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第4部 クリスマスとお正月
第44話「クリスマスの灯りの下で」
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クレープを食べ終えて、三人で歩き出す。
街頭のイルミネーションが、雪の代わりに通りを白く染めていた。
「ねぇねぇ、次はどこ行く? あ、あっちの雑貨屋さんも可愛いんだよ!」
千佳は前を指差し、真白の手を引っ張る。
その無邪気な姿に、通りすがりの人たちが思わず振り返っていた。
(……本当に、明るい子だよな)
だが――俺はふと、記憶の奥底から嫌な映像を思い出す。
ゲーム内での千佳は“サブヒロインの一人”として存在した。
明るく前向きで、みんなの空気を盛り上げるタイプ。
けれど同時に、神崎玲央に目をつけられやすいポジションでもあった。
「バレエなんて似合わない」「無理してんじゃね?」――そんな言葉で揺さぶられたり。
「落ち込んでるなら慰めてやるよ」と、強引に距離を詰められたり。
……そうして、最悪の展開へ転がっていくルートもあった。
(あの時の千佳、必死に笑顔を作ろうとしてたっけ……)
隣で楽しそうに笑っている彼女を見て、心臓の奥がきゅっと締め付けられる。
(真白と同じだ。こいつも――絶対にあんな理不尽に巻き込ませてたまるか)
既に神崎玲央という男はいなくなったに等しい……でも、生きている人間である以上、何が起こるか分からない。
決して安心していい話では無い筈だ。
「蒼真君?」
真白が不思議そうに首をかしげる。
「あ、いや……なんでもない」
思わずごまかす。だが視線の先の千佳は、無邪気に真白を「ましろん」と呼んで笑っていた。
「ほらほら! 二人とももっとテンション上げよ! せっかくのクリスマスなんだからさ!」
千佳の明るさが、街のきらめきに溶けていく。
(……この世界では、もう二度と千佳を泣かせない。俺が必ず守る)
真白の手をそっと握り直しながら、俺は心の奥で固く誓った。
雑貨屋の前。
クリスマス特設コーナーのライトがまばゆく光り、並んだぬいぐるみやリースが冬の街を彩っていた。
「ねぇましろん」
千佳が突然、両手を腰に当ててにやりと笑った。
「……ずっと気になってたんだけどさ。どうして相手が“蒼真君”なの? ほら、ましろんって学園の人気者でしょ? 選び放題だったじゃん」
「えっ……!」
真白の肩がびくりと震える。
唐突な質問に、顔が一気に赤くなった。
「ち、千佳、そういうこと急に言わないで……!」
「だって気になるもん。ね? 新堂君」
いたずらっぽくウインクして、俺に水を向けてくる。
「……俺に聞かれてもな」
苦笑いしつつも、心臓の鼓動が速まる。
「わ、わたしは……」
真白は小さな声で口を開いた。
「蒼真君だから……いいの」
「ほうほう?」
千佳が身を乗り出す。
真白は視線を泳がせながら、言葉を繋いだ。
「小さいころからずっと一緒で……わたしが困ってるとき、必ず隣にいてくれた。だから……蒼真君じゃなきゃ、だめなの」
その告白めいた言葉に、俺の胸が熱くなる。
(……真白……)
千佳は「うわー! 照れるー!」と大げさに両手で顔を覆いながら、指の隙間からじろっと俺を見た。
「そーま君、めっちゃ幸せ者じゃん。あたしだったら泣いて喜ぶレベルだよ」
真白は両手で顔を隠し、声を小さく震わせた。
「……言わせたの、千佳だからね……!」
「へへ、そうかも!」
千佳は明るく笑い飛ばしたが、その瞳の奥にはほんのわずかな羨ましさが揺れていた。
俺はそんな彼女の表情を見て――心の中で改めて思う。
(千佳も、絶対に“ゲーム通りの不幸”にはさせない)
イルミネーションの光が、三人の影を長く路上に伸ばしていた。
◇◇◇
駅前の広場。
光のトンネルを抜けた先で、俺たちは千佳と別れることになった。
「今日はありがとね! ましろんも蒼真君も、めっちゃ楽しかったよ!」
千佳は両手をぶんぶん振りながら笑顔を弾けさせる。
「またバレエの練習のあとでも遊ぼ! あ、今度はクレープ奢ってね~!」
「ちょ、千佳!」
真白は慌てて制止したが、千佳は気にする様子もなく駆け出していった。
背中に揺れるショートボブが、イルミネーションの光を反射してきらきら輝いている。
その姿が見えなくなったとき――真白は小さくため息を漏らした。
「……もう、千佳ってば。ほんとに強引なんだから」
「でも、楽しそうだったよな」
俺がそう言うと、真白は少し唇を尖らせる。
「うん……楽しかったよ。でも……ちょっと、蒼真君取られたみたいで」
小声でぽつり。
その言葉に、思わず笑みがこぼれる。
「安心しろ。俺は真白だけのもんだ」
「……もう、そういうこと言うんだから」
真白は赤くなって俯きながらも、繋いでいた手をぎゅっと握り返してきた。
街を歩く人々のざわめき、遠くから響くクリスマスソング。
すべてが背景に溶けていく中で、俺たちはゆっくりと帰路についた。
「ねぇ蒼真君」
「ん?」
「やっぱり……二人で歩くときが一番落ち着くね」
真白の瞳は、イルミネーションの灯りを映して柔らかく揺れていた。
「ああ。俺もだ。二人でいる時間が一番好きだ」
互いの気持ちを確かめ合うように微笑み合う。
その瞬間、冷たい冬の夜風でさえも、どこか温かく感じられた。
街頭のイルミネーションが、雪の代わりに通りを白く染めていた。
「ねぇねぇ、次はどこ行く? あ、あっちの雑貨屋さんも可愛いんだよ!」
千佳は前を指差し、真白の手を引っ張る。
その無邪気な姿に、通りすがりの人たちが思わず振り返っていた。
(……本当に、明るい子だよな)
だが――俺はふと、記憶の奥底から嫌な映像を思い出す。
ゲーム内での千佳は“サブヒロインの一人”として存在した。
明るく前向きで、みんなの空気を盛り上げるタイプ。
けれど同時に、神崎玲央に目をつけられやすいポジションでもあった。
「バレエなんて似合わない」「無理してんじゃね?」――そんな言葉で揺さぶられたり。
「落ち込んでるなら慰めてやるよ」と、強引に距離を詰められたり。
……そうして、最悪の展開へ転がっていくルートもあった。
(あの時の千佳、必死に笑顔を作ろうとしてたっけ……)
隣で楽しそうに笑っている彼女を見て、心臓の奥がきゅっと締め付けられる。
(真白と同じだ。こいつも――絶対にあんな理不尽に巻き込ませてたまるか)
既に神崎玲央という男はいなくなったに等しい……でも、生きている人間である以上、何が起こるか分からない。
決して安心していい話では無い筈だ。
「蒼真君?」
真白が不思議そうに首をかしげる。
「あ、いや……なんでもない」
思わずごまかす。だが視線の先の千佳は、無邪気に真白を「ましろん」と呼んで笑っていた。
「ほらほら! 二人とももっとテンション上げよ! せっかくのクリスマスなんだからさ!」
千佳の明るさが、街のきらめきに溶けていく。
(……この世界では、もう二度と千佳を泣かせない。俺が必ず守る)
真白の手をそっと握り直しながら、俺は心の奥で固く誓った。
雑貨屋の前。
クリスマス特設コーナーのライトがまばゆく光り、並んだぬいぐるみやリースが冬の街を彩っていた。
「ねぇましろん」
千佳が突然、両手を腰に当ててにやりと笑った。
「……ずっと気になってたんだけどさ。どうして相手が“蒼真君”なの? ほら、ましろんって学園の人気者でしょ? 選び放題だったじゃん」
「えっ……!」
真白の肩がびくりと震える。
唐突な質問に、顔が一気に赤くなった。
「ち、千佳、そういうこと急に言わないで……!」
「だって気になるもん。ね? 新堂君」
いたずらっぽくウインクして、俺に水を向けてくる。
「……俺に聞かれてもな」
苦笑いしつつも、心臓の鼓動が速まる。
「わ、わたしは……」
真白は小さな声で口を開いた。
「蒼真君だから……いいの」
「ほうほう?」
千佳が身を乗り出す。
真白は視線を泳がせながら、言葉を繋いだ。
「小さいころからずっと一緒で……わたしが困ってるとき、必ず隣にいてくれた。だから……蒼真君じゃなきゃ、だめなの」
その告白めいた言葉に、俺の胸が熱くなる。
(……真白……)
千佳は「うわー! 照れるー!」と大げさに両手で顔を覆いながら、指の隙間からじろっと俺を見た。
「そーま君、めっちゃ幸せ者じゃん。あたしだったら泣いて喜ぶレベルだよ」
真白は両手で顔を隠し、声を小さく震わせた。
「……言わせたの、千佳だからね……!」
「へへ、そうかも!」
千佳は明るく笑い飛ばしたが、その瞳の奥にはほんのわずかな羨ましさが揺れていた。
俺はそんな彼女の表情を見て――心の中で改めて思う。
(千佳も、絶対に“ゲーム通りの不幸”にはさせない)
イルミネーションの光が、三人の影を長く路上に伸ばしていた。
◇◇◇
駅前の広場。
光のトンネルを抜けた先で、俺たちは千佳と別れることになった。
「今日はありがとね! ましろんも蒼真君も、めっちゃ楽しかったよ!」
千佳は両手をぶんぶん振りながら笑顔を弾けさせる。
「またバレエの練習のあとでも遊ぼ! あ、今度はクレープ奢ってね~!」
「ちょ、千佳!」
真白は慌てて制止したが、千佳は気にする様子もなく駆け出していった。
背中に揺れるショートボブが、イルミネーションの光を反射してきらきら輝いている。
その姿が見えなくなったとき――真白は小さくため息を漏らした。
「……もう、千佳ってば。ほんとに強引なんだから」
「でも、楽しそうだったよな」
俺がそう言うと、真白は少し唇を尖らせる。
「うん……楽しかったよ。でも……ちょっと、蒼真君取られたみたいで」
小声でぽつり。
その言葉に、思わず笑みがこぼれる。
「安心しろ。俺は真白だけのもんだ」
「……もう、そういうこと言うんだから」
真白は赤くなって俯きながらも、繋いでいた手をぎゅっと握り返してきた。
街を歩く人々のざわめき、遠くから響くクリスマスソング。
すべてが背景に溶けていく中で、俺たちはゆっくりと帰路についた。
「ねぇ蒼真君」
「ん?」
「やっぱり……二人で歩くときが一番落ち着くね」
真白の瞳は、イルミネーションの灯りを映して柔らかく揺れていた。
「ああ。俺もだ。二人でいる時間が一番好きだ」
互いの気持ちを確かめ合うように微笑み合う。
その瞬間、冷たい冬の夜風でさえも、どこか温かく感じられた。
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