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希望となりて
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冒険者の町ダータルカーンは、普段なら夜でも賑やかさが絶えない。酒場の歌声や通りの明かりは、冒険者たちの息抜きと活気を象徴していた。
だがこの夜ばかりは、上を下への大騒ぎとなっていた。
トトルムさんは国家オーダーとなった北の街道に現われた大軍勢対処の責任者に抜擢され、ギルド長と共に他ギルドへの橋渡しをしながら街の防衛に力を注いでいた。
僕らもエリスの元へ戻り、戦いに向けての準備をすることにした。
だが屋敷の中は静けさに支配されており、帰ってきた僕らを出迎えたのはミレイユ1人だった。
「ミレイユ、他の皆は?」
「トトルムオーナーからの知らせを受けまして、武器や回復アイテムの調達と配分を始めとした高度な判断の指揮官としてギルドの会議に。他の3人は補佐役として。私だけがセージ様をお待ちしておりました」
「そうだったのか。分かった。1人で心細かっただろ。ここは街の中心で安全だ。必ず守りきってみせるから安心して待っててくれ」
「セージ様、どうがご無事で。この身を盾とできないことが歯がゆくてなりません」
「ミレイユ。それは僕が望む言葉じゃない。君は僕の妻の1人。つまり僕が帰ってくる居場所であり、生きる理由なんだ」
「セージ様……」
屋敷に戻り、僕らを出迎えたのはメイドのミレイユだった。
エリスはトトルムさんの手伝いで既に町中を奔走しておりここにはいない。
その補佐をするためにシャミー、アーリア、レイシスの3人は一緒について行き、ミレイユだけが僕らの帰りを待つために残っていた。
「大丈夫。必ず生きて戻ってくるよ。約束する」
「はい、お待ちしております。セージ様」
これで絶対に死ぬことはできなくなった。
◇◇◇
まだ朝靄の残る街道。その彼方に――黒い“波”が押し寄せてきた。
それは海ではない。無数の足音、骨がぶつかり合う音、獣の咆哮、鉄のきしみ。地平線を埋め尽くすのは、骸骨兵、腐敗した死体兵、四足の魔獣に至るまで――アンデッドと異形の混成軍だった。
「……多すぎるっ!」
防壁上で弓を握っていた若い冒険者が、矢を落とした。
「ひっ……ひいいっ、あれ全部、敵……?」
別の冒険者の膝が震える。中には剣を鞘から抜くことすらできず、青ざめて座り込む者もいた。
街の人々の避難は終わった。だが――防壁の上で待ち受ける僕ら冒険者たちの心が、目の前の“黒の大軍”に押し潰されかけていた。
そして、その先頭に――見知った顔があった。
黒鎧をまとい魔剣を振るうハーカル。
巨盾を担ぎ、体格をさらに膨張させたベガルト。
血のような赤い光を宿した杖を振るうシェリル。
かつて「純白の剣」と呼ばれた冒険者たち。リンカの幼馴染み。今は歪んだ存在として、魔将の尖兵に堕ちていた。
「なぜ……あんな姿に……」
リンカの声が震える。だが敵は容赦なく迫ってくる。
防壁上の冒険者達の中から、誰かが叫んだ。
「数が違いすぎる! こんなの、勝てるわけねえだろ!」
「退け! 無理だ、逃げるしか――!」
恐怖が連鎖する。剣を握る手は汗で滑り、矢羽は震えて狙いが定まらない。
その空気を切り裂くように、僕は隣に立つ魔族の少女へと声をかけた。
「ルミナス――例のアレをやるぞ」
ルミナスは一瞬きょとんとした後、にやりと口元を歪めた。
「ガッテン承知。ルミナス、ド派手、見せる」
マントを揺らし、両の手を天へとかざす。その瞬間、フィーリングリンクを通じて僕の魔力が流れ込み、彼女の体内で渦を巻いた。
「セージの熱いの、ドクドク流れてくる」
「ルミナス、誤解を招く表現やめて」
こんな時までブレないなこの子は。
「【ためる】【ためる】【ためる】……もっといける……【ためる】【ためる】【ためる】」
以前よりも遙かに濃密な魔力の収束。
足元の石畳がビリビリと震える。空気が焼ける匂い。
ルミナスの銀髪が逆立ち、碧い瞳に星々の光が宿った。
「星々よ……降り注げ! 《ゾディアック・メテオレイン》!」
轟音。
雲を突き破って、幾千もの光が夜空から降り注ぐ。流星――いや、隕石。炎をまとった星々が、雨のように敵陣へ叩きつけられた。
第一撃がスケルトンの群れを粉砕する。
第二撃がゾンビの軍勢を丸ごと焼き尽くす。
第三撃では、地面ごと陥没して黒煙を噴き上げた。
爆風が連鎖するたび、防壁の上にまで熱風が届く。
「な、なんだあれはっ」
「ひ、ひぃっ……!」
恐怖で叫んでいた冒険者が、今度は言葉を失って口をぽかんと開いた。
炎の雨に焼かれ、黒い軍勢が次々と崩れ落ちていく。腐敗した肉は炭となり、骨は砕け、異形の魔獣は断末魔をあげて灰に変わった。
終わった後に残ったのは――焦土。
黒い波は8割以上が消滅し、敵の軍勢は見る影もなく削られていた。
「な、なんだ今のは……!」
「流れ星が……全部、敵に……」
呆然としていた冒険者たちの目が、やがて輝きを取り戻す。
「勝てる……勝てるぞ!」
「そうだ、俺たちもやるんだ! 星の魔女に続け!」
「防げる! ダータルカーンを守り抜け!」
冒険者たちの剣が一斉に抜かれ、矢が番えられる。震えていた声は消え、代わりに雄叫びが広がった。
ルミナスは胸を張り、ドヤ顔で鼻を鳴らした。
「ルミナス、やればできる。どーだ、セージ?」
まるでご褒美を待つ子犬のような顔をするルミナス。
彼女のお尻にブンブンと左右する尻尾を幻視したような気がした。
僕は笑って頷いた。
髪を撫で撫でしてやると満足気に鼻を鳴らす。相変わらずほとんど表情筋が動かないのに、こういう感情は分かりやすい。
「完璧だ。みんなの士気も戻った。ここから反撃開始だ!」
リンカも頷き、双剣を構える。
「よし……セージ君、ルミちゃん。今度は私たちの番ね!」
こうして、冒険者たちは再び立ち上がった。
だが――星の雨を生き延びた“尖兵”三人と、その背後に残った上級魔物たちが、ゆっくりと歩を進めてくる。
ダータルカーンの本当の決戦は、ここからだった。
だがこの夜ばかりは、上を下への大騒ぎとなっていた。
トトルムさんは国家オーダーとなった北の街道に現われた大軍勢対処の責任者に抜擢され、ギルド長と共に他ギルドへの橋渡しをしながら街の防衛に力を注いでいた。
僕らもエリスの元へ戻り、戦いに向けての準備をすることにした。
だが屋敷の中は静けさに支配されており、帰ってきた僕らを出迎えたのはミレイユ1人だった。
「ミレイユ、他の皆は?」
「トトルムオーナーからの知らせを受けまして、武器や回復アイテムの調達と配分を始めとした高度な判断の指揮官としてギルドの会議に。他の3人は補佐役として。私だけがセージ様をお待ちしておりました」
「そうだったのか。分かった。1人で心細かっただろ。ここは街の中心で安全だ。必ず守りきってみせるから安心して待っててくれ」
「セージ様、どうがご無事で。この身を盾とできないことが歯がゆくてなりません」
「ミレイユ。それは僕が望む言葉じゃない。君は僕の妻の1人。つまり僕が帰ってくる居場所であり、生きる理由なんだ」
「セージ様……」
屋敷に戻り、僕らを出迎えたのはメイドのミレイユだった。
エリスはトトルムさんの手伝いで既に町中を奔走しておりここにはいない。
その補佐をするためにシャミー、アーリア、レイシスの3人は一緒について行き、ミレイユだけが僕らの帰りを待つために残っていた。
「大丈夫。必ず生きて戻ってくるよ。約束する」
「はい、お待ちしております。セージ様」
これで絶対に死ぬことはできなくなった。
◇◇◇
まだ朝靄の残る街道。その彼方に――黒い“波”が押し寄せてきた。
それは海ではない。無数の足音、骨がぶつかり合う音、獣の咆哮、鉄のきしみ。地平線を埋め尽くすのは、骸骨兵、腐敗した死体兵、四足の魔獣に至るまで――アンデッドと異形の混成軍だった。
「……多すぎるっ!」
防壁上で弓を握っていた若い冒険者が、矢を落とした。
「ひっ……ひいいっ、あれ全部、敵……?」
別の冒険者の膝が震える。中には剣を鞘から抜くことすらできず、青ざめて座り込む者もいた。
街の人々の避難は終わった。だが――防壁の上で待ち受ける僕ら冒険者たちの心が、目の前の“黒の大軍”に押し潰されかけていた。
そして、その先頭に――見知った顔があった。
黒鎧をまとい魔剣を振るうハーカル。
巨盾を担ぎ、体格をさらに膨張させたベガルト。
血のような赤い光を宿した杖を振るうシェリル。
かつて「純白の剣」と呼ばれた冒険者たち。リンカの幼馴染み。今は歪んだ存在として、魔将の尖兵に堕ちていた。
「なぜ……あんな姿に……」
リンカの声が震える。だが敵は容赦なく迫ってくる。
防壁上の冒険者達の中から、誰かが叫んだ。
「数が違いすぎる! こんなの、勝てるわけねえだろ!」
「退け! 無理だ、逃げるしか――!」
恐怖が連鎖する。剣を握る手は汗で滑り、矢羽は震えて狙いが定まらない。
その空気を切り裂くように、僕は隣に立つ魔族の少女へと声をかけた。
「ルミナス――例のアレをやるぞ」
ルミナスは一瞬きょとんとした後、にやりと口元を歪めた。
「ガッテン承知。ルミナス、ド派手、見せる」
マントを揺らし、両の手を天へとかざす。その瞬間、フィーリングリンクを通じて僕の魔力が流れ込み、彼女の体内で渦を巻いた。
「セージの熱いの、ドクドク流れてくる」
「ルミナス、誤解を招く表現やめて」
こんな時までブレないなこの子は。
「【ためる】【ためる】【ためる】……もっといける……【ためる】【ためる】【ためる】」
以前よりも遙かに濃密な魔力の収束。
足元の石畳がビリビリと震える。空気が焼ける匂い。
ルミナスの銀髪が逆立ち、碧い瞳に星々の光が宿った。
「星々よ……降り注げ! 《ゾディアック・メテオレイン》!」
轟音。
雲を突き破って、幾千もの光が夜空から降り注ぐ。流星――いや、隕石。炎をまとった星々が、雨のように敵陣へ叩きつけられた。
第一撃がスケルトンの群れを粉砕する。
第二撃がゾンビの軍勢を丸ごと焼き尽くす。
第三撃では、地面ごと陥没して黒煙を噴き上げた。
爆風が連鎖するたび、防壁の上にまで熱風が届く。
「な、なんだあれはっ」
「ひ、ひぃっ……!」
恐怖で叫んでいた冒険者が、今度は言葉を失って口をぽかんと開いた。
炎の雨に焼かれ、黒い軍勢が次々と崩れ落ちていく。腐敗した肉は炭となり、骨は砕け、異形の魔獣は断末魔をあげて灰に変わった。
終わった後に残ったのは――焦土。
黒い波は8割以上が消滅し、敵の軍勢は見る影もなく削られていた。
「な、なんだ今のは……!」
「流れ星が……全部、敵に……」
呆然としていた冒険者たちの目が、やがて輝きを取り戻す。
「勝てる……勝てるぞ!」
「そうだ、俺たちもやるんだ! 星の魔女に続け!」
「防げる! ダータルカーンを守り抜け!」
冒険者たちの剣が一斉に抜かれ、矢が番えられる。震えていた声は消え、代わりに雄叫びが広がった。
ルミナスは胸を張り、ドヤ顔で鼻を鳴らした。
「ルミナス、やればできる。どーだ、セージ?」
まるでご褒美を待つ子犬のような顔をするルミナス。
彼女のお尻にブンブンと左右する尻尾を幻視したような気がした。
僕は笑って頷いた。
髪を撫で撫でしてやると満足気に鼻を鳴らす。相変わらずほとんど表情筋が動かないのに、こういう感情は分かりやすい。
「完璧だ。みんなの士気も戻った。ここから反撃開始だ!」
リンカも頷き、双剣を構える。
「よし……セージ君、ルミちゃん。今度は私たちの番ね!」
こうして、冒険者たちは再び立ち上がった。
だが――星の雨を生き延びた“尖兵”三人と、その背後に残った上級魔物たちが、ゆっくりと歩を進めてくる。
ダータルカーンの本当の決戦は、ここからだった。
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