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純白の黒い噂
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ある日のこと、夜の酒場でこんな噂話が飛び交っていた。
「……おい、聞いたか?」
木製のジョッキを傾ける冒険者が、隣に座る仲間に声を潜めた。
「何をだ?」
「王都の地下牢にいたはずの、あの『純白の剣』の三人が――消えたらしい」
仲間が思わず息を呑む。
「ああ、聞いた聞いた……牢から逃げたってな。あいつら、リンカを売った裏切り者だろう」
リンカが純白の剣の元メンバーだという事は既に周知の事実となっている。
未だに銀狐族であることは知られていないものの、仲間に裏切られてセージに救われた一連の流れは、一つの美談として広まっていた。
「違ぇんだよ。牢の中から、忽然と姿が消えたって話だ。看守は殺されたそうだ」
酒場のざわめきが一瞬やむ。
誰もが眉をひそめ、重苦しい空気が広がった。
「……教団か」
ぽつりと呟く声がした。だが、その言葉を口にした冒険者はすぐに口を噤み、周囲を気にするように目を泳がせる。
その数日後、同じ酒場ではこんな話がされていた。
「なあ、知ってるか?」
「王都から黒い馬車を見たって。真夜中に、荷馬車も馬も影みたいに黒かったってさ」
「行き先は……こっちの方向だって?」
「縁起でもねえな」
「ったく、教団絡みじゃねえといいんだが……」
広場のあちこちで、不吉な噂が囁かれていた。
砂塵を巻き上げて進む三つの影。
鎧に身を包んだハーカルが先頭に立ち、背後には盾を構えるベガルト、虚ろな瞳のシェリル。
彼らの纏う気配は、かつて冒険者だった頃の面影を完全に失っていた。
――ただの「教団の尖兵」。
町を破壊するための兵器に過ぎなかった。
「なんだか最近、冒険者が妙に減ってない?」
「依頼を受けても戻ってこない者もいるって……」
「まさか、町まで巻き込まれるんじゃ……」
広場の人々が小声で噂を交わす。
市場の喧騒は、どこか落ち着かない。
冒険者達も、妙に神経を尖らせていた。
◇◇◇
僕らはトトルムさんから緊急の呼び出しを受けていた。
この頃ダータルカーン周辺で出没する奇妙な一団いるという噂が流れていたのだ。
「――以上が、町に流れている噂です」
トトルムさんが報告を締めくくると、重苦しい沈黙が室内を支配した。
王都の牢獄から忽然と姿を消した「純白の剣」の三人。
それがただの失踪でなく、闇に連れ去られた末に「尖兵」と化した――そんな不穏な情報が、冒険者達の間で囁かれていた。
「……彼らは、間違いなくこちらに向かっています」
トトルムさんの声は硬い。
「このダータルカーンを標的にする理由は不明です。教団の影が関わっている可能性は高いでしょう」
リンカが拳を握る。
「やっぱり……あの三人なのね。ハーカル達が……」
声が震えた。幼馴染みだった過去を思えば、無理もない。
「リンカ……」
僕はそっと肩に手を置いた。
「今は感情より現実だ。もし本当に尖兵として現れるなら……僕らが立ちはだかるしかない」
ルミナスは頷き、低く呟く。
「セージ、戦う。ルミナス、手加減しない」
セレスは唇を噛みしめ、両手を胸に当てていた。
「わたくし……彼らを直接知っているわけではありません。けれど、教団に利用され、人としての心を失っているのなら……救いは、剣の先にしかないのですね」
「正式に依頼を出しましょう。ギルドとしても放置はできません。尖兵の襲来は町にとって重大な脅威となるでしょう。討伐か、せめて足止めをする必要がある」
受付嬢も不安げに口を開く。
「もし戦うことになるなら、セージさん達の力が必要です。……正直、他の冒険者じゃ太刀打ちできません」
室内に視線が集まる。
僕は深く息を吐き、静かに頷いた。
元の純白の剣の力であれば大した事はない。だが、教団や闇ギルドが関わっている以上、普通の状態ではないはずだ。
「受けます。仲間と一緒に」
リンカが決意を示す。
「ええ、やりましょう」
ルミナスは炎を指先に揺らす。
「ルミナス、燃やす。敵、消す」
セレスも強い眼差しを向け、胸に手を添えた。
「わたくしも……癒しの力で、皆さまを支えます」
トトルムさんが地図を広げる。
「奴らが来るとすれば、北の街道でしょう。ギルド長、迎撃の準備を整えておきなさい」
「分かりました。報酬に関しては」
「惜しみなく出せ」
「はい。ではすぐに通達を」
「僕らもすぐに準備します」
僕は短く答えた。
「よろしくお願いします。噂が本当であれば、元の彼らとは比べものにならない強さとなっているでしょう」
外では、夜風が窓を叩く。
嵐の前の静けさのように、町全体が不気味に沈黙していた。
その時、突如としてギルド職員が僕らが会議をしている室長室へと乱入してくる。
「何事だっ。会議中だぞ」
ギルド長が怒鳴る事にもひるまず、青ざめた男性職員が全身に汗を掻きながら驚愕の事実を口にする。
「大変ですっ! 北の街道から突如としてモンスター軍団が出現ッ! 数が多すぎて全体数が分からないほどだと報告がっ」
「な、なんだとっ!」
「現在ダータルカーン全ての冒険者ギルドに国家よりの緊急討伐招集が掛けられています」
「なんと言うことだ。こうなっては仕方が無い。ギルド長、他のギルドと連携して全ての冒険者に武器や防具の貸し出しも無償で行なってよい。ネコババする者も出てくるだろうが、責任は問わぬと伝えろ」
「わ、分かりました」
「こうなっては四の五の言ってはおられん。ダータルカーンにある全てのギルドに連絡を入れて協力を仰げ。商会で扱う鍛冶屋を総動員して武器を調達するんだ。途轍もなくイヤな予感がする」
トトルムさんの見たことがないほどの厳しい口調と険しい顔に僕らの気も引き締まる。
「セージさん、こうなってはあなた方に頼るより他はありません。どうか、このダータルカーンをお守りください」
「ええ、分かってます。僕らにとっても因縁の相手です。死力を尽くします」
敵勢が街に到達するまではあとひと晩あるとのことだ。
僕らは急いで戦いの準備をすることにした。
「……おい、聞いたか?」
木製のジョッキを傾ける冒険者が、隣に座る仲間に声を潜めた。
「何をだ?」
「王都の地下牢にいたはずの、あの『純白の剣』の三人が――消えたらしい」
仲間が思わず息を呑む。
「ああ、聞いた聞いた……牢から逃げたってな。あいつら、リンカを売った裏切り者だろう」
リンカが純白の剣の元メンバーだという事は既に周知の事実となっている。
未だに銀狐族であることは知られていないものの、仲間に裏切られてセージに救われた一連の流れは、一つの美談として広まっていた。
「違ぇんだよ。牢の中から、忽然と姿が消えたって話だ。看守は殺されたそうだ」
酒場のざわめきが一瞬やむ。
誰もが眉をひそめ、重苦しい空気が広がった。
「……教団か」
ぽつりと呟く声がした。だが、その言葉を口にした冒険者はすぐに口を噤み、周囲を気にするように目を泳がせる。
その数日後、同じ酒場ではこんな話がされていた。
「なあ、知ってるか?」
「王都から黒い馬車を見たって。真夜中に、荷馬車も馬も影みたいに黒かったってさ」
「行き先は……こっちの方向だって?」
「縁起でもねえな」
「ったく、教団絡みじゃねえといいんだが……」
広場のあちこちで、不吉な噂が囁かれていた。
砂塵を巻き上げて進む三つの影。
鎧に身を包んだハーカルが先頭に立ち、背後には盾を構えるベガルト、虚ろな瞳のシェリル。
彼らの纏う気配は、かつて冒険者だった頃の面影を完全に失っていた。
――ただの「教団の尖兵」。
町を破壊するための兵器に過ぎなかった。
「なんだか最近、冒険者が妙に減ってない?」
「依頼を受けても戻ってこない者もいるって……」
「まさか、町まで巻き込まれるんじゃ……」
広場の人々が小声で噂を交わす。
市場の喧騒は、どこか落ち着かない。
冒険者達も、妙に神経を尖らせていた。
◇◇◇
僕らはトトルムさんから緊急の呼び出しを受けていた。
この頃ダータルカーン周辺で出没する奇妙な一団いるという噂が流れていたのだ。
「――以上が、町に流れている噂です」
トトルムさんが報告を締めくくると、重苦しい沈黙が室内を支配した。
王都の牢獄から忽然と姿を消した「純白の剣」の三人。
それがただの失踪でなく、闇に連れ去られた末に「尖兵」と化した――そんな不穏な情報が、冒険者達の間で囁かれていた。
「……彼らは、間違いなくこちらに向かっています」
トトルムさんの声は硬い。
「このダータルカーンを標的にする理由は不明です。教団の影が関わっている可能性は高いでしょう」
リンカが拳を握る。
「やっぱり……あの三人なのね。ハーカル達が……」
声が震えた。幼馴染みだった過去を思えば、無理もない。
「リンカ……」
僕はそっと肩に手を置いた。
「今は感情より現実だ。もし本当に尖兵として現れるなら……僕らが立ちはだかるしかない」
ルミナスは頷き、低く呟く。
「セージ、戦う。ルミナス、手加減しない」
セレスは唇を噛みしめ、両手を胸に当てていた。
「わたくし……彼らを直接知っているわけではありません。けれど、教団に利用され、人としての心を失っているのなら……救いは、剣の先にしかないのですね」
「正式に依頼を出しましょう。ギルドとしても放置はできません。尖兵の襲来は町にとって重大な脅威となるでしょう。討伐か、せめて足止めをする必要がある」
受付嬢も不安げに口を開く。
「もし戦うことになるなら、セージさん達の力が必要です。……正直、他の冒険者じゃ太刀打ちできません」
室内に視線が集まる。
僕は深く息を吐き、静かに頷いた。
元の純白の剣の力であれば大した事はない。だが、教団や闇ギルドが関わっている以上、普通の状態ではないはずだ。
「受けます。仲間と一緒に」
リンカが決意を示す。
「ええ、やりましょう」
ルミナスは炎を指先に揺らす。
「ルミナス、燃やす。敵、消す」
セレスも強い眼差しを向け、胸に手を添えた。
「わたくしも……癒しの力で、皆さまを支えます」
トトルムさんが地図を広げる。
「奴らが来るとすれば、北の街道でしょう。ギルド長、迎撃の準備を整えておきなさい」
「分かりました。報酬に関しては」
「惜しみなく出せ」
「はい。ではすぐに通達を」
「僕らもすぐに準備します」
僕は短く答えた。
「よろしくお願いします。噂が本当であれば、元の彼らとは比べものにならない強さとなっているでしょう」
外では、夜風が窓を叩く。
嵐の前の静けさのように、町全体が不気味に沈黙していた。
その時、突如としてギルド職員が僕らが会議をしている室長室へと乱入してくる。
「何事だっ。会議中だぞ」
ギルド長が怒鳴る事にもひるまず、青ざめた男性職員が全身に汗を掻きながら驚愕の事実を口にする。
「大変ですっ! 北の街道から突如としてモンスター軍団が出現ッ! 数が多すぎて全体数が分からないほどだと報告がっ」
「な、なんだとっ!」
「現在ダータルカーン全ての冒険者ギルドに国家よりの緊急討伐招集が掛けられています」
「なんと言うことだ。こうなっては仕方が無い。ギルド長、他のギルドと連携して全ての冒険者に武器や防具の貸し出しも無償で行なってよい。ネコババする者も出てくるだろうが、責任は問わぬと伝えろ」
「わ、分かりました」
「こうなっては四の五の言ってはおられん。ダータルカーンにある全てのギルドに連絡を入れて協力を仰げ。商会で扱う鍛冶屋を総動員して武器を調達するんだ。途轍もなくイヤな予感がする」
トトルムさんの見たことがないほどの厳しい口調と険しい顔に僕らの気も引き締まる。
「セージさん、こうなってはあなた方に頼るより他はありません。どうか、このダータルカーンをお守りください」
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