地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~

かくろう

文字の大きさ
81 / 150
81~90

圧政の現場

しおりを挟む
 村を後にして間もなく、怒声と泣き叫ぶ声が耳に届いた。
 僕たちは顔を見合わせ、音のする方へ駆ける。

 村の広場――そこでは数人の男たちが農具を手にした村人を取り囲んでいた。
 粗末な鎧をまとい、徴税官を名乗るその男たちは、腰に剣を下げ、手には鞭を握っている。

「これでも足りぬと言っているだろうが!」
「税を納められぬ者に、生きる価値などない!」

 老人が土下座し、必死に訴える。
「畑が荒れて……子供たちに食べさせる分すら……どうかお情けを……!」

 返答は鞭だった。乾いた音とともに、老人の背中に赤い線が走る。
 その場にいた村人たちは顔を背け、震える手で口を押さえていた。
 恐怖に支配され、声を上げられる者は誰ひとりいない。

「……っ!」
 リンカが一歩前に出ようとするのを、僕は制した。
 だが次の瞬間、鞭を振るった徴税官の視線が、老人の傍に立つ痩せ細った子供へと移った。

「こいつを売り飛ばせば、いくらかにはなるだろう」
 笑い声と共に伸びる手。

 ――その瞬間、堪えきれなくなった。

「……やめろ」
 声は低く、だが広場を震わせるように響いた。
 振り返った徴税官たちが僕を睨む。

「なんだ貴様らは! 外からの旅人風情が口を挟むな!」

 僕はゆっくりと前に出る。
 腰に下げた剣に手をかけ――抜き放つ。

 金属音と共に空気が震え、広場の空気が一変した。

「退け」
 短い言葉に、彼らは一瞬怯んだが、すぐに虚勢を張って剣を抜いた。
「ひとりで何ができる!」

 だが、その声は最後まで言葉にならなかった。

 次の瞬間、僕の剣が光の弧を描き、彼らの武器をまとめて叩き落としていた。
 重い鉄の剣が地面に突き刺さり、土煙が上がる。

「な……!?」
「ば、化け物か……!?」

 後方から炎の矢が飛び、残りの徴税官の足元を焼いた。
 ルミナスが片手を軽く振っただけで、地面は灼け焦げる。
 セレスの祈りの光が老人の背を癒やし、アーリアとレイシスは素早く村人たちを後ろへと誘導していた。

 たった一瞬で、戦況は決した。

 震える徴税官たちが地に倒れ込み、声を失う。
 その光景を、村人たちは呆然と見つめていた。
 恐怖に縛られ、抵抗を忘れていた彼らの目に――初めて「救い」が映った。

「……あれは……」
「やはり、セージ様……?」
「いや、でも……」

 ささやきが再び広がる。
 まだ確信には至らない。だが、彼らの心に小さな火が灯ったのは間違いなかった。

 僕は剣を収め、老人に向き直る。
「大丈夫です。もう安心してください」

 その言葉に、老人の目から涙があふれ出した。
 背後ではリンカが静かに子供を抱き寄せている。
 彼女の尾が震え、声は掠れていた。
「セージ君……やっぱり、この領地は……もう、見過ごせないね」

 僕は強く頷いた。
 ――正義を口にするだけでは足りない。
 この手で、必ず正すのだ。

 その決意と共に、胸の奥で淡い光が揺れた。
――【魔素ストック+2,400】

 わずかでも、この力は確かに積み重なっていく。
 その重みを感じながら、僕は空を見上げた。
 領主ゴルドールとの対決が、避けられぬ未来として迫っているのを直感していた。

 倒れ伏す徴税官たちの中で、二人が這うように立ち上がった。
 顔は恐怖に引きつり、剣を捨てたまま命からがら村の外へと駆け出していく。

 僕は追わなかった。
 剣を握ったまま、その背中を静かに見送る。

「セージ君……! 追わなくていいの?」
 リンカが驚きに目を見開く。

「……いいんだ。いずれ報告は領都に届く。必ず、より大きな力が差し向けられるだろう」
 低く答えると、村人たちの間にざわめきが広がった。

「じゃあ、また兵が……」
「今度はもっと酷い罰が……」

 感謝の声と同時に、恐怖が人々の胸を縛っていく。
 それでも僕は剣を収め、村人たちに向かってはっきりと告げた。

「僕がいる限り、この村は守る。決して一人にはしない」

 しかし――その言葉で恐怖が完全に消えることはなかった。
 報復を恐れる影は、村の空気に濃く残っていた。

 助かった安堵と、これから訪れるであろう報復の恐怖が、村人たちの胸を同時に締めつけている。

「ありがとうございます……ありがとうございます……!」
 老人が涙ながらに僕たちへ頭を下げる。
 その背後でも、多くの村人が口々に感謝を口にした。

 だが、同時に誰もが怯えた目で周囲を見渡している。
「でも……これで終わりではない……」
「領都に知られたら、きっと兵が……」
「報復が来れば、この村は……」

 感謝の声と恐怖の囁きが入り混じり、村全体が揺れていた。

 リンカが僕を見上げ、不安げに尾を揺らす。
 僕は一歩前に進み、村人たちへ声を投げかけた。

「皆さんの恐怖は分かります。ですが――僕がいる限り、この村を、そしてこの領地を守ります」

 その言葉に、村人たちは息を呑んだ。
 だがすぐに、不安の色は完全には消えなかった。
「……でも、相手は領主様だ」
「逆らえば一族ごと処刑される……」

 恐怖は理屈ではなく、生き延びるために染みついたもの。
 僕の言葉だけで拭えるものではない。

 そのとき――。

「……怖くても、未来は作れる」
 ルミナスが前に進み出て、真っ直ぐに村人たちを見渡した。
 紅の瞳が揺らぎなく光り、声は力強かった。
「私たちだって怖い。死ぬのは嫌だし、苦しいのはもっと嫌。……でも、それでも戦った。守りたい人がいるから」

 その言葉は、村人の胸に鋭く突き刺さった。
 少女の姿をした魔族が、怯える自分たちに「未来を作れる」と告げている。
 その事実だけで、揺さぶられる心があった。

「……未来を……作れる……」
「私たちにも……できるのか……?」

 誰かが呟き、それが小さな希望の種となる。

 セレスがそっと手を胸に当て、静かに祈りを捧げた。
「神は必ず、勇気を示す者に寄り添います。……どうか、ご自分を諦めないで」

 怯えに覆われた村の空気に、わずかだが温かさが灯っていく。
 まだ不安は残っている。だが、その中で確かに「希望の芽」が生まれ始めていた。

 僕は剣の柄を握りしめる。
 ――この芽を、必ず守り抜こう。
 その決意が胸の奥で静かに燃え上がっていた。


しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕 タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】 3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!

異世界転移したら、神の力と無敵の天使軍団を授かったんだが。

猫正宗
ファンタジー
白羽明星は気付けば異世界転移しており、背に純白の六翼を生やした熾天使となっていた。 もともと現世に未練などなかった明星は、大喜びで異世界の大空を飛び回る。 すると遥か空の彼方、誰も到達できないほどの高度に存在する、巨大な空獣に守られた天空城にたどり着く。 主人不在らしきその城に入ると頭の中にダイレクトに声が流れてきた。 ――霊子力パターン、熾天使《セラフ》と認識。天界の座マスター登録します。……ああ、お帰りなさいルシフェル様。お戻りをお待ち申し上げておりました―― 風景が目まぐるしく移り変わる。 天空城に封じられていた七つの天国が解放されていく。 移り変わる景色こそは、 第一天 ヴィロン。 第二天 ラキア。 第三天 シャハクィム。 第四天 ゼブル。 第五天 マオン。 第六天 マコン。 それらはかつて天界を構成していた七つの天国を再現したものだ。 気付けば明星は、玉座に座っていた。 そこは天の最高位。 第七天 アラボト。 そして玉座の前には、明星に絶対の忠誠を誓う超常なる存在《七元徳の守護天使たち》が膝をついていたのだった。 ――これは異世界で神なる権能と無敵の天使軍団を手にした明星が、調子に乗ったエセ強者を相手に無双したり、のんびりスローライフを満喫したりする物語。

異世界転移から始まるハーレム生活〜チートスキルを貰った俺は、妹と共に無双する〜

昼寝部
ファンタジー
 2XXX年、X月。  俺、水瀬アキトは戦争の絶えない地球で『戦場の悪魔』と呼ばれ、数多の戦で活躍していた。  そんな日々を過ごしていた俺は、ひょんなことから妹と一緒に異世界へ転移することになった。  その世界にはダンジョンが存在しており、ライトノベルなどで登場する世界観と類似していた。  俺たちはその世界で過ごすため女神様からチートスキルを貰い、冒険者となって異世界での生活を満喫することにした。  これは主人公の水瀬アキトと妹のカナデが異世界へ転移し、美少女たちに囲まれながら異世界で無双するお話し。

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

異世界帰還者の気苦労無双録~チートスキルまで手に入れたのに幼馴染のお世話でダンジョン攻略が捗らない~

虎柄トラ
ファンタジー
 下校帰りに不慮の事故に遭い命を落とした桜川凪は、女神から開口一番に異世界転生しないかと勧誘を受ける。  意味が分からず凪が聞き返すと、女神は涙ながらに異世界の現状について語り出す。  女神が管理する世界ではいま魔族と人類とで戦争をしているが、このままだと人類が負けて世界は滅亡してしまう。  敗色濃厚なその理由は、魔族側には魔王がいるのに対して、人類側には勇者がいないからだという。  剣と魔法が存在するファンタジー世界は大好物だが、そんな物騒な世界で勇者になんてなりたくない凪は断るが、女神は聞き入れようとしない。  一歩も引かない女神に対して凪は、「魔王を倒せたら、俺を元の身体で元いた世界に帰還転生させろ」と交換条件を提示する。  快諾した女神と契約を交わし転生した凪は、見事に魔王を打ち倒して元の世界に帰還するが――。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...