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第2章 体育祭の思い出作り
第33話「打ち上げ準備と、ふたりの時間」
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真白の家の前に着いた。
夜道を遠回りして歩いてきたせいで、もうすっかり遅い時間。
街灯の下で見上げる真白の横顔は、昼間よりずっと大人びて見えた。
「……今日は本当に楽しかったね」
「そうだな。最高の体育祭だった」
言葉にすると、胸の奥がじんわり温かくなる。
勝利の喜びよりも、こうして真白と歩いて帰ってきたことの方が、ずっと特別に思えた。
門の前で立ち止まる。
真白は少しだけ俯いて、指先で制服の裾をいじっていた。
「……あのね、蒼真君」
「ん?」
「ありがとう。リレーのことも……一緒にいてくれたことも。全部」
顔を上げたとき、彼女の瞳が街灯に反射してきらめいた。
思わず息が詰まる。
(……今、抱き寄せたい。もっと近くで、真白を感じたい)
胸の奥で強い衝動が湧いた。
けれど――そこで踏みとどまる。
まだ、早い。大切にしたいからこそ、焦ってはいけない。
「俺の方こそ、ありがとうだよ」
微笑んでそう言うと、真白は少し驚いたように目を丸くし、やがてふっと笑った。
「……おやすみ、蒼真君」
「おやすみ、真白」
そうして彼女は軽く頭を下げて、家の中へ入っていった。
扉が静かに閉まる。
残された夜風が、少しだけ寂しさを運んでくる。
(……あと少しで、踏み込んでいたかもしれない)
でも、それでいい。
今はまだ、隣を歩けるだけで十分幸せだから。
そう自分に言い聞かせながら、俺はゆっくりと夜道を歩き出した。
◇◇◇
【side真白】
玄関の扉を閉めた瞬間――胸がドクンと大きく鳴って、手が震えていることに気づいた。
制服の袖を握りしめたまま、その場に立ち尽くす。
(……危なかった。あと少しで、私……)
街灯の下で見た蒼真の表情。
優しくて、真剣で……でもどこか切なげで。
その横顔を思い出すだけで、心臓が痛いくらいに跳ねる。
「……おやすみ、蒼真君」
最後に口にした言葉を、頭の中で繰り返す。
唇がまだ熱い。
ほんの一瞬でも「触れてみたい」と思ってしまった自分が、こわい。
(もし……もしあのとき、もう一歩近づいていたら……)
想像しただけで頬が熱を帯び、両手で顔を覆った。
首を振るように布団へ倒れ込む。
でも――心の奥に、はっきりと残っている感情がある。
リレーの勝利でも、クラスの歓声でもない。
今日一日を特別にしてくれたのは、帰り道で隣にいた蒼真だった。
(……いつも待ってるだけじゃ、だめだよね)
胸の前でそっと指を組む。
願いごとというよりは、自分への小さな約束みたいに。
(次は……私から、一歩、踏み出してみたい)
小さく息を吐き、目を閉じる。
頬に残る熱は消えない。
その温もりに包まれながら眠りに落ちるとき――
真白は初めて、自分の「勇気」を心に描いていた。
朝の教室は、昨日の熱気をそのまま閉じ込めたみたいに騒がしかった。
いつもなら眠そうに突っ伏している男子も、今日は妙に元気で、声を張り上げている。
「いやー、昨日のリレーはマジで痺れたな!」
「アンカーの新堂、最後の追い上げ、鳥肌立ったわ!」
「結城さんの走りも速かったし! てか白組の勝利はガチで奇跡!」
わいわい盛り上がる声が、教室を埋め尽くす。
クラスメイトたちの視線が、次々と俺の方へ集まった。
「新堂! 昨日の打ち上げ行けるよな?」
「いや、そもそも企画したのお前だろ? 主役欠席とか許されねーぞ!」
机をバンバン叩かれて、思わず苦笑いを返す。
昨日は燃え尽きた気持ちだったけど……こうして祝われるのは、悪い気分じゃない。
ふと隣を見れば、真白が机に頬杖をつきながら、柔らかく微笑んでいた。
昨日よりもずっと近く感じる笑顔――それは俺だけに向けられているようで、胸が熱くなる。
(……やっぱり、俺は幸せ者だな)
けれど同時に、背後からも別の視線を感じた。
振り返れば、そこには紗和の姿。
彼女もまた、どこか眩しそうに俺を見ていた。
真白と紗和――ふたりの視線が交錯する瞬間、空気がわずかに揺れる。
それを感じ取った俺は、妙に落ち着かなくなってしまった。
昼休み。
男子たちが大声で「打ち上げはカラオケか? それともファミレスか?」と議論を始める。
女子たちも「せっかくだから写真いっぱい撮ろうよ」と盛り上がっている。
体育祭の余韻はまだまだ続いていた。
そして、その中心に――俺と真白の存在があることを、ひしひしと感じていた。
(……今度は、楽しい打ち上げか。昨日のリレーとは違う意味で、気合い入れなきゃな)
浮き立つ教室の中で、俺は静かに決意を固めていた。
◇◇◇
昼休みの教室は、体育祭の話題でまだまだ熱を帯びていた。
男子が机を並べて「焼肉だろ!」「いやカラオケだ!」と盛り上がる一方、女子たちは「制服で写真撮る?」「集合写真もっと欲しい!」と騒がしい。
「で、正式な打ち上げ、どうするよ?」
クラスの中心にいる男子が声を張り上げると、教室中が「おー!」と返した。
昨日の“その場ノリ”打ち上げじゃなく、ちゃんと計画して全員で集まる――そんな雰囲気になっていた。
「やっぱ全員参加が基本だよな!」
「ファミレスは狭いし、カラオケも大人数は無理だし……」
「じゃあレンタルスペース借りてパーティーにする?」
ああでもないこうでもないと意見が飛び交う。
気づけば自然と視線が俺に集まっていた。
「新堂、昨日アンカーでヒーローだったし、なんかいいアイデア出せよ」
「そうそう、こういうの仕切るのって意外と向いてそうじゃん」
「お、おいおい……」
突然振られて肩をすくめる。
正直、目立つのは得意じゃない。けれど――
昨日から続く熱気の中心に自分がいるのは、嫌いじゃなかった。
「蒼真君なら、きっといい案出してくれるよ」
隣の真白が、にこりと微笑む。
その一言だけで、不思議と胸の奥が軽くなった。
なら、ちょっとくらい頑張ってみるか。
「じゃあさ……みんなで参加できるなら、学校近くのレンタルスペースを借りて、軽食持ち寄りとかにしたらどうだ? カラオケ機材とかもあるし」
そう提案すると、クラスが一気に沸いた。
「いいじゃんそれ!」
「お菓子も買えるし!」
「持ち寄りなら安上がりだし、全員楽しめる!」
ワッと盛り上がり、次々と賛成の声が上がる。
「さっすが新堂、頼りになるわ!」
「結城さんも新堂君と一緒なら安心だろ?」
クラスメイトがからかうように笑う。
真白は「も、もう……!」と顔を赤らめながらも、まんざらじゃなさそうに微笑んでいた。
そんな彼女の姿を見て、胸が温かくなる。
(こうして笑い合える時間を……もっと作っていきたいな)
体育祭は終わった。
けれど俺たちの青春は、まだまだ続いていく――そんな実感が湧き上がっていた。
◇◇◇
放課後の教室は、まるで文化祭前みたいな熱気に包まれていた。
机の上にはメモ用紙とスマホが広げられ、誰が何を持ってくるかが次々と書き込まれていく。
「ジュースは私たちが買ってくるね!」
「俺らはお菓子担当だ!」
「装飾どうする? 風船とかあったら楽しそうじゃない?」
あれこれ言い合いながら、クラス全員が楽しそうに動いていた。
昨日のリレーで得た一体感が、まだちゃんとここにある。
「蒼真君は……」
横から覗き込む声。真白だった。
俺の机の横に立って、手帳を見せてくる。
「ほら、私と一緒に飾り付け担当に入れちゃった。いいよね?」
「もちろん」
即答すると、真白がふわりと笑った。
その笑顔だけで、疲れなんて一瞬で吹き飛ぶ。
「じゃあ、買い出しは週末にしよ? 二人で」
「……え、二人で?」
思わず聞き返すと、真白は恥ずかしそうにうつむいた。
「だ、だって……蒼真君と一緒の方が、楽しいから」
不意打ちの言葉に、心臓が跳ね上がる。
真白の黒髪が頬にかかり、ほんのりと赤く染まった横顔が目に映る。
(……なんだよそれ。可愛すぎるだろ)
「俺も……楽しみだよ」
正直にそう答えると、真白は小さく「うん」と返してくれた。
その後もクラスのあちこちから声が飛んでくる。
「新堂、風船係よろしくな!」
「結城さんと新堂君、絶対センス良さそうだし!」
からかうような声が混じるたび、真白は「も、もうっ」と頬を赤らめ、俺の袖を軽く引っ張った。
その仕草が妙にくすぐったくて、俺は笑いをこらえるのに必死だった。
(打ち上げの準備……こんなにも楽しいなんて)
気づけば、俺の視線は真白にばかり向いていた。
彼女が笑うたび、何かを書き込むたび、その全部が特別に見える。
準備なんてただの作業のはずなのに――
俺にとっては、甘くて幸せな時間そのものだった。
◇◇◇
週末のショッピングモールは、部活帰りの学生や家族連れで賑わっていた。
その雑踏の中、俺の隣には真白がいる。
休日用の私服は、白いブラウスに薄い水色のカーディガン。黒髪が肩にかかるたび、淡い光沢を放っていた。
「こ、ここで風船とか紙飾り、全部揃うかな?」
真白がカゴを抱えながら、少し緊張気味に声をかける。
「ああ、大丈夫。リストもあるし、手分けして探そう」
そう答えると、真白は安心したように微笑んだ。
文具コーナーでカラフルな折り紙やペンを選んでいると、真白がふと足を止めた。
真剣な横顔に、思わず見惚れてしまう。
「蒼真君……こういうの、選ぶの上手だね」
「いや、普通だろ」
「ううん。なんか……頼りになる」
真白の声がほんの少し照れている。
その一言だけで、買い物が特別な時間に変わるのを感じた。
昼過ぎ、荷物が一通り揃った頃。
フードコートで一息つくことにした。
トレーを並べながら、真白が小さく呟く。
「……ねぇ、蒼真君」
「ん?」
「私……こうして“ふたりだけで買い出し”とか、ちょっとデートみたいで……すごく嬉しい」
顔を赤くして俯く真白。
その言葉に、胸の奥が熱くなる。
「俺もだよ。むしろ、デートってことにしていいんじゃないか?」
「えっ……!」
驚いたように顔を上げる真白。
大きな瞳が揺れて――そして、ふっと笑顔になった。
「……じゃあ、デート。そういうことにするね」
買い物のカゴよりも、真白と交わしたその約束の方が、ずっと重くて大切に思えた。
夜道を遠回りして歩いてきたせいで、もうすっかり遅い時間。
街灯の下で見上げる真白の横顔は、昼間よりずっと大人びて見えた。
「……今日は本当に楽しかったね」
「そうだな。最高の体育祭だった」
言葉にすると、胸の奥がじんわり温かくなる。
勝利の喜びよりも、こうして真白と歩いて帰ってきたことの方が、ずっと特別に思えた。
門の前で立ち止まる。
真白は少しだけ俯いて、指先で制服の裾をいじっていた。
「……あのね、蒼真君」
「ん?」
「ありがとう。リレーのことも……一緒にいてくれたことも。全部」
顔を上げたとき、彼女の瞳が街灯に反射してきらめいた。
思わず息が詰まる。
(……今、抱き寄せたい。もっと近くで、真白を感じたい)
胸の奥で強い衝動が湧いた。
けれど――そこで踏みとどまる。
まだ、早い。大切にしたいからこそ、焦ってはいけない。
「俺の方こそ、ありがとうだよ」
微笑んでそう言うと、真白は少し驚いたように目を丸くし、やがてふっと笑った。
「……おやすみ、蒼真君」
「おやすみ、真白」
そうして彼女は軽く頭を下げて、家の中へ入っていった。
扉が静かに閉まる。
残された夜風が、少しだけ寂しさを運んでくる。
(……あと少しで、踏み込んでいたかもしれない)
でも、それでいい。
今はまだ、隣を歩けるだけで十分幸せだから。
そう自分に言い聞かせながら、俺はゆっくりと夜道を歩き出した。
◇◇◇
【side真白】
玄関の扉を閉めた瞬間――胸がドクンと大きく鳴って、手が震えていることに気づいた。
制服の袖を握りしめたまま、その場に立ち尽くす。
(……危なかった。あと少しで、私……)
街灯の下で見た蒼真の表情。
優しくて、真剣で……でもどこか切なげで。
その横顔を思い出すだけで、心臓が痛いくらいに跳ねる。
「……おやすみ、蒼真君」
最後に口にした言葉を、頭の中で繰り返す。
唇がまだ熱い。
ほんの一瞬でも「触れてみたい」と思ってしまった自分が、こわい。
(もし……もしあのとき、もう一歩近づいていたら……)
想像しただけで頬が熱を帯び、両手で顔を覆った。
首を振るように布団へ倒れ込む。
でも――心の奥に、はっきりと残っている感情がある。
リレーの勝利でも、クラスの歓声でもない。
今日一日を特別にしてくれたのは、帰り道で隣にいた蒼真だった。
(……いつも待ってるだけじゃ、だめだよね)
胸の前でそっと指を組む。
願いごとというよりは、自分への小さな約束みたいに。
(次は……私から、一歩、踏み出してみたい)
小さく息を吐き、目を閉じる。
頬に残る熱は消えない。
その温もりに包まれながら眠りに落ちるとき――
真白は初めて、自分の「勇気」を心に描いていた。
朝の教室は、昨日の熱気をそのまま閉じ込めたみたいに騒がしかった。
いつもなら眠そうに突っ伏している男子も、今日は妙に元気で、声を張り上げている。
「いやー、昨日のリレーはマジで痺れたな!」
「アンカーの新堂、最後の追い上げ、鳥肌立ったわ!」
「結城さんの走りも速かったし! てか白組の勝利はガチで奇跡!」
わいわい盛り上がる声が、教室を埋め尽くす。
クラスメイトたちの視線が、次々と俺の方へ集まった。
「新堂! 昨日の打ち上げ行けるよな?」
「いや、そもそも企画したのお前だろ? 主役欠席とか許されねーぞ!」
机をバンバン叩かれて、思わず苦笑いを返す。
昨日は燃え尽きた気持ちだったけど……こうして祝われるのは、悪い気分じゃない。
ふと隣を見れば、真白が机に頬杖をつきながら、柔らかく微笑んでいた。
昨日よりもずっと近く感じる笑顔――それは俺だけに向けられているようで、胸が熱くなる。
(……やっぱり、俺は幸せ者だな)
けれど同時に、背後からも別の視線を感じた。
振り返れば、そこには紗和の姿。
彼女もまた、どこか眩しそうに俺を見ていた。
真白と紗和――ふたりの視線が交錯する瞬間、空気がわずかに揺れる。
それを感じ取った俺は、妙に落ち着かなくなってしまった。
昼休み。
男子たちが大声で「打ち上げはカラオケか? それともファミレスか?」と議論を始める。
女子たちも「せっかくだから写真いっぱい撮ろうよ」と盛り上がっている。
体育祭の余韻はまだまだ続いていた。
そして、その中心に――俺と真白の存在があることを、ひしひしと感じていた。
(……今度は、楽しい打ち上げか。昨日のリレーとは違う意味で、気合い入れなきゃな)
浮き立つ教室の中で、俺は静かに決意を固めていた。
◇◇◇
昼休みの教室は、体育祭の話題でまだまだ熱を帯びていた。
男子が机を並べて「焼肉だろ!」「いやカラオケだ!」と盛り上がる一方、女子たちは「制服で写真撮る?」「集合写真もっと欲しい!」と騒がしい。
「で、正式な打ち上げ、どうするよ?」
クラスの中心にいる男子が声を張り上げると、教室中が「おー!」と返した。
昨日の“その場ノリ”打ち上げじゃなく、ちゃんと計画して全員で集まる――そんな雰囲気になっていた。
「やっぱ全員参加が基本だよな!」
「ファミレスは狭いし、カラオケも大人数は無理だし……」
「じゃあレンタルスペース借りてパーティーにする?」
ああでもないこうでもないと意見が飛び交う。
気づけば自然と視線が俺に集まっていた。
「新堂、昨日アンカーでヒーローだったし、なんかいいアイデア出せよ」
「そうそう、こういうの仕切るのって意外と向いてそうじゃん」
「お、おいおい……」
突然振られて肩をすくめる。
正直、目立つのは得意じゃない。けれど――
昨日から続く熱気の中心に自分がいるのは、嫌いじゃなかった。
「蒼真君なら、きっといい案出してくれるよ」
隣の真白が、にこりと微笑む。
その一言だけで、不思議と胸の奥が軽くなった。
なら、ちょっとくらい頑張ってみるか。
「じゃあさ……みんなで参加できるなら、学校近くのレンタルスペースを借りて、軽食持ち寄りとかにしたらどうだ? カラオケ機材とかもあるし」
そう提案すると、クラスが一気に沸いた。
「いいじゃんそれ!」
「お菓子も買えるし!」
「持ち寄りなら安上がりだし、全員楽しめる!」
ワッと盛り上がり、次々と賛成の声が上がる。
「さっすが新堂、頼りになるわ!」
「結城さんも新堂君と一緒なら安心だろ?」
クラスメイトがからかうように笑う。
真白は「も、もう……!」と顔を赤らめながらも、まんざらじゃなさそうに微笑んでいた。
そんな彼女の姿を見て、胸が温かくなる。
(こうして笑い合える時間を……もっと作っていきたいな)
体育祭は終わった。
けれど俺たちの青春は、まだまだ続いていく――そんな実感が湧き上がっていた。
◇◇◇
放課後の教室は、まるで文化祭前みたいな熱気に包まれていた。
机の上にはメモ用紙とスマホが広げられ、誰が何を持ってくるかが次々と書き込まれていく。
「ジュースは私たちが買ってくるね!」
「俺らはお菓子担当だ!」
「装飾どうする? 風船とかあったら楽しそうじゃない?」
あれこれ言い合いながら、クラス全員が楽しそうに動いていた。
昨日のリレーで得た一体感が、まだちゃんとここにある。
「蒼真君は……」
横から覗き込む声。真白だった。
俺の机の横に立って、手帳を見せてくる。
「ほら、私と一緒に飾り付け担当に入れちゃった。いいよね?」
「もちろん」
即答すると、真白がふわりと笑った。
その笑顔だけで、疲れなんて一瞬で吹き飛ぶ。
「じゃあ、買い出しは週末にしよ? 二人で」
「……え、二人で?」
思わず聞き返すと、真白は恥ずかしそうにうつむいた。
「だ、だって……蒼真君と一緒の方が、楽しいから」
不意打ちの言葉に、心臓が跳ね上がる。
真白の黒髪が頬にかかり、ほんのりと赤く染まった横顔が目に映る。
(……なんだよそれ。可愛すぎるだろ)
「俺も……楽しみだよ」
正直にそう答えると、真白は小さく「うん」と返してくれた。
その後もクラスのあちこちから声が飛んでくる。
「新堂、風船係よろしくな!」
「結城さんと新堂君、絶対センス良さそうだし!」
からかうような声が混じるたび、真白は「も、もうっ」と頬を赤らめ、俺の袖を軽く引っ張った。
その仕草が妙にくすぐったくて、俺は笑いをこらえるのに必死だった。
(打ち上げの準備……こんなにも楽しいなんて)
気づけば、俺の視線は真白にばかり向いていた。
彼女が笑うたび、何かを書き込むたび、その全部が特別に見える。
準備なんてただの作業のはずなのに――
俺にとっては、甘くて幸せな時間そのものだった。
◇◇◇
週末のショッピングモールは、部活帰りの学生や家族連れで賑わっていた。
その雑踏の中、俺の隣には真白がいる。
休日用の私服は、白いブラウスに薄い水色のカーディガン。黒髪が肩にかかるたび、淡い光沢を放っていた。
「こ、ここで風船とか紙飾り、全部揃うかな?」
真白がカゴを抱えながら、少し緊張気味に声をかける。
「ああ、大丈夫。リストもあるし、手分けして探そう」
そう答えると、真白は安心したように微笑んだ。
文具コーナーでカラフルな折り紙やペンを選んでいると、真白がふと足を止めた。
真剣な横顔に、思わず見惚れてしまう。
「蒼真君……こういうの、選ぶの上手だね」
「いや、普通だろ」
「ううん。なんか……頼りになる」
真白の声がほんの少し照れている。
その一言だけで、買い物が特別な時間に変わるのを感じた。
昼過ぎ、荷物が一通り揃った頃。
フードコートで一息つくことにした。
トレーを並べながら、真白が小さく呟く。
「……ねぇ、蒼真君」
「ん?」
「私……こうして“ふたりだけで買い出し”とか、ちょっとデートみたいで……すごく嬉しい」
顔を赤くして俯く真白。
その言葉に、胸の奥が熱くなる。
「俺もだよ。むしろ、デートってことにしていいんじゃないか?」
「えっ……!」
驚いたように顔を上げる真白。
大きな瞳が揺れて――そして、ふっと笑顔になった。
「……じゃあ、デート。そういうことにするね」
買い物のカゴよりも、真白と交わしたその約束の方が、ずっと重くて大切に思えた。
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