄笑いが浮かぶ。
「良い。お前たちには役割がある。――冒険者の町、ダータルカーン。その地に潜む芽を摘み取れ」
ベガルトが重々しい声で問う。
「……誰を……斬る」
「セージ。リンカニア。そして彼らに連なる者すべてだ」
その名が告げられた瞬間、三人の表情は氷のように無機質な殺意に変わった。
「承知……」
玉座の背後、炎の幻影が揺らめき、赤黒い瞳が覗く。
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彼の低い声が、幻影越しに祭壇へと響いた。
「ふん……人間風情がどこまで抗うか、見ものだな。
尖兵ども……その命、燃やし尽くせ」
赤黒い炎が三人の体を舐め、漆黒の鎧がさらに禍々しく変貌する。
もはや完全に、人間としての面影はなかった。
「命ずるままに……」
ハーカルが剣を抜き、ベガルトが盾を叩き、シェリルが杖を掲げる。
そして、禍々しい転移陣が足元に展開した。
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